Home > Reviews > Sound Patrol > [Electronic, House, Dubstep] #8
ハイプ・ウィリアムスが〈ハイパーダブ〉から12インチ・シングルをリリースすることがまず驚きでしょう。いくらダブという共通のキーワードがあるとはいえ、ダブステップとチルウェイヴが結ばれるとは......思わなかった。
今年〈ヒッポス・イン・タンクス〉からリリースされたサード・アルバム『ワン・ネーション』は、レーベルが〈ヒッポス・イン・タンクス〉ということもあって、ドローンやアンビエントというよりはチルウェイヴ色が強く、しかも実に不健康そうな多幸感を持ったアルバムだったが、このシングルもその延長にある音楽性だ。まあ、〈ハイパーダブ〉もダークスターのようなエレクトロ・ポップを出しているくらいからだからなぁ。しかし......ハイプ・ウィリアアムスはこれでますます目が離せなくなった。アンビエント・ポップということで言うなら、A1に収録された"Rise Up"は最高の1曲だ。
〈ハイパーダブ〉からのファンキーよりの作品やクオルト330とのコラボレーションで知られるダブステッパー、LV(先日、ファースト・アルバムを発表している)とブリストルのメッセージ・トゥ・ベアーズ(熊へのメッセージ)とのコラボレーション・シングルで、この後リミックス・ヴァージョンがリリースされるほどヒットしたという話で、実際にダンスフロアに向いている。ミニマル・テクノの4/4キックドラム、メンコリックなシンセサイザーのループとスモーキーな女性ソウル・ヴォーカルが浮遊するトラックで、ポスト・ダブステップというよりはヒプナゴジックなテクノである。
これはフォルティ・DLによる"ハウス"シングルだが、まるでヤズーがダブステップの時代に蘇ったような、エレクトロ・ポップと強力なダンスビートのブレンドで、ニューヨークらしいというか、しかしそれは彼がいままで手を付けていなかった引き出しのひとつを見せているようだ。
B面の"ジャック・ユア・ジョブ"も力強いアッパーなビートの曲だ。リピートされる「ゲット・ユア・ジョブ(仕事を見つけろ)」という声はネーション・オブ・イスラムのルイス・ファルカンの声だが、それは90年代に人気のあったガラージ(歌モノの)ハウスのアーティスト、ロマンソニーの有名な"ホールド・オン"からのサンプルだと思われる。アイルランドのヒップホップ系のレーベルからのリリース。
今年の9月にデビュー・アルバムのリリースが予定されている〈ストーンズ・スロー〉の大器。数か月前のリリースだが、昨今のソウル・ミュージックの復興運動における注目株なので紹介しておこう。まあこのレーベルが推し進めているジャズ、ソウル、ファンクにおける新古典主義のひとつと言ってしまえばそれまでで、感覚的に言えば、ザ・クレッグ・フォート・グループやギャング・カラーズ、あるいは〈エグロ〉レーベルとも共通する。綺麗なデザインがほどこされた透明のヴァイナルで、白地にエンボスのジャケも良い。
アマンダ・ブラウンがついに三田格と!? というのはさすがにない。イタルは、〈100%シルク〉からソロ・シングル「イタルのテーマ」を発表しているダニエル青年によるプロジェクト名で、これはアマンダとのコラボレーション12インチ・シングル。パンク・ダブ・ダンスというか、彼女がダンス・ミュージックをやるとこうなるのだろう、危なそうな人たちがひしめく不法占拠した地下室における饗宴で、リー・ペリーがポップに聴こえるような過剰で砂嵐のようなダブ処理は相変わらずだが、ぶっ壊れたドラムマシンが暴走したようなアップテンポのビートは素晴らしい。それにしてもこのデッド・オア・アライヴのようなアートワークは......(笑)。
今年も親分(=マイク・バンクス)はメタモルフォーゼにやってくるそうだ。あの男のことだから当然こんかいの日本の惨事についてはいろいろ考えているようだ。それで1年前に発表した火星人の6年ぶりの新曲がヴァイナルで登場した。タイトル曲はクラシック・デトロイト・スタイルで、B面1曲目に収録された"Reclamation(再生)"は題名からして東日本に捧げられているようにも感じられる。B面2曲目の"Resurgence "はじょじょにビルドアップテクノ・ファンク。
ロンドンのバレアリック系チルウェイヴの2作目だが......実はまだレコード店に取り置きしたまま......。また次回にでも!
野田 努