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Marie Davidson

Techno

Marie Davidson

Working Class Woman

Ninja Tune/ビート

Amazon

野田努   Nov 30,2018 UP
E王

 労働者階級の女──タイトルからして、未聴の人には政治的な音楽なんじゃないかという先入観を与えるかもしれないが、マリー・デヴィッドソンのこのアルバムが良いのは、ファンキーであること。ユーモラスであること。まずはこれに尽きる。そして型にはまらない表現であること。100%クラブ・ミュージックでありテクノではあるが、デヴィッドソンは詩の朗読や歌、言葉によってリスナーやダンサーの感覚を容赦なく刺激する。たとえばそれはディーヴォやB52'sで笑ったときのような感覚。そう、皮肉が効いているのだ。
 アルバムは、ぶっ飛んでいるクラバーをいじくりまくるかのような“Your Biggest Fan”からはじまる。自分を嘲笑し、セックスを笑い、ドラッグを笑い、笑いながら挑発する。で、これに続く“Work It”は最高の曲のひとつ。「I work, All the fucking time, From Monday to Friday, Friday to Sunday......」。ドライで、シャキッとしたリズム。ちょっと『ベルリン・トラックス』時代の石野卓球を思い出すようなトラックをバックに彼女は喋りまくる。自分の毎日そのものがロボット化している/オートマティックになっているということを描いているようだ。モントリオールで活動しているデヴィッドソンだが、ベルリンに住んでいたこともあるそうで、その影響がアルバムの随所に反映されているのだろう。
 深いアシッド・サウンドをバックに、患者と医師との会話が展開される“The Psychologist(精神科医)”もドラッグ体験をギャグにしているんじゃないかと思う。笑い声、わめき声は、言うなればアシッド・ハウスの先駆的作品、スリージー・Dの“I've Lost Control”からフューチャーの“Acid Tracks”、ないしはバム・バムの“Where's Your Child?”のような曲における精神錯乱というテーマをパロディにしているかのようだ。
 んで、他方ではドレクシア流のダーク・エレクトロの“Lara”もあり、あるいはAFX流のクレイジーなエレクトロの“Workaholic Paranoid Bitch”のようなトラックもある(後者においてはニナ・クラヴィッツによるリミックスもあり、そのヴァージョンも最高!)。ぼくは“So Right”という曲も大好きで、これはもう、フランキー・ナックルズ/ジェイミー・プリンシプルによる官能的な“Baby, Want to Ride”へのオマージュじゃないかと勝手に妄想している。
 言葉が強いということもあってかインスト版のアルバムもある。たしかにサウンドだけでも充分トランスできる完成度の高いダンス・アルバムなのだけれど、彼女の含みのある言葉の数々が『労働者階級の女』を特別な作品にしていることは間違いない。年間ベスト・アルバムの1枚です。 

野田努