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Savages

Savages

@原宿アストロホール

Jul 29, 2013

取材:菊地祐樹+野田努  
photos : Yasuhiro Ohara   Aug 09,2013 UP

 ライヴの翌日の取材で『AMBIENT defintive』を差し上げたらとんでもなく喜ばれた。とくにヴォーカルのジェニーさん。彼女は本を見ると、「これは私のよ!」と本気で奪い取る。「ドゥ・ユー・ライク・アンビエント?」「オブコース!!」、それからミュジーク・コンクレートやピエール・アンリについて語りはじめる。ページをめくりながら「これ国別? ああ、年代順になっているのね」とか何とか言いながら、デジカメで表紙の写真を写して誰かにメール。サヴェージズは、形(スタイル)だけのロックンロール・バンドではないし、その音楽はメッセージのための伴奏でもない。

 ライヴでは、ジェニーさんのシンプルな言葉はバンドの音のひとつの要素となっていることがよくわかる。くどくど言葉を並べないが、意味を与え、音の構成要素としても機能する。『メタル・ボックス』時代のジョン・ライドンと似ている。コードチェンジのないところも。
 コードチェンジがないことは、無闇やたらに高揚しない、泣き叫ばない、感情を露わにしない、という態度を表している。白けている状態の前向きな解釈で、サヴェージズにもそれがある。ドラマーはシンバルはほとんど叩かない。バスドラとハイハット、スネアで、リズムはミニマルに刻まれる。ジェニーさんの髪型のように削ぎ落とされている。エイスさんのベースがしっかり噛み合っているので身体が動く。
 昔、女性4人組のバンドが出たら、「~ガールズ」とか「ガールズ~」とか、なにかと女性性がタタキ文句に使われたものだが、サヴェージズにはもうその手のエクスキューズは必要ない。むしろ鬱陶しいかもしれない。カメラマンの小原は、今年見たライヴでもっとも良かったと上機嫌だった。それは演っているのが女性だからではなく、サヴェージズだからだ。僕も本当に格好いいと思う。(野田努)

photos : Yasuhiro Ohara

 というわけで、時間は再びライヴの翌日へ。菊地祐樹と一緒にほんの数十分だけど、取材した。以下のやり取りはジェニーさんがアンビエントについて熱くと話した続きである。


『サイレンス・ユアセルフ』を聴かせていただいて、エネルギッシュかつストイックなサウンドに興奮したのですが、それと同時に、抑えきれないフラストレーションに内在する力強さみたいなものをもの凄く感じました。実際、いまのシーンにおいて、あなたたちが一番憤りを感じることや、怒りを感じること、また、自分たちの敵だと思う対象ってなんですか?

ジェニー:「抑えきれないフラストレーションに内在する力強さ」......あなたの言葉好きだわ(笑)。フラストレーションっていうのはそれによって動かずにはいられなくなる衝動であり、感情のことよね。自分で行動を起こさざるを得ない感覚や、フラストレーションに推されて、そこから先がないぎりぎりのところまで突き詰めてるフィーリングが表れてる音楽が私たちも好きなの。
 私たちとBO NINGENがやってる、ワーズ・フォー・ザ・ブラインドっていうプロジェクト知ってる? 本当に彼らと私たちって姉妹や兄弟みたいな関係だと思うくらい似たようなところがあると思うの。いまはコラボレーションって言っても、1曲やってすぐに終わっちゃう関係がほとんどよね。それじゃあつまんないし、そこからなにかもっと違うことをやりたい、そしてその先を突き詰めたいっていうことで、彼らと一緒に考えてこのプロジェクトは始まったんだけれど、それはひとつの部屋にそれぞれのバンドが集まって演奏をするプロジェクトなんだけれど、40分の曲をお互いで一緒に書いて、ふたつのバンドがU字型に並んだ場所の真ん中にお客さんを入れて、バトルともいえるようなパフォーマンスを繰り広げるんだけど、ライヴを観てるお客さんも、そのあまりにもパワフルで直球な私たちの音楽にじっとしてられなくて、思わず身体の角度を変えてしまったり、あるいは音楽っていうものの考え方が変えられてしまったり、いろんな反応が聴いている側にも生まれてくるの。そのくらいの熱量を持って展開される音楽が私たちは好きなのよね。ごめんなさい、長くなってしまったわね(笑)。

どうぞ、続けてください。

ジェニー:質問に応えるわね。邪魔する人たちは皆敵ね。アーティストになりたかった理由や、音楽をはじめたかった理由っていうのはそもそもあるわけで、そこから私たちを違うところに反らそうとする邪魔者の存在すべてが敵だと言えるわ。理由は様々だけれど、ビジネスにかまけるあまりとかね。アーティストの核にあるものは本当の自分のなかの初期衝動であるべきなのに、そこから目を反らそうとする人たちがあまりにも多い気がするわ。それは個人であったり、組織であったりいろいろだけれど、本当にむかつく。自分を取り囲む環境っていうのは、自分から奪っていくんじゃなくって、自分の栄養になってくれるものであるべきだと私はそう思うの。だから、私は自分の内面っていうものをそのまま保っていける環境を大切にしたい。

原宿のアストロホールで行われた昨日のライヴ、お客さんも本当に踊っていたりノっいて、とてもエキサイティングだったんですが、アンコールをやらなかったのはなぜなんでしょうか? メッセージだったりしますか?

ジェニー:アンコールをやらなかったのはそこにいま述べたような敵がいたからよ(笑)。ジョークはこれくらいにして、それはどういう意味のメッセージかしら?

例えば、「ベストを尽くしてライヴをやったんだから、これ以上サーヴィスはしない」というか、予定調和への反抗みたいなものですかね。

エイス:それはもちろんあるわね。期待されてるから無理にやらなきゃいけないみたいなノリは嫌なの。それに実際、本編のライヴのなかで与えるものは与えたし、もうこれ以上いらないはずでしょ? っていう思いもあったの。

ジェニー:クリニックっていうリヴァプールのバンドは絶対にアンコールをやらないわよね。そういうやりかたが私も潔いと思うし、セット・リストを考えた時点でそれがひとつのジャーニーだし、ひとつの作品だから。クリニックの場合は事前にアナウンスが入るのよね。「今日は20分のセットを2回やります。もちろん途中で休憩はあります。ただし、それで終わりです」こんな具合にね。実際、本当にその通りに行われるのよ。まるでそれは演劇のようであり、舞台のような見せ方で、面白いなと思ったの。あとやっぱり、アンコールってサプライズであるべきだと私は思うのよね。だから、本当はやる予定だったけど、1曲やり忘れちゃったからアンコールをやるっていうんだったらありだと思うわ。

これだけいろんなジャンルがあり、選択があるなかで、どうしていまのようなバンド・サウンドに行き着いたんですか?

エイス:だからこそだと思うわ。いろんなジャンルがあって選択があるからこそ、こういったベーシックな、ギター、ドラム、ベース、ヴォーカルっていうフォーマットに立ち返って、そういうものが持つパワーをまた私たちは鳴らしたいの。

ジェニー:いろんな選択肢ね、よく言うけど、私はそれは幻想だと思うの。だって選択肢がたくさんあって、制約がないはずなのに、みんな同じような音を出しているわよね。その逆で、制約があるからこその自由みたいなものって絶対に私はあると思うし、特にアートの世界においては、制約のなかで工夫するところに表現の醍醐味があるでしょ? やり方はもちろんいろいろあるかもしれないけれど、自分がやろうとしてることにフォーカスするっていう意味では、いまの形が一番理想的だと思っているの。

「私はシンガーではなく詩人なんだという意識があって、歌うという行為に抵抗があった」というパティ・スミスが歌いはじめたときの話がありますが、あなたはどの程度自分がシンガーであることを自覚し、意識していましたか? 

ジェニー:すごく昔のことだから思い出せないけれど、小さい頃シャワーでよく歌っていたのはたしかね(笑)。8歳のときにジャズ・ピアノをはじめて、10年近く夢中になって練習したわ。10歳~13歳の頃はジャズ・スタンダードが多かったんだけれど、女性のピアノの先生に、レッスンの一環として歌を習うようになったの。当時は声量が本当になくて苦労したわ。で、チェット・ベイカーみたいだと呼ばれてね(笑)。
 その後、クラシック・オペラを習いはじめたときからわりと声量も付いてきて、きちんと歌えるようになったんだけれど、それを人前でやることへの経験不足をすごく感じたし、そういうことをやる自分が嘘っぽく感じてしまって、当時は歌うことに対してコンプレックスに似たものさえ抱いていたわね。その後、自然と演技のほうに興味が移ってしまったんだけれど、そのときジョニー・ホスタイルと出会って、私の人生は変わったの。そこから彼とジョニー&ジェニーのプロジェクトをはじめて、そこからいまのサヴェージズに繋がるのよね。
 ただ、サヴェージズをはじめた当初も、ステージに出ることが本当に苦手だったし、スタジオに入るごとにパニックを起こしてしまったり、そんなことがしょっちゅうあった。でも、もう大丈夫。私は成長したの。ここに至るまで長った。いまとなってはそう感じるわね。
 パティ・スミスはそもそも詩の朗読をやっていて、人前でも朗読のパフォーマンスをはじめて、それが演奏や曲に発展していったのよね。最近ギターのジェマとかと実験的にはじめたスポークン・ワーズをサヴェージズでも取り入れるようになって、所謂メロディなしで、言葉だけを使って自由さを楽しむプロジェクトをはじめたんだけどね。
 そもそもパティと私とではまったくプロセスが違うし、私自身、自分のことを詩人だとは思っていない。でもパティ・スミスはいつでも私にインスピレーションを与えてくれるし、新鮮みがあって、『ジャスト・キッズ』も素晴らしかったし本当に尊敬してるわ。ただ、サヴェージズっていうバンドにおいて、詩は間違いなく曲作りの念頭にないし、私たちはサウンドを重視しているの。繰り返すけれど、私自身も詩人ではない。私はシンガーなの。

ドリーミーなサウンドがシーンの主流にあるなかで、サヴェージのストイックなアテュテュードは際立っているように思いますが、いかがでしょう?

ジェニー:アイデアはそれぞれのメンバーで山ほど持っているから、それを無理せず自然に選び出していくっていう作業が私たちの曲作りなの。だからそうしたプロセスはある種引き算とも言えるわね。でもその作業って得てしていろんなところから邪魔(敵)が入るから、つい気をとらわれがちだけれど、曲の核心になるのは本当に必要なものだけだと思ってる。
 ロンドンにおいてはとくにそうなのだけれど、所謂トラディショナルなロックンロールが消えたとされるなかにあって、「そうじゃないでしょ?」っていう周囲に対する反発からこういう音を突き詰めてるっていう気持ちも少なからず私たちのなかにはあるし、必要最低限のシンプルなものだけで、立派にショーとして成り立つっていうのは本当にすごいことだと私は思うの。日本にもそれを体現しているBO NINGENっていうバンドがいるわね。私たちは無駄なものを削ぐことに躊躇はまったくしない。なぜなら、私たちがそもそもなにが言いたかったのかっていう、もとにある主張みたいなものが音で埋まって欲しくないから。
 そして、それがちゃんといろんな人に伝わって皆に理解してもらう、それを恥ずかしがってなにかで覆い隠すのは一切しない。それが私たちサヴェージズだから。

取材:菊地祐樹+野田努