Home > Reviews > Film Reviews > ハッパGoGo 大統領極秘指令- 原題 Get the Weed
世のなかはおかしなことで溢れてる。だけど、それに気がついちゃいけない風潮がある。そんな不条理を吹き飛ばしてくれるような、南米ウルグアイで制作された『ハッパ GoGo 大統領極秘指令』という痛快な映画を観た。
南米ウルグアイではホセ・ムヒカ大統領政権のもと、2013年、マリファナが合法化された。そこで、冴えない薬局を経営する青年アルフレドとその母タルマがマリファナ入りのブラウニーを販売したところ、店が大繁盛。しかし、密売マリファナを使っていたことから投獄されてしまう。釈放の代わりに大統領からふたりに指令されたのが、極秘で米国まで行き、国内供給用の大量のマリファナ50トンを入手すること。合法化したものの、国内ではマリファナの供給不足に陥っていたのだ。
青年と母はコロラド州デンバーへ向かい、マリファナのフェスティヴァル「420ラリー」や「カンナビス・カップ」に参加。マリファナ解禁活動を牽引する人びとに話を聞き、ブツを仕入れるために奔走する。2週間後のムヒカ大統領と米国オバマ大統領との歴史的な会談前に手配をして、なんとかマリファナをウルグアイまで運ばねばならない。この重要なミッションを彼らは遂行できるのか? というお話。
この映画はフィクションだが、元ウルグアイ大統領のムヒカを筆頭に実在の人物や団体が多く登場し、ドキュメンタリーとドラマを行き来する演出をしている。コメディタッチで軽く見れるのに、世のなかの不条理が浮き上がる深いテーマをついてくる。そもそも一般的には「ドラッグ」はアメリカ大陸の南からやってくると思われがちだが、実は米国の方が供給があり、普及している。こうした事実を真っ向から捉えている点も面白い。
例えば、筆者が暮らすメキシコでは、米国の消費者へ売るためにドラッグ産業が存在している。摂取者は米国よりも少ない。禁止されればされるほどドラッグの価値が上がるというカラクリもある。それで裏商売ができるから、闇組織にとってはその方が都合がいいという事実もある。
そんな事情もあって、ウルグアイのムヒカ政権は国を二分する法案を議会にかけ、国営でのマリファナの生産と販売を英断した。メキシコの現ロペス・オブラドール政権もウルグアイのように国家でのマリファナ合法化に向けて動いているけれど、実現にはまだ時間がかかりそうだ。
とはいえ、合法化の流れはいま先進国のなかで拡大している。United Nations Office on Drugs and Crime(国連薬物犯罪事務所)の世界のマリファナ合法化状況を綴る資料によれば、米国では10州が合法。18州がお咎めなし。29州が医療目的の使用なら認可、コロラド州、カリフォルニア州では合法栽培もされている。カナダでは医療用として合法。行政区によっては限定量の販売も許可され、少量の栽培ならば認められている。オーストラリアでは医療や科学的な使用が合法。スペインではマリファナの個人使用は合法で、100グラムまで携帯可能。ただ、公共の場所での摂取は違法。オランダでは5gの所持まで罰せられず、5つの苗までは栽培できる。コーヒーショップ(政府認可のマリファナを合法的に嗜める店)では摂取が容認されている。デンマークでは2018年から医療使用は合法。ドイツ、ベルギー、ポルトガルでは、合法ではないが個人的に嗜むくらいならば罪を問われるほどではない。また、イギリスでは2003年より医療目的での栽培が容認され、2018年に医療目的の専門医による処方が合法化された。
このように、世界の先進国では解禁の流れになっているにかかわらず、日本では依然として違法ドラッグであり、人前で語ることもタブーである。
そんなマリファナをテーマにした映画『ハッパGoGo』の日本公開を決めた配給会社アクション Incの比嘉世津子さんは、2011年にもマリファナ絡みの映画を日本で公開している。
それはマリア・ノバロ監督の『グッド・ハーブ』というメキシコ映画だ。先スペイン期より先住民伝来の薬草文化を研究する植物学者の女性が認知症になり、その娘が、母が幸せに最期を迎えられるように、様々な薬草の力を借り、そして彼女自身も解放される姿を描いている。同映画では、薬草が現代メキシコの都会の人びとの生活のなかにも息づくことが描かれているわけだが、じっさい薬草はメキシコ国内のどのマーケットの店頭にもならび、体の調子を良くするためにお茶として飲んだり、傷口に塗ったり、蒸気を吸ったり、伝統儀式に使われたりする。なかには、気持ちを上向きにさせる朝鮮朝顔の一種フロリボンデュ、心の痛みに効くトロアチェなどもある。マリファナは原産ではないが、生理痛や、打撲など体の痛みに効くし、がん患者の治療の痛みを和らげることでも知られている。マリファナ入りのポマードなら、メキシコシティの地下鉄構内で売られているほどだ(含有量は少ない)。
メキシコでは、女性に対するDVや殺人事件が増加傾向で、1日に約9人の女性が殺されている。マリファナよりもアルコールを起因とする暴力の方が社会的制裁が大きい。街のいたるところには、アル中から脱出するための更生施設がある。メキシコの人たちに、先進国(だと信じこまれている)日本では、マリファナは覚せい剤と同レベルでご法度であり、公共でタバコを吸ったらたしなめられる場所もあるくらい(他者への健康被害を配慮してだが)厳しいけど、缶ビールやチューハイを路上で呑んでもほぼお咎めなしだと言ったら目を丸くして驚かれた。タトゥーを入れている人が反社会的組織の一員のように思われ、ビーチやスポーツジム、銭湯の入場も禁止というのにも驚かされる。
ちなみにメキシコでは、マリファナやコカイン、そしてアルコールよりも社会問題になっている白い粉がある。多くの人々が摂取過多となり、深刻な健康被害をもたらす白い粉、.それはすなわち砂糖である。コカコーラ摂取量が世界一のメキシコでは、肥満や糖尿病患者数でも世界トップクラスで米国と競る勢いだが、禁止されることはまずないだろう。
国家やシステムは、多くの人たちが想像しているほど正しいわけでも頑丈でもない。だから自分のペースで生きて、もっと肩の力抜いてもいい。そういや、映画『ハッパGoGo』のなかで、アルフレドの母親タルマが、ムヒカ元大統領や在米ウルグアイ大使に、女性が大使や大統領になれるか質問するシーンがある。そして、その可能性もあると彼らは答える。これは好きなシーンのひとつだが、とにかく、体制を笑い飛ばし、人びとの力や希望についてさらりと語りかける、この映画はとても貴重だ。
文:長屋美保