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王舟のライヴ。
それはアメリカの平原を歩いているような感覚へと連れて行ってくれた。JINTANA(JINTANA&EMERALDS)
今回は、王舟さんと同じく、オーセンティックな音楽をエッセンスとして現代の音楽をプレイしているミュージシャンという括りでレヴュアーに指名していただいたのかわかりませんが、素晴らしい音楽を紹介させてもらう機会をいただきありがとうございます。
僕が王舟さんを初めて聴いたとき、とても懐かしい感覚もありつつすごく現代的な音楽だなと感じて胸が熱くなりました。すこし前、ニューヨークに行ったときに、ライヴハウスを回っていたら、フォーク系がすごく勢いがあって、都会に住む人たちが音響などを取り入れた新しい側面からこういうカントリーサイドな音楽をやっているのか! と、とんでもなく粋だなと思ったのですが、それと同じものを王舟に感じたのです。フリートフォクシーズなど、そういった新世代フォークと共鳴して王舟さんはやられているのかわかりませんが、同時代感覚として自然にそういう響きが出てくるのかも知れません。
さてそんな王舟さんのライヴに行ってきました。まずお客さんに可愛い女の子が多い! これはとても大事なことですね。それはさておきステージには7人のメンバー。いわゆるバンド・セットに加え、フルートや床に座って鉄琴のようなものを演奏している方もいます。そして王舟さんはというと、アコースティック・ギターを持って登場。アコギかエレキかって小さな話かもしれませんが、やっぱりアコギって家で練習するために使って、ステージではエレキっていうのが通常じゃないですか。そんな中、最初からアコギでステージに現れるというのはすごくインパクトを感じて、その姿に「アコースティック・ギターってこんなにカッコいいんだ!」と驚きました。スモークが焚かれ、霧の中からアコースティック・ギターを持ってステージに現れる王舟さんは痺れるほどカッコよく、そしてその姿は強烈な個性や方向性を伝えてくれ、時代や音楽の状況などすべてのモノに対する独立した姿勢を伝える強いメッセージのように感じて……とにかくカッコ良かった。
そして1曲めを歌いだす王舟さん。スモークの向こうから右側だけが月明かりのようにライトに照らされ、すごく幻想的な光景に思えました。まるで、霧の向こうから王舟の声が聴こえてくるようです。最初、英語か何かで歌いはじめ、きき入っていると途中から日本語に変わり、聞いたことのあるフレーズになりました。それは“虹”でした。まるで霧の向こうから虹が現れたように、美しい瞬間でした。ある意味、日本でもっとも有名なエレクトロニックな曲がこうも美しくアコースティックな響きに、そして王舟さんの気持ちや言葉となって奏でられていることに感動。
今回リリースされた7インチにはB面にこの“虹”が収録されており、A面はこれまた名曲“Ward”。“Ward”は聴いていると日々に対する落胆と希望が交互にやってくるような曲で、僕は聴いているととても元気が沸いてきます。独特の言語感で歌っている王舟さんが“Ward”というタイトルの曲を出すことがとても素敵で、そして途中からダイナミックになるドラムのアレンジに泣けてしまいます。
そういった素晴らしい楽曲が繰り広げられるライヴには、まるでアメリカの平原を流れる雲をみているような感覚にさせられました。雄大でありながらも叙情的であり、大袈裟に言うと人生とは何かについて自然と感じてしまうような空間。霧の向こうからさまざまなものが現れては消えて、だけど本質的なメッセージを伝えつづけてくれているような、胸が締めつけられる感覚。
遠くに行きたいとき。何にもとらわれない旅に出たいとき。大自然に身をゆだねたいとき。人生を見つめたいとき。そんな気持ちになった日、僕は王舟のライヴを見に行きたいと思います。
■JINTANA / ジンタナ
横浜の音楽クルーPPP(Pan Pacific Playa)発、ネオ・ドゥーワップバンドJINTANA&EMERALDSのスティールギタリスト。「DESTINY」アナログ発売中。
ライヴ:
12/20@アンドレア・ドーラウJAPANツアー
12/29@和ラダイスガラージ
jintanaandemeralds.com
文:JINTANA