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Ultramarine

AmbientDowntempoElectronicaJazz

Ultramarine

Signals Into Space

Les Disques Du Crépuscule / Pヴァイン

Tower HMV Amazon iTunes

野田努   Apr 02,2019 UP

 この広い宇宙から見たらほんの小さな、あまりぱっとしない銀河系のなかのさらにまた小さな太陽系において、地球時間でいう365日かけて1周まわり24時間かけて自転する惑星の、75億いるサルの子孫のひとりに過ぎない自分のことなど、たわいもないものだ。
 ぼくはわりとくよくよ悩むほうで、くよくよ悩んでも解決しないとわかっていながらくよくよ悩んでしまい、そういうときは宇宙規模でものごとを考えると気が楽になることがある。ま、たいていの場合はアルコールで誤魔化すか忘却するのを待つしかないのだが、しかし、ウルトラマリンの6年ぶりの新作を聴いていると、思わず空を見上げたくなるのは事実だ。もういいかげん地球にいたくないから空飛ぶ円盤でもやって来てくれないかというわけである。

 ナンセンスであり、なおかつピースであるというのは、ちょっと禅的な感じもするけれど、何かと世知辛いこのご時世、相変わらずこんなに微笑ましい音楽をやっている彼らは素晴らしいとしか言いようがない。ウルトラマリンは、レイヴ・カルチャーの時代に登場したエセックスの2人組で、彼らの音楽を特徴付けているのは、UKジャズ・ロック(いわゆるカンタベリー系)と90年代前半のエレクトロニカとの融合だ。ロバート・ワイヤットやケヴィン・エアーズ、ジャズ・サックス奏者のエルトン・ディーンなどといったリジェンドたちと共演している経歴からもその出自がうかがえる。あるいはまたこうも言えるだろう。ボーズ・オブ・カナダやフォー・テットの登場よりも5年早く、あの感じを先取りしたのがウルトラマリンだったと。

 6年ぶりの新作、『宇宙へのシグナル』は、どうやら巨石文化に関係するコンセプトがあるようだ。じっさい内ジャケットにはいろんな石がデザインされているわけだが、ぼくの妄想によれば、これはもうそろそろ地球に飽きたよ助けてよということなのだろう。ブレグジットがたいへんなことになっているUKでは、パブに入って良い頃合いになれば、ところどころで唾を掛け合うような激しい議論が起きているかもしれない。そんなところでひとりだけ、ただひたすらぼけーっと窓の外を見ているひとがいると、それが『宇宙へのシグナル』から聴こえる牧歌性である。
 クラスターとクラフトワークがボサノヴァで踊っているような、素晴らしいアイデアの曲からはじまる『宇宙へのシグナル』は、ゲスト・ヴォーカリストのアンナ・ドミノをフィーチャーしたジャジー・トリップホップへと展開する。アルバムはいつも通りの、ルーク・ヴァイバート系のエレクトロニカとハウス&テクノのダンス・ミュージックと、そしてカンタベリー系ジャズ・ロックという3つの点を行き交う列車となって進行する。
 しかしながら、その3点以外にも、アンビエントやECM系ジャズという起点もある。いずれにせよ、彼らはその線路から外れることも、どちらかに寄りすぎることもなければ、過剰になることもない。つまり、完全なエレクトロニカになることもなければ、完全なハウスにもなれずに、完全なジャズにも完全なアンビエントにもならないという、なんとも中途半端な音楽なのだ。
 そして7曲目の“Du Sud”がやって来ると、空の星はまたたきはじめる。さあ、あなたは星の旅行者だ。じつは自分がサルの子孫ではなく、アンドロメダ大星雲のなかのさらにまたさえない銀河の彼方から来たことを思い出すかもしれないけれど、そんなことすらもうどうでもいいだろう。地球が動いているので、部屋のなかに太陽の光が差し込む。部屋の埃や塵、布団の汚れを露わにしながら温度を上げていく。無意味で騒がしい昼が待っている。春だしビールでも飲みながら、ウルトラマリンの美しい音楽をいま聴けることがただ嬉しい。

野田努