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Memotone

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Memotone

How Was Your Life?

Impatience

三田格 Jun 07,2023 UP

 今年2月に故ジョン・ハッセルのアナログ盤が2種類リリースされた。2014年に『City: Works Of Fiction (Expanded Edition)』としてオリジナル盤に追加されていたボーナス・トラックをそれぞれ2種類のアナログ盤として独立させたもので、1枚は『City~』(90)を録音したメンバーで前の年にNYで行われたライヴ(イーノがライヴ・ミックス)から「4thワールド」直系の曲を集めた『The Living City』、2枚目は『City~』がパブリック・エナミーの影響下でつくられたことに準じて同アルバムのデモや別テイクを使ってジョン・ハッセルがボム・スクウォッドやテオ・マセロよろしくダブやコラージュなどの再構築を試みた『Psychogeography』(『The Living City』と『Psychogeography』をカップリングしたCD『Further Fictions』も1週間後にリリース)。そう、ジョン・ハッセルはトランペット・ドローンによって60年代末に頭角を現したエレクトロニック・ミュージックの変革者で、基本的にはインドのラーガとエレクトロニック・ミュージックを結びつけた作風で知られるものの、フュージョン・ファンクを追求した『Earthquake Island』(78)やヒップホップを取り入れた『City~』、そして、ダブステップやジュークを意識した『Listening To Pictures』 (20)と、定期的にダンス・ミュージックとの交錯を続けた越境者でもあり続けた。とくに『Listening To Pictures』は亡くなる寸前のリリースにもかかわらず、そのような興味を持続させていたことに驚かされ、改めて彼の音楽的な意欲に打ちのめされた1枚でもあった。この根性というのか、気概というのか、ガッツにあふれた『Listening To Pictures』に対してダブステップの側からアンサーを返したのがブリストルのウィリアム・イエイツであり、彼のソロ10作目となる『How Was Your Life?』は『Listening To Pictures』の先に広がっていた景色をこれでもかと幻視する。サム・ゲンデル同様、以前からジョン・ハッセルを思わせるフレーズや効果を随所に散りばめてきたイエイツは『How Was Your Life?』であからさまにジョン・ハッセルを参照し、本歌取りに邁進する。とくに中盤の “Glow In The Dark ” から “Carved By The Moon” へと続く辺りは「いくらなんでもキコルがアスカすぎる」というか、『推しの子』が放送延期になるほど『テラスハウス』に似過ぎているというか。これはもはや『Listening To Pictures』の続編といっていいだろう(それこそ『どんな人生でしたか?』というアルバム・タイトルがジョン・ハッセルに向けられたものだと考えることも可能かもしれない)。

 2011年にダブステップでデビューし、〈Black Acre〉から3枚のアルバムをリリースしたイエイツはだんだんと作風をモダン・クラシカルに寄せ、ジャズにも手を広げるなど、時間をかけてボーズ・オブ・カナダのスモーカーズ・ヴァージョンへと移行していく。曲の題材も現実的な悲劇から空想的で抽象性の高いものに変わり、〈Black Acre〉からは最後の『The Rounded Room』(18)はとても幻想的、続いて東京の〈Diskotopia〉からとなった『Invisible Cities』(20)はダブステップの痕跡をオフ・ビートとして感じさせるなど、どこかサン・アロウを思わせるウエイトレス・サウンドに。ピアノとサックスを絡ませただけの “Cities and the Sky” が背後にグルーヴを隠し持っているように聞こえたり、それだけでもオリジナリティは確かなもので、少ない音で最大限の空間性を創出していく曲運びはさすがブリストルとしか。ウエイトレスというのはいってみればシンコペイテッド・アンビエント・ミュージックということで、普通に考えてクラブ・ミュージックがエレクトロアコースティックやニュー・エイジといったリヴァイヴァリスト・アンビエントにアゲインストしている状態といえ、その最大のスターが現在はロレイン・ジェイムズということになるだろう。イエイツのそれはフォーク・テイストを強くし、そのせいでエキゾチック・サウンドともオーヴァーラップしながら、インプロヴィゼーションとの親和性を高めているところが面白く、だからジョン・ハッセルを自在に呼び込めたということなのだろう。『Invisible Cities』のヴァリエーションを量産し、適度な実験を繰り返したカセットを4本挟んでアナログ・リリースでは3年ぶりとなる『How Was Your Life?』は、そして、〈Impatience〉からのリリース。和楽器でハウスをつくるホシナ・アニヴァーサリーことヨシノブ・ホシナによる『Hisyochi』をリリースした〈Impatience〉である。レーベルの選び方も抜群じゃないですか。

 オープニングはギター・ソロ。ランダムに、そして、トゲトゲしくブルースを叩きつけていく。まるでドゥルッティ・コラムがご機嫌を損ねているかのよう。続いていかにもロウファイなジャム・セッション。演奏をぶつけあっているのはドン・チェリーとスーサイドか。そう、まったくスウィングなんかさせてくれない。『The Rounded Room』や『Invisible Cities』にあふれていた桃源郷はもはやだいぶ過去のことらしい。ウエイトレスには戻らないのか。どんどん先へ行ってしまうのか。エコロジーを意識させる “Forest Zone ” はそれこそジョン・ハッセル版ダブステップ。エキゾチック・サウンドに聞こえてはいけないものがエキゾチック・サウンドに聞こえ始め、暗闇のなかを得体の知れないアート・ロックへと近づいていく。ジェニー・ヴァル・ミーツ・ヴィジブル・クロークス。そのまま未知への道はバリアリック・ネオ・フォークへと続く。『How Was Your Life?』は後半になるとハッセル色があからさまではなくなり、独自のサウンド・フォーマットへとひた走っていく。これまでに何度も試みられてきたミニマル・サウンドをさらにポリリズム化した “Canteen Sandwich” 。メビウス&プランクをアコースティックで聴いているような鬼のリピートが過ぎると、ついに桃源郷を凝縮した “Lonehead” へ。細かいエレクトリック・パーカッション(リズム・ギター?)にトランペット・ドローンと散発的なピアノが織りなす恩寵の時間。浮遊感はなく、地面ごと持ち上がっていく感じ。最後は隙間だらけの “Walking Backwards” 。ぽっかりとした空間が広がり、これがどうしてもフィッシュマンズに聞こえてしょうがない。2分49秒から入るギターが何度も僕を夏の野音に連れ去っていく。

三田格