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Siavash Amini

AmbientExperimental

Siavash Amini

A Mimesis Of Nothingness

Hallow Ground

デンシノオト   Oct 13,2020 UP

 イラン・テヘラン出身のアンビエント・アーティスト、シアヴァシュ・アミニが、スイスの小都市ルツェルンを拠点とする実験音楽レーベル〈Hallow Ground〉から新作アルバム『A Mimesis Of Nothingness』(https://hallowground.bandcamp.com/album/siavash-amini-a-mimesis-of-nothingness)をリリースした。
 シアヴァシュ・アミニは同レーベルからリリースしたアルバムとしては3作目のリリースだが、彼は10年代を通して〈Umor Rex〉、〈Opal Tapes〉、〈Room40〉などのレーベルからアルバムをリリースしてきたアーティストである。2020年は Saåad との共作『All Lanes Of Lilac Evening』を〈Opal Tapes〉からカセットリリース、Rafael Anton Irisarri との共作『Lardaskan』を〈Room40〉からデジタル・リリースしている。

 シアヴァシュ・アミニのサウンドは2019年にリリースした傑作『Serus』(〈Room40〉)などを聴いても分かるように一聴して「もの悲しさ」のようなものがある。彼のサウンドにはまるでほとんど掠れたノイズしかないような放送を受信したときのような見知らぬ土地への郷愁とでもいうべきアンビエンスが横溢しているのだ。これは日本からみて遠いイランという場所から生まれた音響音楽だから、という理由ではないだろう。そうではなくアミニの音楽じたいが、どこか「闇」とか「夜」のように、われわれの生きている世界の最果てにあるものの感覚を発しているように思えるのだ(『Serus』はモーリス・ブランショの「夜」の概念からインスパイアされたという)。まるで夜のむこうにある異世界からの交信のごときアンビエントとでもいうべきか。

 本作『A Mimesis Of Nothingness』もまたそのような夜のアンビエントとして(そのアートワークも含めて)、これまでのアルバム以上に揺るぎない音響を放っている(アートワークにはアーティスト Nooshin Shafiee の作品が用いられている。ふたりはテヘランのアートスペースで出会い、意気投合し、コラボレーションがはじまったという)。
 冒頭の “Lustrous Residue” からすでに不穏な音響がうごめいている。世界に浸食する黒いノイズのように音響が変化を遂げる。電子音の地響きのような持続と何かを切り裂くような高音、そして環境音が記憶と時間に染みわたるように展開する。
 緊張感に満ちた2曲め “Perpetually Inwards” を経て、まるでレクイエムの弦楽を引き延ばしたかのような持続音と鳥の鳴き声と雨の環境音が交錯する “Moonless Garden” へと変化を遂げていく。
 アルバムの折り返しでもある “Observance (Shadow)” においては、その音響は暗さと明るさを往復しながらも、容易に光と影の二項対立に陥らないように慎重にサウンドを織り上げている。5曲め “A Collective Floundering” はアルバム中、もっともノイジーな音響を展開する曲。ここまでアルバムを聴き進めてきた聴き手は、そのノイズを表層的な刺激とだけは取らないだろう。夜のノイズ、影のノイズ、闇のノイズ。そして最終曲 “The Stillborn Baroque” は環境音と微かな電子音がレイヤーされる静謐なトラックでアルバムは終わる。

 「夜のアンビエント」ならではの「不穏さ」を放つ本作のアンビエンスを聴いていると、21世紀の「世界の不穏さ」と呼応するように感じてくるから不思議だ。先行きの見えない2020年のアトモスフィアを反映すダーク・アンビエントの逸品である。

デンシノオト