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Home >  Reviews >  Album Reviews > Federico Madeddu Giuntoli- The Text and the Form

Federico Madeddu Giuntoli

AmbientElectronica

Federico Madeddu Giuntoli

The Text and the Form

FLAU

デンシノオト Dec 30,2022 UP

 なんて美しいエレクトロニカだろうか。本作こそ、いま、もっとも美的で、繊細なエレクトロニカである。

 フェデリコ・マデッドゥ・ジュントリは、神経科学の博士号を持ち、美術、写真、彫刻、言語学など、さまざまな分野で活躍するアーティストだ(ちなみにフェデリコ・マデッドゥ・ジュントリはトゥ・ロココ・ロットや Retina.it とコラボレーションをおこなったイタリアのエレクトロニック・バンド DRM の一員でもあった)。また写真家として『Nuova gestalt』という写真集も刊行している。
 いわば人生のなかで、ジャンルや形式にとらわれず、自身のアートを追求しているといったタイプのアーティストかもしれない。本作もまた同様である。なんと10年の歳月をかけて作り上げられていったというのだから。
 じっくりと音の細部に至るまで磨き上げられた『The Text and the Form』は、時の試練に耐え抜くような仕上がりだ。端的にいって10年後も20年後も聴けてしまうような普遍的な魅力を放っている。

 その音は、まるで音の花びらが舞っているかのように優雅である。聴くほどに、音を流すほどに空気が変わる。そんな印象を与えてくれるエレクトロニカである。
 アルバム冒頭の1曲め “Lolita” は、本作を象徴する曲といえよう。ピアノの旋律の断片と、透明な層のようなアンビエンスが交錯・融解し、そこに声を微かに重ねていく。それぞれの音が別の層に存在するかのようでありながら、全体としては調和しているような曲だ。
 続く2曲め “Text and the Form” ではギターの旋律の上に、〈12k〉からのリリースで知られるエレクトロニカ・アーティスト Moskitoo による声/歌が折り重なる。アルバム・タイトル曲ということもあり、本作の「テクストと形式」を追求した美しい曲である。
 ゲスト参加曲といえばドイツの音響詩人 AGF がフィーチャーされた “You Are” も忘れてはならない。ミニマルな電子音にギターの音が交錯し、小さく AGF の声/歌がレイヤーされていく。細部まで研ぎ澄まされた素晴らしいエレクトロニカに仕上がっている。
 個人的にはドラムのインプロヴィゼーションをアンビエント的に聴けるインタールード的な6曲め “Inverse” が非常にユニークだった。この種のアンビエント/エレクトロニカにはあまり用いられない音(ドラム)でありながら、違和感なく(いや、微かな違和感とともにとでもいうべきか)アルバム中央に位置していることに感銘を覚えた。この曲の存在によってピアノなどの丹精な音の流れを微かに「崩す」のようなムードを生成しているように感じられもした。
 ピアノやギター、ドラム(パーカッション)などのいくつかのミニマムな音たちがそれぞれ自律しながらも、繊細な音の層を生成している。このレイヤーの繊細な調整こそが、本作のコンポジションの肝かもしれない。

 アルバムには全11曲が収録されており、時間は24分ほどである。アルバムとしては短い収録時間に思えるかもしれない。が、実際に聴いていただくとわかるが、まったく短いと感じない。かといって冗長というわけでもない。
 音と音、音楽とノイズ、リズムとハーモニーの関係がこちら側の時間感覚とは別の層に存在するかのような音楽なのだ。音のレイヤーが時間感覚を消失させ、この音楽固有の時間感覚を生み出しているとでもいうべきか。
 つまりこの24分という時間は、アルバム作品として成立させるために必然的に導きだされたものではないか(と勝手に妄想している)。これは本作に限らずエレクトロニカ全般に共通する傾向だが、本作では音のレイヤーと時間感覚の生成がとても洗練されているように思えたのだ。
 その意味では本作中もっともアンビエント的な8曲目 “Unconditional” とその変奏曲である10曲目 “Unconditional (Reprise)” はもっとも完成度の高い曲といえる。独自の時間感覚が横溢していたのだ。この曲で重要なのはギターの旋律や電子音などがアンビエント的な持続を「崩す」ように導入されている点にある。この「崩れ」こそが本作の魅惑ではないかとも感じるのだ。
 そして、アルバムすべての要素が統合されている最終曲 “Grand Hall of Encounters” は本作の集大成ともいえる曲である。3分30秒という時間のなか、持続と崩れが生成され消えていく。特にほんの少しだけ緊張感に満ちた音を鳴らすギターの響きの「揺らぎ」には思わず耳が奪われてしまった。

 『The Text and the Form』は、音と音が別レイヤーで鳴っているようでありながら、ハーモニーとは違う音の重なりの調和を聴かせてくれるアルバムだ。清潔な音空間のなかを、ピアノやギター、声などのサウンドのフラグメンツが舞うような美しい音響空間がここにはある。これぞ新しい時代のマイクロスコピック・サウンド。いま、新しいエレクトロニカを聴きたいという人に迷わずレコメンドできる逸品だ。

デンシノオト