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FREEDOMMUNE ZERO

FREEDOMMUNE ZERO

@川崎市東扇島公園

8月19日
文:野田 努、三田 格文:野田 努、三田 格   写真:小原泰広   Aug 23,2011 UP
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FREEDOMMUNE/アフター・ザ・レイン文:野田 努

 DOMMUNEらしいといえば実にDOMMUNEらしいスリリングな経過とまさかの幕引きとなった。悔しかったし、悲しかった。こんな事態にでもならなければ見えなかったであろう愛も見えた。そんな濃密な1日だった。
 8月19日の昼の12時45分、川崎駅に到着したとき、予想以上の暴風雨に、レインコートと折りたたみ式の傘を持ってきた筆者でさえも、カメラマンの小原泰広といっしょに少し大きめの頑丈な傘を買いに駅構内を走った。会場に着いたときには、横殴りの暴風雨に傘は役に立たず、少し歩いただけでもズボンはけっこう濡れた。ひどい雨と風だったし、Tシャツ1枚では寒かった。それでもいっしょに来場した三田格も松村正人も、やや遅れてきた田中宗一郎も、やがては雨も弱まり、〈FREEDOMMUNE ZERO〉がはじまることを疑っていなかった。が、しかし海沿いに長くのびた東扇島公園の天候は容赦なかった。

 それでも最初のうちは、3時からトークをはじめるという話だった。徹夜明けの宇川直宏がレンコート姿で到着した。ひと通りカメラやPAのチェックをしてトークの準備に入ろうとしたが、配信のための回線が繋がらない。ハブもランケーブルも朝からの豪雨による浸水によってダメージを受け、取り替えなければならなかった。回線が復旧して、実際にトークがスタートしたのは4時をまわっていた。その背後では、宇川がPCに向かって天気情報をかたっぱしからチェックしながら、スタッフたちと状況確認を続けていた。途中、回線は何度も落ちた。
 雨が弱まった時間帯もあった。そのたびに脳天気なトーク・ブースは喜びを露わにしたが、宇川は冷静だった。18時に大雨の予報が出た。その大雨が通過したらはじめよう。彼はそう言った。

 DOMMUNEの現場に来ている人はよく知っているように、ふだんの宇川は好物のブラッディメアリーを片手にカメラをまわし、スウィッチングをする。が、この日の彼はとてもそんな感じではなかった。会場内の雨が弱まっているときでも、海辺の様子を見に出向いた。戻ってきて、そして、海岸はまだ荒れているんだよと、無念の表情で言った。
 宇川直宏が中止を決めたのは、その晩の川崎市の大雨洪水警報が解除されなかったからだ。津波警報も出ていた。最終的には、23時に集中豪雨が川崎市を襲う可能性があるとの気象庁が発表した予報をみて、決断したようだった。東日本大震災復興支援イヴェントとして企画したフェスティヴァルだというのに、大雨洪水警報が出ている場所に1万人以上の観客を招くことはできないと、宇川は繰り返した。自分に言い聞かせるように。
 実際に夕方までの現地の天候は酷いもので、落雷の可能性もあった。あの状態が深夜オーディエンスで埋まった会場を襲ったとしたら......と考えると、とんでもない。たしかにその後雨は止んだけれど、それは結果論。中止することのさまざまなデメリット、その損害を回避するためにも警報を無視して自分たちのやりたいことを貫くか、あるいはオーディエンスや出演者の安全面を優先するのかという二択のなかで、迷わず後者を選んだことはDOMMMUEらしい決断だったし、英断だったと思う。自らが下した中止という決断に、もっとも悔しい思いをしているのは他ならぬ宇川直宏本人だろうし......。あとからイヴェント会社の人に訊いたら雨天における事故の確率は100倍にもなるという話だった。
 それにしても......トークの途中で、「いま中止ってツイットしたんだよね」と彼がぽつりと言った瞬間は、筆者はその意味を理解するのに時間がかかってしまった。あまりにも唐突に聞こえたからだが、それだけ宇川直宏は、ことの深刻さを出演者やまわりの人に悟られないようにふるまっていた。そして中止が決定すると、その直後にはオフィシャルHPから公式な公演中止の発表があった。

 その後、DOMMUNEらしいインプロヴィゼーションがはじまった。三田格、そして途中から司会を無茶ぶりされた磯部涼の奮闘もあって、トーク・ブースにおけるショーは夜まで続いた。快楽亭ブラック、安部譲二、石丸元章、五所純子、大友良英、吉田豪、杉作J太郎、常盤響、山口優、山辺圭司、秘密博士、松村正人らが出入りして喋ったそれは、いつもながらのDOMMUNEの光景のようにも見えたが、この緊急事態においては妙々たるハプニングもあった。わりと早めの時間、自ら登場を買って出て、あのいかんともしがたく消沈したテント小屋を10メートルぐらいジャンプさせた神聖かまってちゃんのの子、そしてそこに即興で躍り出た坂口恭平のパフォーマンスには、大笑いしながら三田格とともに涙の領域にまで連れていかれてしまったのである(結局、かまってちゃんのメンバーは4人とも出演した)。
 他にも、小山田圭吾とSalyuは、Salyu×Salyuのアコースティック・ライヴをやりたいと申し出てステージに上がって極上のコーラスを披露した。中止と知りながら駆けつけた七尾旅人とPhewも歌うつもりでずっと待機していた。誰もがもっとも望まなかった行方のなかで、その場には奇妙なほど本当に温かい空気が流れていたのは事実だ。
 もちろん、この日を楽しみにしていた人たち、とくに会場や川崎駅まで来ていながら入場でなかった人たちにはさまざまな感情があったと思う。まさか......と愕然としたことだろう。あの素晴らしいロケーションのなかで、前代未聞のブッキングによるフェスティヴァルを体験できたらどんなに素晴らしかったことか......。しかし、これは野外フェスティヴァルというもののリアリティだ。いかなる野外フェスティヴァル、野外レイヴもこうした天候のリスクを負っている。主催する側もオーディエンスの側もだ(こんな話、慰めにもならないだろうけれど、まだ日本にこうしたフェス文化がなかった90年代初頭、筆者はUKのコーンウォールであるはずだったフェスに行って、結局なにごともおこなわれなかったという経験もあるし、悪天候の野外レイヴで事故が起きたという話は世界中にごろごろしている)。それでも人は野外フェスティヴァルや野外レイヴを求めるのは、それでしか味わえない高揚感があるからだ。
 もっとも残念な結果に終わってしまった〈FREEDOMMUNE ZERO〉ではあるが、この現実はリアルタイムで配信されている。ことのはじまりから顛末までが配信という技術によって放映されたことで、そのときどきの出来事、その場のテンション、そしてエモーションは人びとに共有されている。それは過去悪天候によって中止を強いられたどのフェスティヴァルとも違っている点のひとつだ。

 中止決定からさまざまなハプニングがあったとはいえ、イヴェントが中止になったというのに人がまだそこに大勢い残っていることは日本では認められない。とりあえずその場を解散しなければならなかった。緊急事態における事後対応としてトークを配信し、そこに人はいたのだけれど、日本では許可なく公共の場所に大勢の人間がいてはいけないことになっている。警察に包囲されて中止になったというガセが飛び交っていると聞いたようですが......、東扇島公園の入口にずらーっと並んでいたのは暇そうなタクシーの一群でしたよ。
 楽屋には中止だというのにたくさんの出演者が残っていた。豪雨で昼からのリハーサルができずにそのまま最後までいた ホワイ・シープ?とチン↑ポム、L?K?O?、RY0SUKE、ハルカ、CMT、Shhhh、トビー、DJノブ、アルツ、ムーチー、瀧見憲司、渋谷慶一郎、テイ・トウワ、KIMONOSのふたり、イギリスからやって来たホワイト・ハウス......(他にもいたかもしれない)、そしてジェフ・ミルズや小室哲哉、ムードマンや高橋透、赤塚りえ子、手塚るみ子、湯山玲子、JOJO広重、ヤマタカ・アイ、OOIOO、iLLのように中止になったことを知ったうえで敢えてやって来た人も少なくなかった。トーク・ブースが撤収されてからも、七尾旅人とPhewは楽屋でこっそりと演奏をはじめたけれど、いまはもうその場を解散しなければらなければならないという主催側の説得によって終わった。同じように、このままでは終われないと言わんばかりに会場に駆けつけた小室哲哉は、今回の趣旨に賛同して考えたセットリストだから朝日が登るまでに演奏して聞いてもらうことが重要だと言って、宇川直宏とスタッフを誘い、自らのスタジオからライヴ配信するべく、夜の闇に消えていった......。(また、その後、急きょ〈サルーン〉を使ってのパーティもあった)

 〈FREEDOMMUNE ZERO〉が悲劇だったのかコメディだったのか、筆者はとてもじゃないが客観的には見れない。使われなかった海辺のスピーカー、いくつもステージ、当日売るはずだった大量のTシャツの箱を見ると本当にやりきれない気持ちになった。涙を呑むとはこういうことなのだろう。いまは、こうしたリスクを承知のうえでフェスティヴァルを準備して、そのために最大限の労力をはらってきた人たちの決断を尊重したい。本当に本当に本当にお疲れさま。本当に歴史的な日になってしまった。会場内で売る予定だったあのジャームスのオマージュTシャツ、格好良すぎるじゃないか、オレにも1枚売ってくれ。(以上、敬称略)

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文:野田 努、三田 格