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Pa Salieu

AfrobeatsDancehallUK Rap

Pa Salieu

Send Them To Coventry

Warner Music UK

米澤慎太朗   Jan 13,2021 UP
E王

 UKにおけるラップ・ミュージックはアフロビーツ、ドリルがシーンを牽引し、もっとも影響力のあるポップ・カルチャーのひとつとなった。コロナの影響でストリーミングに軸足を移したメジャー・レーベルもその勢いを見逃すことはなく、多くのラッパーがメジャー・レーベルと契約し、リリースを行なっている。
 その結果、歌詞の内容のみで頭ひとつ出ることはかなり難しくなってきているように思う。簡単に言えば似たような音楽が増えすぎてきているのだ。ラッパーは以前より音楽性を追求し、他にない「音」を創作するフェーズに入ってきている。とくに象徴的に感じたのはヘディー・ワンが昨年リリースしたミックステープ「GANG」で、Fred Again.. がプロデュースを手がけ、UKドリルを発展させた新たなエレクトロニック・ミュージックを追求していたことだ。
 そして今回紹介する Pa Salieu も、ガンビアのルーツ、そして自らの「ブラックネス」に自覚的でありながら、それをトラックとラップの双方に落とし込むプロデュース能力が光る新たな才能だ。

 ガンビアの両親のもとに生まれ、幼少期の一時期を親族の暮らすナイジェリアで過ごした Pa Salieu。その後UKに戻り、コヴェントリーで過ごしたギャングスタ・ライフが彼をラップの道へと導いた。彼自身、あまり過去のストーリーを押し出さないタイプなので詳しくはわからないものの、過去には頭と首に20発の銃撃を受けたこともあるという。その後まもなくロンドンに移住した彼が音楽制作を開始し、多くの目に触れたのは YouTube チャンネルの Mixtape Madness に公開された “Frontline” (アルバム3曲目収録)であった。

 不穏すぎるトラックと宣言するように力強くラップするスタイルはこの時点ですでに確立していた。ガンビアとガーナのルーツを持つ「先輩」ともいえる J Hus をパクっていると揶揄されることもあったが、本デビュー作はむしろ J Hus と肩を並べる存在であることを証明している。

 トラックはどれもフレッシュだ。スロータイの右腕である Kwes Darko が手がけた 1. “Block Boy” はシンセの質感・リズム共にジャンル分け不能な全く新しいギャングスタ・ラップであるし、“Frontline” をプロデュースした Jevon が手がけた 6. “Over There” もUKガラージとグライムのビート・パターンを拝借しながら、ドラムの音色を変えたり、グルーヴをずらしたり、コーラスを入れたりすることでアフロの感覚を滲ませている。分析的に書けば難しく聞こえるかもしれないが、シャッフルしたビートをさらりと乗りこなす Pa Salieu のスキルは素晴らしい。先行シングルであった 7. “Betty” も実験的なアフロビーツで攻めているし、全く出自が不明なラッパー4名を迎えたギャングスタ賛歌 10. “Active” はどこかオールドスクールで、ラップの肉体性を改めて感じさせる素晴らしい一曲だ。

 BackRoad Gee を迎えた 13. “My Family” は温度の低く不穏なダンスホール・トラックで、ジャマイカと全く異なるノリでダンスホール・レゲエを更新している。14. “B***K” ではラップの方でアフロなノリを体得している。「この音楽は黒、肌の色は黒、ライフスタイルは黒、でもあいつらはその事実を恐れる」、と歌い上げUKの人種差別を間接的に揶揄しながら、ガンビアの叔母の歌唱がサンプリングとアフロ・グルーヴを染み込ませ、一貫した表現として提示している。

 制作陣としては、UKラップのプロデューサーの他にも、カマール・ウィリアムスとのコラボで知られるジャズドラマー、ユセフ・デイズが参加していることからも、彼の耳の広さがうかがえる。

 このデビュー作品で Pa Salieu が証明したのは、自身がUKの伝統に深く根を下ろしているアフロビーツ、ダンスホール・レゲエ、ジャングル、ガラージ、UKラップ、ジャズのブラックネスを吸収し、それを現在に更新する存在であるということだ。

米澤慎太朗