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Joe Strummer

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Joe Strummer

001

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野田努   Oct 19,2018 UP

 昨年あるイギリス人から、フリッパーズ・ギターやコーネリアスの作品っていうのは、『サンディニスタ!』みたいなものだと言われたことがあった。これはぼくには納得できる話で、こういうことを言うと、一本気なロック・ファンからは、渋谷系のどこがパンクの戦士とリンクするのだと怒られそうだが、過去の音楽の再利用という点では大いに似ている。というか、音楽制作におけるアプローチの仕方は、ある位相においては同じだと言えるだろう。
 ザ・クラッシュの音楽をあとから自分なりに分析していったときに、多くの曲が、誰かのカヴァーやじつは昔の誰かの曲の引用からできていることに驚いたことがある。たとえば『ロンドン・コーリング』に収録されている“ロンゲム・ボヨ”は60年代のジャマイカのバンド、ルーラーズのカヴァーとなっているが、ザ・クラッシュはその曲にロック・シンガー、フランキー・フォードによる59年のヒット曲“シー・クルーズ”のブラス・セクションのメロディを組み合わせている。そう、これはまるでDJシャドウの『エンドトロデューシング』のような作り方なのだ(そういう意味では21世紀の今日でも通用するモダンな感性を携えたひとだった)。
 敢えてシングルのB面をカヴァーするローリング・ストーンズ、なるべく知られていない曲で踊るノーザン・ソウル、あるいはアルバムごとにスタイルをリセットするプライマル・スクリームのように、ザ・クラッシュもまた、いかにもイギリス的なバンドだった。自分の好みを追求したうえでの豊富な知識の応用(再利用と加工、雑食性)に長けていたのだ。レゲエからロカビリー、フォーク、ジャズ……など、古い曲のカヴァーが多いことでも知られているが、“ジミー・ジャズ”のような曲はやはりファンカデリックの“ノー・コンピュート”のギターをパクったんじゃないのかと、しかし逆に言えば、『コズミック・スロップ』を聴いてあの曲をパクるというそのセンス、慧眼、目利き、目の付けどころに感心してしまうのである。そして、そうしたザ・クラッシュの音楽面における頭脳のたいはんはジョー・ストラマーにあったのだろう。

 『001』は、ジョー・ストラマーのお宝音源(未発表音源)が12曲も収録された2枚組コンピレーションで、ザ・クラッシュ以前/以後の代表曲・レア曲も収録されている。チャック・ベリー風のリフをアコギで弾いて歌う1975年のデモ曲“Letsagetabitarockin’”から80年代ドラムマシンとシンセサイザーが絡む10分以上の“US North”まで、どれもが男前の曲だし、『ロンドン・コーリング』と『サンディニスタ!』といった名作にはジョー・ストラマーのある種音楽的な包容力/オープン・マインドが大いに作用していることがあらためてわかる。既発曲だが、コンガによるアフロ・キューバンなリズムに導かれる“Afro-Cuban Be-Bop”や同じようにラテン・パーカッシヴな“Sandpaper Blues ”などは、まさに『サンディニスタ!』に収録されていてもなんら不思議はない名曲だ。ジャズからケルトまで混ぜてしまう彼の素晴らしい雑食性が堪能できるのは、既発曲だけで構成されている1枚目のCDのほうかもしれない。
 映画『ルードボーイ』で、ピアノで弾き語るストラマーを観てなんて格好いいんだろうと思った記憶がある。しかしその姿は、いわゆるパンクのイメージとは違っていた。3コードの魔法と優れた歌詞によって、もっといろいろなものを受け入れている大人に見えた。ジョー・ストラマーを語るうえで、なにかとその人間性に言及されることが多い。ぼくは高校をさぼって片道4時間かけてザ・クラッシュのライヴを観にいったことはあるが、松村正人が『スタジオボイス』の編集長をやっていた頃にメスカレロスで来日したストラマーを取材しないかとオファーされても断ってしまった。ただのファンに質問なんてできないだろうと。

野田努