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Pantayo

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Pantayo

Ang Pagdaloy

Telephone Explosion

木津毅 Jul 18,2023 UP

 パンタヨとはタガログ語で「わたしたちのために」という意味だそうだ。わたしたち、とは誰か。カナダはトロントのフィリピン系のクィア5人組。パンタヨはマイノリティである自分たちのアイデンティティを探るためにフィリピン南部の伝統楽器クリンタンを叩きつつ、思いきりポップなインディ・ポップをやっている。それはもう、一度聴いただけで覚えてしまえそうなキャッチーさで……はじめてパンタヨを聴くというひとは、本作のオープニング・ナンバー “One More Latch (Give It to ’Ya)” を。R&B風の色気のあるメロディを持った一曲だが、そこで妙に人懐こく響く金属音が連打されれば、不思議なトリップ感覚が発生する。なじみ深いようで、同時に聴いたことのない音楽だ、と思う。

 クリンタンの音色と旋律を現行のポップ・ミュージックとミックスするパンタヨのスタイルは、デビュー・アルバム『Pantayo』ではまだアイデア一発勝負という感じだったが(それはそれですごくチャーミングだったのだが)本作ではよりポップ・ソングとしての完成度を高めた曲が目立つ。思いがけずメロウなソウル・テイストがある “Must've Been A Fool"、爽やかなギターがたっぷり鳴るものだからまるでただの北米インディ・ロックのような “Mali”。フィリピン系である彼女たちも(当たり前だが)現代のカナダでは西洋文明や西洋文化の支配下で暮らしているわけで、パンタヨはそのありのままの姿を隠すことはないが、自分たちのルーツを探ることで音楽をオリジナルなものにしてきた。テクノ風のシンセ・リフが聞こえてくる “Dreams” や “Masanguanan”、インディ・ロック風のイントロで始まりつつすぐにクリンタンがメロディを先導する “Sapa(n)ahon” といったインスト曲では西洋のスケールを外れていることがわかりやすく、フィリンピン由来のアイデンティティを言葉よりも音楽のなかから追求している。OKI DUB AINU BAND にとってアイヌに伝わる伝統楽器トンコリがもっとも重要であるように、パンタヨにはクリンタンを鳴らすことが自己表現の発露なのである。
 僕がひとつ気になるのは、イスラム文化と関わりの深い楽器であるクリンタンをクィア・バンドだと公言しているパンタヨが鳴らしていることの意味だ。イスラム圏でも近年は変わってきているとの話も聞くとはいえ(それに、非イスラム圏における多地域でのクィアへのバックラッシュを見ていると、文化や宗教以上に政治的陣営の問題だと感じられることも多い。が、)イスラム文化がクィアに対して厳しい態度を歴史的に示してきたことは否定できない。民族的マイノリティとして、あるいは性的マイノリティとしての経験を歌っているというパンタヨがミックスしているものは、単純にスタイルとしての伝統とモダンよりも大きなものなのかもしれない。
 とはいえ、パンタヨの音楽はアイデンティティ政治が最優先されたものではないと思う。初期パンクのように徹底してDIY精神が貫かれているため聴いていると晴れ晴れとした気持ちになれるし、その上でいろんな音楽にアクセスする身軽さが気持ちいい。パンタヨの愉快な音楽は、個性と呼ばれるものがどこからやって来るのかを僕に考えさせる。少数派としてのルーツとつながることもできるし、必ずしもルーツに縛られなくてもいい。その間を行き来しながら、何よりもアイデアを生かして自分たちにだけ作れるものを目指せばいいのだ。

木津毅