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ドレイクの人気曲“パッションフルート”には、ムーディーマンのMCがサンプリングされている。けだるく、Fワード連発のなかば酩酊したその声は、ブラック・ミュージックとしてのハウスという点において、そしてまたはアンダーグラウンドの生々しい猥雑さを伝える意味において極めて重要な意味を持っている。
ラナ・デル・レイの“ボーン・トゥ・ダイ”をハウスの部屋に強引に連れ込み、煙ともどもドアを閉めてしまったデトロイトのDJには、彼自身にしかできない“型”というものを持っている。つまり、かつてカール・クレイグがムーディーマンについて説明したように、リアルな話ソウルにはアグリーな側面もあり、が、アグリーさはとくにアメリカにおいては隠蔽されるがちだ。たとえばインディ・シーンなんかを見ていると、アメリカ人はみんなスマートであるかのような錯覚を覚えてしまう。流行の服に流行の髪型。実際に行けばわかることだが、まったくそんなことはない。とくにデトロイトは、なんともじつにいなたいひと/イケてないひとばかりで、自分はそういうひとたちの側にいるんだと強く主張しているのがムーディーマン(ないしはマイク・バンクス)のようなひとだ。
こうしたムーディーマンのアティチュードは、彼の音楽性に直結しているというよりも、彼の音楽そのものである。今回もまた1曲目の“I'll Provide”で度肝を抜かれた。ここにはセックスと教会がある。うねるようなベースラインと崇高なストリングス、聖と猥雑さと陶酔の三重奏はハウス・ミュージックの真骨頂だ。
裏面の“I Think Of Saturday”はその後半戦といえるだろう。黒いゲンズブールたる彼のささやき声は、暗い人生をほのめかしながら、たえずパーティの快楽をうながしている。素晴らしいグルーヴとセクシャルなフィーリング。これが超一級品のディープ・ハウスというものである。
もう1枚のレコードのC面に掘られた“If I Gave U My Love”、ここでのムーディーマンはジャズに接近しながら女性ヴォーカルをフィーチャーし、雲のうえに浮いているようなムードを演出する。ミュージシャンであり活動家でもあったカミラ・ヤーブローの1975年のアルバムから歌詞を引用しているということだが、曲調は初期から続いている彼の得意なスタイルだ。
D面には2曲ある。ダウンテンポの“Deeper Shadow”はナイトメアズ・オン・ワックスの同曲のリミックス。「彼は私の考えていることを知らない」と繰り返される哀しみの入り混じった歌詞もそうだが、この艶のあるダウナーな展開は最盛期のマッシヴ・アタックを彷彿させる。また、その甘美さはC面2曲目の“ Sinnerman”にも引き継がれる。アナログ盤のみに収録されたこのスローテンポな曲はやはり女性ヴォーカルもので、けだるくロマンティックに展開する。
Sinner =罪人がこの2枚組のタイトルで、普通に考えれば「罪」がひとつのテーマなのかと思ったりするものだが、そもそもこの2枚組は、本人主催のバーベキューで売っていたものらしい(いったいどんなバーベキューだ)。それがこのような形で一般販売され、またbandcampにはアナログ盤未収録の2曲がある。そのうちの1曲、ジャズの生セッションからはじまる“Downtown”からはバーベキュー・パーティの笑い声が聞こえてくる、気がしないでもない。
今回はアナログ盤を予約しなかったので買いそびれてしまい、セカンド・プレスを待つしかなかった。もしそれがゲットできなければ仕方ないデジタルで買おうと思っていたところだが、先週末運良くレコードをゲットできた。日本や欧州では高価で売られるムーディーマンのアナログ盤だが、地元デトロイトのショップやKDJ/Mahogani Music主催のパーティでは手頃な価格で売られているという。
野田努