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磯部涼監修

磯部涼監修

新しい音楽とことば

スペースシャワーネットワーク

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文:朝日新聞文化くらし報道部・神庭亮介   Dec 02,2014 UP

 「Jポップの歌詞、翼広げ過ぎだろ」「瞳閉じ過ぎじゃね?」――。Jポップ歌詞の「劣化」が叫ばれるようになって久しい。音楽通のele-king読者であれば、「その通り!」と相づちを打ちたくなるところかもしれない。ところが、本書の編著者・磯部涼は、そんな見方に疑問を呈する。
 「決して最近の歌詞がつまらなくなったわけではなく、社会のリアリティが変容するとともに、歌詞が持つリアリティも変容し、ついていけなくなった人がいるにすぎないのではないか」
 そう、歌詞は劣化などしていない。演歌や歌謡曲の全盛期から、陳腐な歌詞やストレートな表現はいくらでもあった。むしろ変わったのは、つくり手よりも受け手の意識だ。
 芸人マキタスポーツの言葉を借りれば、いまや世は「1億総ツッコミ時代」である。ネットの普及で誰もが気軽に批評を発表できるようになり、ツッコミや批判が可視化されやすくなった。難しい音楽理論はわからないという人でも、歌詞になら注文をつけやすい。かくして、「歌詞の劣化」は定説となり、紋切り型批判それ自体が紋切り型化していった。
 本書は、電気グルーヴの石野卓球やアジアン・カンフー・ジェネレーションの後藤正文ら13人の音楽家へのインタビューを通じて、「新しい音楽とことば」を読み解き、その可能性を探る一冊だ。表層的な批判の向こうに広がる、豊穣な歌詞世界を旅するためのガイドブックと言ってもいい。
 iPhoneのメールの下書きに、歌詞の種となる言葉を保存しているという大森靖子。曲のイメージをイラストに描き、そこから歌詞を膨らませていくという、神聖かまってちゃん・の子。作詞に苦吟し、「言葉を歌っていくことの九割は苦しみ」「言葉に呪われている」と吐露する七尾旅人。彼らがいかにして言葉と向き合ってきたのか、人生観もひっくるめて率直に語られていく。
 なかでも驚かされたのが、湘南乃風・若旦那の「湘南乃風と俺の歌詞のすべてのルーツは、さだまさしさんなんですよ」という意外過ぎる発言だ。ほかにも、「まさにマイルドヤンキーみたいな層に目がけて曲をつくってきた」「自分たちの精神がマイルドヤンキーだったから」なんて、え、大丈夫?と思うような言葉がポンポン飛び出す。実に刺激的である。
 石野が七尾を評価し、tofubeatsが電気グルーヴを語り、じんがアジカンに言及し、高城晶平(cero)が菊地成孔からの影響を口にする――といった具合に、歌詞をめぐって13人の相互関係が浮かび上がってくるのも興味深い。一線アーティストたちをワンテーマで横串にした、インタビュー集ならではのだいご味かもしれない。
 代表作の歌詞も掲載されているので、通して読めば、きっとJポップ悲観論者も「なんだ、面白い歌詞書いてる人、意外にいっぱいいるじゃん」と胸をなでおろすことだろう。歌は世につれ、世は歌につれ。変容する時代のリアリティを巧みに写しとった傑作詞が、きょうもどこかで生まれている。
 「翼広げ過ぎ!」と言いたがる人にこそ、ぜひ手にとってみてほしい。

※ele-king編集部より:12月17日発売予定の『ele-king vol.15』では、「邦楽の詩人たち」と題して2014年に日本から生まれた歌詞の小特集をしております。

文:朝日新聞文化くらし報道部・神庭亮介