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WaqWaq Kingdom

Afro HouseExperimentalFootwork

WaqWaq Kingdom

Hot Pot Totto

Phantom Limb

田中 “hally” 治久 Dec 07,2023 UP

 DJスコッチ・エッグという名前を聞いて「おお」と思うのは、2000年代後半にチップチューンあるいはハードコアに慣れ親しんでいた人が大半だろう。当時ブライトン在住だった日本人シゲル・イシハラによるソロ・プロジェクトで、ゲームボーイ上で動作するシーケンサー、ナノループのみで生み出すハードコアによってUKのクラブ・シーンを席巻し、恐らく欧州でもっとも有名なチップチューン・アーティストとなった男である。

 ただし彼は、チップチューンの「シーン」とはほとんど接触を持たず、距離を置いていた。筆者は彼がDJスコッチ・エッグを名乗る前年、数奇にも知遇を得ていて、なぜか一緒に地元のラジオに出演したりしたこともあったのだが、その頃彼はチップチューンにあまり興味を示さず、もっぱらハードコア~ブレイクコアを注視していたのを覚えている。じっさいDJスコッチ・エッグのサウンドも「チップ」あっての「ハードコア」ではなく、「ハードコア」あっての「チップ」だったと思うし、それだからこそ誰も彼の「本気」には追随できなかったのだ。

 やがてイシハラはゲームボーイのみによるサウンドに限界を感じ、2008年以降は同名義での新譜を出さなくなるが、2010年には第三期シーフィールにベーシストとして加入、ハードコアに留まらない新たな才能を示しはじめる。第三期シーフィールのドラマー、イイダ・カズヒサ(ex. ボアダムス)とは、同時期にドラム・アイズを結成し、そこでもダビーなサウンドに深く傾倒した。そのいっぽうでDJスコッチ・ボネットという新しい名義で予測不可能なブレイクビーツ~ミクスチャー・サウンドを展開してみせたりもしている。こうした活動の広がりは、この頃に Ableton LIVE の扱いをマスターしたことと無関係ではなさそうだ。

 これらに続くさらなる新展開として、キキ・ヒトミ(キング・ミダス・サウンド Vo.)とのコラボレーションによる、ワクワク・キングダムがある。欧州在住歴の長いふたりによる「近いのにあえて遠ざけた日本」とでも言いたくなる不思議な和情緒を感じさせるこのユニット、デビュー作の『Shinsekai』(2017)は〈ジャータリ〉からのリリースということもあってダブ色の強いものだったが、第2作『Essaka Hoisa』はポスト・ダブステップ的な質感を軸としつつ、表面的なスタイルにはこだわらず、全体としてはよりビート感の強いサウンドを形成した。一部楽曲には明確な日本語ヴォーカルを加え、表現にもさまざまなユーモアをにじませている。

 今回の『Hot Pot Totto』もこれと同じ軸線上にあるが、軽快さと諧謔の配合度合いはいっそう高まっているように思われる。誤解を恐れずにいえば、彼らの世界観に寺田創一+金沢明子の Omodaka の手法をまぶしたかのような──とにかく楽しく聴かせるところが増えている印象だ。筆者はこの音を聴いて、イシハラと過ごした20年前のひとときを思い出した。当時私は日本からの AD AAD AT ツアー遠征チーム(Ove-NaXx、Utabi ら)に同行したのだが、それをブライトンでもてなしたのが彼だったのだ。そのとき彼は無邪気に人を笑わせ和ませることに長けた、とてもユーモラスな人間だった。彼のそうした側面がかつてなくポップに表出したのが、今回の作品ではないかと思うのだ。もちろん彼のサウンドメイキングは20年前とは比較にならないほど熟達しているに違いないのだけど。

田中 “hally” 治久

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