Home > Reviews > Sound Patrol > [Dubstep & Techno & others] #3- by Tsutomu Noda
ロンドンの、ジェームス・ブレイクに次いで注目を集めている若きポスト・ダブステップ・プロデューサーのセカンド・シングルで、前作におけるブリアルやジェイ・ディラへのリスペクトを残しつつ、よりダンスフロアへとアプローチしている。キックドラムから入るA1の"The Slump"は今回のシングルを象徴する曲で、2ステップ・ガラージとディープ・ハウスの美しいブレンドで、魅惑的なグルーヴを展開する。背後から人びとの声が響くB1の"Prism"はディープなレイヴ・スタイルへと流れ込んでいく。C1の"Crossed
Out"は2ステップ・ビートと重たいエレクトロとの競演、そしてトラックの後半にはメランコリックなR&Bヴォーカルとともに導入されるロスカにも似た野太いビートがダンスを駆り立てる。D1の"C-Beams"はアシッド・ハウスへの冒険だ。ヒップホップ・クラップとR&Bヴォーカルの断片のなかをアシッド・べーすがうねっている。D2の"Safehouses"もパライアーらしいソウルフルなフィーリングのディープなトラックで、全盛期のシカゴ・ハウスが持っていた最良の瞬間に彼は近づいているようだ......。
いや、とにかくもう、まったく素晴らしい2枚組だ。
モダン・クラシックが10インチで登場。You Tubeではなく、ようやくヴァイナルで聴ける......この喜び、これが音楽っすよ。いやね、『SNOOZER』で田中編集長と話していたら、ロックを聴いている子は音楽に救いを求めているっていうのだけれど、僕は音楽はまずはとにかく楽しみを追究するためにあると思う。
さて、これはもうご存じ、ネット上でさんざん話題になった、2007年にファイストがリリースしたセカンド・アルバム『ザ・リマインダー』に収録された曲のカヴァーで、片面のみのプレスにてリリース。アルバムは来年の2月だとか。この曲を聴いたら期待するなというのが無理な話だ。
これはDJ御用達でしょう。上物だけ聴けばアシッド・ハウスそのもの。が、しかし、イントロのスネアの16の連打、そして最高のダブステップ・ビートがどかーんとやって来る。フロアの狂騒が聴こえてくる。かなり格好いい。大邸宅に住んでいるDJメタルが愛して止まない"エナジー・フラッシュ"のモダン・スタイルとでも言いましょうか。
フリップサイドの"Mass Dreams Of The Future"もまた......、イントロはアシッドのべースライン、それからダブステップのうねりが蛇のように絡みついてくるとトランシーに飛ばしていく。新世代によるアシッド・ハウス解釈というか、これもかなりのキラー・チューン。まあとにかく、これもシーンの盛り上がっているということなのだろうけれど、パリアーにしてもアントールドにしても、最盛期におけるダンス・ミュージックが持ちうる素晴らしいグルーヴがある。
それにしても〈R&S〉は見事にダブステップのレーベルへと転身したな。
2007年にURが「フットウォーズ」を出したときに、マイク・バンクスに「これって何?」って訊いたら、笑いながら「いや~、これはシカゴやデトロイトのキッズのあいだで流行っている新しいダンス・バトルのために音楽だよ」と教えてくれたものだが、それがいつの間にか広がっていた。
これは半年以上前のリリースだけれど、shitaraba君がDJネイトのレヴューのなかでUKにおけるダブステップ方面からのフットワークへのリアクションとして、たいして面白くないと紹介していた1枚がこのアジソン・グルーヴの"フットクラブ"で、僕はけっこう面白いと思っている。そのように一掃されてしまうにはもったいない可能性がここにはあると思うので紹介しておきましょう。
シカゴのゲットー・ハウスの豪胆な野蛮さ(〈ダンス・マニア〉から綿々と続くあれの現代版)がロンドンのクラブ・カルチャーの雑食性のなかで再解釈されたもので、この混沌のなかから来年は何か発展しそうな気配もある。
踊らせたいぜーというDJはチェックしてみて。
これはジェームス・ブレイクの"CMYK"と並んで2010年のクラブ・アンセムとなった、いわば時代を象徴する1曲なので紹介しておく。完璧にダンスフロアのためにあるトラックで、ソカのリズムを笑えるほど極限まで削ぎ落としながらも、UKファンキー、それからフットワークやジュークともリンクするような不思議なグルーヴを持っている。
ハウス世代がこれを聴いたら驚くんじゃないかな。そして、この音がクライマックスでかかることを知ったら、自分のレコードバッグを見直すかもしれない。あるいはこの最小限の音でここまで陽気であるという事実に嬉しくなるかもしれないね。
以上、いまダンス・ミュージックを聴くならUKが面白いというこの1年を代表する5枚でした。
野田 努