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ダーク・ドゥルーズ

ダーク・ドゥルーズ

アンドリュー・カルプ 著 大山載吉 訳

河出書房新社

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小林拓音山田俊   Mar 27,2017 UP
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文:山田俊

 もしブラック・ブロックがドゥルーズを読んだら――
 ワシントンやニューヨークでのアンチ・トランプの映像で黒いパーカの群れ=ブラック・ブロックの勇姿を久しぶりに見ることができた。『ele-king』の読者にはいわずもがなだが、スターバックスを破壊し、オルト右翼にパンチをくらわす彼らと大衆的なデモを展開する市民たちの関係はかつての新左翼と旧左翼のような関係ではない。新左翼と旧左翼は変革という同じ夢を共有していたが、ブラック・ブロックと市民左派には決定的な断絶がある。そんなブラック・ブロックがもしドゥルーズを読んだらどうなるか。いま思想界にささやかな衝撃を与えつつある小著『ダーク・ドゥルーズ』はそんな本である。
 カルプの意図は明快だ。かつて革命的であったドゥルーズが肯定性のゆえに牙をむかれてしまった、ならそんな「明るいドゥルーズ」「喜びのドゥルーズ」など葬り去って、かわりにその破壊性を「ダーク・ドゥルーズ」として甦らせよう。そうしてネグリらによって市民デモに紛れ込まされたドゥルーズをブラック・ブロックのストリートへ奪い返せ、というわけだ。そこでカルプは微温的なドゥルーズ論者たちをなで切りにするだけでなく、思弁的実在論や人類学など現代思想のあらゆる新潮流にもはげしく批判の刃をむける。正直、カルプのドゥルーズ解釈には乱暴なところもあるが、たぶんそこは重要ではない。

 それらをふまえた上で本書の核心をなすのは、現在、われわれに要請されているのは「世界の死」をもたらすことであるという新たな宣告である。かつてニーチェが「神の死」を伝え、フーコーが「人間の死」を預言した。しかし「神」も「人間」も死なないどころか不吉に復活している。「神」と「人間」ともども「世界」に死をもたらすことがこの時代の任務なのだ。こう煽動するカルプはフランスのアナキスト・グループ「不可視委員会」による「文明の死をひきうけよ」というテーゼの影響下にある。そしてここでこそ市民デモとブラック・ブロックの断絶点が明快になるだろう。端的にいって前者が世界の救済を望んでいるとしたら後者は世界の破壊を欲しているのである。

 世界を破壊しているのはトランプや安倍ではないか、あるいは地球温暖化と人口爆発は遠からずこの世界を終息させるのではないか、と問いたくなるかもしれない。現在、必要なのはそれらをすべて受け止めて、「世界の死」を問うことではないか。

 ドゥルーズ自身が哲学におけるブラック・ブロックであったように、世界の破壊はストリートだけで行われるのではない。たとえば坂口恭平の『けものになること』は「ダーク・ドゥルーズ」の実践でなくてなんだろう。もちろんこれは音楽でも同様である。

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