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GemValleyMusiQ

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Abu Wronq Wronq

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三田格   Jun 21,2022 UP

 「アマピアノの第2章」という惹句が目に飛び込んできた。ジェムヴァレーミュージック(以下、JVMQ)のファースト・アルバムについて書かれた資料の1行目。正確には「JVMQのファースト・アルバムはラフ・アマピアノの第2章だ」という書き出し。資料を読む前にアルバムを聴き終えていた僕は「え、アマピアノだった?」と戸惑った。「催眠的なヴォーカル、不気味なキーボード、コミュニティ感覚と自由、未来からストレートにやってきたFLスタジオのリズム」と資料は続ける。FLスタジオというのは音楽制作ソフトの名称。調べてみるとJVMQは確かに南アフリカはプレトリアのダンス・ユニットで、プレトリアがここ何年か発信し続けているのは確かにアマピアノである。プレトリアの音楽ならいまはほとんどがアマピアノ。それは間違いない。アマピアノというのは、しかし、基本的にはディープ・ハウスである。JVMQはどう聴いてもディープ・ハウスではない。彼らのデビュー・アルバム『Abu Wronq Wronq』はむしろ僕にはバカルディに聞こえた。そう、公式資料も「ラフ・アマピアノ」と表現し、「極端にパーカッシヴで、ベースを中心とし、その辺のアマピアノよりも実験的だ」と強調している。

 以前、紙エレキングに書いたことだけど、もう一度繰り返そう(もう読んだという人はこの段落はトバして下さい)。南アフリカのハウスはクワイトと呼ばれ、早いものだと80年代からつくられてきた(V.A.『Urban Africa (Jive Hits Of The Townships)』など)。クワイトが独自の色合いを持ち始めるのは90年代中盤からで、ヨハネスブルグやダーバンのタウンシップが中心となる(V.A.『Ayobaness! - The Sound Of South African House』など)。タウンシップというのは簡単にいえばゲットーのことで、2008年にプレトリアからDJムジャヴァがミリタリー・ドラムを駆使した“Township Funk”をローカル・ヒットさせ、これを〈Warp〉がライセンスしてヨーロッパ中に広め、プレトリアにはバカルディというムーヴメントが起きることに。ところが、プレトリア以外の南アでは“Township Funk”はまったく知られていなかったといい、それが本当なのかどうなのか、ほどなくしてバカルディがフェイド・アウトしていったのに対し、やはりミリタリー・ドラムをサウンドの核としたゴムがダーバンから巻き起こるとイギリスのDJ、ナン・コーレが〈Gqom Oh!〉を設立して、これを世界規模に拡張させる。この流れが“Township Funk”のプロダクション・チームは面白くなかったようで(知名度の落差が原因でDJムジャヴァはすでに精神病院に入っていた)、プレトリアではダーバンをこき下ろす発言も目立ち、その時期からプレトリアはクワイトのベースラインにジャズ・ピアノを太くフィーチャーするアマピアノへと流れを変える。バカルディもアマピアノもいってみればディープ・ハウスのヴァリエーションであるのに対し、ゴムのインパクトは明らかにテクノのそれで、プレトリアとダーバンの差はビートの強弱など、もっと違うところにあるような気もするし、南アを代表するディープ・ハウスのDJ、ブラックコーフィーがダーバン出身で同地に肩入れするなど、音楽性よりも地域差による対立が目立つ結果となった。ドミノヴェ『Umthakathi』(2017)の頃に比べると昨年のキッド・フォンク『Connected』などダーバンもかなりプレトリアの影響は受け始めていると思うし、ダーバンのポテンシャルにもプレトリアのそれにも目を見張るものがあったことは確かで、遠目に見ればデトロイト・テクノとシカゴ・ハウスが互いを補完をしてきた関係と似ていると思うのだけれど。ちなみにイーロン・マスクはプレトリア大学卒。

 何度か聴き直してみたけれど、やはり『Abu Wronq Wronq』はアマピアノというよりバカルディに戻ったと考えた方がいい。それこそ“Township Funk”の続きを聴いている感じで、腰にまとわりついて離れないベースラインの力強さは往時の何倍も強力になっている。アフリカにベース・サウンドがしっかりと定着したのだ思う。勝手にゴムのピークだと思っているDJティアーズ・PLKやオワミ・ウムシンド(Owami Umsindo)と同じく、リニアな動きは一切なく、同じ場所でじわじわとリズムを循環させる感じはレゲエと同じ。一度、腰を回し始めてしまうと、絶対に抜け出せない。この粘り強さは上半身をあまり動かさずに踊る人には最高のグルーヴで、パラパラや盆踊りのように腰から下を動かさずに踊る人には一生わからないだろう。ポップ・グループ“She Is Beyond Good And Evil”が79年に公開した最初のヴィデオはレゲエ・クラブで踊る人たちの姿を捉えたもので、僕はそれを観て上半身をほとんど動かさない踊り方というものがあるのだと初めて知ったのだけれど、実際に自分がそのように踊ってみるようになったのはレイヴ・カルチャーと出会ってからだった。『Abu Wronq Wronq』を聴いていると、どうしても”She Is Beyond Good And Evil”の映像が蘇ってしまう。体の中でグルーヴがぐるぐると渦巻いているのに外見的にはほとんど動いていないというのが踊っている本人には意外と面白い。ヒップホップで踊るのが好きな人も同じだったりするのではないだろうか。このミニマルな運動感。そして、それはヤキ・リーベツァイトのドラムにも通じるものがあり、カンがレゲエと出会ってつくったのが『Flow Motion』(76)なら、彼らがもしもまだ現役で、ゴムと出会っていたらつくっていたかもしれないと思うのが“Spice Ko Spicing”である。



 JVMQが名乗る「ジェム」というのは「宝石」のことで、マイケル・ベアードがコンパイルした『African Gems』(14)や〈Mukatsuku Records〉の諸作など、この10年ほどヨーロッパがアフリカの音楽を指して呼ぶ表現を自分たちから名乗ってしまおうというしたたかさが感じられる。宝石の谷の音楽。これを発見し、世界に解き放ったのがフランスのレーベルだというのもまた興味深い。南アやウガンダはいままでイギリスとオランダの資本が投入され、フランスはマリやコンゴといった北アフリカがテリトリーだったからである。フランスは〈Good Morning Tapes〉や〈Human Disease Network〉といった面白いダンス・レーベルが増えているので、ロウ・ジャックの〈Les Disques De La Bretagne〉以降、勢いがついていることは確か。『Abu Wronq Wronq』は後半に入るとアマピアノ色も強くなってくる。リズムがしっかりしていると、その上でリード楽器がソロを取ると思った以上に気持ちがいいし、そういう意味ではなるほどアマピアノである。そして、まさにアコースティック・ピアノが炸裂する“Dance A Lot”で僕は一気にセカンド・サマー・オブ・ラヴまで連れ去られてしまった。このゴージャス極まりない高揚感。今年の2月にデムダイク・ステアが『The Call』というピアノ・ハウスのミックス・カセットをリリースしていて、彼らのことだからさすがにバカっぽくはなかったものの「なんで?」という気持ちになっていたところ、“Dance A Lot”はそれともつながってしまう曲で、もしかして、今年の夏はコロナ禍の鬱憤をすべて晴らすかのような、とんでもないダンス・カルチャーの大爆発が起きたりして……とか思ったり。

三田格