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Various

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銀河伝承

Pヴァイン

柴崎祐二 Mar 15,2021 UP Old & New

 これまでに2刊が発売されている『ゲーム音楽ディスクガイド』発のリイシュー・シリーズから、待望の第二弾作品がリリースされた。
 ヴィンテージなゲーム音楽のサントラ盤というと、一般的には、いわゆる8bitの「ピコピコ」音が想像されるだろうが、本作『銀河伝承 オリジナル・サウンドトラック』はだいぶ趣を異にしている。冒頭からして生音のフルオケではじまり、ヴォーカル楽曲としてきちんと独立したポップス、手の込んだ多重録音スコア等、一聴して、実際のソフトに収録されていた音とは別に制作されたものだとわかる。かといって、筐体やソフトに収録された音源に追加演奏をレイヤーするという、いわゆる「アレンジ盤」の類とも違う。

 『銀河伝承』は、1986年11月、ファミリーコンピューターディスクシステム用ソフトとして発売された、縦スクロール型シューティングゲームだ。ソフト本体のほか、小説や関連資料を収録した副読本、音声ドラマは主題歌を収録したメディアミックス商品として、豪華化粧箱に入れられて発売された。このサウンドトラック盤もそれと連動した企画であり、音楽面からよりいっそう『銀河伝承』ワールドを味わうことのできる商品として、〈ビクター〉から単体でリリースされたものだ。
 制作を取り仕切ったのは、元博報堂でゲームソフト発売元のイマジニアスタッフ飯田祥一と、彼から音楽面のコーディネートを委託された S.V. Labo (スーパーマーケット業界大手ダイエー内映像・音楽制作部門)の菅原裕。単なるサントラ盤でない、メディアミックス企画ならではのオリジナルトラック集が模索され、多彩な才能が集結することになった。この時代、コミック作品やライトノベルを元にして、ヴォーカル曲を含むオリジナルトラックを「イメージ・アルバム」として発売する手法が隆盛していたが、いわば本作も、「ゲーム版のイメージ・アルバム」といえるかもしれない。

 オリジナル盤CDが、2021年現在、オークションやマケプレで40,000円を超えるプレミア値を叩き出している(本再発が発表される以前には10万円超えという例もあった!)ことからもわかるとおり、本アルバムは、ヴィンテージゲーム/ゲーム音楽のマニアにはかねてより名の知られた存在だったという。しかし、今回再発に至ったのは、もちろんそういった理由だけではない。ゲーム音楽を、単なるBGMとしてではなく「音楽的」視点で評価する、という『ゲーム音楽ディスクガイド』が掲げるスタンスの通り、「和レアリック」や「シティポップ」が浸透した今だからこそ正当に聴かれるべき、実に豊かな内容を持った作品なのだ。
 まず、その作家陣が凄い。ゲーム本編の音楽を手掛けた増子司をはじめ、宮本光雄、宮城純子といったジャズ~フュージョン系のミュージシャン、伊藤銀次、佐藤博、久保田麻琴(久保田真箏名義)、西平彰、Pecker といったロック~ポップス系のアーティストがこぞって参加し、作編曲に腕を奮っている。

 DJ的な目線から気になる曲をいくつかピックアップしよう。
 ②“ロマンティック・オデッセイ” は、ゲームソフト付属のカセットには荻野目洋子歌唱版として収録されていた伊藤銀次作編曲のトラックのリメイク。代打として歌唱を担当しているのは、和モノマニアならご存じ、広谷順子だ(オリジナル盤のクレジットでは匿名名義だったが、今回の再発にあたっての調査で発覚したらしい)。伊藤銀次らしいビートの聴いたポップスで、ゲートリヴァーブバリバリのスネアやシーケンサー使いなど、ザ・’86なムード。
 ③“伝説の唄” は久保田麻琴が作編曲を担当した、かなりベタに「インド風」を狙ったエスニック・ニューウェーヴ曲で、本作中でも最も今ウケしそうな曲のひとつだ。曲中でリフレインされる謎のコトバは、ゲーム世界において重要な役割を果たす祈りの文言より。歌唱クレジットは「ザ サラミ」という謎の表記になっているが、特徴的な声質からして、これはおそらく久保田麻琴のパートナー、サンディーによるヴォーカルではないか?
 ⑥“ファンタジー” も目玉曲だ。ここ数年で爆発的に再評価されたシティポップ・レジェンド、佐藤博による作編曲。ただただ極上のミディアムライトメロウなのだが、「あれ、どこかで聴いたことのあるメロディーだな」と思ったら、翌年佐藤のソロ・アルバム『フューチャー・ファイル』に収録されている同名曲のオリジナル版なのであった。ヴォーカルは、佐藤のソロ作にも作詞、コーラス参加していた音楽評論家の藤井美保。佐藤自身もヴォーカルに加わる。
 西平彰が手掛けた⑦“洞窟のテーマ” はいかにもイメージ・アルバム的なインスト曲。若干ミュンヘン・ディスコっぽくもあり、現在ならシンセウェーヴ的解釈でもリスニング可能か。宇多田ヒカル “Automatic” でのアレンジワークが最も知られているだろう西平彰は、沢田研二のバック・バンド「エキゾチックス」としても活動しており、そちらも和モノ的人気が高い。その上外部仕事にも面白いものが多く、なかなか掘りがいのある人物。
 ⑨“惑星のテーマ” は、ゲーム本編の音楽を手掛けた増子司が作曲で、本曲のメロディーも本編で使用されている。編曲は THE SQUARE の初期メンバーとしても知られるフュージョン系キーボーディスト、宮城純子が担当。バシンバシン打ち込まれるスネアが気持ちいいソリッドなブギーだ。ブリッジ部のコズミックな展開も素晴らしい。

 ゲームはもちろん、アニメやライトノベルなど、スピンオフ的に制作された当時の(主に)CDには、本作のように優れたものが少なくない。一部マニアやDJのおかげもあってだいぶディグが進んできたジャンルではあるが、こうやって入手困難だったものが優れたマスタリング/パッケージで再発売されることは実に喜ばしい。一方で、まだまだ「手つかず」の秘宝が眠っている気配もひしひしと感じる。レアグルーヴの先端は、今このあたりにある。

柴崎祐二