「S」と一致するもの

写楽 & Aru-2 - ele-king

 かたや97年生まれ、数々のMCバトルで名を馳せ、2021年にファースト・アルバム『MIMISOJI』を発表しているラッパーの写楽。かたや93年生まれ、これまでISSUGIやJJJなどの楽曲を手がけ、今年最新作『Anida』を送り出しているビートメイカーのAru-2。両者によるジョイント・アルバムが一昨日リリースされている。写楽による独特のことば選びと心地いいフロウ、Aru-2による生々しくも情感豊かなビート──注目の才能同士による化学反応を楽しみたい。

最新ソロアルバム『Anida』のリリースも記憶に新しいDJ/プロデューサー、Aru-2と2021年発表のファース『MIMISOJI』が話題となったラッパー、写楽によるジョイント・アルバム『Sakurazaka』がついにリリース!

JJJ、C.O.S.A.、Daichi Yamamoto、KID FRESINO、ISSUGI、小袋成彬ら多数のアーティスト作品に参加し、ニューアルバム『Anida』のリリースも記憶に新しいDJ/プロデューサー、Aru-2。「高校生RAP選手権」を筆頭に数々のMCバトルへの出演で界隈で名を馳せながら2021年にリリースしたファースト・アルバム『MIMISOJI』も話題となり、Aru-2『Anida』にはNF Zesshoとともに表題曲へ参加していたラッパー、写楽。この両者による話題のジョイント・アルバム『Sakurazaka』が本日ついにCDとデジタルでリリース!

Aru-2が手掛ける生々しく重厚で情緒あふれるサウンドが織りなすビートの上を、豊かなメロディセンスで歌もまじえて淡々とリリックを紡いでいく写楽のラップは強烈な化学反応を巻き起こしている。アートワークは『Backward Decision for Kid Fresino』などAru-2関連作品を手掛けている鹿児島のデザイナー/アーティスト、Yoshito Ikedaが担当。CDはスペシャルなボーナストラックを収録して見開き紙ジャケット仕様となっており、P-VINE SHOPなど一部店舗では非売品のプロモーション用ステッカーが先着特典として付属。また2025年2月にリリース予定の限定アナログ盤をP-VINE SHOPで予約すると非売品のプロモーション用ポスターが先着特典として付属になります。

<アルバム情報>
アーティスト:写楽 & Aru-2
タイトル:Sakurazaka
レーベル:P-VINE, Inc.
仕様: デジタル | CD | LP
発売日: デジタル、CD / 2024年11月6日(水) LP / 2025年2月19日(水)
品番: CD / PCD-25429 LP / PLP-7503
定価: CD / 2,750円(税抜2,500円) LP / 4,500円(税抜4,091円)
*P-VINE SHOPにてCDが発売&LPの予約受付中!
https://anywherestore.p-vine.jp/collections/aru-2
*Stream/Download:
https://p-vine.lnk.to/EtCu3F

<トラックリスト>
01. No Rush
02. Nice Choice
03. Cut Off
04. Sabaaidheel Freestyle
05. Sannomiya Daydream
06. Summer Blanco
07. Sorrows
08. Thankfully
09. Sakurazaka
10. Good Latency
11. Party Finale
12. Millefeuille (CD Bonus Track)
※LPはM1~6がSIDE A、M7~11がSIDE Bになります

<写楽:プロフィール>
97年生まれ愛知県育ち。ラッパー/ビートメイカー。
高校生ラップ選手権に出演し活躍の後、2021年アルバム「MIMISOJI」を発表。
「独自の歌詞世界」という表現では収まらないオンリーワンな言葉選びや心地良さを追求したフロウで、自然の美や自己の内面世界を描いた楽曲は、ヒップホップヘッズに留まらず幅広いファンを魅了する。

<Aru-2:プロフィール>
1993年生まれ、埼玉県川口市出身の音楽プロデューサー/ビートメイカー/DJ。
これまでソロアルバムやコラボ作品を愛と縁のあるレーベルから次々と発表、最新アルバム”Anida”を2024年リリース。
ISSUGI、JJJ、DAICHI YAMAMOTO、小袋成彬、C.O.S.A、KID FRESINO、NF ZESSHOなど数多くの国内アーティスト達への楽曲プロデュースに携わる。
近年では小村昌士監督作映画「POP!」の劇伴音楽も手掛け、サウンドエンジニアとしても様々なアーティスト作品を支える音楽ミュータント。

Dialect - ele-king

 はたしてアンビエントの分野にはまだ冒険の余地が残されているだろうか。パンデミックを機にあまりにもリリース量が増え、独創的とはいいがたい音源と遭遇する頻度も増した今日。あるいはストリーミング全盛の時代にあって、それは作業BGMや商業施設の環境音楽と区別がつきにくくなっている。
 たんに無視できるだけではなくて、集中もできること。忘れられがちだが、それこそがアンビエントの出発点だった。深い聴取に耐えうるためには、都度そこになにかしら新しい発見がなければならない。アンビエントがその条件を満たし、以後発展をつづけることができたのは、そもそもそれがテープ・ループの実験として誕生したからではないだろうか。切ったり貼ったりするわけだから、テープ編集それ自体がサウンド・コラージュである。つまり、アンビエントはマイルス・デイヴィスとテオ・マセロ、あるいはカンとホルガー・シューカイの文脈につらなる、編集の音楽でもあるのだ。

 リヴァプールのアンドリュー・PM・ハントは、現代においてサウンド・コラージュとしてのアンビエントを拡張しようと奮闘する挑戦者のひとりだ。サイケデリックなポップ・バンドのアウトフィット、ミニマリズムを探求するインストゥルメンタル・アンサンブルのエクス・イースター・アイランド・ヘッド、その主要メンバーと組んだランド・トランスなど多くのグループに参加する彼は、ダイアレクト名義のソロ・プロジェクトでさまざまな具体音や生楽器、電子音を切り貼りし、独自の夢想的なサウンドを紡いでいる。すでに4枚のアルバムが送り出されているが、彼の名をもっとも広めることになったのは、室内楽の要素も導入した前作『Under ~ Between』(2021年)だろう。
 通算5枚目のアルバム『Atlas Of Green』も創意工夫に満ちている。再生ボタンを押すとリラックスしたギターの演奏に導かれ、素っ頓狂な笛らしき音が乱入してくる。どことなく中世的なものを想起させるこの笛の音は全体のイメージを決定づけていて、次第に加算されていく弦やら鍵盤やら電子音、謎めいた人声、鳥の鳴き声なんかのなかでも際立った存在感を放っている。あるいは “Late Fragment” で主役を張る弦楽器。これまた古楽的な響きを携えているし、古びた電子機器のような音の反復が耳に残る8曲目のトラックは “Archaic Quarter Form” なんて題されている。インタヴューによれば、「グリーン」なる名前の主人公が過去の壊れた断片に遭遇しながら未来世界を案内する、というのが本作のアイディアのようだ
 コンセプトの面でこのアルバムは、三人の人物からインスパイアされている。ひとりはアメリカの作家ジーン・ウルフ。冒頭 “New Sun” の曲名はおそらく、寒冷化した未来の地球が舞台となる小説『新しい太陽の書』からとられたものだろう。もうひとりもアメリカの小説家で、『ゲド戦記』で有名なアーシュラ・K・ル=グウィン。彼女は「わたしたちは資本主義のなかに生きていて、その力から逃れられないように見えます。でも、かつて王権神授説もそうでした」なんて鋭い寸言を残していることでも知られている。三人目はフェデリコ・カンパーニャなるイタリアの哲学者。検索してみると、「想像の深みを掘り下げて、現在の技術主義と国家資本主義の神話にたいしてオルタナティヴな現実を創造することができるような、新しい構造を探す必要があります」なんて発言が見つかる。ようするに、三人ともそれぞれのやり方で、未来についてあれこれ考えている、と。

 振り返れば、ドレクシアのアフロフューチャリズムには奴隷船という過去と海底で高度に発達した文明という未来が同居していたのだった。アンドリュー・ハントは白人ではあるものの、彼もまた近代以前の古き民衆的なものを呼び起こしながら他方で未来を想像するという、大胆な冒険を試みているわけだ。深く惹きこまれる音のコラージュによりアンビエントの可能性を広げる本作は、他方で「失われた未来」のような考え方からの脱却をはかってもいる、と。
 ここ数日、米大統領選の速報に翻弄されながらも不思議と平常心を保っていられたのは、このアルバムが表現する「ポスト未来」のサウンドに接していたからかもしれない。

interview with Kelly Lee Owens - ele-king

 エレクトロニック・ミュージックにおける2017年といえば、ヴィジブル・クロークスがニューエイジ・リヴァイヴァルに火をつけたり、ジェイリンがフットワークを新たな次元に押し上げたり、〈XL〉に移籍したアルカが自己を肥大化させる方向に舵を切ったり、チーノ・アモービが非常にコンセプチュアルかつ重厚なコラージュ作品を世に問うたり、ツーシンやDJパイソンがデビュー・アルバムを発表したりと、ディケイドの終わりに向かってさまざまな傾向が噴出してきた年だ。当時〈Smalltown Supersound〉から放たれた、ドリーム・ポップとテクノの溝を埋めるケリー・リー・オーウェンスのファースト・アルバムもそうしたさまざまな芽吹きのひとつだった。透きとおったヴォーカルの影響もあるだろう、評判を呼んだ同作以降、彼女の存在感は一気に高まっていくことになる。
 パンデミック中に発表された2枚目『Inner Song』(2020年)は時世に抗うかのようにフロアライクな側面を増大させたアルバムだったけれど、他方でウェールズの労働者階級の村で育ったという自身のアイデンティティを確認するかのように、同郷の大物ジョン・ケイルによるウェールズ語のヴォーカルをフィーチャーしてもいた。そうしたルーツへの意識と関連があるのかないのか、3枚目『LP.8』(2022年)では大きく路線を変更し、アイルランドのエンヤとスロッビング・グリッスルの中間を目指すという大胆なコンセプトのもと、独自のやり方でノイズとアンビエントを同居させている。オーウェンスのベストな1枚だろう。

 それから2年。デペッシュ・モードとのツアーを経験した彼女は今年7月にザ・1975のドラマー、ジョージ・ダニエルが設立した〈dh2〉と契約を結び、10月に4枚目のアルバム『Dreamstate』を送り出している。レーベル移籍とともに心境にも変化が訪れたのかもしれない。バイセップやケミカル・ブラザーズのトム・ローランズとのコラボ曲を含む新作『Dreamstate』はふたたびダンスフロアにフォーカス、トランシーな感覚もまといつつ、とことん恍惚を追求している。なんでも、過去を振り切るためには多幸感を追い求める必要があったのだとか。5月の来日公演ではハード寄りのテクノをかけ大いに会場を盛り上げていたオーウェンス。新作もまた最近の流れ、ポスト・パンデミックのダンス熱を代表する作品のひとつとなるにちがいない。

都会的な要素というのは、わたしがこの17年間、ロンドンやマンチェスターといった都市に住んできた影響をあらわしている。でもわたしにとって真の故郷は、わたしたちの言葉で言う「Cymru(=ウェールズ)」で。

昨年はデペッシュ・モードの北米ツアーをサポートしていましたね。その経験はあなたになにをもたらしましたか?

ケリー・リー・オーウェンス(Kelly Lee Owens、以下KLO):毎晩、大勢の観客の前でプレイして、大規模な空間を音で埋める必要性に迫られたことは、その後のスタジオ制作にたしかな影響をもたらしたと思う。ツアーから戻って最初に書いた曲が、アルバム最初の曲 “Dark Angel” なのだけど、じつはわたしがデペッシュ・モードのツアーTを着ている動画があって、いつか投稿すると思うけれど、そのTシャツのバックプリントには天使の羽が描かれていて。動画では、わたしがシンセのメロディを演奏しているんだけど、とてもアンセミックな音響。そういう意味で、今回のアルバムでは、大きな空間を埋めるための音をつくるようになったと思う。その一方で、デペッシュ・モードの素晴らしいところは、そういった大きな空間においても、親密な瞬間をつくりあげられるということ。だからビッグで大胆で、アンセミックで感情に訴えかける音を表現すると同時に、静かな瞬間も加えたいと思うようになった。それが『Dreamstate』の音の旅路に反映されていると思う。これはツアーに参加する前から思っていたことなんだけど、ツアーに参加したことで、そのあたりの領域を探求していきたいという思いが、さらに強くなったと思う。それに、彼らと一緒にいること自体がすごく刺激的だったし、わたしの人生における最高な体験のひとつになったと思う。

〈Smalltown Supersound〉を離れ、新作をザ・1975のドラマー、ジョージ・ダニエルが〈Dirty Hit〉とともに立ち上げたレーベル〈dh2〉から出すことになった経緯を教えてください。

KLO:まず、〈Smalltown Supersound〉とは素晴らしい関係を築いてきたということを言っておきたい。レーベル主宰者のヨアキム・ホーグランド(Joakim Haugland)はわたしのことをずっと応援してくれて、わたしを成長させてくれた。でもその名のとおり、〈Smalltown Supersound〉はとても小さなレーベルで、現時点のわたしのキャリアにおいては、もう少し大きな土台が必要だと感じていたところで。でもヨアキムはその考えに賛成してくれて、今後、ヨアキムとわたしと〈dh2〉のひとたちで集まって、お茶でもすることになると思う。いままでほんとうによくしてもらった。それから〈dh2〉のジョージは、前のレーベルと同じような方針で、アーティストの芸術性や寿命をとても大切にするひとで。ジョージとは何年か前からメールで連絡をとっていたのだけど、去年、ザ・1975のライヴ終わりに会う機会があった。チャーリー(・XCX)に誘われて、彼らのアフター・パーティでわたしがDJ をやって。それ以来ジョージとはずっと連絡をとっていたんだけど、〈Dirty Hit〉とジョージはこのレーベルをかなり前から立ち上げたかったみたい。そして、ついにそれを実現しよう! と彼らが決断したその数分後に、わたしのマネージメント会社が彼らに連絡をとって、「ケリーがレーベルを探しているんだが、〈Dirty Hit〉と契約を結べないだろうか?」と持ちかけたらしい。まさにセレンディピティ(思いもよらぬ幸運)だった。そしてわたしはジョージとロサンゼルスでランチをして話し合った。すべてがうまくおさまった感じがした。〈Dirty Hit〉からはファミリーみたいな親近感を感じる。わたしにとって、コミュニティの一部であると感じたり、リアルな連帯感をおぼえるということは昔から大事なことだった。だから〈Dirty Hit〉のようなレーベルと一緒にこれからの旅路を続けていくことができてとても嬉しく思う。

新作『Dreamstate』はダンス・アルバムです。路線としては、アンビエントやノイズの要素が強かった前作『LP.8』ではなく、パンデミック中にダンス・ビートを打ち鳴らした前々作『Inner Song』のほうに近いと思いますが、『LP.8』にはあまり手ごたえを感じられなかったのでしょうか?

KLO:じっさいのところ、その逆。『LP.8』はパンデミック中につくったもので、8日間という短い期間で素早く仕上げた作品で。無意識に流れてくる思考を表現した、そのときの瞬間をあらわしたものだった。あの作品は、次の作品に向けての跳躍台としてつくる必要があったんだと思う。ふたたび、よりポップでダンス・ミュージック寄りの明るいものをつくるために、『LP.8』のような深い領域を探る必要があった。『LP.8』の出来にはとても満足している。『LP.8』というタイトルにしたのは、8枚目のアルバムみたいに感じられるから。つまり、たいていの場合、商業的な作品をたくさん出してから「今度は、誰にも制限されずに、自分がつくりたいものをつくる!」というのが8枚目くらいにくると思うのよ。わたしはタイムマシーンに乗って、8枚目のアルバムを先まわりしてつくったという(笑)。だから『Dreamstate』はわたしの3枚目ということになるね。こんなことを言ったらまわりがどう思うかわからないけれど、アッハッハ(笑)! でもわたしはそう考えている。『Dreamstate』はわたしの3枚目の商業的なアルバムで、『LP.8』は自分の無意識に深く潜った、奇妙で興味深い時期につくった作品。この作品には感謝している。じつはデペッシュ・モードのマーティン(・ゴア)と話していたときに、わたしの作品群で一番のお気に入りは『LP.8』だと言ってくれて。『LP.8』はそんな作品。大好きなひともいれば、好きじゃないひともいて、好きじゃないひとは、まだそのよさに気づいていない。それはそれでいいと思う。それが芸術というものだから。

わたしは過去を振り返って熟考したり、未来を心配したりする傾向があって、とにかくそういうものをすべて手放したかった。現在の瞬間に集中したかった。それが多幸感というものだと思うから。現在という瞬間に存在するということ。

あなたはウェールズの労働者階級の村で育ったそうですが、ウェールズという出身地はあなたのアイデンティティにとって大きなものですか?

KLO:とても大きい。それは年を重ねるにつれて、さらに大きくなっていっている。自分の起源やルーツというものはすごく大切なことだと思うし、自分の歴史を理解したいと思うのは人間として基本的なことだと思うから。たとえそれが痛みを伴ったり、複雑なものであったとしても、自分がどこから来ているのかを知ったり、その起源に誇りや美しさを感じることができるのは大事なことだと思う。それこそが自分自身の一部であり、系統であり、それがつねに自分のなかに流れているということが、大人になるに連れてわかってきた。そしてそれはわたしの音楽にもあらわれるし、サミュエル・ブラッドリーと制作した、アルバムのアートワークにもあらわれていると思う。わたしたちは、自然がある場所で撮影をして、自然に囲まれているわたしと、鉄塔といった都会を象徴するものとの対比を表現したかった。都会的な要素というのは、わたしがこの17年間、ロンドンやマンチェスターといった都市に住んできた影響をあらわしている。でもわたしにとって真の故郷は、わたしたちの言葉で言う「Cymru(=ウェールズ)」で。

今回これほど多幸感に満ちたアルバムをつくりたくなったのには、なにかきっかけがあったのでしょうか?

KLO:自身からの解放というものを必要としていた。ちょうどプライヴェートでも11年か12年間ともにしてきた、自分の大きな一部(パートナー)と別れを告げたばかりで、過去に縛られたくないという思いがあった。そこから解放される必要があった。しかもわたしは過去を振り返って熟考したり、未来を心配したりする傾向があって、とにかくそういうものをすべて手放したかった。現在の瞬間に集中したかった。それが多幸感というものだと思うから。現在という瞬間に存在するということ。その多幸感は、広い空間で踊っていて、他のひとと共有できるものもあれば、“Trust & Desire” や “Ballad” のような静かな瞬間にも感じられると思う。その瞬間に自分がどう感じているのかと向き合うこと。それがたとえ辛いものであっても、自分はちゃんとそれを受け止めている。それがいまの瞬間に存在するということ。そういう、「自身からの解放」が今作のテーマだったのだと思う。自分を、過去や未来から解放して、自分に自信を持つということ。

今回、共同プロデューサーのひと組としてバイセップを迎えたのはご自身の希望ですか?

KLO:そう、彼らとは “Rise” という曲しか一緒に曲をつくらなかったけれど。あとはケミカル・ブラザーズのトム・ローランズと “Ballad” を制作した。今回のアルバムに参加してもらったひとたちはすべて自分のコネクションから派生したもの。あ、ひとつの例外を除いて。フィル・スカリー(Phil Scully)というプロデューサーとロサンゼルスで一緒に制作をしたけれど、それはレーベルに紹介してもらったつながりだった。わたしたちは “Love You Got” や “Higher” を一緒につくって。とても素晴らしい経験だった。バイセップとは昔から一緒に仕事をしたいと思っていたし。彼らもコクトー・ツインズが好きだったりとインディ・ミュージックの共通点や、メロディックな音楽が好きだったりする共通点があるから。そういうわたしたちの共通点が今回の曲からも聴きとってもらえると思う。バイセップは憧れの存在だったから、まさに夢が叶った瞬間だった。彼らがわたしを彼らの世界に招き入れてくれてすごく嬉しかった。

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マドンナの『Ray of Light』をおもに聴いていた。〔……〕真似するということではなくて、『Ray of Light』から感じられた、ある種のフィーリングに近づきたいと思った。

バイセップとの曲での役割分担を教えてください。制作はどのようなプロセスを経て進めていったのでしょうか?

KLO:「ある午後の時間」みたいな感じだった。ホクストンにある彼らのスタジオに行って、温かい歓迎を受けた。ほとんどおしゃべりしていて。一緒に時間を過ごして、音楽や、自分達のバックグラウンドなどたくさんのことを話した。制作プロセスにおいて、それがいちばん大事な部分だったりするもので。それにお互い、美味しいものを食べることに目がなくて、ウフフフ! 彼らはすごくおいしいタイ料理のお店に連れていってくれて、お昼をご馳走してくれた。その後、スタジオに戻ってきてジャム・セッションをやったの。わたしはあまりジャム・セッションはやらないほうなんだけど、それがバイセップのやり方なのかもしれない。わたしは808を使っていて、マットはロジックかエイブルトンを使っていて、アンディはシンセを使って、彼らの素晴らしいセットアップに音を通していた。そして1分半ほどのトラックができた。とてもラフなもの。わたしはそれを持ち帰って、メロディと歌詞を書き、その上にシンセやほかの要素を加えた。でも曲の骨格となる部分は30分くらいでつくったの! といっても、制作というものはその30分だけじゃなくて。先ほども話したように、一緒にとった食事であったり、会話であったり、そういう最高な要素がすべて制作につながっている。ほんとうに素晴らしい経験だった。 

新作にはケミカル・ブラザーズのトム・ローランズも参加していますね。彼らの作品ではなにがいちばんお好きですか?

KLO:オーマイガッド! それはかなり難しい質問ね。ちょっと待って、彼らのディスゴグラフィーを確認する。……アルバムは難しいけれど、いちばん好きな曲はある。最近いちばんよく聴いているのは “Star Guitar”。

通訳:あの曲は最高ですよね!

KLO:もう最高! 今回のアルバムにも “Air” という曲があって、“Star Guitar” と似たような反復する感じや、動いている感じがする曲で。オープンカーに乗っていて、髪の毛が風になびいているイメージ。アルバムだと『Surrender』(1999年)かな……好きなアルバムはちょくちょく変わるのよ……『Dig Your Own Hole』(1997年)かもしれない……わからない! わたしのなかでは、しょっちゅう変わっているから。ケミカル・ブラザーズって一度も駄作をつくったことがないと思う。25年経ったいまでもそう言えるってすごく稀なことだと思う! とにかくいま、いちばんよくリピートして聴いているのは “Star Guitar”。彼らの存在自体に夢中なの!

この新作の制作中によく聴いていた音楽はありますか? それらから影響は受けましたか?

KLO:マドンナの『Ray of Light』(1998年)をおもに聴いていた。制作中は音楽を聴かないようにしているんだけど、すごく大変だった。だってデペッシュ・モードとツアーをしていたんだもの(笑)! だからデペッシュ・モードとマドンナの『Ray of Light』をよく聴いていた。『Ray of Light』はダークな要素と明るい要素、多幸感と深みの両方が混在している。それが面白いと思った。それにあのアルバムでは、彼女のヴォーカルがとても近くに聞こえる。すぐ自分の側で歌われている感じがする曲がいくつかあって。わたし自身も今回のアルバムの何曲かではそういう聴かせ方をしたいと思った。それから、無駄なものを削ぎ落とした感じも追求したかったから、その感じが “Trust & Desire” や “Ballad” にあらわれていると思う。それに去年わたしは『Ray of Light』のプロデューサーである、ウィリアム・オービットとランチをする機会があって。素晴らしいミーティングだった。だから宇宙からの啓示というか、『Ray of Light』の本質的な要素が、自分がつくっていたアルバムにも注入されたと思う。それはサウンドを真似するということではなくて、『Ray of Light』から感じられた、ある種のフィーリングに近づきたいと思った。

今回の新作はこれまで以上にシンセやヴォーカルの残響(リヴァーブ)に非常にこだわりがこめられているように聞こえました。あなたの音響にたいするこだわり、音響に向き合うときの意識について教えてください。

KLO:わたしはすべての要素にこだわりや考えをこめていると思う。その理由は、感情が流れているところを突きとめたいから。わたしの目的はただそれだけ。曲がじゅうぶんに流れている感じになり、リスナー自身がその「dreamstate(夢幻状態)」に入りこめる感じ、曲の流れに入りこめる状態にしたい。そして中断されることなく、その感情の本質に近づけるようにしたい。もちろん曲の途中で、中断する瞬間を意図的につくることもあるけれどね。わたしにとって音楽はタペストリーみたいなものであり、音を編み上げているような感じで。べつに音が色として見えるとかではないんだけれど、音の波長は見える。それを編み上げている感じ。そういう表現しかできないんだけど……。その流れがすべててつながった時点で曲は完成する。だから全体像につながりを持たせて、リスナーが感情を最大限に感じられるためのディティールは非常に重要。

最近では、他人の目線がないと、自分たちにとって夢とはなんなのかということがほんとうにわからなくなってしまっている。だからそういうものから離れて、自分にとって夢とはなんなのかということを見出すことはとても大切だと思う。

タイトルの「Dreamstate」が意味するものとは、ずばりクラブでの夢のような状態、あるいは音楽がもつ至福の逃避性のことでしょうか?

KLO:その両方でもあるし、それよりも大きな意味合いがあると思う。〔フランスの哲学者、ガストン・〕バシュラールが書いた『空間の詩学(The Poetics of Space/La Poétique de l'espace)』(1957年)という素晴らしい本があるんだけど、そこでは夢想(daydreaming)することの重要性が説かれていて。夢想することは、夜に見る夢とは違う。夜に見る夢は、無意識に潜りこむことで、疲弊することもときにはあるよね(笑)。その一方で、夢想とは、受動的な行為であると同時に、主体的な行為でもある。でも受動的な部分の方が大きくて、安らかな状態。わたしは、そういう安らかな状態になる時間と空間を積極的に持つようにいつもひとに勧めている。このインタヴューがはじまる前も、わたしは自宅の庭に座ってそういう時間をとった。たしかに寒かったけれど、ジャンパーを着て、紅茶を飲んで、太陽の光を浴びて、地に足をつけた。そして10分間だけ、その瞬間に身を投じて夢想した。自分がそういう状態を欲していたし、音楽でも夢想という状態をつくりたいと思った。そうすることで人びとが集ったときに夢想できるし、それ以上に大切なのはひとりでもその状態になれるということ。技術が発達した現代という時代において、その状態になることは重要性を増していると思う。わたしたちは、外部から「どんな夢を見るべきか」、「夢とはなんなのか」を押しつけられている。最近では、他人の目線がないと、自分たちにとって夢とはなんなのかということがほんとうにわからなくなってしまっている。だからそういうものから離れて、自分にとって夢とはなんなのかということを見出すことはとても大切だと思う。

5月に東京で開催されたOUTLIERであなたのDJを体験しました。ハード寄りのテクノのセットだったように記憶していますが、日本のオーディエンスの印象は他国のと比べてどう違っていましたか?

KLO:いい質問ね。日本のひとたちはディティールにこだわっているというか、その場をすごく大事にしていて、音楽に聴き入っている印象があった。わたしの行動をちゃんと観てくれるし、聴いてくれる。わたしはステージからみんなに「自分を解放して!」といつもアピールしている。みんなに自由に動いて欲しいから。だから日本でもそういうアピールをしていたんだけど、それはどの国でもやっていることで。ひとによっては、ただその場に立っていることが自由なのかもしれないし、ただ観ていることが自由なのかもしれない。それがなんであれ、その自由をみんなが楽しんでいてくれたら嬉しい。ハードなテクノになったのは、クラブという空間で、夜の遅い時間にプレイしたから。それにライヴではなかったから、とても違うものになった。夜の遅い時間はそういう音のほうが元気に踊り続けられると思って。とにかく最高だった。でも、日本にはオーストラリアに行く途中に2日間だけ寄っただけだったから短すぎた。また絶対に日本へ行きたいし、今度行くのがすごく楽しみ!

キュレイターのボノボとは以前から交流があったのでしょうか?

KLO:サイモン(・グリーン)は何年も前からの友人で。ジョン・ホプキンズが共通の友人で、その辺りのひとたちのあいだで交流関係がある。それに、サイモンもライヴとDJ をやるから、わたしと共通している部分も多くて。あとロサンゼルスにも共通の友だちがいるから、ロサンゼルスに行ったときは一緒に遊んだり。サイモンはわたしの活動を応援して励ましてくれたりする。エレクトロニック・ミュージックをやっているソロ・アーティストにとって、ほかのアーティストと仲よくなったり、互いを助け合うことは大切なことだと思う。だから彼との関係は大切に思っている。

東京には2日間しかいられなかったとのことですが、どこか行かれたところはありましたか?

KLO:ほとんど行けなかった。〔神田小川町にある〕チームラボに行ったとき以外は渋谷を出なくて。ほんとうに短すぎで! 日本のいろいろな場所を見てまわりたい。田舎にも行ってみたいし、温泉にも行きたい。伝統文化にも触れたい。あ、でも日本での食事は素晴らしかった! ひとも最高! 日本という国にはほんとうに共感が持てた。

通訳:気に入った場所はありましたか? レストランなど?

KLO:(レーベル担当に)あのディナーは、なんというところだったっけ? 名前が思い出せないけれど……

レーベル担当:渋谷にあるお寿司屋さんに行きましたね。

KLO:あのときのディナーがわたしにとって初のちゃんとした、お寿司体験だった。(板前さんが)目の前で調理してくれる感じ。あれほど満腹になったことはいままで一度もなかった! でもおいしくて、すごく幸せだった! それはよくおぼえている。それから、小さなコーヒー屋さんを見つけて入ったりしたのも覚えている。とにかくすべてがおいしくて、すべてがよく考えつくされていると思った。とても素敵なことだと思う。ディティールにこだわっている感じも好きだし、日本が大好きになった。

今後これまでよりも大きな舞台で活動していくことになるかと思うのですが、現時点で戸惑っていることや苦労していることはありますか?

KLO:これはクレイジーに聞こえるかもしれないけれど、わたしは大勢のクラウドの前でプレイするほうが安心感を得られる。すごく居心地がいい。2万人の前でプレイして、最大は7万か7万5千人の前だった。ついに2万人では物足りなく感じてしまって、もっとエネルギーが欲しいと思ってしまったの! けっしてエゴイスト的な感じで思っているのではなくて、ただそれがものすごくユニークで特別な行為だから。デペッシュ・モードの以前のレーベルのA&Rのひとで、バンドの友人でもあり、第5のメンバーとも言われているダニエル・ミラーが、わたしに「音が会場の奥までちゃんと届いていて、いままでに見たなかで最高のサポート・アクトだ」という優しい言葉をくれた。自信を持って、大勢のひとたちを率いて、みんなを音楽でとりこむのがすごく楽しい! だから、じつは、小さな会場でやるときのほうが緊張するかもしれない(笑)。

最後に、日本のリスナーに向けてメッセージをお願いします。

KLO:日本にまた行く機会をとても楽しみにしています! 日本にはわたしを心からサポートしてくれるファンがいる感じを受けたらから、そういうひとたちとたくさん会って、つながりを感じたい。それから、これは話し合って計画・企画する必要があるけれど、日本でのライヴも実現させたい。とにかく日本ではたくさんのひとに会って、ファンを増やしていきたい。それに、プライヴェートで日本の各地もまわりたいと思っているし(笑)。すごく楽しみにしている!

変わりゆくものを奏でる──21世紀のジャズ - ele-king

「チネンは、21世紀がジャズにとって豊かな時代であると主張する」──『ピッチフォーク』
「コンテンポラリー・ジャズについての素晴らしい本」──『ワシントン・ポスト』
「無限の可能性を秘め拡大し続けるサウンドを描いた想像力と表現力」──『ロサンゼルス・タイムス』
「素晴らしく鋭い」──ソニー・ロリンズ
「著者のジャズへの深い理解と知識によって、魅力的な読み物となっている」──ハービー・ハンコック

カマシ・ワシントンからウィントン・マルサリス、
ロバート・グラスパーにエスペランサ・スポルディング、
そしてブラッド・メルドーにメアリー・ハルヴォーソン……

アメリカにおいてジャズは21世紀になってどのように変わり、
そしてどのように変わらないのか……
刊行と同時にすべての米国主要メディアから絶賛された名著がいよいよ上陸!

元ニューヨーク・タイムズ紙のジャズ批評家
ジャズ・ジャーナリスト協会選定の優秀執筆賞の13回受賞、
アメリカ屈指のジャズ批評家である著者が、
その博識と気品ある文体をもって21世紀ジャズの魅力を解説する

※21世紀の(2024年の現時点までの)必聴アルバム選:154作のリスト付き

(本書より)
ジャズは常に最先端を探究してきたし、複数の領域にわたり実験をおこなってきた。その点は、過去はもちろん現在も同様だ。しかし前衛の修錬と形式上の発明は今や著しい度合いで主流にまで巧みに浸透し、ジャズの美学的な中心をずらしてしまった。骨董品収集めいたホット・ジャズ熱──懐古趣味を堂々と認め、誇りとする者たちの領域──の復興ですら、多言語的なハイパーモダニズムを志向する現潮流、予想外の混合物と集合体を目指すトレンドをせき止めることはできない。

(登場するアーティスト)
カマシ・ワシントン、ウィントン・マルサリス、セシル・マクロリン・サルヴァント、ブラッド・メルドー、エスペランサ・スポルディング、ジョシュア・レッドマン、ジョン・ゾーン、ティム・バーン、ジャック・ディジョネット、ポール・モチアン、ウェイン・ショーター・クァルテット、ジェイソン・モラン、マーク・ターナー、オーネット・コールマン、ヴィジェイ・アイヤー、ロバート・グラスパー・エクスペリメント、フライング・ロータス、ジェフ・パーカー、エスペランサ・スポルディング、シャバカ・ハッチングス、モーゼス・ボイド、リオーネル・ルエケ…………そしてメアリー・ハルヴォーソン…………(ほか多数)

四六判/440頁

■目次

序文
1 政権交代
2 フロム・ディス・モーメント・オン
3 アップタウン、ダウンタウン
4 山を演奏する
5 新たな年長者たち
6 ループされるギャングスタリズム
7 ジャズを学ぶ
8 侵入し急襲せよ
9 変わってゆく同じもの
10 露出
11 十字路
12 スタイルの対決
後書き
※21世紀の(2024年の現時点までの)必聴アルバム選:154作

[著者プロフィール]
ネイト・チネン(NATE CHINEN)
ネイト・チネンはジャズに関して20年以上執筆してきた。ジャズ・ジャーナリスト協会の選ぶ「Helen Dance–Robert Palmer Award for Excellence in Writing」賞を13回受賞した彼は、『ニューヨーク・タイムズ』で12年にわたり音楽に関する報道をおこない、『ジャズタイムズ』でも長期連載コラムを執筆した。2017年にWBGO〔※ニュージャージー州のジャズ専門公共ラジオ局〕の記事製作責任者となり、オンライン報道を指揮する一方で、NPRミュージック向けに幅広いジャズ番組の企画に貢献している。著名なジャズ興行主である、ジョージ・ウィーンの自伝『Myself Among Others: A Life in Music』(2003)を共著し、また音楽評論家アレックス・ロスの編集した「Best Music Writing 2011」にも文章が収録されている。妻とふたりの娘と共に、ニューヨーク州ビーコン在住。

[訳者プロフィール]
坂本麻里子

1970年東京生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。ライター/通訳/翻訳者として活動。ロンドン在住。訳書にコージー・ファニ・トゥッティ『アート セックス ミュージック──コージー・ファニ・トゥッティ自伝』、ジョン・サヴェージ『この灼けるほどの光、この太陽、そしてそれ以外の何もかも──ジョイ・ディヴィジョン ジ・オーラル・ヒストリー』、マシュー・コリン『レイヴ・カルチャー──エクスタシー文化とアシッド・ハウスの物語』、ジェン・ペリー『ザ・レインコーツ──普通の女たちの静かなポスト・パンク革命』、ハンナ・ロス『自転車と女たちの世紀』、マーク・フィッシャー『K-PUNK 夢想のメソッド──本・映画・ドラマ』『K-PUNK 自分の武器を選べ──音楽・政治』、ほか多数。

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Terry Riley - ele-king

 先日音盤化が発表された、テリー・ライリーの清水寺における『In C』のライヴ演奏。12月20日にリリースされることになっているその音源を、世界最速で聴けるチャンスが訪れた。11月15日(金)・16日(土)・17日(日)の3日にわたってUPLINK 京都で開催されるリスニング・セッションがそれだ(16日には東京のUPLINK 吉祥寺でも開催)。
 UPLINK 京都のある新風館の中庭では、ダムタイプの古舘鍵がキュレイターを務めるサウンド・インスタレーションも実施され、なんとSUGAI KENの手によるサウンドが流されるという。試聴会にインスタレーションにと、二度おいしいイベントだ。詳細は下記よりご確認を。

京都・新風館11月のフルムーンイベント
テリー・ライリー清水寺での「In C」ライブ音源をUPLINKで世界初公開!中庭では、古舘鍵(ダムタイプ)キュレーションによる世界的に活躍するサウンドアーティスト/トラックメイカーSUGAI KENのサウンドインスタレーションを実施

会場:UPLINK 京都/UPLINK 吉祥寺、新風館中庭

日程:2024年11月15日(金)、16日(土)、17日(日)の3日間
※UPLINK 吉祥寺でのリスニング・セッションは16日のみの開催となります


Photo: FEEL KIYOMIZUDERA / Sudo Kazuya

2024年7月の満月の夜、ミニマル・ミュージックの創始者、テリー・ライリーの代表作「In C」の誕生60年を祝い、音羽山清水寺本堂舞台で開催された奉納公演。チケットは発売と同時にソールドアウトし、まさに伝説の夜となりました。

今回、UPLINKで開催するリスニング・セッションでは、本奉納公演の音源を世界初公開。
UPLINKのオーディオ設備に合わせて制作した7.1ch音源を「暗闇」という特殊な環境のなかで体験いただく、特別な機会となります。

あえてスクリーンに映像を映さない環境で本作品に触れることは、「音」の世界に没入する一つのきっかけとなり、普段の音楽鑑賞よりもぐっと感覚が刺激されることでしょう。

本奉納公演のライブ盤の発売は、2024年12月20日(金)。ぜひこの機会に、最高の環境で、特別な夜の感動をひと足先にお楽しみください。


また、同期間中、UPLINK 京都がある新風館の中庭では、ダムタイプのメンバーであり、文化庁メディア芸術祭大賞を受賞した古舘健がキュレーション/コーディネーションを務めるサウンドインスタレーションも展開します。

古舘と世界的に活躍するSUGAI KEN(サウンドアーティスト/トラックメイカー)がタッグを組んだ本作品は、UPLINKでのリスニング・セッションとリンクさせる形で、視覚ではなく、聴覚を対象とした内容に。中庭に設置された8台のスピーカーからは、SUGAI KENが制作した木を感じる音色が多層的に鳴らされているので、訪れた際には、聞こえてくるサウンドにも注目です。

サウンドインスタレーション(チケット不要)のみを体験いただくこともできますが、リスニング・セッションの前後で楽しめば、その没入感と余韻がより深まります。ぜひ2つのイベントをあわせてご堪能ください。

11月の京都・新風館のフルムーン企画の一環で行われる豪華2本立てのイベントは、UPLINKとしばしが初めてプロデュースを手がけました。

mouse on the keys - ele-king

 かねてからmouse on the keysをフェイヴァリットだと公言していたロレイン・ジェイムス、彼女の最新作『Gentle Confrontation』のCD盤にもその共作が1曲(Scepticism with Joy)収録されていたが、去る11月1日にリリースされた新作『midnight』でも彼らのコラボレーションは引き継がれ、ここでは2曲の共作が聴ける。しかもその2曲(1曲はピアノを活かした2分弱の短いアンビエント風、もう1曲はカミソリ・ビートが刻まれるダンス・トラック)ともに魅力的だ。もっとも今回のアルバム『midnight』を通して聴くと、インストゥルメンタルなポスト・ロック・バンドとしてのmouse on the keysがいまなぜロレインとの共作なのかがよくわかる。ロンドンのアンダーグラウンドなダンス・ミュージックの世界から放たれた軌道が、東京のmouse on the keysが描く脈動といま音楽的に交わっているのだ。注目しましょう。
 なお、11月20日のリリース・ライヴにはロレイン・ジェイムスも駆けつける!

mouse on the keys
midnight

fractrec /felicity
配信リリース
Tracklist:
1, Introduction
2, One Last Time
3, Fail Better
4, 24:59 (feat. Loraine James)
5, Two Five (feat. Loraine James) 6, midnight
7, The Dawn (midnight version) 8, Sleepytinne
9, Womb
10, Little Walk
11, Undone


mouse on the keys
『4th Full Album midnight Showcase -FRACTREGION Vol.3-』
11/20 (水) EX THEATER ROPPONGI 開場 18:00 開演 19:00

出演:
mouse on the keys

Guest musicians:
Loraine James/徳澤⻘弦/常田俊太郎/Taikimen/飛田雅弘/山﨑聖之/坂本和
哉/and more...
チケット料金:
1F前方スタンディング ¥7,000
1F 前方スタンディング 23 歳以下 ¥3,000 ※身分証必須(100 枚限定)
1FS席 ¥9,000
1FA席 ¥8,000
2Fスタンド席 ¥7,000
※全券種ドリンク代別
※入場制限: 4 歳以上チケット必要

【プレイガイド】
[e+]
[PIA]
[LAWSON]
主催:HOT STUFF PROMOTION 企画/制作: fractrec / fractLLC.
制作協力:株式会社 RE-MiX / 株式会社 RE-MiX arts
【SNS】
X / Instagram / Official web site

【プロフィール】
mouse on the keys:
川﨑昭(Drums)、新留大介(Piano/Keyboard)、白枝匠充(Piano/Keyboard)によるインストゥルメンタル・バンド。ポストパンク、ポストハードコア、テクノ・ミニマリズム、現代音楽を取り入れ、2台のピアノとドラムとで織りなすサウンドと、ミニマルで幾何学的抽象を思わせる映像演出によるライブパフォーマンスは、国内のみならず、欧米をはじめ海外でも高く評価されている。2021年オリジナルメンバー清田敦(Piano/Keyboard)が脱退し、新メンバー白枝匠充(Piano/Keyboard)が加入。新生mouse on the keys初のフルアルバム『midnight』が2024年11月1日配信リリースされ、バンドとしての新章を迎える。2025年にはイギリス及びヨーロッパなどでヘッドライナーツアーが予定されている。

interview with Coppé - ele-king

 だれもかれも、自分がどう見られるかばかり気にしている。ヴィジュアル主体のインスタだろうがテキスト主体のツイッターだろうがそれはおなじで、スマホとSNSの普及はむしろどう見られるかを意識していないほうが変わり者であるかのような時代を生み出してしまった。一見自分史をテーマにした昨年のOPN『Again』は、じつはそういう自分だらけの現代を鋭くえぐったものだとぼくは解釈しているけれど、これはもう不可逆の流れなのかもしれない。
 その点、みずからを火星人だと呼称するコッペは完全にアウトサイダーだ。独創的なファッションに身を包み、「キョイーン」「でぴゅ」「うれぴー」といった語を駆使する彼女が周囲の目やらトレンドやらに振りまわされていないことは明白である。一度会ったら忘れられないこの強烈な個性の持ち主は、90年代をアリゾナとLAで過ごし、ZトリップやQバートといったヒップホップDJらと交流したり、ドラムンベースを生演奏するバンドをやったりするなかで音楽家としてのキャリアを(再)スタートさせている。1995年に送り出されたファースト・アルバムこそトリップホップという時流とリンクする側面を有していたものの、近年のリリースを振り返ってみると、モジュラー・シンセでオペラに挑戦した『Na Na Me Na Opera』(2019年)、モダン・クラシカルなソロ・ピアノ曲集『蜜 Mitsu (25rpm)』(2021年)、スタンダードも多く含まれたジャズ・ヴォーカル作品『*(Un-)tweaked』(2022年)とやはり独自路線で、だれがなにをいおうが好きなことをやるという気概がビシバシ伝わってくる。

 そんなコッペの最新作『*( -)tweaked』は、上述のジャズ・アルバム『*(Un-)tweaked』のリミックス盤だ。どのリミキサーも「とりあえずぶっ壊して!」とのオーダーを遵守、オリジナルの上品なジャズはみごと解体され、一筋縄ではいかないトラックが並んでいる。招集されているのはコッペと親交のある面々なのだけれど、これがまたそうそうたる顔ぶれで、アトムTMにプラッドにニカコイにルーク・ヴァイバートにDJ KENSEIに……きっとみんな、型にはまらない彼女の気質に引き寄せられるのだろう。
 いったいコッペとはいったい何者なのか? じつはファースト・アルバム以前にも長いキャリアをもつ彼女。取材には流通担当の猪股恭哉も同席し、このユニークな音楽家の歩みを深掘りしてくれた。

お謡からはじまった

長いキャリアをお持ちですので、まずはバイオグラフィからお伺いできればと思います。

Coppé(以下C):死んだことになっていることもあるしね(笑)。いろいろお仕事してたのに、ある時期に急に日本からいなくなったひとなので。「長谷川コッペ」で検索すると出てくるけど。

かなり幼いころから音楽にはご関心があったのですよね。ご家庭の影響でしょうか?

C:生まれながらの音楽ジャンキーだと思う。オギャーッと生まれたときからほぼ曲つくってるようなもので。コッペのパパとママも、おじいちゃんとおばあちゃんも、ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんも、全員、観世流〔※能の流派のひとつ〕のお謡(うたい)をやってたので、家ではもうずーっと、年がら年中、お謡が聞こえてきて。当然コッペもママから仕込まれたので、そういうのが知らず知らずのうちに出てきているのかな。今日、そのお謡の本を持ってきたんです。



Coppéが持参したお謡いの教科書

初めて目にしました。すごいですね。まったく読めないです。これはどう読むんですか?

C:読めないところもちゃんと振りがあって。上がるとか、下がるとか。最初、教科書に書きこむことも怒られたんですけど、でも覚えられないから、いっぱい書きこんでます。
 コッペの曲にはオリエンタルなフレーヴァーが出てるよねってよく言われるんですけど、たぶんお謡がその由来かなと。お謡って口伝だから、キーが存在しないんですよ。お師匠さまが出したその音に合わせてついていかなきゃいけない。でもコッペはキーのひとなので、「キーがないってどういうことなの?」っていっぱいママに文句言って。でももともとそういうものだから。歌い方、フレーズもぜんぶ口伝で、ようするに先生の真似をするわけなんですけど、そのやり方が叩きこまれてるから、インプロしているときもジャズを歌っているときも、自然と出てきちゃうんですよね。それでオリエンタルだねって言われるのかな。

猪股:ルーツはポピュラー・ミュージックでもクラシック音楽でもなかった、ということでしょうか。

C:いえ、小学生のとき、藤家虹二(ふじかこうじ)先生っていうクラリネット奏者の方に出会って、そこからコッペの人生はギョイーンといまのような感じになっていくんです。『日清ちびっこのどじまん』という番組〔※フジテレビ、1965~69年放送〕で優勝しちゃって、そのときの審査員のひとりが藤家先生でした。コッペが小学4年生とか5年生のころ。そのころからもう、他人の曲には見向きもせず、自分で歌って曲を書いてばかりで。それで藤家先生から「お前は歌はそれほどうまくないけど作曲のセンスがいいから、俺のところに週一で来て楽典とか和声とかハーモニーの勉強をしなさい」って言われて。
 毎週かならず宿題が出るんですよ。「どんな長さでもどんなキーでもいいから、3曲完結させて仕上げてくるように」と。どんなものでも5分でできたけどね。それで、そのうちの1曲を藤家先生が気に入ってくれて、ストリングスを入れてアレンジしてくれて、ある日突然「プロのスタジオ入るぞ」って。それがキング・レコードだった。宿題の楽曲にため息が出るくらい素敵な先生のアレンジがついて、それを歌ってドーナツ盤にしたらレコード大賞の童謡賞をいただいちゃった。小学生だからよくわからないんだけど、親はピーピー泣いていて(笑)。そこからですね、コッペの人生が3分の1くらい芸能人みたいになっちゃったのは。そのあと「Let's Enjoy English」というレギュラー番組もやりましたね〔※NHK、1972~1982年放送、長谷川コッペ出演は1975年度〕

『*(Un-)tweaked』(2022年)はジャズ・アルバムですが、ジャズからの影響も大きかったのでしょうか?

C:藤家先生がクラシックだけじゃなくて、ベニー・グッドマンのコピーもやっていらして。それでどんどんジャズのほうにも行きました。あと当時、水島早苗先生というジャズ・ヴォーカリストの先生もおられて。だから小学生のころからジャズも歌っていたんですけど、歌詞なんてわかるわけないんですよ。でもジュリー・ロンドンとかを丸コピして歌っていました。

その後70年代はどのようなことをされていましたか?

C:『オールナイトニッポン』のレギュラー番組がはじまって、タモリさんと出会って、「なんだこのヘンテコリンなおじさんは?」って(笑)。イグアナの真似とか、四ヶ国語麻雀とか激・面白かったですよ。1時から3時までの1部がタモリさんで、3時から5時までの2部がコッペでした。コッペの好きな英語の曲をがんがん流しまくってたら、当時そういう番組はあまりなかったので需要も上がって1部に昇格させていただいて。そこでタモリさんとはバイバイで、今度は近田春夫さんと一緒にやることに〔※1977~79年放送〕
 近田さんのことはチカちゃんと呼んでいたんですが、すごくかわいがってもらって。ザ・スーパーマーケットというバンドも一緒にやっていたので、たぶん番組を面白くするためとは思うんですけど、コッペとチカちゃんがバトルさせられるんです。それで「なんだお前!」とか怒られながら毎週スタジオに生で入ってました。コッペは洋楽一辺倒だったから、チカちゃんはオンエア中に「お前そんなくだらないもんばっかり聴いてないで、日本人だったら都はるみを聴いてみろ! お前こぶしまわしなんかできないだろう!」とか(笑)。それで急に歌わされる(笑)。


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レジェンドたちとの思い出

ジェイムズ・ブラウンって「ウンッ!」「アッ!」とかシャウトがすごいじゃないですか。その出し方を30分とか40分、ずっと踊りながらレクチャーしてもらってた(笑)。

Coppé名義でのファースト・アルバムが1995年ですので、そこへ行き着くまでにまだありますね。80年代はどのように過ごされていましたか?

C:80年代は、『ザ・ポッパーズMTV』っていう番組〔※TBS、1984~87年放送〕をピーター・バラカンさんとやっていました。それまではどんな番組も自分で選曲してたんですけど、『ポッパーズ』は唯一、自分で選曲してなかったテレビ番組。来日アーティストを片っ端からインタヴューするっていうお仕事で。超楽しかった! なにを訊いてもOKだったし、ジェイムズ・ブラウンからシンディ・ローパー、マイケル・フランクスからスティーヴィー・ワンダーまで。マドンナのインターナショナルなものとしては最初のインタヴューもコッペだった。
 ジェイムズ・ブラウンのときがいちばん大変で。伝達ミスで、クルーが40分とか45分とか遅れて来たんですよ。それでしばらくコッペとジェイムズ・ブラウンのふたりっきり。「クルー来てないの? じゃあ帰る」って言われてもおかしくない状況で、でもそうなったらインタヴューがなくなっちゃうから、コッペも怖いもの知らずで、「いろいろ教えて!」みたいな感じで話して。ジェイムズ・ブラウンって「ウンッ!」「アッ!」とかシャウトがすごいじゃないですか。その出し方を30分とか40分、ずっと踊りながらレクチャーしてもらってた(笑)。その場面を撮ってくれてるひとがいたら、インタヴューよりぜんぜん面白かったと思う(笑)。

すさまじい面々とお会いされてきているんですね。ちなみに、ファンクはお好きだったんですか?

C:いや、当時はぜんぜんジェイムズ・ブラウンはわからなかったです。インタヴューするときはかならず事前にそのアーティストの音源をしっかり聴くんですけど、ジェイムズ・ブラウンはまったくピンとこなかった。なんでだろう? たぶんミーのなかではあのころ、「ンワッ!」とかそういうフレーズのスウィングの仕方にしか興味がなかったのかもしれない。

渡米されたのはその後ですか?

C:えっとね、『ポッパーズ』をやってたときに、コッペじつは一度結婚してるんです。アリゾナの方と。コッペはマイケル・フランクスが大好きだったんですけど、ハワイでヴァケイションしてるときに、マイケル・フランクスと瓜ふたつのひとがニコニコしながら歩いてきたんですよ。「ヤバい! マイケル・フランクスだ!」と思って。ぜんぜんちがったんですけど(笑)。でもそのひとと結婚しました(笑)。ハワイで「イエス!」って言っちゃった。
 その彼、メルくんというんですが、メルくんのパパが急に病気になっちゃったことがあって、そのタイミングでUSAに戻らなきゃならないことになって、いったん番組を全部降ろさせていただいたんです。ラジオのレギュラーが3本くらい、テレビも2~3本あったし、雑誌も『POPEYE』とか『Olive』とかあったんですけど、もしメルくんのパパが仮に亡くなっちゃったりしたら一生恨まれるだろうなと思って、全部お休みさせてもらってアリゾナに渡って。そしたら超居心地がよくて。パパとママには2年くらいの約束でアリゾナに行ってたのに、20年くらいになった(笑)。


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トリップホップとリンクしたファースト・アルバム

まわりにいたのが、Zトリップとかロック・レイダとか、インヴィジブル・スクラッチ・ピクルズのDJ Qバートとか、アリゾナとLAでつるんでたのがヒップホップ系の方々で。

ファースト・アルバム『Coppé』(1995年)にはトリップホップとリンクするフィーリングがありますが、あのアルバムがリリースされたときはアメリカにいらっしゃったのですか?

C:そうです。アリゾナでレーベル〈Mango & Sweet Rice〉を立ちあげて、日本からもってきていたオープンリールを使ってひとりでつくりました。ただ8チャンネルしかなかったので大変で。ひとりじゃダメだなと思って、2枚目の『O Of M』(1998年)からはアリゾナのお友だちとコラボするようになりました。

80年代後半から90年代前半にかけてはエレクトロニック・ミュージック、ダンス・ミュージックの勢いがすさまじかった時代ですが、やはりそうしたものから影響を受けたのでしょうか?

C:まわりがみんなDJだったし、音づくりもやっていたから自然と。まわりにいたのが、Zトリップとかロック・レイダとか、インヴィジブル・スクラッチ・ピクルズのDJ Qバートとか、アリゾナとLAでつるんでたのがヒップホップ系の方々で。彼らとoToっていう名前の、ドラムンベースを生でやるバンドをやっていたんですよ。ほぼ毎日コッペの家でリハしてて。「もったいなから、このままライヴはじめよう」って、家賃が払えなくなりそうになるとちょっとライヴをやって稼いで……とか。ドラマーのステファン・ポンドはドラムンベース好き、いちばんよくつるんでたテリー・ドリーシャーはアンビエント・ダブのひとで、そのころに受けた影響はすごく大きかったと思う。3枚目の『Peppermint』(2000年)からはアリゾナやLA勢だけじゃなくて、出会いが広がって、プラッドとかも入ってくるんです。『Peppermint』のときがいちばんコラボしていたかな。

ちなみにファーストには “He Didn't Know...Brian Eno...” という曲が入っていますよね。このタイトルはどういう意味なのですか?

C:コッペ、ブライアン・イーノが大好きで。そのころ親しかったoToのメンバーでめっちゃくちゃいいギターを弾くひとがいて、コッペの曲づくりにもとってもインスピレイションをくれたひとりなんですけど、イーノの話をしたら「え、だれそれ?」って。ブライアン・イーノのこと彼はぜんぜん知らなかったんです。だからそのまんまの曲!

ファーストでいちばんお気に入りの曲はなんでしょう?

C:難しいー。こないだリリース・パーティがあってDJ KENSEIと話してて、彼は “Floatin’” を気に入ってくれてるみたいで。30周年だからリメイクするのもいいんじゃないなんて話になったけど。でも毎日聴きたい音って変わるから、自分で選ぶのは難しい。猪股さんに聞いてみようよ!

猪股:いま現在の感覚で選ぶと、初期の作品に惹かれます。さきほどちらっとダブっていうキーワードが出ましたけど、スモーキーな具合、浮遊感、重さみたいなところが当時のアブストラクト・ヒップホップとかエレクトロニカの流れにあって、それがちょうどいま聴くと気持ちいいですね。

C:2枚目とか、3枚目とか?

猪股:それこそファーストですね。

C:えー嬉しー! もうアホみたいに嬉しいですよ。だってコッペが全部自力でプロデュースして全部自力で曲書いたのってファーストだけだもん。そういえばポーティスヘッドは大好きなグループのひとつだった。アリゾナの家で掃除機かけてたときにラジオから “Dummy” が流れてきて、「やばっ、なんだこれ」って。コッペの耳にはアイザック・ヘイズがビリー・ホリデイとコラボしたように聞こえて、もう鳥肌もので。でもポーティスヘッドは最初の1枚だけだったな。

マッシヴ・アタックはいかがですか?

C:マッシヴは大好きですね。マッド・プロフェッサーがやった『No Protection』ってあるでしょ。今回のリミックス盤も、『No Protection』みたいにぶっ壊せばいいかと思って出す決心をして。

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近年の2作『*(Un-)tweaked』と『蜜』をめぐって

亡くなってしまった方々って、エネルギーとしてふわふわ飛んでるじゃないですか。だから、コッペみたいな頭が空っぽな火星人に、チョウチョみたいに降りてくるんです。

『*(Un-)tweaked』(2022年)は落ち着いた雰囲気の、聴きやすいジャズ・アルバムですね。デューク・エリントンの “Satin Doll” のようなスタンダードのカヴァーも多くあります。これを出す時点で、リミックス盤の『*( -)tweaked』をつくることは決まっていたのですか?

C:はい。もう絶対ぶっ壊そうと思ってました(笑)。〈Mango + Sweetrice〉ってコッペのほぼすべてなので、絶対に嘘ついちゃいけないんですよ。自分が出したくないものは出してはいけない。でも唯一、『*(Un-)tweaked』で初めて、ヒロくん〔※コッペの弟〕をハッピーにするために出すっていう動機からはじまって。だから自分のなかですごく葛藤があった。でも、マッシヴの『No Protection』があったから、あとでぶっ壊せば大丈夫だっていうことで踏ん切りがついたという。
 もともとの録音は、ジェイキー(Richard ‘Jakey’ Slater)のコンピュータから出てきたんです。お蔵入り音源が。おくある状況ですけど、録音してたってことさえコッペは憶えていなくて。『蜜』(2021年)をつくり終わったあとに、ジェイキーが「じつは、昔のコンピュータからジャズの音源が出てきて、めちゃくちゃいいかわ、使わないのはもったいないよ」って。聴いてみたらまあたしかにいいかなって内容で、そこに何曲か足して。

では、だいぶ前の録音が使われているんですね。

C:もう10年とか、15年くらい前。たしかジェイキーが新しいスタジオで仕事をはじめたときで、「ちょっとテストしたいからなにかやってみて」みたいな感じで、当時よくライヴを一緒にやっていたメンバーと集まって。それを彼が録っていたんだと思う。

録られていたことに気づかず。

C:そういうのばかりですよ! ピーナッツ・バター・ウルフの “PBWolf vs. Mothra (feat. Cappe)” もそう。ずいぶん昔、彼のスタジオに遊びに行ったときにレコーディングされてたことをコッペはまるでわかってなくて、レコードが出たこともぜんぜん知らなかった。ひどいやつらですよ(笑)。でも、それはUSのヒップホップだと普通みたいで。「そうなんだ、いいよべつに」みたいな。

ほかにも知らないうちに出ている作品もあるかもしれませんね。

C:いっぱいあると思いますよ。昔はドラムンベースでも歌いまくってたし、ロンドンの〈No U-Turn〉のスタジオとかでも、行くたびにインプロで歌いまくってたので。オービタルの最近の “Moon Princess (feat. Coppe)” も、「ちゃんとクレジットしてくれるのかな?」って不安だったけど、彼らはやっぱりプロフェッショナルなのでちゃんとやってくれた。でも「Coppé」の最後のチョン〔※アクサンテギュ〕はつけてくれなかった(笑)。

先ほど少しお話に出た、もうひとつ前のアルバム『蜜 Mitsu (25rpm)』はピアノ・アルバムでしたね。

C:あれはもうずいぶん昔みたいな感覚……ロックダウン中につくったやつです。生まれて初めて経験して、でもコッペにとってはかけがえのない時間でもあったんですよ。くだらないミーティングとかで外に出ていかなくてよくなって、棚からぼたもちのような、自由になる時間ができて。もうスタジオに缶詰めになるしかないですよ。それで。コッペが持ってる楽器でいちばん古い、コロンビアのエレピがあって、ピノコっていう名前をつけているんですけど、スタジオの奥でほこりをかぶっていたそれをジェイキーきれいに掃除して、「ピノコごめんね」って言ってぽろぽろ弾きながら、ピノコとの会話をスタートさせました。そしたらジェイキーが「レコーディングしてもいい?」って言ってくれて、そこからサクッと3~4日くらいでできたのがあのアルバムです。だから、ぜんぶインプロなんです。たぶん、バッハが降りてきたと思う(笑)。
 こういうこというと「コッペさん、イっちゃってる」とか思われるかもしれないけど、亡くなってしまった方々って、エネルギーとしてふわふわ飛んでるじゃないですか。バッハにしてもジム・モリスンにしても、みんな、もっともっといい曲を書きつづけていたかったと思う。でも病気とかいろんな理由があって、先に逝っちゃって。でも、みんなスピリットとして元気にやっていて、曲を書きつづけてるんですよ、絶対。でも地上にいないと形にはできない。だから、コッペみたいな頭が空っぽな火星人に、チョウチョみたいに降りてくるんです。コッペはいつも頭を空っぽにしてるので、チョウチョが来るとすぐに指が動いたり声になって出てくる。だから、けっしてコッペが書いているんではない。頭で考えてとか、そういう暇はまるでないので。小学生のころは「ここまでAマイナーだったから次はメジャーにしよう」とかいろいろ考えていたんですが、この『蜜』にかんしてはそれはまったくなかった。自然とできあがってしまったという。

憑依されているというのはシュルレアリスムっぽいところもあっておもしろいですね。自分の意識の外からやってくるもの、コントロールできないものによって作品ができてしまうという。

C:コッペの作品はもう80パーセント以上、もしかしたら90パーセント以上そうだと思います。歌詞もほぼ夢からできているし。そもそも地に足が着いていないですしね。だいたい毎日ふわふわしているので。

「ぶっ壊して!」とオファーした最新リミックス盤


photo by paul ward
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「とりあえずぶっ壊して!」っていうのだけ。やっぱり嫌じゃないですか、「ビョークみたいなのをやってください」とか「エンヤみたいに」とか、だったらビョークに頼みなさいよって思いますし。

さて、あらかじめつくることが決まっていたという今回のリミックス盤『*( -)tweaked』ですが、人選にはどのような狙いが?

C:いや、なにもないですね。ただコッペのまわりにいる仲良しなひとたちにお願いするっていう(笑)。ただみんなそれぞれスケジュールがあるから、そこはタイミングを見て。プラッドがいちばん時間がかかったかな。

個人的には今回のリミックス盤では、このプラッドの “Satin Doll (Plaid Remix)” がいちばん好きでした。

C:プラッドだとコッペは、“Atlantis Is Kushti (Plaid mix)” (『Peppermint』2000年、収録)がいちばん好きかな。あれはプラッドのふたりが日本にツアーに来たとき、そのころコッペはまだアリゾナに住んでたんですけど、同行して一緒に沖縄の座間味島っていうところまで泳ぎに行って、そのときできた曲で。1998年だったかな。元ジ・オーブのクリス・ウェストンやミックスマスター・モリスも一緒にいました。みんなプラッドとつながってて。座間味島ってほんとうに海がきれいで、みんなで潜ってレインボー・フィッシュを追いかけたり。サンゴって死ぬと真っ白になるんですけど、そのうえをはだしで歩くとしゃりしゃりして、痛いんだけど気持ちいいんです。その音が大好きで、当時MDのレコーダーでレコーディングしていたので、それを持ってその音を録りに潜ったんですよ。でもぜんぜんダメで、MDが壊れちゃって。みんなから「そういう電子機器は水中では使えないんだよ」って教えてもらいました(笑)。そしたら数年後にプラッドのエド(・ハンドリー)が、海の中にも持っていけて、クジラの声まで録音できるコンタクト・マイクをプレゼントしてくれて。

猪股:「エド」で思い出しましたが、ドラムンベースのエド・ラッシュ&ニコのニコが、2002年ころの作品にはよくクレジットされていましたよね。

C:ニコとはすごく仲良くなってます。ニコのスタジオがいちばんレコーディングしてる場所だと思う。ニコは当時あのあたり、エド・ラッシュとかオプティカルとかを仕切っていたひとで、でもなんか悪いことをされて音楽業界が嫌になっちゃったみたいで。自分が書いたのにクレジットしてもらえなくて、大ヒットしてとか。向こうってそういう大事なところが抜けてるんですよ。でもいまでもロンドンに行ったらつるんでますよ。たしか父親がBBCの偉い方で、ボブ・ディランとかにインタヴューしてる方で。でもニコは不良(笑)。

今回のリミックス盤でいちばん気に入っているのはだれのリミックスですか?

C:難しいなあ。もうあんまり憶えてない(笑)。いつも次につくってるもののことを考えてるから。来年ファーストの『Coppé』が30周年なので、いまはレーベル〈Mango & Sweet Rice〉30周年記念盤をつくってます。ルークと一緒に。

(今回のリミックス盤にも参加している)ルーク・ヴァイバートですか?

C:そう。ヒップホップ。じつは、今回の “My Funky Valentine (Luke Vibert Remix)” をお願いしたあと、いろいろあって、30周年記念盤でも一緒にやろうということになりました。それ(30周年記念盤の曲)はもう鳥肌が立つくらい、めちゃくちゃいい曲になっています。目玉の1曲。

それは楽しみです。今回のリミックス盤で、予想外のものが来たなというのはありましたか?

C:コッペはニカコイが好きなんですけど、彼とのコンビネーションってすごいと思うんですよね。以前『Milk』(2017年)というアルバムをつくったときに、当初ニカコイには1曲だけお願いしていたのに、3曲もやってくれて。相性がいいんです。『Rays』(2012年)のときも、最初はとりあえず1曲って感じでスタートしたんだけど、あれよあれよという間に1枚まるごと共作になって。今回のリミックスについてはノー・コメントですが、ずっと近くにいてほしいひとです。

猪股:いろんな方にリミックスをオファーする際、方向性など注文を出したりはしましたか?

C:「とりあえずぶっ壊して!」っていうのだけ。やっぱり嫌じゃないですか、「ビョークみたいなのをやってください」とか「エンヤみたいに」とか、だったらビョークに頼みなさいよって思いますし。そういうことをみんなにはさせたくないので、好きなようにぶっ壊してくれって。クリエイティヴのフリーダムはかならずみんなに与えます。そういうオーダーですね。

猪股:DJ KENSEIさんについてもお尋ねしたいです。今回の面子のなかでKENSEIさんはいちばんスタイルの幅が広い方で、いろんなことができる方ですよね。

C:KENSEIは達人ですよね。KENSEIは「そのままバッキング・トラック流して」って言っても絶対やりたがらないようなひとなので、いろいろやりとりしながら、「好きなようにぶっ壊して」と。2023年のフジロックのピラミッド・ガーデンにCoppé feat. Kensei & Hatakenとして出演したんですけど、キャンドルの火に囲まれて、すばらしいライヴだったんです。コッペたちのアンビエントな感じの音と、そよ風で炎が揺れる感じが化学反応を起こして。みんな芝生に座って聴いてくださっているんですけど、その吐息まで伝わってくるような、ハッピーなライヴでした。

困っちゃうぐらい火星人


photo by alex lenz

あなたはこうで、あなたはこう、って区別するの、ぜんぜんわかんないんですよね。音楽もいろんなものを混ぜるし、お料理も混ぜるし、友だちも混ぜるし。そんな感じの、困っちゃうぐらい火星人って感じ。

最近の音楽で気に入っているものはなにかありますか?

C:フローティング・ポインツ。ミックスマスター・モリスは日本に来るといつもかならずうちに来るんですけど、フローティング・ポインツは神経科学の博士号を持っているのにこんないい曲をつくってるんだよって教えてくれて。あと、サム・ゲンデル。彼が “Satin Doll” を使った曲があって、それは超キョイーンってきましたね。

アートワークについてもお伺いさせてください。デザイナーズ・リパブリックのイアン・アンダーソンが手がけていて、オリジナルがピンク、リミックス盤が淡いブルーないしグリーンのセットですが、なにかコンセプトがあったのですか?

C:イアンはエレクトロニカが好きなひとなので、ジャズ・アルバムのデザインやってくれるかな、断られるかなと思ってました。でもオッケーしてくれました。彼は、もしジャズの音源のデザインの依頼が来たら、ボビー・ハッチャーソンのジャケットみたいなアイディアでやりたい、っていうのをずっと考えていたみたいで。「その路線で進めてもいい?」って確認されて、でもミーはいつものようにボビー・ハッチャーソンのことはぜんぜん知らなかったから、「いいよ、好きなようにやって」と伝えて、こうなりました。

イアン・アンダーソンとはいつごろからお知り合いなんですか?

C:『Coppe' In A Pill』(2010年)っていうUSBメモリー・スティックのコンピレーションを出したときだから……いや、『20rpm』(2015年)のころだから、10年くらいかな。デザインも音も、「キョイーン」ってくるものだから、イアンのデザインは最初から「キョイーン」ってきて好きでしたね。あの、バットを持っている女の子のキャラ、「Sissy」が大好きです。『蜜』のときは「蜜」という漢字で遊んでみて、ってお願いしました。

ちなみに、こんにちでは電子音楽をやっている女性はたくさんいますが、コッペさんがエレクトロニック・ミュージックをされはじめたころは、少なくともいまよりはぜんぜん少なかったと思うんです、とくに日本では。そういうことを意識したことはありますか?

C:まるでない。自分がどういうところにいるのかとか、自分でまるでわかってないひとで。

猪股:男性よりもアタリが強かったりとか、あるいはその逆だったりとか、そういうことはなかったんでしょうか。

C:いい質問をくれました! いや、女性とか男性っていうのはいまいちわかんなくて。コッペ、火星人なもんで(笑)。あんまりそういうの意識してなくて、まわりはゲイばっかりだったし。あなたはこうで、あなたはこう、って区別するの、ぜんぜんわかんないんですよね。音楽もいろんなものを混ぜるし、お料理も混ぜるし、友だちも混ぜるし。そんな感じの、困っちゃうぐらい火星人って感じ。

Klara Lewis - ele-king

 2021年、電子音響アーティスト、ピタ/ピーター・レーバーグが53歳の若さで亡くなった。クララ・ルイスの『Thankful』は、その彼への追悼の作品である。

 ピーター・レーバーグは、電子音響/エレクトロニカの歴史に大きな足跡を残したアーティストだ。90年代中期以降、彼はグリッチ・ノイズを用いて無機的でありながらも叙情的なムードの電子音響作品のリリースを重ねてきた。加えてピーター・レーバーグはスティーヴン・オマリーとのハードコア・ドローン・ユニット KTL のメンバーでもあった。
 同時に電子音響・エクスペリメンタル・シーンに多大な影響を残したレーベル〈Editions Mego〉の主宰でもある。前身〈Mego〉時代から含めて同レーベルからリリースされたアーティスト/アルバムは電子音響・エレクトロニカの歴史において重要な作品ばかりだ。フェネス『Endless Summer』(2001)、ヘッカー『Sun Pandämonium』(2003)、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーReturnal』(2010)などをリリースしたことは、まさに偉業といえよう。
 彼の死は電子音響/エクスペリメンタル・ミュージック・シーンにとって大きな喪失感をもたらした。精神的支柱を失ったとでもいうべきか。かくいう私も彼の新しい音が聴けなくなったことをとても寂しく思った。1996年リリースの『Seven Tons For Free』からずっと聴いてきたのだから。
 しかし〈Editions Mego〉が現在も新しい作品をリリースをし続けていることは希望を抱かせるものである。ピーター・レーバーグがその生涯をかけて情熱を注いだエクスペリメンタル・ミュージック・レーベルの意志はいまも確実に継承されている。そして、クララ・ルイスの新譜『Thankful』も、本年2024年に〈Editions Mego〉からリリースされたアルバムだ。

 クララ・ルイスはワイヤー/ドームのグラハム・ルイスの娘として知られているが、何より2010年代中期以降のエクスペリンタル・ミュージックを代表するアーティストでもある。この年代のエクスペリメンタル・ミュージックを考えるとき、クララ・ルイスのノイズ、サウンド、コンポジションは極めて重要ではないかと常々思っていた。
 10年代のエクスペリメンタル・ミュージックはどこかノイズとコラージュを基調としたものが多く、それがまるでアンビエントのような質感で展開する。夢の中を漂うような不定形なノイズ・コンポジション。コラージュ感覚のサウンドスケープ。クララ・ルイスの音は、まさに「アンビエントとノイズの中間領域」を彷徨うような音作りになっていたのである。

 クララ・ルイスのアルバム『Ett』が〈Editions Mego〉からリリースされたのは2014年だった。以降、ルイスは〈Editions Mego〉から多くのアルバムをリリースしてきた。特に2016年のソロ作『Too』はノイズを用いたアンビエンスなサウンドが確立した重要作だ。
 以降、2020年に20分ほどの『Ingrid』や、2021年にライヴ作品『Live In Montreal 2018』などをリリースしているが、『Ingrid』が20分ほどのEPに近い音源だったことを踏まえると、本作『Thankful』は『Too』以来、8年ぶりのソロ・アルバムといえる。そのソロ作がピーター・レーバーグへの追悼だった。これは重要なことである。
 なぜか。ルイスはソロ作以上にコラボレーション・アルバムが充実しているアーティストなのである。例えば2018年にリリースされたサイモン・フィッシャー・ターナーとのエクスペメンタル/アンビエントな『Care』、2021年に〈The Trilogy Tapes〉からリリースされたペダー・マネルフェルトとの実験的テクノの『KLMNOPQ』、2023年に〈Alter〉からリリースされたニック・ヴォイドとのノイズ・コンポジションが冴え渡る『Full-On』、2024年に〈The Trilogy Tapes〉からリリースされたユキ・ツジイとの環境音楽的な 『Salt Water』などなど、彼女のコラボレーションはじつに多岐にわたる。ある意味、ソロ・アルバム以上に充実した作品群だ。

 そう考えると『Thankful』はピーター・レーバーグへの追悼でありながら同時に「不在のピーター・レーバーグとのコラボレーション」ともいえなくもない。じっさい『Thankful』のサウンドはどこかピタの音に近い。
 特に1曲目 “Thankful” はピタの傑作にして電子音響/エレクトロニカ史に残るといっても過言ではない『Get Out』(1999)収録の “Track 3” へのトリビュートであり、そのロマンティックでマシニックな響きと持続はどこかピタとの共演を希求しているような曲である。しかも曲名が “Thankful” なのだから泣いてしまいそうになる。サウンド自体も素晴らしい。90年代末期〜00年代以降の電子音響/エレクトロニカにあったロマンティックな面を拡張したような感覚がうごめいていた。
 2曲目 “Ukulele 1” は1分16秒ほどの短いトラックだ。その曲名どおりおそらくはウクレレで奏でられた短い演奏だ。だがこれが4曲目 “Ukulele 2” につながる重要な伏線になる。一転して3曲目 “Top” も2分30秒ほどの短いトラックだ。ここでは極端な音使いアシッド・テクノ風のサウンドを展開する。2019年にリリースされたピタの『Get On』のサウンドを思わせもする。
 4曲目 “4U” からアルバムはふたたび叙情的な電子音響に変化する。クラシカルな音が次第に加工されノイジーな音響が侵食してくるトラックだ。どこかサイケデリックな趣もある。5曲目 “Ukulele 2” も同様にノイズへの生成変化が巻き起こるトラック。“Ukulele 1” 同様にウクレレらしき音が反復するが、それが次第にグリッチな電子ノイズが侵食しはじめ、8分45秒を過ぎたあたりから強烈なノイズの音響がトラックを覆うのだ。まさにピタが得意としたような電子ノイズの炸裂が展開しているわけである。この曲は12分あり、1曲目 “Thankful” に次ぐ長尺である。アルバムの冒頭と最後の曲にピタ特有のサウンドを展開するなど、クララ・ルイスは亡きピーター・レーバーグと対話するようにアルバムを織り上げている。
 5曲目 “Ukulele 2” の終盤はグリッチ・ノイズの嵐が収まり、元になったウクレレの音がまた聞こえてくる。静かにアルバムは終局を迎える。まるでピーター・レーバーグとの別れを惜しむかのように最後の一音まで大切に鳴っていた。

 本作は電子ノイズの中に、「悲しみ」と「喪失」の感情が満ちている。かといって暗く沈むような感覚はなく、どこか不思議と解放的なムードがあった。思えばピタの楽曲もそうだった。彼のサウンドは、尖端的・先端的なグリッチ・ノイズの集積のような音でありながら、彼の音は天上へと昇るような不可思議な解放感があったのである。クララ・ルイスはまさに不在のピタとコラボレーションをするように、その解放的なグリッチ・ノイズを受け継いだのだろうか。そして未来へ。

interview with Matthew Halsall - ele-king

 イギリスで最大のジャズ・シーンがあるのはロンドンだが、それとまた異なるシーンを独自に育んできたのがマンチェスターで、その中心にいるのがマシュー・ハルソールである。トランペット奏者で作曲家、そしてバンド・リーダーでもある彼は、2008年のデビュー以来数々のアルバムをリリースしてきて、この度その足跡をまとめたベスト・アルバムの『Togetherness』がリリースされた。初来日公演を記念してリリースされた『Togetherness』は、本国イギリスはもちろんのこと日本国内でも高い評価を得た最新アルバム『An Ever Changing View』(2023年)から、初期名盤の『Colour Yes』(2009年)まで、自身が運営するレーベルの〈ゴンドワナ〉とともに歩んだ十数年のキャリアからマシュー本人が選んだ楽曲を収録する。

 〈ゴンドワナ〉はマシュー以外に、彼が率いるゴンドワナ・オーケストラや盟友のナット・バーチャル、チップ・ウィッカムの作品から、ゴーゴー・ペンギン、ジョン・エリスなどマンチェスター出身のアーティストの作品をリリースするなど、マンチェスター・シーンを牽引してきた。そして、マンチェスター出身のアーティスト以外にも、ママル・ハンズ、ノヤ・ラオ、ポルティコ・カルテットなどのUK勢から、オーストラリア出身のアリーシャ・ジョイ、ベルギー出身のスタッフなど、所属アーティストの顔ぶれもインターナショナルになってきた。ジャズ以外にもエレクトロニック・ミュージックやポスト・クラシカル系と、音楽性の枠も広がっていった。スピリチュアル・ジャズと形容されることの多いマシュー・ハルソールの音楽だが、近年はフィールド・レコーディングを取り入れてアンビエントの要素が増しており、多様な音楽性を抱える〈ゴンドワナ〉の運営が自身の音楽性にも関与していると言えそうだ。

 ピーター・バラカン監修のフェス《Live Magic》と、Blue Note TOKYO公演で来日中のマシュー・ハルソールに、これまでの活動や 〈ゴンドワナ〉のことを振り返り、また自身の音楽の基盤となるものや影響されるものなど、いろいろと話をしてもらった。

ジャイルス・ピーターソンやミスター・スクラフといったDJは、先生と呼べるほど、自分が音楽を聴くにあたってとても影響を受けた存在です。

あなたは2008年に『Sending My Love』でデビューして以来、10数枚に及ぶアルバムを発表し、また自身のレーベルである〈ゴンドワナ〉からさまざまなアーティストを送り出してきました。すでに長いキャリアを積み重ねられているにも関わらず、これまで日本のメディアでのインタヴューがないようで、あなたのことをよく知らないリスナーもいるかと思われます。ですので、まずはどのようにしてジャズ・トランペット奏者になり、〈ゴンドワナ〉を運営するようになったのか教えてください。

マシュー・ハルソール(以下MH):リヴァプールに住んでいた6歳のころ、両親と祖父母と一緒に、日曜日の午後のコンサートに行きました。そこはニューヨークのジャズ・クラブのような雰囲気で、ジャズ・トランペット奏者がディジー・ガレスピーの “A Night In Tunisia” やマイルズ・デイヴィスの “Milestone” を演奏していて、わたしはビッグ・バンドならではの昂揚感あふれるエネルギーをとても気に入りました。とくにトランペットに魅力を感じて、6歳ながらに「トランペットがいい、トランペットがいい!」と夢中になり、それがトランペットとジャズとの出会いのきっかけでした。トランペットに惹かれたときからレッスンをはじめて、13歳のときに憧れのビッグ・バンドに入りました。14歳、15歳のときはそのビッグ・バンドとともに世界でツアーをして、オーストラリアやアメリカ、そういった国をまわっていましたね。

13歳で抜擢されるというのはすごく早熟ですよね。

MH:(照れ笑い)17歳になってからはサウンド・エンジニアリングやプロダクションの勉強をはじめました。レコードをつくることにとても興味があったので、そういう勉強も。とくに〈ブルー・ノート〉や〈インパルス〉などが好きだったのでそのような音の勉強と、あと〈ニンジャ・チューン〉や〈ワープ〉のようなサウンドも好きでしたので、ソフトウェアやシンセサイザーを使っての音づくりも勉強しました。DJカルチャーに興味を持ちはじめたのが14歳から15歳のときで、ジャイルス・ピーターソンミスター・スクラフといったDJは、先生と呼べるほど、自分が音楽を聴くにあたってとても影響を受けた存在です。
 たとえば、ジャイルス・ピーターソンは当時(2000年代前半)ザ・シネマティック・オーケストラマッドリブといったクラブ・ジャズ系をよくプレイしていて、ミスター・スクラフはクラブ・ミュージック以外にアリス・コルトレーンファラオ・サンダースといった純粋なジャズ・アーティストの作品もかけていたんです。彼がプレイした ファラオ・サンダースの “You’ve Got to Have Freedom” にとても衝撃を受けました。それからファラオ・サンダースを聴くようになって、そしてアリス・コルトレーンを発見して『Journey In Satchidananda』(1971年)を聴き、そこでスピリチュアル・ジャズというものに出会います。
 そして23歳のころ、リヴァプールからマンチェスターに移住しました。この時期のマンチェスターのDJシーンやミュージシャンのシーンがとても面白かったからです。とくに、マット&フレッズ・ジャズ・クラブに入り浸っていて、そこではザ・シネマティック・オーケストラのメンバーなど、シーンで活躍するアーティストが演奏をしていました。ミスター・スクラフも月に一度DJをしたり、ライヴ・シーンとクラブ・シーンをよく学べる環境でしたね。その時期に自分のレコードをつくってみたいという興味が湧いて、シーンで活躍している音楽家たちとレコードをつくるのですが、出してくれるレーベルが見つからず、結局は自分でレーベルを立ち上げてリリースするというかたちになりました。

なるほど。〈ニンジャ・チューン〉ではザ・シネマティック・オーケストラやミスター・スクラフの名が挙がりましたが、〈ワープ〉ではどのアーティストがお好きでしたか?

MH:ボーズ・オブ・カナダエイフェックス・ツインスクエアプッシャープラッド……そのあたりが中心でしたね。


Live Magic(恵比寿ガーデンホール)でのライヴ。Photo by Moto Uehara

サックス奏者のナット・バーチャルと組んだ初期の作品、ファーストの『Sending My Love』やセカンドの『Colour Yes』(2009年)などは、かつて英国ジャズの草創期に活躍したレンデル=カー・クインテットあたりを連想しますが、トランペット奏者のイアン・カーの影響もあるのでしょうか? 

MH:じつはレンデル=カー・クインテットの音楽と出会ったのは、それら2枚のアルバムをつくった後でした。きっかけはジャイルス・ピーターソンの『Impressed With Gilles Peterson』(2002年)というコンピレーションに収録されていたことで、それを聴いてイギリスのジャズ・ミュージシャンがモーダルなジャズをつくっていることを知ることができ、とても嬉しく思いました。

ナット・バーチャルやゴーゴー・ペンギンなど、マンチェスターのシーンで活躍してきたひとたちとあなたは深くつながってきました。いまでもロンドンに出ていかず、マンチェスターに根差して活動しているのはなぜでしょう?

MH:ロンドンの音楽シーンはたしかに盛り上がっているし、そこで成功しているひとたちもいっぱいいます。ただ、わたしとしてはイギリスのなかで、ロンドンだけでなく、ほかの場所に住んでいる才能あふれるミュージシャンたちをサポートすることを大事にしたいんです。友人や家族など、ほんとうに大切にしているひとたちもマンチェスターにいるので、ここで活動を続けています。

ロンドンだけでなく、ほかの場所に住んでいる才能あふれるミュージシャンたちをサポートすることを大事にしたいんです。

あなたはゴンドワナ・オーケストラを率いていることもあり、ソロ・プレーヤーとして活躍するよりもバンド・リーダーというか、サウンド・プロデューサーとして全体を俯瞰しながら音楽をつくっている印象があります。また、初期はインストの作品のみでしたが、途中からシンガーを交えて作品をつくることも増えていきました。仲のいい友人ミュージシャンとバンドを組むことからはじまって、アルバムを重ねるごとに編成も大きくなっていった印象ですが、この15年ほどでバンドがどのような変遷をたどってきたか、その過程を教えてください。

MH:まず、キャリアの初期のころは、マンシェスターの音楽シーンで活躍していたミュージシャンを自分のバンドでフィーチャーしていました。とくに自分が尊敬していた音楽家たち、たとえばナット・バーチャルやチップ・ウィッカム、ジョン・ソーン、あとザ・シネマティック・オーケストラのメンバーだったルーク・フラワーズとか、そういった方たちと一緒に演奏したいと思ったのがスタートでした。ただ、キャリアを積むことによって次第に、まだ名は知られていないけれど若く才能のあるミュージシャンたちをフィーチャーして、彼らにスポットライトを当てたいというふうに変わっていって、それに応じてメンバーの編成も変わっていきました。

あなたの作品にはハープがフィーチャーされることが多く、『Into Forever』(2015年)では日本の琴も取り入れていましたが、それら奏者はすべて女性ですよね。それによって……

MH:いや、じつは男性のハープ・プレイヤーもフィーチャーしたことがあるんです。『Oneness』(2019年)というアルバムがあって、そこで演奏しているのがスタン・アンブローズというハープ奏者で。同作には “Stan's Harp” という、彼をトリビュートした楽曲も収録されています。彼はリヴァプールのプレイヤーなんですが、病院で患者のためにセラピーとしてハープを演奏しているような、とてもスピリチュアルな方です。ただ、ご高齢だったこともあって一緒にツアーができず、ほかのハープ奏者を探したところ、イギリス北部に住んでいるハープ・プレイヤーはみんな女性だったので、おのずと女性をフィーチャーすることになりました。

なるほど。そうしたハープの導入などによりあなたの作品はアリス・コルトレーンやドロシー・アシュビーたちの作品と比較されることも多く、またあなた自身もアリス・コルトレーンのカヴァーやトリビュート曲を手がけたことがあります。あなたのサウンドの特徴でもあるハープですが、とりいれるようになったきっかけを教えてください。

MH:おっしゃるとおり、アリス・コルトレーンやドロシー・アシュビーの影響で、自分の音楽にもハープをとりいれるようになりました。ザ・シネマティック・オーケストラの『Every Day』(2002年)というアルバムでもアリス・コルトレーンがサンプリングされていて。それらがきっかけですね。あと、自分はメディテイション(瞑想)やスピリチュアルなライフスタイルにも興味があって、ハープのメディテイティヴな部分やピースフルな音色が、 自然と自分の音楽にも入ってきたんです。

いまお話に出た瞑想的な部分、メディテイショナルな側面はあなたの音楽の大きな特徴で、ゆえにスピリチュアル・ジャズと呼ばれることが多いかと思います。他方で、ロサンゼルスのカマシ・ワシントンやロンドンのシャバカ・ハッチングスのスピリチュアル・ジャズなどとは異なり、激しいフリー・ジャズのような演奏がされることはあまりありません。基本的にモード演奏をベースに、ときに静穏で理知的です。ご自身としては、自分の音楽についてどのようにとらえていますか?

MH:まず、わたし自身がリスナーでありミュージック・ラヴァーだと思っているので、そういった意識のもとで音楽をつくっています。その過程でピースフルな感じやメディテイティヴな要素が入ってくるのかな……トランペッターとしては、ほんとうに自分が信じるものを吹いているので、レコードに比べるとやはりライヴのほうが心から火がほとばしるような演奏ができるなと思います。ですが、やはりレコードやアルバムという作品のフォーマットを考えると、最初から最後まで楽しめる作品をつくりたいので、ソウルフルな要素や空間の広がりを感じさせる雰囲気、心が落ち着くような部分も大事にしています。


Blue Note Tokyoでのライヴ。Photo by Takuo Sato

ふだんリスナーとしてアンビエントやニューエイジもよくお聴きになるんですか?

MH:そうですね。エレクトロニック・ミュージックやネオ・クラシカルと呼ばれる音楽、もちろんジャズもそうなんですが、それらのなかにもアンビエントといえる音楽があると思います。たとえばジョン・ハッセルブライアン・イーノスティーヴ・ライヒニルス・フラームオーラヴル・アルナルズなど。そういった実験的な、アンビエントにつながるような音楽はよく聴きますね。

ジョン・ハッセルがお好きなのは、やはりトランペット奏者という点からでしょうか?

MH:たしかに、ジョン・ハッセルにはトランペッターという部分でも惹かれました。いま〈ゴンドワナ〉に所属しているポルティコ・カルテットというバンドにも、ジョン・ハッセルの音楽と通じるところがあります。わたし自身も彼らの音楽のファンですし、キャリアのスタートもおなじ時期でしたし、ポルティコ・カルテットのほうもジョン・ハッセルのファンとして音楽をつくっていたり、いろいろなつながりがあります。トランペッターで面白い音楽をつくっているアーティストがいると、いつも興味を持って聴くようにしています。たとえばDJ KRUSHの作品で、トランペット奏者の近藤等則と共作したアルバム『記憶 Ki-Oku』(1996年)がありますが、その演奏もすごく好きです。

近年の『Salute To The Sun』(2020年)や『An Ever Changing View』(2023年)といった作品では、自然界の音をフィールド・レコーディングで用いたり、カリンバやマリンバといったアフリカ由来の原初的な楽器を交えたり、より素朴で自然を感じさせる音を奏でる工夫が為されています。アンビエントや環境音楽に通じるところもあるわけですが、こうした自然や大地への回帰にはどのような意図があるのでしょう?

MH:先ほども言ったように〈ワープ〉が好きで、ボーズ・オブ・カナダなど、これまで聴いてきた作品のなかにフィールド・レコーディングをとりいれているものがあって、それがきっかけですね。ジャズというジャンルではフィールド・レコーディングの手法をとりいれたものが少なかったので、挑戦してみたという理由もあります。また、わたしがフィールド・レコーディングをした場所は、自身が作品を書いた場所でもあるので、リスナーの方に自分が作品を書いたのと同じ場所に一緒に入って楽しんでほしい、という意図もあります。

ジャズというジャンルではフィールド・レコーディングの手法をとりいれたものが少なかったので、挑戦してみたという理由もあります。

この度、ベスト盤の『Togetherness』がリリースされています。これまでの活動を振り返ってみて、どのように感じていますか?

MH:これまでの活動を振り返ってみて、自分がいまここにいられることをほんとうに嬉しく思っています。キャリアにおいては、自分と楽曲との物語がもちろんあるわけですが、いろんなひとに「この曲を聴いて、こう感じたんだ」といったようなエピソードを聞かせてもらうと、「自分の音楽がひとを助けてきたんだな」ということを実感できて、ほんとうに幸せです。それと、日本に来て演奏することも、ずっと願ってきたことだったんです。じつはファースト・アルバムを出す2008年よりも前の、2003年に初めて日本を訪れたことがありました。自分の音楽キャリアがはじまるずっと前から、日本で演奏したいと考えていたんです。だから、ベスト盤を日本で出してライヴまでできるということはほんとうに大きな成果だと思っています。

今回のベスト盤には10曲が収録されていますが、核になっているのは実質的に4枚のアルバム、『Colour Yes』(2009年)『Fletcher Moss Park』(2012年)『Into Forever』(2015年)『An Ever Changing View』(2023年)からの曲ですよね。この4枚が中心になった理由を教えてください。

MH:今回のベスト・アルバムの選曲をするにあたっては、たんにひとつのアルバムから1曲を選ぶのではなく、通しで聴いたときに自分のキャリアにとって大事だった時期と、自分がつくってきた「ある音」を象徴するような1枚にしたかったので、どちらかというとDJ、プロデューサー的な脳が働いて、どうやったらフロウ(流れ)をつくれるのかということを意識して選曲しました。もちろん、去年リリースした『An Ever Changing View』からも選曲したかったし、『Fletcher Moss Park』も自分のキャリアにおいてもっとも成功を収めたアルバムだったので、そこからも選曲したくて。そういうことを考えつつ、あとは流れをつくるために、この4枚からの選曲になりました。

とくに思い入れの深い曲はありますか?

MH:1曲選ぶとしたら “Together” ですね。15年前にリリースした楽曲で、今回のコンピレーション・アルバムのタイトルにもつながりますが、「together」ということばに「unity」や「peace」といった意味も込めてそう名づけたんです。15年経ったいま、そうした世界平和にもつながるようなメッセージがより大切に感じられるようになってきていますよね。それと、ライヴでこの曲を演奏するときに、オーディエンスと自分がおなじ空間のなかで音楽を楽しめるように、という意味もあります。いまでもこの曲を演奏すると、ピースフルな雰囲気だけでなく、観客からの熱気や喜びも感じられて、自分とオーディエンスのつながりを深く感じられるんです。あと、これは余談ですが、この曲は『Colour Yes』に入っていて、そのアルバムは以前一度リイシューしているんですが、そのタイミングでこの曲がプレイリストに入って、より多くの方に楽しんでもらえるようになりました。だから自分のキャリアのなかでもっとも成功した1曲と言ってもいいと思っています(笑)。

最後に、あなたの音楽を聴いているリスナーに向けて、メッセージをお願いします。

MH:ほんとうにみなさんのサポートに感謝しています。こうして日本で記事が出るということもほんとうに嬉しく思いますし、自分の音楽がこれからもいろんなひとたちとつながっていくことで、また日本に来て演奏できることを楽しみにしています。

TESTSET - ele-king

 身も心もテクノに侵された人間なら理解してもらえると思うのだが、打ち込み系のライヴにいくとがっかりしてしまうことが多い。いや、多かったと過去形にするべきか。初期のYMOのように生演奏にこだわると、ミュージシャンの技巧に依存して、最終的には人間的な揺れの多いリズムや、レコードにはないギターやキーボードの陶酔系ソロなんかを延々聞かされる羽目になる。逆に凝った作りのレコードの再現にこだわった場合は、演奏の主要な部分はテープ等にあらかじめ録っておいたものを流すだけで面白みに欠けたり、追加される手弾きや歌部分の残念さが目立ってしまったりする結果になった。
 機材がシンセやドラムマシンといったハードウェアからPCをメインに据えるようになって、この様相もだいぶ変わった。例えば2001年の『LOVEBEAT』発売後にときどきおこなわれるようになった砂原良徳のソロ・ライヴは、テクノ系ステージの理想的な有り様をひとつ提示してくれたと感じた。非常に緻密に組み上げられ、完成されたレコードの音を丁寧に再現しながらも、“その場で演奏される生の要素” も組み込んで、原曲と乖離しない範囲でアレンジも加え、家庭用オーディオでは望むべくもない音の迫力やクリアさも伴った贅沢なリスニング体験に仕上げていたからだ。さらに砂原自身もかなり制作にコミットした映像表現によって、引き算の美学で作られたサウンドに、別の側面から足し算を試みていた。タイポグラフィやモーション・グラフィックをモチーフにしたシンプルなものが多かったが、いわゆるVJ的なアブストラクトで昂揚感や陶酔感を演出するヴィジュアルとは異なるアプローチで、音楽体験の向上に寄与していた。
 しかし、砂原自身は電気グルーヴの時代からずっと、あまりライヴをやることに対して積極的ではなかった。それが、ここのところのインタヴューでは、どこでも「レコードよりも体験が重要」「ライヴが最終形だ」ということを言っている。METAFIVEという大所帯のスーパーバンドを経て、TESTSETという4ピースのコンパクトなバンドをやることになった後で、このような価値観や発想の転換が生まれ、バンドのポリシーになってきているのはとても興味深い(彼がソロ作の寡作さとは真逆のペースでエンジニアやプロデューサーという他人のレコードをより良くする仕事に邁進してきたこともあわせて考えると、余計に!)。


砂原良徳(キーボード)

 国内では2024年最後のパフォーマンスだという、10月20日のZepp ShinjukuでのTESTSETソロ・ライヴへ足を運んできた。昨年のデビュー・アルバム『1STST』発売時には基盤となったメンバーの砂原とLEO今井に話を聞いて、恵比寿LIQUIDROOMでのライヴも見に行ったが、今回のステージは自分にとってはそれ以来の久々の再会となる。歌舞伎町の新しいランドマーク、東急歌舞伎町タワーの奥底にある真新しく巨大なハコは、ステージ上だけでなく360度ぐるりとフロアを取り囲むLEDスクリーンが特徴で、ZERO TOKYOと名を変えおこなわれている深夜のクラブ・イヴェントにDJとして出演し、何度もその素晴らしさを味わった砂原の提案でチョイスされた会場だ。
 曼荼羅、もしくは万華鏡的なサイケなヴィジュアルを伴った新曲 “Interface” で幕を開けたステージは、以前とは違い、中心にメインのヴォーカルを担当するLEO今井とギターの永井聖一が陣取っている。横を向いて黙々とシンセ・ベースを手弾きする砂原と、タイトで小気味よいドラミングの白根賢一のリズム隊がその脇を固める格好だ。当初は、やはりゲストというかサポートというか、元々の文化部的な佇まいも手伝って隅の方で少し遠慮気味にギターを弾いている印象だった永井が、野性的に動き回る今井と時折向かいあって絡みを見せる。オレたちはポストMETAFIVEでも、砂原&LEOグループでも、すぐにやめる時限ユニットでもないぞ、というバンドのリボーンの宣言*であるように感じた。

*今井、永井をフロントに据えるフォーメーションは今回が初ではなく、7月19日のLIQUIDROOMの20周年記念ライヴから導入された。


永井聖一(ギター)

 札幌のしゃけ音楽祭、SONICMANIAやLIQUIDROOMワンマンでも、今年のステージでは少しずつ演奏されていた新曲だが、今回のライヴ直前に発表されたEP「EP2 TSTST」でその全貌が明かされた。メインとなるのは、初めてフルに日本語で歌われたリード曲 “Sing City” だ。LEO今井がメインを張ることで、これまであまり前面に出てこなかったタイプの、高橋幸宏のメロウでセンチメンタルな面が受け継がれたようなとても印象的な曲。振り返ると、TESTSETの持ちネタとして、METAFIVEのナンバーのうち当時からずっと継続してやっているのは、“Full Metallisch” や “The Paramedics” だ。これらには、インダストリアルだったりアグレッシヴだったりするテイストを持った、今井の色が強く感じられる。当初は、やっぱり違うバンドを名乗る意義だとか、再出発を強調する意味でもあまりユキヒロっぽさを出さないようにしているのかなとも思っていた。しかし、今井自身が「このバンドはMETAFIVEのスピンオフ」と言っているように、前身とまったく断絶しているわけでもなく、後から参加したメンバー2名に関しても高橋幸宏との関わりがあったところから誘われた部分もあるという。なにより、この曲が今井から「ちょっとTESTSET向きじゃないけど」と提示されたデモが元になっているというのが興味深い。今回はアンコールの1曲目に名残を惜しむように歌われた “Sing City”、今後きっとバンドの要所を締める代表曲に育っていくだろう。


白根賢一(ドラムス)

 過去3作からバランス良く曲が披露されていく中、特に今回は映像の高精細さや迫力とも相まって、バンドの内包する物語性やテーマ性が見えやすいライヴになったと感じた。以前今井に英語の歌詞について質問したら、やはり母国語は英語だからその方がやりやすいし、今後も日本語の曲を書くことはあまり考えられないと言っていたので、今回のアプローチはバンドの伝えたいことをより明確にするという意味で、非常に効果的だった。以前からMVやライヴ用映像のあった曲、例えば鳥の群像とアップを交互に見せつつ、最後に骸と雛という対極的なショットを入れる “Carrion” や、美しい自然の空撮からスタートして徐々に建築物や人の営みに推移していく “A Natural Life” といった曲の具象的描写が、いままでよりもハッとさせられるものに感じたし、砂原ソロ時代からの延長線上にあるようなグラフィカルな表現との相乗効果もあがっていた。
 また、初めて聞いた頃は、ちょっと毛色が違いすぎて浮いている?とも感じた永井のヴォーカル曲。今回のEPで “Yume No Ato” というレパートリーが増えたことで、確実にTESTSETの世界の一翼を担うところへ成長した。ライヴでのこの新曲はまだこれからという感じもあったが、かなり場数をこなしてきた “Stranger” では、時計/時間をモチーフにした映像との絡みや、音源より確実に進化したバックトラック、そしてコーラスで入る今井の声とのハモり具合の気持ちよさが渾然一体となって、今回のライヴのハイライトのひとつと言える、鳥肌ものの素晴らしさだった。


LEO今井(ヴォーカル)

 そして、最後に記しておきたい、中盤のラストのトリビュートについて。前述の永井コーナーに移る前に突如演奏されたユキヒロさんのカヴァー曲、“Glass” がとても良かった。実は昨年の恵比寿ガーデンホールでもやったのだが、見逃していて、もう二度とやることはないかもしれないと悔やんでいたので感激もひとしおだ。そもそも、2014年に高橋幸宏&METAFIVEとして、往年のユキヒロ関係の曲を当時のテクノポップの流儀で再現した「テクノリサイタル」がこのバンドの一番はじめの出発点。でも、そのときですらやってなかったちょっと捻りの入った名曲 “Glass” がほぼ完コピでまた聴けるとは。82年の「What Me Worry Tour」でのスティーヴ・ジャンセンのドラムや土屋昌巳のギター、そしてユキヒロさんの歌が憑依したような恐ろしいほど気合の入ったトラック、ドラミング、歌&コーラス。さらには、歌詞の世界をうまく捉えた雨の水滴や割れるガラスの映像……。このバンドのファンはよく曲を知っていて、人気曲が演奏されるとイントロの少しのフレーズだけでわっと歓声が上がるのが嬉しい。METAFIVEからのファンも多いと言っても、さすがに81年リリースの曲をリアルタイムで愛聴していたひとはそんなにいなそうだが、この日一番くらいの反応があって、ロートルは涙しそうになった。

 MCで今井が紹介していたが、年内残ったライヴの予定は中国のフェスへの出演だという。METAFIVEからの遺産や、高橋幸宏のメモリーという背景情報の一切ないところで積む4人のライヴ経験が、今後どのようなかたちでバンドをドライヴしていくのか、とても楽しみだ。

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