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Home >  Reviews >  Album Reviews > Various- United Ravers Against Fascism

Various

Gabber

Various

United Ravers Against Fascism

Live From Earth Klub / Never Sleep

yukinoise Dec 23,2020 UP

 ときに、人は生きるために踊ることがある。社会に変革をもたらすダンスを。反戦、反差別のメッセージを掲げ、巨大なスピーカーから流れるダンス・ミュージックと共に国家権力や法体制に対抗するサウンドデモは社会運動のひとつとして定着し、いまもなお世界各地でおこなわれている。日本も例外でなく、最近では Mars89、Mari Sakurai、篠田ミルといった東京のパーティー・シーンを率いるDJ陣を中心としたサウンドデモ・Protest Rave が都市部で定期的に開かれ、非道な法改正などに対抗すべく爆音のダンス・ミュージックで街全体を轟かし、人びとの意識を奮い立たせている。
 彼らの強烈なプレイは怒れる民衆の叫びにさも似たり。耳をつんざくサウンドが社会に示すのは、新たなる未来へ生きのびようと奮闘する我々のスタンスでもあるのだ。〈Live From Earth Klub〉と〈Never Sleep〉による共同コンピレーション・アルバム『United Ravers Against Fascism』は、まさにそういった反ファシズムを掲げるサウンドデモ的なスタンスで、ガバというダンス・ミュージックの未来を切り開く革命を起こそうとしているように思えた。

 ダンス・ミュージック・シーンの最先端を走るヨーロッパ発の二大コレクティヴが贈る本作は、HDMIRROR の “Burst Open” をはじめに、昨年渋谷WWWで開催されたネオレイヴパーティー・FREE RAVE にて来日公演をおこなった Von Bikräv が所属する Casual Gabberz の “F Le 17” と、けたたましくも華々しいトラックで幕を開ける。Merzbow 的なジャパノイズの影響を感じる Lizzitsky の淡々とした “Hd is off Anxiety Attack” に並ぶのは、TRANCEMAN2000 としても活動中の Falling Apart が繰り出すダークでアシッドな “Sex With God”。Skander による7分越えの “Paraphobia” のあとには、対照的に Powell の2分にも満たないエクスペリメンタルなショート・トラック “Z-Plane” がやってきて……と、ときおり変化球も飛んでくる現代的な進化系ガバ・サウンドがふんだんに詰め込まれている。

 メッセージ性の強い本作のコンセプトを象徴するのは、重厚な雰囲気を歪みに歪んだキックが切り刻む “Grande Raccordo Anulare” だろう。The Panacea と共にこのトラックを手がけた Gabber Eleganza ことアルベルト・ゲリーニは、2011年に tumblr で同名のアーカイヴ・プロジェクトを開設以降、コレクティヴとしての活動のほかガバのアーキヴィストとしても知られている。DJ、プロデューサーといった楽曲面以外にも、ZINEの出版やアパレルの販売、アート・キュレーションを手掛けたりと各方面でガバの魅力を発信する彼は、次のステップとして2019年にレーベル〈Never Sleep〉を立ち上げた。ガバの新しいプラットフォームとなる〈Never Sleep〉が目指すのは、古き良き時代を懐かしみ楽しむだけでなく、新世代のアーティストと共同しガバのカルチャーを新たに発展させてゆくこと。明確なヴィジョンを持ってガバの美学を追求する彼らは今回、ガバがオランダの労働者階級のユース・サブカルチャーからヨーロッパの中で突出したジャンルへと成長していった90年代において、ナショナリズムやファシズムなどの政治的イデオロギーにも結び付けられていたという複雑な歴史的背景を本作でアーカイヴすることで、今日のシーンに対してポスト・ガバ視点でのアプローチを仕掛けた。

 ダンス・ミュージックのサブジャンルを鋭く捉えたサウンドでシーンのさらなる展望を描く〈Live From Earth Klub〉と手を取り合い、忌避しがたい過去を踏まえいまの時代にガバの再解釈に挑んだ〈Never Sleep〉一行。なかなかに先鋭的なトラックが全体を彩ったのち、参加アーティストの中では大ベテラン枠に位置する Ilsa Gold の “Autre Chien” で王道ともいえるオールドスクール・ガバから、最近 Bladee との共作をリリースした注目株のプロデューサー・Mechatok の “Powder” と、透き通ったアンビエントへとつながるラストの流れは、彼らがかつてのシーンと現在をつなぐ架け橋となる様をもアーカイヴ的に物語っているようにも聴こえる。この屈強で愛すべきダンス・ミュージック、ガバがこれからも生きながらえる明るい未来を目指す勇姿を。

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