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Waikiki Champions

Post-Punk

Waikiki Champions

街​~​MACHI

Call And Response

Amazon

Casanova.S Dec 26,2023 UP

 街。ポップ・ミュージックと街は切っても切り離せない関係なのではないかと思う。新しいバンドを知らせる紹介文に躍る文字、そこには必ずといってもいいくらいに街の名前が記されている。ロンドン、ブリストル、ベルリン、フィラデルフィア、アムステルダム、ソウル、パリ、音楽を聞く前、聞いた後、限られた情報の中で僕らは街の匂いを思い浮かべ、そこで生まれたバンドの姿を想像する。もちろんそれが全てではないというのはわかっているけれど、その音が鳴っている場所はどんなところなのかと考える。それはきっとポップ・ミュージックの楽しみの一部だ。いつの間にか積み重ねられてきた歴史がそこらかしこに刻み込まれた街の空気が反映されて、そうして音楽が生み出されていく。スポーツ・チームに冠される都市名だってそれはきっとただの記号ではないはずだ。

 仙台を拠点に活動するバンド、Waikiki Champions の新しいアルバム『街~Machi』を聞いてそんなことをぼんやりと考えた。得体のしれない路地の前に立つ不安と好奇心が入り交じった心を現したようなサウンドスケープ、タイトなドラムとベースが作り出すグルーヴ、暗く細い道に手招きし誘いかけるようなギターのリフ、遠くで遊ぶ子どもの声のような不明瞭でそれでいて確かなイメージを残すヴォーカル、不安に絡みつき好奇心をあおるサックス、オープニング・トラック “Jusco” を再生した瞬間に小さく胸が高鳴っていく気配を感じた。Jusco とはおそらくスーパーのジャスコ(あのピンク色の看板の店)のことであり、もちろんいまは存在していないイオンによって塗り替えられた店の名前でもある。そこにノスタルジックな思いを抱くかといえばそうではなく、曲を聞いて感じるのは失われてしまった店が持つ怪異が起こりそうな雰囲気だ。そこはかとなく恐ろしく何かが起こりそうな予感がしてワクワクする。だから危険だとわかっていても足を踏み入れる。そう、この音楽はまるで誘いかけるように恐ろしげで楽しげなのだ。ドラムとベースのグルーヴを中心に組み立てられるどことなくアンダーグランドの匂いが漂ってくる音楽にニューヨーク、ブルックリンのバンド P.E の2022年のアルバム『Blue Nude(Reclined)』やカナダのル・セキュリティが今年23年に出したアルバム『Stay Safe!』が頭によぎったが、Waikiki Champions はそれらよりももっとずっと湿気があっておどろおどろしい。祭りばやしという言葉だって浮かんでくる。これを地方性という言葉で片づけるのは短絡的だけれど、国や街、培われてきた場所の歴史や空気が影響しているのは間違いないだろう(心地よく感じるスィートスポットとは相対評価のコントラストで生まれるものだろうから)。
 そして Waikiki Champions はひとつの場所にとどまることはなくステップを踏み練り歩く。仙台を拠点とするMC、Misz をフィーチャーした “Miserarete” でどこにでもあるような、しかしだからこそ特別な街の情景をオレンジ色したベッドルーム・ミュージックのマナーで描き、“Katateni Syuryudan” を冷たいノーウェーヴの空気で突き抜けたように、Waikiki Champions は雑多に交わり、ふとした瞬間に浮かび上がってくる街の違った側面、漂う空気を描き出すのだ。

 そうしてこの街にはサウナがある。Bo Ningen の Taigen Kawabe がフィーチャーされ紡がれる “Neppa”(これはおそらくサウナの歌だ)においての 言葉はサウナの熱波の中でボーとした頭に次々に浮かんで消えるイメージのように感じられる。緩やかにゆがむシンセ・ベースの音と交わり意味があいまいになり、ボーとした頭に浮かびあがり伝わってくるような感覚としての言葉。冗談の雰囲気で大まじめなスタンスだからこそ伝わってくる感覚というものがあってそれにまったくやられてしまった。はっきりとした物事じゃないからこそ真理に近づく(かもしれない)ような、ふざけていて、だからこそ繰り返せ、そこに意味を見つけることができるようなスタンス、大げさかもしれないけれどポップ・ミュージックの魅力のひとつはこういう部分にもあるのではないかとかと思う(それと同時にいきなりしゃんとしたようにギターがかき鳴らされ、あぁここで水風呂に入ったんだな、なんて考えられたりもする。こうしたユーモアと格好良さが交じり随所に織り込まれているのもこのバンドの魅力のように思える)。ギターのフレーズがループして、サックスの音と共にうねりそしてサイケデリアにたどり着く素晴らしい最終曲 “Vibes” は心地の良い抑圧とそこから解放され広がっていく感覚があって、それがなんとも気持ち良い(根底にあるのは “Neppa” と同じものなのではないだろうか)。食品まつりのリミックスもまた違った角度で新たな朝へ向かっていく “Vibes” を感じられアルバムのエピローグみたいに思えた。

 場所、歴史、人、記憶、文化の集まり、Waikiki Champions の『街~Machi』は整然としたものではなく、いろんな匂いが混じってそこらかしこから漂ってくる。角を曲がり、違った通りに出ればそこに何か面白いことが待っていそうな、そんな感覚がなんともワクワクさせてくれるのだ。

Casanova.S