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坂本慎太郎

坂本慎太郎

@恵比寿リキッドルーム

2018.1.17

文:野田努  
写真:三田村亮   Jan 24,2018 UP

 それまで場内をゆっくり温めていた二見裕志のDJの音はなかばぶっきらぼうに止まり、そしてゆっくりと、控え目の音量で、ずいぶんゆっくりと独特のグルーヴィーなリズムで“超人大会”が演奏される。「写真で見たことが現実で起きた 悲しいくらい俺は無力だ」牧歌的で悲しげなフルートが吹かれ、坂本慎太郎の歌声が明瞭に響きわたる。「自分のしたことが招いている 悲しいくらい俺は 恥ずかしいくらい俺は さみしいくらい俺は 無力だ」
 続いて“スーパーカルト誕生”。「二千年前それは生まれた 二年後にこの世は滅びる」……ベースのAYAとドラムの菅沼雄太はスローテンポをキープしながら、坂本ワールドのグルーヴを創出する。フルートとサックスの西内徹が多少色づけしても余白はたっぷりあり、その余白に拡がる空間の内側で坂本慎太郎の歌が滑らかに反響する。当たり前のことだが、これはゆらゆら帝国にとって最後のライヴとなった2009年12月30日のリキッドルームでの演奏とは別モノである。

 坂本慎太郎は、このおよそ8年のあいだに3枚のソロ・アルバムを発表した。熱望されていたにも関わらず、彼はライヴ活動をしてこなかった。幼稚園児が中学生になるくらいの、それなりに長い時間だ。この日、ライヴ会場に到着して最初に思ったのは、若いオーディエンスが多いということだった。ゆらゆら帝国のライヴを観たことがない世代がたくさん来ていたのだろう。『幻とのつきあい方』や『ナマで踊ろう』、あるいは『できれば愛を』から入ったリスナーのほうが多そうだし、実際その3枚のアルバムの曲が演奏された。
 音量や音圧、音数でオーディエンスを圧制することはない。中盤の、カンの脱力的なリズムをも彷彿させるスカスカの“ずぼんとぼう”から“できれば愛を”、そして“幽霊の気分で”という流れは、しかし陶酔していたオーディエンスの身体をさらに動かし、ダンスさせ、フロアからの声をうながした。ぼくの’近くにいた若者は「坂本さ~~~ん!」と絶叫した。無理に盛り上げもしないことで盛り上がっていくという沈黙と興奮が入り混じったライヴ会場で、その声はよく通った。坂本作品は、サン・ラーの厭世主義めいた傾向を持ちつつも、無力といいながらエネルギーをうながし、ダメだと言いながら良しといっているようなある種の反語的世界と言える。そこにはほかとは違うことをやることの素晴らしさと、それでもなんとかこうして自分たちは音楽を愛しながら生きていることの強い肯定性も含まれていることだろう。

 とはいえ坂本作品には、スペシャルズの“ゴーストタウン”のような風刺も多分にある。昨年末のエルサレム問題から北朝鮮問題(&トランプ)にいたる我が国の政府の対応などなど、今日目に入る政治のニュースを少しでも見れば、彼の音楽がよりいっそう真実を突いているように思えてしまうのは、ぼくの悪い妄想癖だろうか。いまぼくは『超プロテスト・ミュージック・ガイド』というプロテスト・ミュージックのプレイリスト集の本を編集している。そのなかで自分が作成したプレイリストの1曲にゆらゆら帝国の“ソフトに死んでいる”を選んだ(しかしページ数の関係で掲載されず。近々webのほうで発表するつもりです)。
 “ソフトに死んでいる”は、日本のサッチャーに例えられる小泉政権時代の暗い予感を残酷に描いた曲としても解釈できる。同曲は12インチとしてもリリースされ、DJにもプレイされることになるが、シングルには故アラン・ヴェガの日本語カヴァー曲も収録されている。ただ生きるためだけに工場で働きながら経済的に追い詰められて発狂する男を描いたその曲、“フランキー・ティアドロップ”は能力のない人は自己責任として死ぬしかないという時代におけるリアルで強力なディストピック・ソングだ。それは2005年当時のぼくの耳に入ってきたもっともインパクトのある「NO」という声(音)だった。

 曲はたんたんと演奏されていった。やがて最後の曲、“動物らしく”が終わる。満員の会場からは大きな拍手。4人は楽屋に戻ることなくそのままステージ上に立っている。坂本は抑揚のない声で、じゃ、アンコールやりますと、“好きではないけど懐かしい”と“悲しみのない世界”の2曲を演奏した。「悲しみのない世界があればいいのに」……。そしてふたたび二見裕志のDJタイム。予定調和というものをとことん拒絶したライヴにおいて、彼のDJは悲しみのない世界=平和な時間を保証するものだった。
 もうひとつ保証されたのは、これで坂本慎太郎はライヴ活動を再開するだろうということだ。あくまでも個人的な予想ではあり、違っていたらすみませんというほかないのだが、これだけのライヴをやったのだから続きはありだろう。今回チケットを取れなかった人も、近々必ずライヴを観れるはず。ライヴは、完成度の高いアルバム作品とはまた別の魔力を持った新たなる坂本ワールドである。

文:野田努