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Silent Poets

Silent Poets

@渋谷WWW

2018年6月24日

文:小野田雄  
photo:三田村亮   Jul 11,2018 UP

 静謐な空間をヘヴィーな低音と蒼く燃え上がるような熱を内包した繊細な詩情で満たしてきた下田法晴のプロジェクト、SILENT POETS。1992年のデビューから25周年を迎えた今年2月、長きに渡る沈黙を破り、12年ぶりにリリースしたアルバム『dawn』を携え、渋谷WWWにて、デビュー後、初となるバンド編成によるライヴを行った。

 “マッシヴ・アタックに対する日本からの返答”と評されながら、アシッド・ジャズやトリップホップ、アブストラクト・ヒップホップ、ダウンテンポなど、そのときどきのトレンドやサウンド・フォーマットに身を委ねることなく、ハイブリッドな音楽性とストイックなサウンドデザインを確立した独創的な音楽世界はバンド形態でどのように具現化されるのか。また、ベース・ミュージックが飛躍的な進化を遂げる一方、90'sリヴァイヴァルが音楽シーンに新たなインスピレーションをもたらしている2018年にSILENT POETSの楽曲は果たして、どう響くのか。

 開演時間を過ぎ、暗転したステージには、バンドマスターであるギターの小島大介(Port Of Notes)以下、ベースのSeiji Bigbird(Little Tempo)、キーボードのYOSSY(ex - DETERMINATIONS / YOSSY LITTLE NOISE WEAVER)、ドラム/パーカッションの小谷和也(PALMECHO)、チェロの徳澤青玄、ヴァイオリンのグレート栄田、越川歩と共にバンドのエレクトロニクスを一手に司る下田が登場。さらにPA卓にはDub Master Xが陣取り、スタッフロールを皮切りに、ステージのバックエンドに映し出された映画さながらの美しい映像と共に、オープニング・ナンバー“Distant Memory”にフィーチャーされた厚みのあるストリングスがオーディエンスをSILENT POETSのエモーショナルな世界へとゆっくりと引き込むと、サンプリングとプログラミングで構成された楽曲をリアレンジしたバンド・サウンド、その揺れやうねりはノスタルジーをまとうことなく、曲の根幹を成す喜怒哀楽を鮮やかに浮かび上がらせた。

 そこにさらに2000年にSILENT POETSを脱退し、現在はLittle Tempoで活動するサックスの春野高広、トランペットの坂口修一郎(Double Famous)、トロンボーンのicchie(ex - DETERMINATIONS / YOSSY LITTLE NOISE WEAVER)からなるホーン隊をフィーチャー。 12年前の楽曲である“Future“ではやわらかさを、20年以上前の“Bassman's Talk”ではソウルフルなあたたかみを際立たせたかと思えば、立体音響の匠であるDub Master Xのミキシングが高解像のスピーカー“FUNKTION-ONE”のフルレンジを最大限に活かして、新作からの楽曲であるディープ・ダブ“Division of the world”をより深く、ステッパーズ・チューン“Non Stoppa”をより重厚に鳴らしてみせた。

 また、その作品では作者である下田とリスナーが一対一で対峙することで深く響く楽曲がこの日のライヴでは、脱退した春野高広と下田の共演が象徴するように、人が行き交い、出会い、再会する場として機能していたことも新鮮な体験だった。'99年の『HIBAHIHI+SILENT POETS 001』以来のコラボレーションとなる“Eternal Life”で登場したNIPPS、古くから親交はありながら、“Rain”で初の共演を果たしたこだま和文の2人は、舞台裏でNIPPSがNY在住時以来の再会を果たしたといい、リスナーにとっては“Tokyo”にフィーチャーした5lackをはじめ、ダブ詩人の山崎円城(Noise On Trash、F.I.B JOURNAL)やヴォーカリストの武田カオリ(TICA)、asuka andoといったゲストが体現するSILENT POETSのエクレクティズムに実感をもって立ち会えた瞬間でもあった。

 そして、そのエクレクティズムは、2000年代のリヴァイヴァルを経て、近年、ジャンルに収まりきらないマージナルなレゲエ、ダブにさえ光を当てている“バレアリック”にも通じるものだ。新作に迎えた櫻木大悟(D.A.N.)のヴォーカル・フレーズを強烈なディレイで飛ばしたスローモーなハウス・トラック“Simple”はそのことを雄弁に物語る楽曲であったし、この日のラストに披露された'93年作のエレガントなダブ・ハウス“Moment Scale (Dubmaster X Remix)”はそれこそ名作コンピレーション『Cafe Del Mar』に収録された正真正銘のバレアリック・クラシックであることをまざまざと思い起こさせ、また、その楽曲が2018年においても瑞々しく響くことを見事に証明してみせた。

 この25年で音楽シーンは大きく様変わりしたが、その変化があるからこそ、不変の音楽もまた際立つ。新しいものが瞬く間に古くなる時代に不変の音楽を不言実行で作り続ける強い意志を胸に秘めたSILENT POETSだが、一夜限りにしてはあまりに惜しいライヴに対する熱いリアクションを受け、明言したライヴ活動の継続、そして、さらなる新作の制作へとその活動は今後も続いていくはずだ。

文:小野田雄