ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Mamas Gun - Dig! | ママズ・ガン
  2. ボカロが世界に与えた衝撃 一億回再生の意外な背景
  3. DADDY G(MASSIVE ATTACK) & DON LETTS ——パンキー・レゲエ・パーティのレジェンド、ドン・レッツとマッシヴ・アタックのダディ・Gが揃って来日ツアー
  4. 別冊ele-king J-PUNK/NEW WAVE-革命の記憶
  5. Miho Nakano and Tadekui ──シンガーソングライターの中野ミホと、いま注目の新進バンド、タデクイによるライヴが開催
  6. Oklou - choke enough | オーケールー
  7. 菊地雅章 - 六大(地・水・火・風・空・識)
  8. Squarepusher ──スクエアプッシャーのニュー・アルバムがリリース
  9. Moemiki - Amaharashi
  10. KENNY DOPE JAPAN TOUR 2026 ——ケニー・ドープ、9年ぶりの来日決定です
  11. Interview with Tomoro Taguchi パンクって……何をやったらいいかわからない人、若い人たちにヒントと引き金を与えてくれた音楽であり、考えさせる音でしたね。
  12. Zoh Amba ──サックス奏者ゾー・アンバが〈マタドール〉と契約、ギターを手に歌う新作をリリース
  13. Masahiro Takahashi ──トロント拠点の音楽家、髙橋政宏による新作、共同プロデューサーはジョセフ・シャバソン
  14. VMO a.k.a Violent Magic Orchestra ──ブラック・メタル、ガバ、ノイズが融合する8年ぶりのアルバム、リリース・ライヴも決定
  15. Ethel Cain - Perverts | エセル・ケイン
  16. Columns 3月のジャズ Jazz in March 2026
  17. アンビエント/ジャズ マイルス・デイヴィスとブライアン・イーノから始まる音の系譜
  18. Nondi_ - Nondi... | ノンディ
  19. 別冊ele-king 音楽が世界を変える──プロテスト・ミュージック・スペシャル
  20. 行松陽介

Home >  Reviews >  Album Reviews > DJ Python- Derretirse

DJ Python

Artificial IntelligenceDeep ReggaetonIDM

DJ Python

Derretirse

Dekmantel

Bandcamp HMV Amazon iTunes

小林拓音   Oct 17,2019 UP

 ニューヨーク、と聞くとやはりまずハウスのことを思い浮かべてしまう方が多いと思われるが、じつは近年かの地ではテクノのシーンが盛り上がりを見せている。ブルックリンのプロデューサーでありヴィジュアル・アーティストでありプロモーターでもあるオーロラ・ハラル、彼女の運営するパーティ《Mutual Dreaming》やフェスティヴァル《Sustain-Release》の成功はそのひとつの証左だが、クイーンズのDJパイソンことブライアン・ピニェイロも、そのようなNYアンダーグラウンドの勢いを体現するプロデューサーのひとりだ。

 エクアドルとアルゼンチンにルーツを持つ両親のもと、NYで生まれ育ったピニェイロは、14歳のときに兄からもらったハーバートの『Bodily Functions』とボーズ・オブ・カナダの『Music Has The Right To Children』がきっかけで、〈Warp〉や〈Rephlex〉、〈Kompakt〉といったレーベルの音楽を好むようになったという。同時にミックスマスター・モリスやクルーダー&ドルフマイスター、MLOなどのアンビエントも摂取していたようだが、高校時代にマイアミへと移り住んだ彼は、そこでレゲトンをはじめとするラテン・カルチャーの洗礼を受けることになる。その後NYへと舞い戻った彼は自分でも音楽をつくりはじめ、友人だったフエアコ・Sを介してアンソニー・ネイプルズと出会う。
 ディープ・ハウスとレゲトンとの融合を思いついたピニェイロは、2016年にネイプルズの〈Proibito〉から12インチ「¡Estéreo Bomba! Vol. 1」を送り出し、翌年おなじくネイプルズの〈Incienso〉からファースト・アルバム『Dulce Compañia』をリリース、「ディープ・レゲトン」なるスタイルを確立し、一気に高い評価を得ることとなる(その間、ディージェイ・ザナックスやDJウェイ、ルイスといった名義でこつこつとジャングルやハウスにも挑戦)。そんな彼が今年、アムスの〈Dekmantel〉から放ったEPがこの「Derretirse」だ。

 先行する「¡Estéreo Bomba! Vol. 1」や『Dulce Compañia』では軸足がハウスに置かれていたが、本作でレゲトンと融合させられているのはいわゆるIDMで、たとえばアンビエント・タッチのシンセで幕を開ける“Lampara”は、キックの外し方もおもしろいんだけど、全体のムードや細やかなノイズの散らせ方はボーズ・オブ・カナダを想起させる。あるいは“Cuando”の上モノは初期のエイフェックスを彷彿させるし、“Espero”や“Pq Cq”には初期のオウテカがこだましている。ようするに「Artificial Intelligence」シリーズである。
 そのような「部屋で聴くテクノ」がきれいにレゲトンのリズムと共存しているところこそ最大のミソで、その相互作用の結果だろう、EP全体は催眠的であると同時に妙な肉感も伴っていて、なんとも不思議な空気に覆われている。レゲトンの機能性がもっとも発揮されているのは“Tímbrame”だが、“Be Si To”にはたしかにハーバートっぽさもあるので、このEPはきっと、彼がマイアミで発見したラテンという、みずからのルーツの掘り下げであるとともに、初めて夢中になった電子音楽の回想でもあるのだろう。グローバル・ビーツの観点からもIDMの観点からも(そしてノスタルジーの観点からも)捉えられる、じつに興味深い作品である。

小林拓音

RELATED