「OPN」と一致するもの

Thundercat - ele-king

 『Drunk』をリミックスしたから『Drank』……気が利いているのか、いないのか。ジャケの色彩はRPGで言うところの毒の沼のようになっております。サンダーキャットが今年発表した話題作『Drunk』のチョップド&スクリュード版、こちらすでに夏に公開されていたものですが、このたび正式にCDとしてリリースされることになりました。あなめでたや。発売は年明け後の2月2日。ドラッギーなパープルの沼に飛び込んで、ダメージ食らっちゃいましょう。

THUNDERCAT
年間チャートにも多数ランクイン!
2017年を代表する名盤『DRUNK』の
チョップド&スクリュード版『DRANK』が緊急オフィシャル・リリース決定!

ケンドリック・ラマー、ファレル・ウィリアムス、フライング・ロータス、マイケル・マクドナルド、ケニー・ロギンス、ウィズ・カリファ、カマシ・ワシントンら超豪華アーティストが参加し、続々と公開されている国内外の年間チャートでも上位にランクインしている最新アルバム『Drunk』の大ヒット、来日ツアー全日程ソールドアウト、フジロックでもフィールド・オブ・ヘヴンのヘッドライナーを務めるなど、2017年の音楽シーンを象徴する存在と言っても過言ではない活躍を見せたサンダーキャットから、今年最後のサプライズ! アルバム・リリースから半年後となる8月に公開されていた“チョップド&スクリュード版”『Drank』が来年2月2日(金)にまさかのオフィシャルCD化決定!

本作には、スクリュー職人、オージー・ロン・シー(OG Ron C)と、彼が率いるチョップスターズの一員であるDJキャンドルスティックが手がけた“Chopnotslop Remix”と名付けられたリミックス群を収録。チョップド&スクリュードとは、90年代にヒューストンのヒップホップシーンで生まれた独特のリミックス手法で、そのサウンドのファンだったというドレイクの2011年作品『Take Care』を、オージー・ロン・シーが“チョップド&スクリュード”リミックスして以降、再び活況を迎えているカルチャーであり、今年も様々な名盤がチョップド&スクリュード化された他、映画『ムーンライト』のサウンドトラックで、チョップド&スクリュードの手法が取り入れられ、チョップスターズもチョップド&スクリュード版『Purple Moonlight』をリリースしたことも話題となった。

DJキャンドルスティックは、『Drunk』のリミックスについて、海外メディアの取材に対し、「クリエイティヴな音楽をスローダウンさせることで、型破りなアイディアを生み出し、チョップド&スクリュードのジャンルを拡張させたいんだ。サンダーキャットの『Drank』はそのゴールにまさにうってつけの作品だった」とコメントしている。

サンダーキャットの大ヒット・アルバム『Drunk』のチョップド&スクリュード版『Drank』は、2月2日(金)にリリース! 計24曲のリミックスが収録され、小林雅明氏による解説書が封入される。オリジナル盤に続いてレア化必至の初回限定生産盤はスリーヴケース付。

label: BEAT RECORDS / BRAINFEEDER
artist: Thundercat
title: Drank
release date: 2018/02/02 FRI ON SALE

国内初回生産盤:スリーヴケース付
歌詞対訳/解説書封入
BRC-568 ¥1,800+税

beatink: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=9232
amazon: https://amzn.asia/0p60dyl
Tower Records: https://bit.ly/2BFlAF7


label: BEAT RECORDS / BRAINFEEDER
artist: Thundercat
title: Drunk
release date: NOW ON SALE

国内盤特典:
ボーナストラック追加収録/歌詞対訳/解説書封入
BRC-542 ¥2,200+税

beatkart: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=2757
amazon: https://amzn.asia/aYsKnhw
Tower Records: https://bit.ly/2iYSAPT
HMV: https://bit.ly/2j8vVvH
iTunes: https://apple.co/2ki6RUY

Oneohtrix Point Never - ele-king

 昨年同様オリジナル・アルバムのリリースはなかったものの、坂本龍一のリミックスイシュマイル・バトラーとのコラボなど、今年も何かと話題の尽きないワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティン。夏には映画『グッド・タイム』のサウンドトラックを、そして先日はそのディレクターズ・カット版をリリースしたばかりの彼が、今度はUKの音楽メディア『FACT』の企画「FACT mix」の一貫として、新たなミックス音源を公開している。ジョルジオ・モロダーから幕を開けるそのミックスは、ロパティンが『グッド・タイム』の劇伴を制作するにあたって影響を受けた曲を集めたものとなっており、彼の音楽的なバックグラウンドの一部を探ることができる。しっかり芸能山城組も入っており、じつに興味の尽きないミックスである。

ONEOHTRIX POINT NEVER
話題の映画『グッド・タイム』のUKプレミアに合わせて
映画音楽制作のインスピレーションになった音源ばかりをフィーチャーした最新MIX音源を公開!

本年度のカンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出され、主演のロバート・パティンソンが彼のキャリア史上最高の演技を披露していると話題を呼んでいる映画『グッド・タイム』が、先週の日本公開に続き、11月17日(金)よりUKでも公開される。それに合わせ、音楽を手がけたワンオートリックス・ポイント・ネヴァーが、本映画の音楽制作において、インスピレーションになったという音楽ばかりをフィーチャーした最新MIX音源を、『FACT』にて公開した。

FACT mix 627: Oneohtrix Point Never
https://www.factmag.com/2017/11/13/oneohtrix-point-never-fact-mix-good-time/

Giorgio Moroder – "Cacophony"
Bernard Szajner – "Welcome (To Death Row)"
Alan Parker – "Synchrotech"
Abigail Mead – "Ruins"
Brad Fiedel – "Tunnel Chase"
Daft Punk – "Television Rules The Nation"
Geinoh Yamashirogumi – "Requiem"
Dopplereffekt – "Z Boson"
Howard Shore – "01 – 9PM"
Harold Faltermeyer – "Main Title, Fight Escape"
Giorgio Moroder – "Chase"
Sick Le Lapin – "Flashcore Mix"
Heldon – "Le Retour Des Soucoupes Volantes"
Lewis – "Like To See You Again (OPN Remix)"
John Abercrombie – "Timeless"
Steve Hillage – "Palm Trees (Love Guitar)"

アメリカで8月に公開された際には、セレーナ・ゴメスやザ・ウィークエンドが大絶賛するなど注目を集めると同時に、音楽を手がけたワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティンが、本年度のカンヌ・サウンドトラック賞を受賞。映画のエンディング・テーマにもなっている“The Pure and the Damned”でイギー・ポップとコラボレートしたことも大きな話題となった。

同映画のサウンドトラック『Good Time Original Motion Picture Soundtrack』は、8月のアメリカ公開に合わせてリリースされている。また日本公開時には、監督を務めたジョシュ・サフディの意向で、『グッド・タイム』の世界観をより深く理解するためのフォーマットとして、全曲フィルム・エディットで収録されたディレクターズ・カット版『Good Time... Raw』も日本限定でCD化されている。また対象店舗にて、『Good Time... Raw』、『Good Time Original Motion Picture Soundtrack』のいずれかを購入すると、オリジナル・クリアファイルが先着でもらえるキャンペーンを実施中。

label: Warp Records / Beat Records
artist: Oneohtrix Point Never
title: Good Time... Raw
cat no.: BRC-561
release date: 2017/11/03 FRI ON SALE
国内限定盤CD: ジョシュ・サフディによるライナーノーツ、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとジョシュ・サフディによるスペシャル対談封入
定価: ¥2,000+税

【ご予約はこちら】
beatkart: https://shop.beatink.com/shopdetail/000000002199
amazon: https://amzn.asia/gxW5H63
tower records: https://tower.jp/item/4619899/Good-Time----Raw
hmv: https://www.hmv.co.jp/artist_Oneohtrix-Point-Never_000000000424647/item_Good-Time-Raw_8282459

【商品詳細はこちら】
https://www.beatink.com/Labels/Warp-Records/Oneohtrix-Point-Never/BRC-561

label: Warp Records / Beat Records
artist: Oneohtrix Point Never
title: Good Time Original Motion Picture Soundtrack
cat no.: BRC-558
release date: 2017/08/11 FRI ON SALE
国内盤CD: ボーナストラック追加収録/解説書封入
定価: ¥2,200+税

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beatkart: https://shop.beatink.com/shopdetail/000000002171
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iTunes Store: https://apple.co/2rMT8JI

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https://www.beatink.com/Labels/Warp-Records/Oneohtrix-Point-Never/BRC-558

映画『グッド・タイム』
2017年11月3日(祝・金)公開
第70回カンヌ国際映画祭 コンペティション部門選出作品

Good Time | Official Trailer HD | A24
https://youtu.be/AVyGCxHZ_Ko

東京国際映画祭グランプリ&監督賞のW受賞を『神様なんかくそくらえ』で成し遂げたジョシュア&ベニー・サフディ兄弟による最新作。

出演:ロバート・パティンソン(『トワイライト』、『ディーン、君がいた瞬間』)、ベニー・サフディ(監督兼任)、ジェニファー・ジェイソン・リー(『ヘイト・フルエイト』)、バーカッド・アブティ(『キャプテン・フィリップス』)
監督:ジョシュア&ベニー・サフディ兄弟(『神様なんかくそくらえ』)

ニューヨークの最下層で生きるコニーと知的障がい者の弟ニック。
2人は銀行強盗を行うが、弟が捕まり投獄されてしまう。しかし獄中で暴れ病院へ送られると、それを聞いたコニーは病院へ忍び込み、警察が監視するなか弟ニックを取り返そうとするが……。

2017/アメリカ/カラー/英語/100分
(C) 2017 Hercules Film Investments, SARL

配給:ファインフィルムズ


AFX - ele-king

 ランキングは難しい。候補を選び、なんらかの判断を下し、意見を交換しながら、順位を決める。一見単純に見えるこの作業、じつはとんでもなくいろんなことを考えさせられるのだけれど、きっとこの時節、数々の音楽メディアがその作業に頭を悩ませているに違いない。
 今年2017年は、『Artificial Intelligence』や『Selected Ambient Works 85-92』のリリース25周年にあたり、一部でIDM回顧の機運が高まった。たとえば『ピッチフォーク』は年明けに「The 50 Best IDM Albums of All Time」という特集を組んでいる。そのランキングは一瞥する限りではきわめて王道のセレクションのように見えるのだけれど、どこか妙に違和を感じさせるものでもあった。
 選盤や順位付けが著しく偏っているわけではない。まあ個人的には「ブラック・ドッグの『Bytes』が入っていないじゃないか」「オウテカの『Chiastic Slide』を落とすなんてけしからん」といった文句はあるものの、「IDM」という言葉から多くの人びとが思い浮かべるであろうアーティストや作品が、それなりに順当にセレクトされている。
 選ばれた50作をアーティスト別に眺めてみると、エイフェックス・トゥインが最多の4作を送り込み(ポリゴン・ウィンドウ名義含む)、次いでオウテカとボーズ・オブ・カナダが3作、スクエアプッシャーとマウス・オン・マーズが2作と続く。この並びもとりたてて不自然というわけではない。あるいはレーベル単位で眺めてみると、〈ウォープ〉が最多の20作を送り込み、続く〈ドミノ〉と〈プラネット・ミュー〉の3作を大きく引き離していて、これはやや偏っている感じがしなくもないが、かのレーベルが果たした役割を思い返せば、けっして不可解だと騒ぐほどの事態ではないし、サイモン・レイノルズによるリード文でも〈ウォープ〉の功績が強調されている。
 では、違和はどこに潜んでいるのか? それは、選ばれた50作を年代別に眺めたときに浮かび上がってくる。リストアップされたアルバムを発表年でソートすると、90年代のものが27作、00年代のものが21作、10年代のものが2作(ジェイリンとジョン・ホプキンス)となっており、これはいくら90年代がゴールデン・エイジだったからといって、だいぶ偏っているのではないだろうか。つまりこのランキングは、「10年代には取り上げるに足るIDM作品が出てきていない」、あるいはもう少し控えめに言っても、「10年代のIDMは90年代のそれを超えられていない」と主張しているのである。
 さらに細かく整理していくと、軽視されているのが10年代の作品だけではないことに気がつく。00年代から選ばれている21作も、そのほとんどが2003年以前のものであり、2007年以降の作品にいたってはフライング・ロータスとSNDの2作しかランクインしていない。90年代の27作が各年にバランスよく分散しているのとは対照的だ。すなわち、この「The 50 Best IDM Albums of All Time」という特集は、10年前の2007年の時点で企画されていたとしても、ほぼ同じランキングになっていただろうということである。要するに『ピッチフォーク』は、IDMは10年前の時点でもう「終わっている」と言っているのだ。
 興味深いのは、『ピッチフォーク』が、ジューク/フットワークの文脈から登場してきたジェイリンに関してはIDMの歴史に組み込み、「IDM」という概念そのものを更新しようと試みているのにもかかわらず、OPNやアルカに関しては完全にリストから除外している点である。たんにOPNやアルカの音楽には「IDM」の「D」、すなわち「ダンス」の要素が欠けているという判断なのかもしれないが、それにしたってかれらをIDMの歴史に位置付けることで新たに浮かび上がってくるものだってあるだろうに、それに何よりリード文を執筆したサイモン・レイノルズ自身は「IDM」の「I」、すなわち「知性」とは何かという問題を提起し、OPNやアルカ、アクトレスについても言及しているというのに、はてさて『ピッチフォーク』はいったい何を考えているのやら(「排除します」?)。

            *

 その「The 50 Best IDM Albums of All Time」で見事1位の座に輝いたエイフェックス当人は、そんな面倒くさい価値判断からは1万光年離れたところで、相変わらず好き勝手にやっている。
 2014年に『Syro』で華麗にカムバックを遂げて以降、『Computer Controlled Acoustic Instruments Pt2』『Orphaned Deejay Selek 2006-08』『Cheetah EP』、と毎年欠かさずリリースを続けてきたリチャード・Dだけれど、その活力は今年も一向に衰える気配を見せない。オウテカに影響されたのか、7月に自らの音源に特化したオンライン・ストアを開設した彼は、そこで一挙にこれまで入手困難だったり未発表だったりした音源を大量に放出している。なかでも目玉となったのが以下の3作である。

 グリーンのアートワークが鮮やかな「London 03.06.17 [Field Day]」は、タイトルに記されているとおり、今年6月3日にロンドンで開催されたフィールド・デイ・フェスティヴァルの会場で限定販売されていた12インチで、今回のストアのオープンに伴い、めでたくデジタル・ヴァージョンとして再リリースされることになった(新たに6曲が追加されている)。これが相当な曲者で、「ちょっとしたサプライズ、あるいは単なるアウトテイク集でしょ」とナメてかかると痛い目を見ることになる。
 1曲目の“42DIMENSIT3 e3”からもう絶好調。その勢いは2曲目“MT1T1 bedroom microtune”からそのまま3曲目“T18A pole1”へと受け継がれる。新しいかと問われればそんなことはないと答えざるをえないが、エイフェックスらしい流儀でドラムやアシッドやメロディが並走していくその様は貫禄すら感じさせる。以降アルバムは多彩さを増していき、ワールド・ミュージックから影響を受けたのではないかと思わせるような奇妙な揺らぎを聴かせる4曲目“T03 delta t”のようなトラックもあれば、音響上の実験を探究した7曲目“42DIMENSIT10”や10曲目“T47 smodge”、声のイミテイションを試みた11曲目“sk8 littletune HS-PC202”のようなトラックもある。その合間に、鳥の鳴き声と叙情的な旋律が美しい5曲目“em2500 M253X”や9曲目“MT1T2 olpedroom”のようなメロディアスなトラックが挟まれていて、全体の構成も考え抜かれている。ボーナスとして追加されたトラックも強者揃いで、転がっていく音の配置感が心地良い12曲目“T13 Quadraverbia N+3”や折り重なる残響が耳を捕えて離さない13曲目“T16.5 MADMA with nastya”など、最後までリスナーを飽きさせない。はっきり言って、なぜこれを通常の形でフル・アルバムとしてリリースしなかったのか、さっぱりわからない。

 このように気合いの入った「London 03.06.17 [Field Day]」と比べると、ショッキングなピンクのアートワークが目を引く「Korg Trax+Tunings for falling asleep」の方は、いくらかリスナーにリラックスすることを許してくれる。こちらもタイトルが的確に指示しているとおり、Korg の機材を使用した2曲と、それ以外の試験的な11曲が収録されているが、冒頭の“korg funk 5”は件のオンライン・ストアのオープンに先駆けて公開された曲で、うねるように重なり合うシンセがじつにエイフェックスらしいサウンドを紡ぎ出しており、そこにドラムとベースが絡み合っていく様は往年のファンにとってはたまらないものがあるだろう(ちなみにときおり挿入される音声はリチャードの息子によるもの)。「眠りにつくための」と題された後者の11曲はすべてタイトルに「tuning」と冠されていて、いずれも機材の細かい残響具合をテストしているかのようなトラックとなっている。こちらはアンビエントとして聴くことも可能だろう。

 同じくオンライン・ストアのオープンと同時にリリースされたEP「Orphans」は、AFXによるルーク・ヴァイバートのリミックス2ヴァージョンと、AFX自身によるオリジナル・トラック2曲とから構成されている。前者の2曲(“Spiral Staircase”)は以前 SoundCloud で公開されていたもので、これまたエイフェックスらしい儚げなメロディとアシッドがノスタルジックな90年代の風景を想起させる。『RA』によればこのリミックスはもともと、ワゴン・クライスト『Sorry I Make You Lush』のリリース後に開催されたコンペに、リチャードがこっそり変名で参加して見事優勝してしまったときのトラックなのだそうだ(「ルークの好みがわかるから有利だったぜ」って、それほとんど八百長じゃん……)。オリジナル曲の“Nightmail 1”もエイフェックスらしいドラムとアシッドが輝くトラックで、変形されたジャングルのリズムが彼のダンス寄りの側面を強調している。そして最高に素晴らしいのが、最後に収められた“4x Atlantis Take1”だ。これは Sequentix のシーケンサーである Cirklon をテストするために作られた曲で、4月に先行公開されていたもの。ビートに頼らず、シンセの折り重ねだけでグルーヴを生み出し最後まで持っていく手腕はグレイトと言うほかなく、こんなキラーなトラックをさらりと投下してみせるあたり、ヴェテランの面目躍如たるものがある。

 IDMの古株がこれだけ高密度な作品をすまし顔でぽんぽん投下してくるのだから、『ピッチフォーク』が00年代後半以降の作品を切り捨ててしまいたくなるのも、しかたがないことなのかもしれない……なんて、エイフェックスおそるべし。


RVNG Intl. - ele-king

 ヴィズィブル・クロークスにグレッグ・フォックスにスガイ・ケンにと、話題性とクオリティを兼ね備えた作品のリリースが続いているブルックリンのレーベル〈RVNG Intl.〉。同レーベルにとって初となるショウケース・ツアーが、ここ日本にて開催されます。レーベル主宰者のマット・ウェルス、ヴィズィブル・クロークス、スガイ・ケンらが東京、大阪、そして新潟を回ります。少しでも電子音楽に関心があるなら、これは見逃し厳禁でしょう。

RVNG Intl. Japan Showcase Tour 2017

本年を代表するアンビエントの大本命Visible Cloaks待望の初来日に加え、現代的な日本の“和”を世界へ広げるSUGAI KEN、そしてJulia Holter、Holly Herndon、Sun Araw、Maxmillion Dunbarなどを輩出、OPN主宰の〈Software〉も手がけた名ディレクターMatt Werthが帯同する、NYはブルックリンのオルタナ電子音楽の最重要レーベル〈RVNG Intl.〉がショーケースとなってジャパン・ツアーを開催。

最新アルバムが『Pitchfork』でBNMも獲得し、今年話題となったポートランドのVisible Cloaks、インディ、アヴァンギャルド、クラブ・シーンにまで及び、テン年代におけるオルナタティヴな電子音楽の傑作をコラボや再発含めリリースしてきたNYはブルックリンの最重要レーベル〈RVNG Intl.(リヴェンジ)〉主宰のMatt Werth、そしてコンテンポラリーな日本の“和”を世界へ広げ、同レーベルよりデビューを果たした注目のSUGAI KENが帯同する、レーベル初のショーケース・ツアーがレーベル関連のアーティストや国内外の多数のスペシャル・ゲストを迎え、東京はクラブ・ナイトとショーケースの2公演、大阪、新潟を巡る全4公演が開催。

Special Guests:

dip in the pool *Tokyo
Chee Shimizu *Tokyo
Ssaliva (Ekster) *Tokyo
SKY H1 (PAN) *Tokyo
食品まつり a.k.a foodman *Tokyo
Tomoyuki Fujii *Niigata
Phantom Kino Ballet (Lena Willikens + Sarah Szczesny) *Osaka
YPY *Osaka
7FO *Osaka
威力 *Osaka
etc

Kaitlyn Aurelia Smith - ele-king

 これは電子音楽で鳴らされる21世紀のフォークロア・ミュージックではないか。このアルバムには、シンセサイザーによる幻想的なトラディショナルなムードが横溢している。見知らぬ地のコドモたちの祝祭の音楽のようでもあるし、16世紀の画家、ヒエロニムス・ボスの絵画のようでもある。

 米国はワシントンの北西部にあるオーカス島出身の電子音楽家ケイトリン・オーレリア・スミスの最新作『ザ・キッド』は、これまでどおり「ブックラ100」(Buchla)などのヴィンデージ・シンセサイザーを駆使したサウンドでありながら、その音楽性はさらに色彩豊かに変貌をとげている。
 2016年にリリースされた前作『イヤーズ』(『EARS』)もエクスペリメンタル・ミュージック/電子音楽の領域で高い評価を獲得したが、本作はそれをもこえる完成度といえよう。マーク・プリチャード(Mark Pritchard)のリミックスやアニマル・コレクティヴ(Animal Collective)との競演でも知られているケイトリンだが、本作においてはより広範囲なリスナーを獲得することになるのではないか。ようするに傑作なのだ。

 アナログな電子楽器によるサウンドスケープはこれまでどおりだが、「声」を多用したポップ・ミュージック的なコンポジションも、さらにさえわたっている。ニューエイジ・リヴァイヴァルと交錯しつつも、独自のファンタジック/オーガニックな電子音楽を展開するのだ。シンセサイザーの魅力が横溢した電子音楽もあれば、アンビエントなサウンドもある。ヴォイスとリズムが絡み合うトラックもある。カラフルでドリーミーな絵画を観ているような電子音楽集なのである。民族音楽的なトライバルなリズムとシンセサイザー・サウンドを融合させ、「OPN以降の現代の音楽」を成立させている点は、ローレル・ヘイロー(Laurel Halo)の新作『ダスト』(『Dust』)にもつうじる。

 オープニングの“アイ・アム・ア・ソート(I Am A Thought)”のスペイシーな電子音楽を経由し、エスニックな旋律のヴォーカル・トラック“アン・インテンション(An Intention)”が始まったとき、これまでの彼女のアルバムとはどこか一線を画すポップネスを感じたものだ。
 さらに3曲め“ア・キッド(A Kid)”のトライバルなリズムは、たんなるポップ・ミュージックには収まらない自由な感性の発露にも思われた。つづく鳥の鳴き声のようなイントロからトラディショナルなヴォーカル・メロディへと移行する“イン・ザ・ワールド(In The World)”をへて、アルバムは中盤から後半にかけて、その世界感は、次第にディープになってくる。別世界へのサイケデリック・トラベルのように。
 ラスト2曲“アイ・ウィル・メイク・ルーム・フォー・ユー(I Will Make Room For You)”と“トゥー・フィール・ユア・ベスト(To Feel Your Best)”において、「声」と「アンビエンス」の交錯は、さらに深遠な領域にいたる。声が電子音の波をよびよせ、電子音が声と身体と世界の深いところで響きあう、とでもいうべきか。感覚的で、オーガニックな電子音の横溢である。しかも、音楽自体にむずしさはない。ジョイフルであり、創意工夫にとんでおり、聴きやすくポップである。

 まさに「ポップさ」と「オーガニックさ」にふりきった本作だが、この変貌には、ケイトリンが2016年にリリースした1970年代から活動する電子音楽家スザンヌ・チアーニ(Suzanne Ciani)とのコラボレーション・アルバム『サナジー』の影響もあるのではないか。

 むろん『ザ・キッド』と、ロングトラックなニューエイジ・電子音アンビエント『サナジー』では音楽性は異なる。しかし、『サナジー』で展開した世界の神羅万象をナチュラルかつオーガニックに受け入れていく姿勢は、『ザ・キッド』(『The Kid』)のオープンな音楽の精神(形式ではない)へと大きなフィードバックを与えているような気がしてならない。この『ザ・キッド』でケイトリンの素晴らしい電子音楽に初めて触れた方は、ぜひともソロ『ユークリッド』(『Euclid』)(2015)、『イヤーズ』だけでなく、『サナジー』も聴いていただきたい。現代的ナチュラル/オーガニックな電子音楽(それはフェイクであってもいい。そもそもわれわれ現代人自体はすでにフェイクなのだから……)が、世代を超えて継承されていくさまが、より深く伝わってくるはずである。

 今、という時代においては、電子音楽もまた「継承」され、「受け継がれていく」フォークロア・ミュージックとしての歴史を積み重ねつつある。本作『ザ・キッド』も、その「継承」の成果ではないか。ジョイフルで、エクスペリメンタルで、伝統的で、ストレンジ。そのうえ不思議とナチュアルで、奇妙にオーガニック。そう、心と体に「効く」電子音楽なのだ。

New Sounds of Tokyo - ele-king

 ラウドで、ダーーーークで、挑発的。鋭く尖った音は未来に突き刺さる。覚悟しとけよ。
 愛情の問題もある。黎明期のテクノがいまだ特別な美をほこるのも、その純粋さと関係なくはないだろう。このレポートのモチベーションのひとつもそこにある。
もうひとつ、ここ10年ほどの欧米のエレクトロニック・ミュージック……たとえばUK(インスト)グライム、ダーク・アンビエントやインダストリアル、まあなんでもいいのだが……こうした比較的新しい、若い世代が主導した、刺々しい海外の動向とリンクする音源を探したくなった。 
 2008年~2009年あたりに欧米の四方八方で発展した「新しい」流れも、気が付けば、行くところまで行っている。サウンドトラックがカンヌで賞を取ったOPN、ケンドリック・ラマーとツアー予定のジェイムス・ブレイク、世界各国のフェスを飛び回るザ・xx、アナログ盤化される昔のヴェイパーウェイヴ、歌モノをやるアルカやローレル・ヘイロー、ストーンズ・スロウから新作を出したウォッシュト・アウト……などなど……などなどに象徴されるように。はじまったと思っていたら、おー、もうこんなになっている。じゃ、日本は?
 今日もまたひどい日だった。新しい景色に飢えていた。ぼくは、いま東京でもっとも尖っている音楽を作っている、若い人間の話を無性に聞いてみたくなった。

■「覚悟しとけよ」──Double Clapperz


ShintaとUKDによるDouble Clapperz。

俺はすげーカッコいいことやってるつもりなんだけど、なかなか理解されなかったり、ブッキングされなかったり、ムカつくからタイトルはこれでいいやって。

 彼らは若い。速いし、突風だ。ダブル・クラッパーズ(略称:ダブクラ)は、すでに名前が知られている。どこまでかって? ロンドンにまで。
いまの彼らの音楽は、現代のもっともエネルギッシュな英国ブラック・ミュージック=グライムに、すさまじく強い影響を受けている。
さて、DJのSintaとトラックメイカーのUKDが出会ったのは2012年。「最初にクラブで会ったとき、ようやく音楽の話が合うヤツがいたと思ったんですよ」とUKD。「グライムの話もしたけど、それだけじゃなかったよね。トラップとか……」とSinta。
 UKDにとって最初の影響はDex Pistolsだった。Bボーイ風なUKDは柔らかい声で話す。「18歳のときにDexのミックスCDを聴いて、それでメジャー・レイザーを知って、ディプロ知って、レゲエやダンスホールを聴くようになった」
 続いて、C.E.のTシャツを着た長身のSinta。StormzyやNovelist、Skeptaについて日本でもっとも熱く語れるライターとしても活躍している米澤慎太朗が言う。「俺は日本語ラップ。高校時代は日本語ラップおたくみたいな感じで、そこからR&Bっぽいところとダンスっぽいところがあったんで2ステップ・ガラージが好きになって。そのあとにガラージ。まだグライムもガラージも明確な違いがなかったような時代でしたね」
「グライムのことも最初は、新しいダンスホールと思って聴いましたから」とUKD。「そこは大事っぽい話ですね」とすかさずSintaが言うとUKDが相づちを打つ。「グライムって、ダンスホール・レゲエの一種かなと」。ふたたび間髪おかずにSinta。「つまりグライムをグライムとしてガッツリ入っていったわけじゃないというか、流れというか。レゲエのMCとか、好きなポイントがあったんだよね」。「あったね。早口のパトワが好きだった」とUKD。「Riko Danとか、あとはPay As You GoとかあのへんのサウンドとMCが好きだよね。レゲエ、ジャマイカンのノリがずっと好きだよね。でもどう考えてもいろんな意味でスケプタはデカいんじゃない? ファッションと音楽を結びつけたのもスケプタだし、UKDはファッションも音楽も好きだし、そういうのもあるとは思うけど。最初のきっかけは音楽がカッコいいし、見た目もカッコいいしってところだよね」とSintaがまとめる。
 ふたりの音楽制作は、「WarDub」が契機になっている。

Shinta:ワーダブっていうオンラインでやっていたグライムのコンペというか、MCたちがバトルで相手を口撃するように、DJたちもDJ同士で相手を攻撃しあう企画があったんですよ。

UKD:曲を送りあうんですよね。Twitterで@マークをつけて送るんですけど」

Shinta:けっこう毎年やっているっすけど、すごかったのは2013年ですね。グライムがまたおもしろくなってきたというのもそのへんからで、そこでいま活躍しているアーティストがほぼ全員参加しているんですよね……まあ、曲を作ってSound Cloudに出しただけなんですけど。そんなことしてもまず話題にもならないんですけど、マーロ(Murlo)っていうプロデューサーがいて、ロンドンのリンスFMで番組をやっているんですけど、その人が〈Butterz〉のショウに(ダブル・クラッパーズの)曲を送ったんですよ。Twitterで「曲をくれ」っていう@マークが来たんで送ったら、それをリンスFMでかけてくれたんですよ。そこからSoundcloudにDMがガーッと来たりしましたね」

このリアクションが、「日本でもやるけどUKとかを通じて世界中のリスナーにも届けたいという活動スタイルの原点」となった。で、その曲こそが、後にダブル・クラッパーズの最初のEPになる「Say Your Prayers」のオリジナル。

UKD:「Say Your Prayers」とは「覚悟はいいか」っていう意味ですね。

シンタ:「覚悟しとけ」みたいな(笑)。「お前の祈っている奴に言っとけ」って意味。しかも当時はジャージー・クラブとかの影響もめっちゃあったよね。聴いてもらったらわかるっすけど、グライムだけじゃないんですよ。

 この話は、ゴス・トラッドがUKで受け入れられた話を彷彿させる。たまたま自分が好きなことをやったらダブステップのシーンで受けたように、ダブル・クラッパーズもダンスホールやジャジー・クラブ、ボルチモアを自分たちなりに咀嚼したらそれがグライムのシーンで受けたというわけだ。
 ゴス・トラッドがディストピアを表現していたとしたら、ダブル・クラッパーズはより直球にダンスフロアに突き刺さるサウンドを目指している。“Say Your Prayers”の新ヴァージョンを収録した2016年に自主で制作した12インチには、なかばブートのような作りで、そのB面にはUKのグライム集団、Ruff Sqwadの曲のリメイクが収録されているが、すでにSintaはロンドンのギグに呼ばれているし、スケプタとも共演している。今年初頭には、ディジー・ラスカル以来の天才と言われる若きMC、カニエ・ウエストもお気に入りのノヴェリストを日本に招聘している。

 しかしながら、グライムとはUKならではの、ローカル色がもっとも強いスタイルだ。ぼくが今回もっとも聴きたかったのは、彼らが〈東京のサウンド〉をどう思っているのかということだ。「俺はその答えを持っているけど」とSintaが言う。「それは……俺たちがこれから作るモノ」
 こうした彼らの強気な姿勢、若さゆえの良き暴走は10月にリリース予定のセカンド・シングル「Get Mad」に集約されている。印象的なメロディとハードなドラミングで、人を駆り立てるような迫力満点のこの曲は、ある程度名前が浸透してからのダブル・クラッパーズの最初のシングルになる。 

「UKDが最初に出してきた曲が“Get Mad”って名前なんですけど、だからそもそもなにかしらブチ切れているんですよね(笑)」とSintaがが曲名について説明する。「Madというのはふたつの意味があるというか、『この曲はMadだね』と言ったら『ヤバい!』という意味だけど、“Get Mad」”と言ったら『キレる』って意味もあるじゃないですか。しかし……なんでそんなタイトルつけたんだろうって思うけどね」
「僕はけっこう承認欲求とかが強くて」とUKDが答える。その場は笑いに包まれたが、彼は冷静に話しを続けた。「俺はすげーカッコいいことやってるつもりなんだけど、なかなか理解されなかったり、ブッキングされなかったり、全然注目されないというのが、(だんだん認められて)自信がついてくると『なんでだろう?』って。けっこう頑張ってるのになと思って、あの曲を作ったんですよ。ムカつくからタイトルはこれでいいやって」
「というかまずあのヴァイオリンのリフが出来ていて、その時点でこれは狂気だなと思って(笑)。BoylanっていうUKのプロデューサーを起用したんですけど、そのときヴァイオリンのリフが超マッドだから使おうってことになって……」

 彼らの音楽に直結する強い気持ちは、彼らが所属する世代、20代半ばという若さと結びついている。たしかに90年代の東京には、20代が安く借りられてパーティできる場所がまだあった。新しいことをやる実験の場と週末の夜の娯楽の場とのバランスが取りやすかった。
 もちろん500人以上の集客を義務づけられているような商業クラブがあることが必ずしも悪いことではない。が、そればかりというのはまずい。自分がいま20代だったら、自分がかつて20代のときだったように、毎週末をクラブで過ごしたいと思っただろうか。
「だからぼくらが変えていくしかない」とSintaが言う。彼らは去る8月の半ばに「Get Mad」のリリース・パーティを終わらせたばかりだ。「ぼくらのリリース・パーティに集まっている子ってそういう(クラブで盛り上がった世代の下の下の)世代だし、遠慮なく楽しめるし。お金を持っていないと楽しめないみたいなパーティばっかりになっているから、ぼくらのリリース・パーティはエントランス・フリーでやった。そうしたら平日の夜なのに40人ぐらい集まって、20枚ぐらいのTシャツが売れた(笑)」
 実際のリリースまでまだ3ヶ月もあるのに、リリース・パーティをやるには早するだろう(※この取材は8月末)。「いや、それがいいんですよ」と彼らは不敵な笑いを見せる。最後にぼくは彼らの当面の目標を訊いてみた。「とくにああいう風になりたいというのはないんですけど……」こう前置きしたうえでUKDが力強く答える。「ゴス・トラッドさんの次に続くのは俺らでありたいと思いますね」
ダブル・クラッパーズの時代が近づいていると思うのはぼくだけじゃないだろう。

※出演情報
10/27 (金) 23:00- @Circus Tokyo dBridge & Kabuki pres. New Form
https://circus-tokyo.jp/event/dbridge-kabuki-pres-new-forms-tokyo/
11/3 (金) 23:00- @恵比寿Batica
Newsstand 2nd Anniversary


ようやくリリースされた待望の2nd EP「GET MAD」。
取扱店はDisc Shop Zero,Dubstore 、Naminohana Records、Disk Union Jet Set。Bandcamp : https://doubleclapperz.bandcamp.com/

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■ダブの新解釈──Mars89 

新しい動きとして面白いと思うのは、食品まつりさん。DJでは、セーラーかんな子ちゃんがおもしろいですね。彼女のDJは、毎回そう来るかという驚きがあって。DJとしてすごくユニークですね。

 パッションの塊のようなダブル・クラッパーズに対し、飄々としているのがMars89。彼は台湾で買ったという台湾語がデザインされた鮮やかなオレンジ色のTシャツを着て自転車に乗って現れた。待ち合わせ場所は都内の図書館の入口。ぼくは彼の顔を(そして電話番号も)知らない。しかし、彼が現れた瞬間に彼だとわかった。
 下北のレコード店、ZEROのカウンターに「Lucid Dream EP 」は売っていた。このカセットテープがMars89にとって2作目らしい。
 ちなみにブリストルのレーベル〈Bokeh Versions〉は、最近は、EquiknoxxのTime CowとLow Jackによる「Glacial Dancehall 2」、70年代末から80年代にかけて活躍したUKのレゲエ・バンド、 Traditionによる『Captain Ganja And The Space Patrol』のリイシュー盤を出している。
 Mars89の音楽もドープな残響音が拡がるダブだ。ヤング・エコー的な折衷を感じる。
「影響を受けているというか、毎回新鮮なインスピレーションをもらうのはOn-U Soundsとかですね」、彼はオールドスクーラーの名前を挙る。「アフリカン・ヘッドチャージは大好きだし、(トレヴァー・ジャクソンが監修した)『Science Fiction Dancehall Classics』というコンピレーションも好きですね。レゲエは好きだけど、実験的なダブが好きなわけで、ブリストル・サウンドも好きですけど、そんなに意識しているわけじゃない」

 Mars89がDJをはじめたきっかけは、兵庫県にいたときの「最初に遊びにいったパーティでやってたDJがめちゃくちゃヘタクソで。これでステージ立ってるんだったら自分がやったほうがいい」と思ったからだった。18か19で、エレクトロのパーティだった。いざやってみると自分よりもうまいDJが多いことに気が付いて、それならまだ誰も知らないような音楽をかけようとUKのアンダーグラウンド・ミュージックに手を出すようになった。
 ただし、「クラブ・ミュージックにいく前は、クラウトロックやポストパンク、ノイズ/インダストリアル、民族音楽系のエスノサイケとか、そういうのを聴いていた」。こうした感覚が、2010年代の〈L.I.E.S〉やLivity Sound、あるいはアイク・ヤードなどとリンクしたのだろう。

 彼と話しているとじつにたくさんのアーティスト名やジャンル名が出てくる。わずか10分も話せば、彼がどうしようもないほど音楽にどっぷりつかった人間であることがわかる。しかし、「境界線はない」とMars89は言う。「雑食的なんですよ。和ものも聴きますよ。浅川マキも好きだし、グループ・サウンズとかも好きだったんで、ブルー・コメッツとか聴いてましたね。ドラムとかがすごくファンキーなのがよくて。テクノ・ポップ系というか、YMOの派生系のものも好きですね」
 ポップという言葉ほど彼の作品から遠く感じられるのは事実だが……

 「僕の作品は、DJとしても使いにくいし、リスニングとしても多くの人に向いているわけではないと思うんですけど」と彼も認める。「ただ、メディテーションになるかもしれないですね(笑)」
 Mars89が曲を作りはじめたのは2年前だった。「本当に軽いノリだったんですけど、知り合いが新宿のDuusraaでビート・バトルみたいなイベントをやっていて、優勝したらヴァイナルを100枚刷れたんですね。それに参加してみなよと言われて、ノリで参加してみて初めて曲を作りましたね」
 彼はその後自主でカセットテープ作品をリリースして、〈Diskotopia〉のパーティで知り合ったAquadab & MC Aに渡したカセットが〈Bokeh Versions〉の手に渡り、気に入られて、今回のリリースとなった。幻想的なアートワークは画家をやっている彼の弟によるもの。

 Mars89にとっての音楽は、すなわちレベル・ミュージックである。踊って自由になることが重要、それがメッセージになればいいと彼は言う。
 音楽以外では映画からの影響が大きい。「曲を作るときにストーリーを与えないと曲が作れなくて。それこそ映画のサントラとかああいう感じのイメージじゃないと作れないんですよね。そのときに夢なのか現実なのかわからないような世界とか、知らない街にいるような感じをイメージしていて。夢のなかでいま夢だとわかっている状態とかそういう世界をイメージしていましたね」

 彼にも訊いてみよう。東京のサウンドってあると思う?
 彼は答える。「いまはなくて、これからできてくるかなと思いますね」
 この答えは、ダブル・クラッパーズのShintaと同じ。Mars89はさらに具体名を挙げて説明する。「新しい動きとして面白いと思うのは、食品まつりさんですかね」
日本からシカゴのフットワークへの回答のように捉えられた食品まつりだが、圧倒的なオリジナリティでいまや国際舞台でもっとも評価されているプロデューサーのひとり。
 Mar89は続ける。「DJでは、セーラーかんな子ちゃんがおもしろいですね。彼女のDJは、毎回そう来るかという驚きがあって。DJとしてすごくユニークですね。ほかにDJでは、年上ですけど、100madoさんも好きです」
 若い世代に絞って言うと、他に彼は〈CONDOMINIMUM〉も面白いと言う。「なかでも名古屋の人なんですけど、CVNって人の音が好きですね。アジアだったらTzusing(ツーシン)っていう上海のテクノの人ももしかしたら歳が近いかもしれない。〈L.I.E.S〉からよく出している人で、すごくアジア的なサウンドをうまく使いながらカッコいい曲を作っていて。BPM90~130くらいまでいろんな曲を作っていてカッコいいですよ」

 かつてはほとんど客がいないForestlimitで、1 Drinkと数時間ぶっ通しのバック2バックをやった経験もあるMars89は、「DJをやるといつも最年少だった」というが、最近はようやくダブル・クラッパーズのような彼より年下が出てきた。「ずっと自分が一番下だったというのもありましたし、年は気にしなかったんですけど、最近は少し意識するようになりましたね」

  Mars89は現在、UKDやKNK WALKSらといっしょに渋谷のRubby Roomで定期的にパーティをやっている。
「トライバル・ミュージックとか民族音楽的なものを含んだダンス・ミュージックをやっているパーティがあったら面白いんじゃないかと思ってはじめましたね。ダンスホール系とか、アフロ系の音ですね。クンビアとか、南米のローカル・ダンス・ミュージック的なものを取り入れて、それをUKやUSのダンス・ミュージックと同列で扱うようなパーティがやりたかったんですよね。アフロのパーカッションを聴くと絶対だれでも踊りたくなるし。そのへんで飲んでいる人がフラッと入ってきたりすることも多いですよ」

  渋谷の道玄坂の脇道からダンスホールが聴こえたら、冒険心を出して入ってみよう。東京の未来が鳴っている。

※出演情報
毎月第一水曜日 Noods Radio ( https://www.noodsradio.com/ )
毎月第二木曜日 Radar Radio ( https://www.radarradio.com/ )

酎酎列車 vol.7 @galaxy銀河系
11.25(sat)17:00~23:00
door/2000(+1D)
LIL MOFO
Mars89
speedy lee genesis
荒井優作

セーラーかんな子
テクノウルフ+テンテンコ

ブリストルのレーベルから出た、Mars89「Lucid Dream EP」。

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■クソヤバいものをブチ聴かす──Modern Effect

後ろ向きなModern Effectのふたり。

言葉の入っている音楽をあんまり聴きたくないというのがいまは強くなってきている。

 今回のレポートで紹介するなかで、あらゆる集団からもっとも孤絶しているのが、目黒/世田谷の外れで日夜音に埋没しているModern EffectのBack Fire CaffeとDocumentary aka Smoke Fable。ドレクシアの“リヴィング・オン・ジ”がお似合いの、ふたりである。
 なにしろ彼らときたら16ヶ月間ただひたすら作り続け、アルバム16枚分の曲が貯まったものの、自分たちの音源をどう発表すればいいのかわかっていなかった。

「ただひたすら作ってましたね」とBack Fire Caffe。彼は声が大きい。その人柄は、表面上では、作品のダークさの真逆と言えそうだ。「歩いているときもiPhoneでフィールド・レコーディングして、それを家に帰ってからピッチを変えたりして曲にしちゃおうとか」
「それは1日のサイクルですよね」とDocumentaryが静かに付け足す。「仕事が終わって空いた時間はできるだけこっちに来てもらって。作る以外でも映画を見るでも美術館に行くでも」

 ふたたびBack Fire Caffeがしゃべり出す。「全部音を作るために生活しているという感覚になっていちゃったよね!」
  彼の声は、取材に使った喫茶店の全席に響き渡ったことだろう。「もうひとりルームシェアしているやつがいて、そいつと作っていて。自分も初めはiPadのアプリで作りはじめて、そこから突拍子もないものができたんですけど。それがとにかく攻撃的だったんで“アタック”っていうジャンルをつけたんですね。その“アタック”っていうジャンルでやろうよ、というところからはじまりましたね」
 こういうベッドルーム・テクノ話が、お茶の時間を楽しんでいるご婦人たちやカップルたちの耳に入ってしまうのが、公共的喫茶店の面白さだ。

 それはさておき、こう見えても、Modern Effectには閉塞的な傾向がある。SNSの類はいっさいやらないというModern Effectの音楽をぼくが聴けたのは、ある偶然からぼくの手元に届いた、ヤバいものでも入っているんじゃないかというそのパッケージにそそのかされたらであるが、聴いて最初に感じたのは、何もかもを拒絶している感覚だ。誰も信用しない、絶対に希望はない、清々しいまでのネガティヴィティ……見せかけの繋がりは要らないと。ふたりにはクラブやレイヴで遊んでいた過去を持っているが、それがつまらないと感じたからこそ彼らはそれらの場から離れ、そして孤絶した現在を選んだ。

 ここで彼らに影響を与えたと思わしき音楽/好きな音楽をいくつか列挙してみよう。D/P/I(彼らにとっての大きな影響)、OPN(ただし『Replica』以前、ぎりぎり許せるのは『R Plus Seven』まで)、ARCA(とくに『ミュータント』)、Emptyset(音源を送ったら返事をもらった)、デムダイク・ステア、ティム・ヘッカー、〈Triangle Recordings〉や〈Subtext Recordings〉から出ている音源……彼らは最近のベリアルも気に入っている。
 彼らが目指すのは「クソヤバいものをブチ聴かす」こと。Back Fire Caffeが静かに言う。「クソヤバいものをブチ聴かすというのと、無国籍なものを考えていきたいと思っていますね」

 それぞれ別の飲食店で働きながら生活費を得ているふたりだが、在日インド人の下でハードに働くDocumentaryは、その環境を楽しんでいる。日本のなかの日本らしくない場所が彼らには居心地がいいのだ。
 Documentaryが続ける。「言葉の入っている音楽をあんまり聴きたくないというのがいまは強くなってきている。言葉の意味が出てくると音を純粋に追えないというか。もともとは歌や言葉が入っているものが好きだったんですけどね」

  現在のModern Effectは、自分たちの音楽をどのように届けるのかを模索中だ。初期ヴェイパーウェイヴのように、彼らにはまだ、自分たちの作品を売る気がない。値段付けられずに悩んでいるのだ。たしかなのは、作り続けること。HDの容量の限界まで。
 こうした悶々とした現状を変えようと、最近彼らは自分たちのホームページを立ち上げた(https://www.moderneffect.net/)。ここで彼らの音源は聴けるし、bandcanpでも彼らの音源は無料で聴ける(https://moderneffect.bandcamp.com/)。これらの作品のいくつかはUSBにコピーされて、ビニールにパックされるわけだが、リスナーがそれを購入できる機会がこの先どのような形で実現されるのかは神のみぞ知るだ。
 これからどうなるのか予測のできないModern Effectだが、彼らは音楽を作る上でもっとも重要なことを知っている。好きだからやる。たとえダンスフロアから人が逃げだそうと、彼らにとって最高の音が鳴っていればいいのだ。

※今後の予定
1年で365作品アップ(予定だそうです)

彼らのUSB作品の数々。この怪しげなデザインに注目。

(※この取材は8月下旬にほぼおこなっています。筆者の怠惰さゆえに掲載が遅れたことを、協力してくれた3組のアーティストにお詫びします)
(※※もちろん、今回取り上げた3組以外にもいるでしょう。いまいちばん尖っている音を出している人〈DJ以外〉をご存じの方は、ぜひぜひ編集部にご一報をー)

Oneohtrix Point Never - ele-king

 これは嬉しいお知らせです。11月3日に日本公開される映画『グッド・タイム』のディレクターズ・カット版サウンドトラックCDがリリースされます。こちら、なんと日本限定かつCD限定の試みとなっている模様。OPNによる『グッド・タイム』のサウンドトラックはすでにリリースされていますが、このディレクターズ・カット版は全曲フィルム・エディットで、オーダーも映画での流れに沿ったものとなっており、また未収録曲も追加されているとのこと。新曲の試聴はこちらから。

ONEOHTRIX POINT NEVER
カンヌを震撼させた映像すら飲み込む衝撃の映画音楽体験。
ロバート・パティンソン主演で注目の話題映画『グッド・タイム』
ディレクターズ・カット版サウンドトラックのCDリリースが決定!

本年度のカンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出され、主演のロバート・パティンソンが彼のキャリア史上最高の演技を披露していると話題を呼んでいる映画『グッド・タイム』。音楽を手がけたワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティンが、本年度のカンヌ・サウンドトラック賞を受賞し、アメリカで8月に公開された際には、セレーナ・ゴメスや全米シングル・チャート1位をもつ人気シンガー、ザ・ウィークエンドなども大絶賛するなど大きな注目を集める中、日本でも11月3日(祝・金)よりシネマート新宿ほかにて全国公開が決定している。

11月3日公開 ロバート・パティンソン主演『グッド・タイム』予告編
https://www.finefilms.co.jp/goodtime/

また本映画のサウンドトラック・アルバムとしてワンオートリックス・ポイント・ネヴァーが〈Warp Records〉から『Good Time Original Motion Picture Soundtrack』をリリースしており、映画のエンディング・テーマにもなっている“The Pure and the Damned”でイギー・ポップとコラボレートしたことも大きな話題となった。映画の日本公開を1ヶ月後に控えた中、公開を記念して、全曲フィルム・エディットで収録されたディレクターズ・カット版『Good Time... Raw』の日本限定リリースが決定し、新曲“Elara to Alley”が解禁された。

Oneohtrix Point Never - Elara to Alley
https://pointnever.com/elara-to-bank

本作『Good Time... Raw』は言わば『グッド・タイム』のサントラの完全版だ。オリジナルのサントラは今年8月にもリリースされたが、サフディ兄弟の片割れであるジョシュ・サフディが「映画のままでサントラを聴きたい」とリクエストしたため、完全版の『Good Time... Raw』が制作されることになった。ゆえに本作は映画の流れに沿った曲順であり、イギー・ポップが参加した“The Pure and the Damned”含め、全曲がFilm Editで収録されているほか、8月リリースのオリジナル・ヴァージョンには収められなかった曲も追加収録されており、『グッド・タイム』の世界観をより深く理解するためにも必聴の作品だ。

そんな本作は、これまでのロパティンからすると新たな側面といえる音が多い。とりわけ耳を引くのは、シンセのアルペジオが多用されていることだ。オリジナル・アルバムではあまり強調されないメロディーも前面に出ており、ロパティンのサウンドにしてはキャッチーである。とはいえ、殺伐としたドライな映像が印象的な映画本編と共振するように、不穏な空気を醸す電子音が多いところには、ロパティンが持つアクの強さを見いだせる。それが顕著に見られるのは、メタルみたいな大仰さが映える“Bail Bonds”や、人工的な8ビット・シンセが響く“Flashback”などだろう。また、“6th Floor”“Ray Wake Up”“Entry To White Castle”では秘教的な雰囲気を創出しているが、その雰囲気に『AKIRA』の音楽で有名な芸能山城組の影がちらつくのも面白い。サフディ兄弟とロパティンは、共に『AKIRA』好きとしても知られているが、そうした嗜好は本作にもあきらかに表われてい る。

本作は、ロパティンなりに映画の世界観と上手くバランスを取ろうとする客観性と、アーティストとしてのエゴが絶妙に混ざりあった作品だ。そんな本作を聴いて連想するのは、映画『ロスト・リバー』の音楽を担当したジョニー・ジュエル、あるいはドラマ『ストレンジャー・シングス』の音楽で知名度を高めたカイル・ディクソン&マイケル・ステインあたりのサウンドだが、こうした近年注目されているアーティストに接近したのはなんとも興味深い。そういう意味で本作は、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの次なる一手としても重要な作品になるだろう。

話題映画『グッド・タイム』ディレクターズ・カット版サウンドトラック『Good Time... Raw』は、映画公開と同日の11月3日(祝・金)に日本限定、またCDフォーマット限定でリリースされる。また本作には、ジョシュ・サフディによるライナーノーツおよび、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティンとジョシュ・サフディによるスペシャルな対談が封入される。また対象店舗にて、『Good Time... Raw』と『Good Time Original Motion Picture Soundtrack』を2枚同時で購入すると、オリジナル・クリアファイルが先着でもらえる。


label: Warp Records / Beat Records
artist: Oneohtrix Point Never
title: Good Time... Raw

cat no.: BRC-561
release date: 2017/11/03 FRI ON SALE
国内限定盤CD:ジョシュ・サフディによるライナーノーツ
ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとジョシュ・サフディによるスペシャル対談封入
定価:¥2,000+税

【ご予約はこちら】
amazon: https://amzn.asia/gxW5H63

商品詳細はこちら:
https://www.beatink.com/Labels/Warp-Records/Oneohtrix-Point-Never/BRC-561


label: Warp Records / Beat Records
artist: Oneohtrix Point Never
title: Good Time Original Motion Picture Soundtrack

cat no.: BRC-558
release date: 2017/08/11 FRI ON SALE
国内盤CD:ボーナストラック追加収録/解説書封入
定価:¥2,200+税

【ご購入はこちら】
beatkart: https://shop.beatink.com/shopdetail/000000002171
amazon: https://amzn.asia/6kMFQnV
iTunes Store: https://apple.co/2rMT8JI

商品詳細はこちら:
https://www.beatink.com/Labels/Warp-Records/Oneohtrix-Point-Never/BRC-558


映画『グッド・タイム』
2017年11月3日(祝・金)公開
第70回カンヌ国際映画祭 コンペティション部門選出作品

Good Time | Official Trailer HD | A24
https://youtu.be/AVyGCxHZ_Ko

東京国際映画祭グランプリ&監督賞のW受賞を『神様なんかくそくらえ』で成し遂げたジョシュア&ベニー・サフディ兄弟による最新作。

出演:ロバート・パティンソン(『トワイライト』『ディーン、君がいた瞬間』)、ベニー・サフディ(監督兼任)、ジェニファー・ジェイソン・リー(『ヘイト・フルエイト』)、バーカッド・アブティ(『キャプテン・フィリップス』)
監督:ジョシュア&ベニー・サフディ兄弟(『神様なんかくそくらえ』)

ニューヨークの最下層で生きるコニーと知的障がい者の弟ニック。2人は銀行強盗を行うが、弟が捕まり投獄されてしまう。しかし獄中で暴れ病院へ送られると、それを聞いたコニーは病院へ忍び込み、警察が監視するなか弟ニックを取り返そうとするが……。

2017/アメリカ/カラー/英語/100分
© 2017 Hercules Film Investments, SARL

配給ファインフィルムズ

Good Time - ele-king

 これ、なかなかおもしろい映画ですよ。前作『神様なんかくそくらえ』で東京国際映画祭グランプリと最優秀監督賞を受賞したジョシュ&ベニー・サフディ監督による新作、『グッド・タイム』。下層に生きる人間の生を独特の角度から捉えつつ、ハラハラドキドキも忘れない、素敵な映画に仕上がっております。OPNによる音楽も刺戟的で、挿入箇所がこれまたなんとも絶妙なのです。そんな『グッド・タイム』、日本での公開は11月3日ですが、それに先駆け、10月24日に渋谷ユーロライブにて先行試写会が催されます。本編上映後には、映画・音楽ジャーナリストの宇野維正氏をお迎えしたトーク・イベントも開催される予定です。
 その『グッド・タイム』試写会に、10名様をご招待いたします。件名に「グッド・タイム試写応募」と入れ、本文にお名前とメール・アドレスをご記入の上、下記までメールをお送りください。当選された方にのみ、編集部よりご案内を差し上げます。

応募先:info@ele-king.net
応募〆切:10月15日(日)23:59

『トワイライト』『ディーン 君がいた瞬間(とき)』
ロバート・パティンソンの神演技を世界が絶賛!
第70回カンヌ国際映画祭 コンペティション部門選出作品
『グッド・タイム』
試写会プレゼントのご案内

【日程】 10月24日(火) 
18:30開場 19:00スタート予定 (上映時100分)

【場所】 ユーロライブ

住所:渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 2F ユーロスペース内
JR・地下鉄 渋谷駅から徒歩10分。駅よりかなり遠いため、余裕を持ってお越しください。
ご招待数:10名様 (提供:ファインフィルムズ)

●応募先・当せん案内:ele-king編集部(info@ele-king.net)
●当日は受付で、当せん案内メールもしくは、当せん案内メールをプリントアウトしたものを確認させて頂きます。
満席の際、及び開映後のご入場はいかなる理由でも、一切お断りいたします。予めご了承ください。
●本試写会はSNSアカウントをお持ちで、SNSからの感想、口コミ拡散をご協力頂ける方のみご応募下さい。
●当日は上映後にトークイベントがございます。
本作はR15+の作品の為、15歳未満の方の応募はご遠慮ください。

●主演は『トワイライト』シリーズで一躍世界的に有名になり、『ディーン 君がいた瞬間(とき)』(アントン・コービン監督)、『コズモポリス』(デヴィッド・クローネンバーグ監督)など、著名監督の作品にも次々出演してきた人気俳優ロバート・パティンソン。本作ではニューヨークの最下層で生き、投獄された弟を助けようともがく孤独な男コニーを演じ、カンヌ映画祭で“パティンソンのキャリア史上最高の演技”と称賛された。監督は、『神様なんかくそくらえ』で2014年・第27回東京国際映画祭グランプリと最優秀監督賞をW受賞した兄弟監督ジョシュ&ベニー・サフディ。コニーの弟ニック役にはベニー・サフディが監督と兼任し、他『ヘイトフル・エイト』のジェニファー・ジェイソン・リーらが出演。音楽にも監督自ら力を注ぎ、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(OPN)に音楽制作をオファー。伝説のロックスター、イギー・ポップも参加したサントラで「カンヌ・サウンドトラック賞」を見事受賞している。本作は11月3日(祝・金)よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開。

【ストーリー】 ニューヨークの最下層で生きるコニーと弟ニック。2人は銀行強盗を行うが、弟だけ捕まり投獄されてしまう。コニーは言葉巧みに周りを巻き込み、夜のうちに金を払って弟を保釈できるよう奔走する。しかしニックは獄中で暴れ病院送りになっていた。それを聞いたコニーは、病院へ忍び込み警察が監視するなか弟を取り返そうとするが……。

出演:ロバート・パティンソン(『トワイライト』)、ベニー・サフディ(監督兼任)、ジェニファー・ジェイソン・リー(『ヘイトフル・エイト』)、バーカッド・アブディ(『キャプテン・フィリップス』)
監督:ジョシュ&ベニー・サフディ(『神様なんかくそくらえ』)
2017/アメリカ/カラー/英語/100分
原題:GOOD TIME
配給:ファインフィルムズ
© 2017 Hercules Film Investments, SARL
公式HP:www.finefilms.co.jp/goodtime

319 (Oneohtrix Point Never & Ishmael Butler) - ele-king

 コラボ大魔王……思わずそう呟いてしまった。アノーニ、FKAツイッグス、DJアール、デヴィッド・バーン、イギー・ポップ、と、どんどん交友関係を広げていくワンオートリックス・ポイント・ネヴァーが、またまた新たなプロジェクトを始動させた。今度のお相手はシャバズ・パレセズのイシュマイル・バトラーで、ユニット名は「319」。毎年好例のAdult Swim Singlesの企画で、新曲“The Rapture”が公開されている。いよいよ誰と何をやっているのか把握しきれなくなってきたOPNだけれど、ここまできたらもうどこまでも喰らいついていくしかない。

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとシャバズ・パレセズのイシュマイル・バトラーによるニュー・プロジェクト、「319」が始動! 新曲“The Rapture”をAdult Swim Singles 2017にて公開!

11月公開の映画『グッド・タイム』のサウンドトラック・アルバム『Good Time Original Motion Picture Soundtrack』でカンヌ・サウンドトラック賞を受賞したワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとシャバズ・パレセズのイシュマイル・バトラーが、「319」と名付けられたコラボレーション・プロジェクトを発表。新曲“The Rapture”が、米カートゥーン・ネットワークの深夜枠Adult Swimの企画《Adult Swim Singles》で公開された。

319 (ONEOHTRIX POINT NEVER + ISHMAEL BUTLER) - THE RAPTURE
https://www.adultswim.com/music/singles-2017

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーにとっては、アノーニ、FKAツイッグス、デヴィッド・バーン、そして『Good Time Original Motion Picture Soundtrack』に収録されたイギー・ポップとのコラボレーション・トラック“Pure and the Damned”に続く、新たなコラボ・プロジェクトとなる。

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label: Warp Records / Beat Records
artist: Oneohtrix Point Never
title: Good Time Original Motion Picture Soundtrack

cat no.: BRC-558
release date: 2017/08/11 FRI ON SALE
国内盤CD:ボーナストラック追加収録/解説書封入
定価:¥2,200+税

【ご購入はこちら】
beatkart: https://shop.beatink.com/shopdetail/000000002171
amazon: https://amzn.asia/6kMFQnV
iTunes Store: https://apple.co/2rMT8JI

【商品詳細はこちら】
https://www.beatink.com/Labels/Warp-Records/Oneohtrix-Point-Never/BRC-558

ギミー・デンジャー - ele-king

『パターソン』評からのつづき)
 というのも、ダニエル・ロパティンのワンオートリックス・ポイント・ネヴァー名義の新作『グッド・タイム』はジョシュアとペニー・サフディ監督の同名映画のサウンドトラックであるところからの推測というか臆断というか邪推にすぎないが、アルバム唯一のヴォーカル曲にOPNはイギー・ポップを起用しているのである。ロパティンの映画音楽といえばソフィア・コッポラの『ブリング・リング』も記憶に新しいが、『グッド・タイム』は全面的に携わった2作目の作品となる、本作の詳細は三田格先生の目から血の出そうな鋭い評文をお読みいただきたいが、90年代までの細分化――ジャンル的なものであるとともに原理的な側面もあったそれへ――の反動のように電子音楽そのものを再定義する、というより、現代音楽からダンス・ミュージックからポップ・ミュージックまで、デンシノオトさん以外のおよそ電子と名のつくものをとりこみたがるきらいがある。むろんエレクトロニックな音楽ばかりかノイズでさえも、聖域たりえぬ現在の音楽の趨勢もそこには寄与しているにせよ、ロパティンの方法とセンスは頭ひとつ抜けている。その世代の旗手と呼んでさしつかえないが、おそらくそこには具体の音が具体であるがゆえに記名的であるのであり、したがって描写的であるという逆説も働いている。そもそも抽象としての音の反語だったはずの具体の音が時代をくだるうち情報になった。サンプリングなど、個別の方法との比較は本稿の任ではないが、21世紀の「音楽」はすべからく情報の付帯音楽サウンドトラックであるなら、声(=ことば=意味)を主体としない音楽であるならなおさら映像喚起的である。OPNが映画音楽にとりかかるのもゆえなきことではないどころか、筋書きどおりとさえいえるが、かといって『グッド・タイム』は予定調和なのではない。私は本編は未見なので映画そのものには言及しないが、ゴブリンから神秘主義を減算することでポップにゴシック化したようなスコアにはロパティン印の多義性と柔軟性と、そこからくるB級趣味が聴きとれる。機能性を加味した本作をOPN名義にしたのは意外でもあったが、10年におよぶ活動が映画音楽のフォーマットでもロパティンは自由に腕を揮える確信をもたらしたのか、分岐した人格(名義)を統合する作家性をえたのか。いずれにせよ『グッド・タイム』はサウンドトラックとオリジナル・アルバムのおとしどころとしては絶妙である。
 こと終盤にいたってはそうだ。
 そこにやおらイギー・ポップがあらわれる。ピアノ伴奏による“The Pure And The Dammed”。ピアノの音は残響を加工してある、それにたいしてイギーの歌はナマである。ささやくようなイギー流のクルーナー唱法とでもいうべき深々とした歌いっぷりはレナード・コーエン化したスコット・ウォーカーのようであり、だれもが知るあのイギー・ポップではない。むろんイギーには、近作にかぎっても、ウエルベックの『ある島の可能性』に着想をえた深く沈静するトーンが支配的な『プレリミネール』(2009年)などもあるので、パブリック・イメージも一概ではないだろうが、であれば、イギー・ポップの公とはなにか。そのとき私性はどうふるまうのか。


© Byron Newman

 ジム・ジャームッシュの『ギミー・デンジャー』はミシガン州マスキーゴンに生まれトレーラーハウスで幼少期をおくったジェームズ・ニューウェル・オスターバーグ・ジュニアが、たびかさなるトラブルの果てにいかにしてパンクのゴッドファーザー、ストゥージズのフロントマンとなり、いまなにを考えるのか、終の棲家であるストゥージズの来歴をたどりうかびあがらせる。原点となるのはストゥージズの誕生年である1967年。そこに、イギー・ポップ、ロンとスコットのアシュトン兄弟、デイヴ・アレクサンダーらの前史が集約されていく。
 アナーバーのハイスクール・バンド、イグアナズのドラマー、ジム・オスターバーグと同郷でチョーズン・フューなるバンドをやっていたロン、弟のスコットにドラムを仕込んだのはジムことイギーだった。デイヴはアシュトン兄弟の妹のキャシーがたまたまみかけ誰だか声をかけてみたらといったのが縁になり、オリジナル・ストゥージズが出そろった。全員10代、最初はダーティ・シェームス(汚い恥)と名乗っていたが名乗っただけで満足したので音楽まで頭がまわらなかったが、一念発起し、共同生活――イギーは、俺たちは共産主義者だったと作中で主張するが、政治性を抜きにした原始共産制にちかい、つまるところコミューンであるそれ――をとおし、しばしばラリったりしながら切磋琢磨し、音楽経験を積んでいった。当時イギーはレコード屋に勤めていて、ジョン・ケージ、サン・ラー、クリスチャン・ウォルフ、ヴェルヴェッツ、ファラオ・サンダース――らのレコードを聴き影響を受けたが、なかでもハリー・パーチは別格だったという。パーチは平均律に疑義を唱え純正律に傾倒したのち、微分音による理論を完成しそれに基づく幾多の楽器を制作したことでもよく知られている20世紀音楽を代表する作曲家のひとりである。ダイアモンドマリンバ、バンブーマリンバ、クロメロデオン、キタラ、ハーモニックカノン、日本の箏をもとにしたKOTOなどもふくめ、パーチの自作楽器は風貌のみならず音までも野趣に富み、楽曲は荒野の石のように質朴で孤立している。ためしに、ウディ・ガスリーにジャド・フェアがバックをつけたような“Barstrow”を聴いていただければ、現代音楽といったときにひとが想起するものとの落差をご理解いただけるだろう。柿沼敏江は『アメリカ実験音楽は民族音楽だった――9人の魂の冒険者たち』(フィルムアート社/2005年)でパーチはじめ、ルー・ハリソンらを米国の風土のなかで読み解いているが、フォークロアに根ざした表現はかならずしも特定の価値観に収斂しない。日本の歴史が近代(明治)にはじまるわけではないのとおなじように、フォークロアの起点は無数にあり、歴史は単線ではないうえに主体の想像力の限界を意味するはずもないのに、そう考えたがるあんぽんたんがあまりに多すぎるというようなことを、私は『ユリイカ』の今年の1月号に書いたつもりだが、紙幅の都合で書けなかったことのひとつに、ハリー・パーチがホーボーだったことがある。ホーボー(hobo)とは貨物列車などにただ乗りし放浪生活をおくる、いわゆる「浮浪者、渡り労働者(ランダムハウス英和大辞典)」であり、上述の「Barstrow」はパーチのホーボー体験を下敷きにしたものだが、個々の視点の堆積としてのフォークロアは国民国家のなかに別様の地図を描かざるをえない。音楽にかぎらず、ことばや視覚表現や造形や行為そのものがネイションの無意識にフォークロアを潜在させる。おそらく詩がそうだ。私は拙稿でホイットマンを引いたが、ホイットマンにかぎらず、詩はその象徴性で歴史を超え現在を覆う。ジャームッシュが『パターソン』でやりたかったことのひとつもそれだろうし、私は先日アップした原稿で書き漏らしたが、主人公の妻がギターで“線路の歌”(日本では「線路は続くよどこまでも」の題の童謡になっているが、原曲は大陸横断鉄道にたずさわる線路工夫の労働歌であるこの曲を子ども向けにしたのも音楽を輸入品とみなし関税をかけるように骨抜きにする明治的近代的官僚的な教条主義のいったんではあるがここでは置いておく)を弾きがたる場面にはおそらく労働者と移動者の暗喩がある。ジャームッシュは終始漂白する人物を主題にする映画作家であり、パーチにフォーカスしたのにはそのような共感の裏打ちがあったのではないか。むろん共感はまずもって音楽においてはじまるが、ファースト『The Stooges』(1969年)で世に出る以前に彼らにこのような下地があったのは特筆すべきである。
 それとともに彼らが拠点としたミシガン州アナーバーの状況も見逃せない。ニューヨークとサンフランシスコの中継点であるアナーバーは60年代末文化革命の先端にあった。実験的な音楽やフリーなジャズが騒々しいロックと混在していた。たとえば60年代末、ことに67~69年にかけてジャズ・クラブ以外へ活動の場を広げていたサン・ラーもそのひとりである。ラーにはストゥージズやMC5との共演歴がある、と湯浅学の『てなもんやSUN RA伝 音盤でたどるジャズ偉人の歩み』(ele-king Books/2014年)にある。仕掛け人はジョン・シンクレアである。

デトロイトでアーティスト・ワークショップ開催に尽力し、ジャズやブルースにかんする学究的貢献をし、アンダーグラウンドな新聞や雑誌だけではなく『ダウンビート』誌や『ヴァイブレーション』誌などへも音楽論や政治論や文化論をまじえて幅広く積極的に執筆活動を行い、グランデ・ボールルームを拠点のコンサートを運営し、ホワイト・パンサー党を主催していたジョン・シンクレアは、MC5のマネージメントを引き受けながら、ジャズ・ミュージシャンとMC5やストゥージズ、ファンカデリックなどのデトロイト周辺のアクの強いバンドとを同じステージにブッキングすることに積極的だった (同書)


© Danny Fields/Gillian McCain

 69年8月のウッドストック、同年12月のストーンズのオルタモント――本作のタイトルはいわゆる「オルタモントの悲劇」をおさめた映画『ギミー・シェルター』が由来であるのはいうまでもない――、ジミ・ヘンドリックスが死の直前に出演した70年のワイト島など、この時期はみなさんが夏休みに出かけていく今日のフェスティヴァルの雛型ができあがった時期でもあった。上述の引用文につづく一文には、MC5のウェイン・クレイマーの以下の発言がみえる。「観客がサン・ラーを理解した様子を見せるまでは、このまま暴動になってしまうのではないかと思った」その場を渾沌が支配していた、行楽まがいのフェスではなかった。
 『ギミー・デンジャー』には初期ストゥージズのライヴ風景もたっぷり入っている。ステージ上でのけぞり、手を叩き、足を踏みならし、でんぐりがえり、マイクを咥え、血をながし彷徨するイギー・ポップは渾沌を体現するというより渾沌に弾き飛ばされ正対しながら七転八倒する怒り狂った猿のようだ。舞台上から客を挑発し観客もむやみにそれに乗る。脂肪率の低い身体で決めるポーズは江頭2:50にも影響を与え――などというと熱心なファンの不興を買いそうだが、私とてそのひとりである。評判は口こみに伝わり、MC5をスカウトに来たダニー・フィールズの目にとまり、68年9月22日MC5とともにストゥージズはついにエレクトラと契約を果たすが、粗野で荒々しいロックンロールは、私がこれまでくどくど述べてきた状況を血肉化したものであるならまだしも、余剰を削ぎ落としシェイプしたものであることには、各自いまいちど思いを馳せるべきである。
 むろんショービズの世界はなまやさしいものではない。まずロンがコメディ番組『三ばか大将(The Three Stooges)』のモー・ハワードに電話し、バンド名にストゥージズを使う許諾をとった。翌月には“アイ・ワナ・ビー・ユア・ドッグ”“ノー・ファン”、彼らを代表する2曲ができたらもう69年である。ニューヨークにおもむいた中西部の4人組はプロデューサーであるヴェルヴェット・アンダーグラウンドのジョン・ケイルとともにスタジオに入った。グループ名を冠したファーストでは上述の2曲が印象的だが、デイヴ発案による我流マントラ“ウィ・ウィル・フォール”が2曲のあいだの消失点のようになり、アルバムは奥行きを増している。おりしもフラワームーヴメントの時代であり、ハッピーなヒッピーにたいする屈折した闘争心もストゥージズの面々にはあったようだ。70年代の幕開けとともに、バンドは「ラリったメイシオ・パーカー」役のスティーヴ・マッケイを迎えロスで70年の『ファン・ハウス』を、デイヴィッド・ボウイの招きでロンドンに渡ったイギーとジェームス・ウィリアムスンを中心にサード『ロウ・パワー』(73年)を録り、アメリカに舞い戻り、薬禍に苛まれ、ストゥージズであることの重みを支えきれなくなったように瓦解する。やがてデイヴが鬼籍に入り、ついで時代はくだり、ストゥージズは忘却の底に沈むかと思いきや、パンクの到来とともにその音楽は息を吹き返す。デッド・ボーイズ、ディクテイターズ、ピストルズ、ダムド、ソニック・ユース、ブラック・フラッグ、バッド・ブレインズ、ジャームス、スリッツ、ニルヴァーナ、ホワイト・ストライプス――ジャームッシュはストゥージズに影響を受けたバンドを胸いっぱいの愛とともに列挙していくが、その圏域はパンクにとどまるものではなかった、その理由のひとつはソロになってからのイギーの継続的な活動にあったのだろうが、ジャームッシュは『ギミー・デンジャー』をイギー・ポップ史観におとしこむのではなく、あくまでストゥージズの物語として語りきっている、『イヤー・オブ・ザ・ホース』(97年)がニール・ヤングではなくクレイジー・ホースのドキュメンタリーだったように。


© Low Mind Films

 語り口はいたずらに伝説を鼓吹するものでもなく、かといってその前に跪拝するわけでもない。おそらく制作上の制約――ストゥージズ再結成の時期と撮影期間が重ならなかった――から本作は基本的にアーカイヴ映像とインタヴューとジェームズ・カーによるアニメーションで構成することになったが、ジャームッシュはそれを逆手に、かつて『イヤー・オブ・ザ・ホース』で試み、すでにドキュメンタリーの定番となっている密着スタイルを本作で相対化しようとする。『ホース』と『デンジャー』のあいだには20年ちかくの短くない時間がながれ、そのあいだ、冒頭に述べたように映像の位相も変化した。ノンフィクションとフィクションを分かつ「ノン」は「ノー・ファン」における「ノー」ほど強い否定性を帯びず、虚構のヴァージョンを意味するにすぎない。ペドロ・コスタしかり、アピチャッポンでもジョシュア・オッペンハイマーでも森達也でも松江哲明でも、形式の定義が作品の立ち位置を左右する昨今において、ジャームッシュはあたかも雑誌を編集するように、シームレスにアーカイヴ映像をつないでいく。その手捌きは、ストゥージズがそうであったようにスピーディでユーモラス(というよりコミカルといったほうがこの場合ふさわしいだろうか)でエモーショナル。ときにクリスチャン・マークレーの『ザ・クロック』を彷彿するほどテクニカルで唯物的かつメタフォリカル(『パターソン』を想起されたし)でもあり、両者の比較検討もまたことのほか興味深いが、それはまた別の話である。(了)

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