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RC SUCCESSION

Rock

RC SUCCESSION

COMPLETE EPLP ~ALL TIME SINGLE COLLECTION~ 限定版

ユニバーサル ミュージック

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野田努   Mar 10,2020 UP
E王

 RCサクセションとはコンセプトではない。それが良いか悪いかでもない、それはただ基本だった。ゴールにボールが入れば1点、フィールドプレイヤーが手を使ったら反則、RCとはそういう次元のものだった。
 あらゆるものが詰まっていた。初期のロックやポップ・ミュージックといったもので見られる夢の、その後否定されるべきものも含むおおよそすべて。エゴ、愛、セックス、ドラッグ、反抗、自由、怒り、疎外感、虚無、別れ、悲しみ、反体制、理想、成長……そういったもの。
 また、日本も嫌だしアメリカも嫌だしという、はっぴいえんど以降の日本のロック/ポップスが無意識にせよ模索し独創したアイデンティティの更新を、このバンドはたったひと言の「イエー」や「ベイビー」などという、じつにバカっぽい言葉の威力でやってしまった。痛快という言葉は彼らのためにあった。
 世の中に疑問を持った若者がいる。性欲も好奇心もギラギラしている。そういう中高生にとってRCは福音でありマントラだった。ぼくたちはライヴに行って、いつも爆笑した。この人たち、おもしれぇー。振り切れている。きっと、デトロイトにおけるPファンクもこうだったに違いない。

 ここに紹介するのは、今年はバンド結成から50年ということで発売されたシングル集である。CD3枚組、もっとも初期の「宝くじは買わない」(1970)から最後の「I LIKE YOU」(1990)までの、公式にリリースされた全21枚の7インチ・シングルA面/B面、計42曲がオリジナルマスターからリマスタリングされて収録されている。言うまでもないことだが、シングルでしか聴けない名曲が聴ける。“よごれた顔でこんにちは”とか、“君が僕を知ってる”とか、“窓の外は雪”とか。いま聴くと意外によかった“どろだらけの海”とか。それから、これはいまさら言っても仕方がないことだけれど、チャート狙いの曲をA面、野心作をB面に擁した2曲入り7インチというフォーマットをポップ産業は手放すべきではなかったとあらためて思う。こんなキラキラしたベスト盤は、いまのアーティストには作りたくても作れないのだ。

 年齢に関係なく、音楽を詳しく知れば知るほど狭量かつ教条的になってしまう人がいる。これはホンモノかどうか、これはジャズかどうか、……俗に言う権威主義だ。RCサクセションというバンドは、その見かけはエキセントリックで、音楽スタイルは決してオーセンティック(ホンモノ)なリズム&ブルースではなかったが、しかしその感情はホンモノだった。RCサクセションにはフォーク時代の70年代から隆盛を極める80年代にいたるまで、一貫して妙なハイブリッド感があった。ローリング・ストーンズほどにはブルースという確固たる音楽的土台がなかったかわりに、日本特有の私小説的なフォークをブルースやロックが表す心の痛みや悦びに近づけ、あるいはそこに甘い理想と毅然とした反抗心をたたき込んだ。 
 おそらく彼らが最初からマニアックな音楽集団だったら、あんなに雑多なオーディエンスを得られなかったのだろう。「バカな頭で考えた/これはいいアイデアだ」と歌ったように、敷居の低いところで敷居の高い連中にはできないことをやったのが彼らだった。ぼくはすっかり夢中になって、初めて見にいった16歳の夏から子どもを連れていった忌野清志郎の最後となってしまった武道館ライヴまで、ただのひとりのファンとして接した。
 出来の悪い子どもたちの側であることを貫いた彼らのようなバンドが、エリート層と貧困層に二分される格差社会が定着したいまの日本にいてくれたらどんなに良いことだろうか。“トランジスタ・ラジオ”(電気グルーヴもカヴァーした曲)はいま聴いても、ますます不思議な曲だ。ハードロック調のギターからはじまって、しかし柔らかい綿で包みこむように、あの曲はつねにぼくを基本に立ち戻らせる。それはコンセプトではない。良いか悪いかでもない。ただの基本であり、つまりボールは足で蹴るという次元の話なのだから。

野田努