Home > Reviews > Album Reviews > Seba Kaapstad- Thina
〈メロー・ミュージック・グループ〉はアメリカのヒップホップ・レーベルとして知られるところだが、今回リリースとなったセバ・カープスタッドは南アフリカ共和国出身者、スワジ人(スワジランドや南アフリカ共和国に居住するバントゥー系先住部族)、ドイツ人2名による異色の混成グループで、音楽ジャンル的にはネオ・ソウルに分類される。そしてかなりジャズ色が強いので、タイプ的にはハイエイタス・カイヨーテとかムーンチャイルドとかに近く、さらにエレクトリックなプロダクションも兼ね備えている。リーダー格はドイツ人のセバスチャン・シュスター(ベース、キーボード、シンセ)で、彼が2013年にケープタウンを訪れた際に南アフリカの文化や音楽に魅了され、もうひとりのドイツ人のフィリップ・シェイベル(ドラムス、ドラム・プログラミング)、ダーバン生まれでピーターマリッツバーグ育ちのゾー・マディガ(ヴォーカル)、スワジランド出身のンドゥミソ・マナナ(ヴォーカル)とセバ・カープスタッドを結成した。
ゾーとンドゥミソは南アフリカ音楽大学でジャズ・ヴォーカルを学び、南アフリカで開催されるいろいろなジャズ・フェスにも出演し、セバ・カープスタッドとは別にふたりでのデュエット・ライヴ活動もおこなっている。ゾーは大御所のルイス・モホロなどから、タンディ・ントゥリ、マーカス・ワイアット、ベンジャミン・ジェフタといった南アフリカの新世代ジャズを代表する面々とも共演している。そんな彼女がシンガーを務めるところからも、セバ・カープスタッドというグループのカラーが見えてくるのではないだろうか。グループでの活動はドイツと南アフリカにまたがっており、このデビュー・アルバムとなる『シーナ』はメンバー以外にドイツ人ミュージシャンがいろいろと参加していて、ドイツのスタジオでレコーディングを行った模様。ちなみに「シーナ(Thina)」とはズールー語で「私たち」の意味とのことだ。
アルバムを象徴する曲はタイトル・トラックでもある“シーナ”。セバスチャンの洗練されたジャズ・ピアノが、フィリップの編み出すしなやかなビートと相まってメロウな空間を作り出す。そしてリード・ヴォーカルをとるゾーの歌は、エリカ・バドゥやジル・スコットら往年のネオ・ソウル・シンガーの系譜に属しつつも、アフリカ民謡の影響も感じさせる独特のもの。ズールー語によるラップ~スポークンワード調のヴォーカルも交えたところがセバ・カープスタッドならではの個性のひとつで、ゾーとンドゥミソがデュエットする“アフリカ”でもそうした彼らのルーツを意識した歌が聴ける。ヒップホップ/R&B色の強い“ウェルカム”にしても、途中でアフリカ音楽的なフレーズが登場するなど、常にアフリカというのが彼らの意識の中にはあるようだ。
牧歌的なコーラスや重厚なストリングスを配した“ドント”に見られるように、サウンド的にはロバート・グラスパーあたりの影響も感じさせると共に、タンディ・ントゥリのような南アフリカ・ジャズとの共通項も見出せる。セバスチャンのピアノがアルバムの中でも聴きどころのひとつだ。ンドゥミソの歌声は中性的な感じで、ナット・キング・コールのようなジャズ・シンガーの系譜を引き継ぐと共に、同時代のシンガーとしてはフランク・オーシャンとかサンファなどに近いところを感じさせる。そんな彼の歌声が印象的な“ディザスター”や“バイ”は、ビート・ミュージックやベース・ミュージック的なアプローチも交えたサウンド。これらの曲や“RFRE”はじめ、アコースティックとエレクトロニックのブレンドはアルバムの随所に見られ、それと混声コーラスの多重録音を交えた“プレイグラウンド”や“ブレス”がセバ・カープスタッドならではの魅力と言える。ジャズとソウル、そしてアフリカ音楽を融合し、そのアフリカ音楽の土着性と現代的で洗練されたアプローチを巧みに両立させたアルバムと言えるだろう。
小川充