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Dominion Swing

Shall Not Fade

渡部政浩   Jul 30,2021 UP

 いまの、アンダーグラウンドなハウス・シーンの盛り上がりを語るうえで、〈Shall Not Fade〉に言及しないわけにはいかない。サウンドパトロールでも紹介したが、これほど継続的なリリースをこなしながら、一定のクオリティを保つレーベルはそうそう見当たらないだろう。バルトラや DJ ÆDIDIAS のように、インターネットから勃興したハウス勢にクリエイティヴィティを発揮する場を与え、あるいはフランケル&ハーパーやラグジュアリーのようなアップカミングな才能を紹介し、そしてシンシーやシャドウ・チャイルドのように既にキャリアを築いているDJたちの作品もリリースする。いやはや、これはもう隙が見当たらない。
 
 そんな粒ぞろいのレーベルのなかでひときわ才能を輝かせていると感じるのが、ドイツのDJ、プロデューサーのインターステートである。彼を紹介するテキストは日本語はおろか英語でも見つからなかったので、彼について知るべくインスタグラムを拝見したところ、そこには「プロのマインクラフト・プレイヤー」、そして蛇足かのごとく「インターステートとして音楽も作っているよ」とあった。ポストにはスケートボードかヴァイナルの話題しかない。この良い意味で適当かつ不真面目な感じ、というよりもカジュアルな雰囲気はなんだか共感してしまう。彼は新世代のハウス・プロデューサーなのだ。さっそく紹介しよう。

 もともとはDJスワッガー名義でモダンなUKガラージ・トラックをいくつかリリースしていたが、対して今回のインターステート名義による『Dominion Swing』は、ディープ・ハウス、あるいはローファイ・ハウスに仕上がっており、UKガラージめいたベースラインやファンキーなメロディ、そしてときおり挟まれるアンビエント・トラックなど折衷的な部分はありつつも、彼の作品においては、かつてないほどにストレートな4つ打ちのハウスを感じる作品になっている。
 
 アルバムのアートワークに注目してみてほしい、いわゆる「ニュートンのゆりかご」を模したものに見えるが、この玉どうしがカチカチと音をたて衝突を繰り返しながら躍動するさまは、そのまま今作のムードに通ずるように思える。オープナーの “Doublet Doureet” の小気味よいベースライン、あるいは “Two To Get Ready” のパーカッシヴなビートに耳をそばたてると、えんえんとぶつかり合い反復する玉どうしの光景をはっと想起させられるのは僕だけだろうか。まさに繰り返すのみの「ニュートンのゆりかご」を、意味なくぼうっと見つめてしまうかのように、僕はこのハウス・アルバムの音に気づいたら没入してしまう。そしてこれを反復的なビートという視点から見たとき、今作におけるベストは “Appliance” ではないだろうか。僕の鼓動と同期するかのような繰り返しのリズムには、踊らせる要素があり、同時にスピーカーをまえにして黙って聴き込みたくなるようなデリケートな側面もある、素晴らしいディープ・ハウスに仕上がっている。

 ちなみにヴァイナルでは2枚組で、各盤の最後には、A面に “Habitat”、B面に “Misty”、C面に “Bubblebath”、D面に “Yosemite” が配置されている。インターステートは、どんなに素晴らしいハウス・ミュージックとて、それがフルレングスだと集中力が維持し難いことをよく知っているようだ。それぞれ盤の最後にアンビエント、ダウンテンポ、あるいはインタールードがあることによって、僕らがときおり休憩をはさみながら、この細部までこだわられた上質なハウス・ミュージックを、思いゆくまで堪能できるよう配慮している。

 ハウスにおける反復という作法を踏襲しながら、ここまで飽きさせず最後まで聴かせるLPを作ったのは脱帽もの。それもこのLPはヴェテランによるものではなく、まだまだフレッシュな若い才能によって提供されているのだ。このサウンドを聴いていると、受け皿となっている〈Shall Not Fade〉の審美眼が間違いないことがよくわかり、同時に、このレーベルを基点とした若い世代におけるハウス、あるいはディープ・ハウスの活況も感じられる。僕はこのスケートボードとヴァイナルを愛する青年から放たれる、カチカチと衝突を繰り返すかのような反復的なハウス・ミュージックに、不思議な没入と共感を感じてしまうのだ。

渡部政浩