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野田 努 Feb 21,2018 UP見たまえ。いま産業メガシティが生まれつつある。この10年、街の景観はおそろしいほど変わった。五輪を目前にいまも急激に変わりつつある。そこら中が工事だらけであり、スポーツジムだらけであり、広告だらけだ。東京だけの話ではない。ぼくの故郷の静岡もディストピア映画そのものの高層ビルおよびショッピングモールが建てられ続けている。共同体を破壊しながら。
この血も涙もない再開発は世界中で起きている。イギリス映画でここ最近のロンドンの街並みが写されるのを見るたびに気分が落ち込む。自分がよく知っている時代のロンドンは見る影もないが、90年代後半にはすでにその兆候があった。企業の資本が入った大型クラブの登場は、都市がそのローカリティーや共同体よりもビジネスの主戦場であることを優先するというメッセージだった。「ロンドンはどこまで新自由主義化するのか?」マーク・フィッシャーが嘆く。「私たちは目的を持たない資本主義のラボラトリーのなかで暮らしている」。が、しかし、快楽主義的娯楽施設から文化を生み出すことはできなかった。ロンドンの文化を救ったのは、そうしたラボラトリーには属さない/属せない、疎外された人たち/場所だった。それがグライムであり、ダブステップであり、ベース・ミュージックだった。ギル・スコット=ヘロンが言ったように、革命は本当に放映されたりはしない。
本書『SIGNAL THE FUTURE』は写真家のGeorg Gatsasによる、2008年から2017年までのロンドンのダブステップのシーンを中心にとらえた写真集だ。2008年というとダブステップがメインストリームの支配的なジャンルにまで上り詰めた時期で(なにせスクリームの「Midnight Request Line」が2006年だ)、むしろダブステップそのものは衰退が見えはじめた時期ではあるが、Georg Gatsasはその後のアンダーグラウンドを見逃さない。伝説となったクラブ〈プラスティック・ピープル〉をはじめとするアンダーグラウンド・クラブ・シーン(クラバーやその場面)、そしてDJやプロデューサーの写真が街の風景とともに展開されている。その風景写真がまず素晴らしい。
Burialが表現したような、夜の街、雨に濡れて、人がいない街角からはじまる。再開発によって建てられたハイパーモダンなデザイン(魅惑的な未来都市)の高層ビル、スクリームをモデルにしたヘッドフォンの広告板(それらに混じってファティマ・アル・カディリやケイティBのポスター)、地下鉄とその監視カメラ群の写真が、ローファ、マーラ、コード9、スペースエイプ、アイコニカ、ジェイミーXX、リー・ギャンブル、シルキー、ヤングスタ、ローレル・ヘイロー、ピアソン・サウンド、ヴィジョニスト、ピンチ、DJラシャド、ザ・バグ、キキ・ヒトミ、PAN……などなどのポートレイトに混ざっている(つーか、このメンツのなかにジェイミーXXがいることに驚くんだけど)。
4人のライターが原稿を寄せている。そのひとりは、偶然というかなんというか、たまたま先日レヴューしたばかりの『資本主義リアリズム』のマーク・フィッシャー。「Burialは私に悲しみを抱くことを許してくれた」というその原稿は、変わりゆくロンドンを例によって資本主義批判の立場で分析する。ファレル・ウィリアムスの“ハッピー”を新自由主義に支配された夢見るロンドンに重ねながらこっびどく皮肉り、Burialの『Untrure』においてもっとも重要な曲、“Archangel”にサンプリングされた一節、「If I trust you...」というなかば疑問的な言葉を解読する。
ほかの3人の原稿も読ませる。都市を描写する音楽、リンスと FWD、家賃の高騰と疎外された人たち、「重要なものはアンダーグラウンドから生まれる」、アフロ・フューチャリズム、シャンガーンなどアフリカとの接続……、エトセトラ・エトセトラ。読んでいるとこの10年で何が本当に重要だったのかがあらためてよくわかる。ハイプ・ウィリアムスを現代のTGと表現した文章には個人的にとても共感した。
いま冬を生きている。サマー・オブ・ラヴに対する冬、まさしく“レイヴ・カルチャーへのレクイエム”、その象徴がダブステップとグライムだったと。冬のはじまりであり、バレアリックとは対極の、しかしこれはしぶとく生きている道筋なのだ。それを携帯に突っ込んだイヤフォンで満足してはならない。足下から聴こう。アンビエントとしての低音。「いまの私たちにそれを信じることは難しいだろうが……」フィッシャーは意外なことにこう結んでいる。「資本主義リアリズムの冬は終わり、夏はやってくる」と。
限定1000部という話だが、この時代を忘れないためのじつに貴重な写真と言葉である。もし私があなたを信用できるのなら……。