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Skunk Heads

Skunk Heads

Anti-Hero

Black Smoker

Amazon

二木 信 Dec 31,2009 UP

 12月29日の深夜、渋谷の〈asia〉で観たシンク・タンクの復活ライヴは素晴らしかった。あの場に立ち会えたことを心の底から嬉しく思う。そして、ライヴまで酒で撃沈しなかった自分の節度に感謝し、その後案の定記憶を飛ばした(テキーラ祭りには参ったよ。札幌の方々は本当によく飲みますね、DJ KEN(MJP)! 磯部涼はいつの間にかいなくなっていたが......)。00年代を通じて、ジャンルの領域を横断し音楽的実験を繰り返してきた〈Black Smoker〉がオーソドックスなヒップホップ・ライヴに真正面から向き合った結果生じたケミストリーは、こちらの想像を軽々と超えるものだった。制限やルールを取っ払い、フリー・ジャズ、ノイズ、ダブへと向かっていた彼らのフリーフォームな感性は、ストリクトリー・ヒップホップのフォーマットを採り自分たちを縛ることで逆説的に別種の自由さを手に入れ、4人のラッパー――K-BOMB、JUBE、BABA、NOX――とサックス奏者、CHI3CHEE、そしてDJ YAZIは、ファースト・フル・アルバム『BLACKSMOKER』(02年)に収録された曲にまったく異なるブラックな息吹を吹き込んだ。それにしても彼らの人気には凄いものがある。これは2009年の日本のヒップホップにおける重要なトピックなので、2009年を振り返る原稿でも触れます。

 さて、ここで本題。シンク・タンクが復活したのは何を隠そうBABAが現場に復帰したからで、ここで紹介するのはBABAによるバンド・プロジェクト、スカンク・ヘッズのファースト・フル・アルバム『Anti-Hero』だ。スカンク・ヘッズは、BABA(MPC &ヴォイス)が、Matsu"ZAKI"haze(ギター&ノイズ)とkeita morisawa(ドラム)と共に、2007年に結成したバンドで、これまで2枚のミニ・アルバムと1枚のライヴ盤『LIVE A LIVA of スカンク・ヘッズ』を発表している。2003年に発表したファースト・ソロ『NO CREDIT』やBLUE BERRY名義でのMIX-CDシリーズでBABAの才能の片鱗を伺い知ることができるが、本作では、BABAのラッパー/トラックメイカー/プロデューサーとしての総合的な才能が爆発している。『Anti-Hero』は、ポスト・パンクとヒップホップとの出会いとでも形容できようか。例えば、ア・セートゥン・レイシオがラップに挑戦する様を想像して欲しい。あるいは、僕はヴァーミリオン・サンズの凶暴なダブ・ロックを思い出した。K-BOMBとJUBEのユニット、THE LEFTYがジャズだとすれば、スカンク・ヘッズはロックだ。もちろん、ダブ、ファンク、サイケ、ブルースを飲み込み、ヒップホップがベースにある雑食性の強いロックで、混沌を祝福する音楽だ。間違っても陳腐なミクスチャー・ロックではない。黒煙で覆われた地下空間を切り裂くような凶暴で繊細なアンサンブル、強靭なグルーヴ、BABAの呪文のようなライムと幻想小説を思わせるリリックがコンクリート・ジャングルの地表を揺るがす。まさに暗黒世界のオーケストラが奏でるレベル・ミュージックとでも言える強烈なサウンドだ。蛇のようにうねるベースとレゲエ・ディージェー、牛若丸のトースティングが絡み合う"STONE HAZE"、プログレ・ロックのようなイントロからダブステッピーなビートへと展開する"THE ONE"、SOIL&"PIMP"SESSIONSのTABU ZONBIEの濡れたトランペットの音色が哀愁を誘う"HERE WE AR"。全12曲、さまざまな表情を持った曲が並ぶ。

 11月中旬以降、野田(努)さんが2009年を振り返る原稿で触れている『ゼロ年代の音楽――壊れた十年』という本の執筆もあって100枚以上のアルバムを聴いたと思うが、それでもこういう刺激的な音楽が世の中で鳴っている限り、僕はまだまだ音に貪欲になれる。現在我が家では、緻密なアレンジによるファンク・サウンドを展開した、椎名林檎「能動的3分間」と『Anti-Hero』がヘヴィーローテーションである。この2枚はファンクとロックというキーワードにおいてコインの裏表のように思われる。これについてはまだ裏づけがあるわけじゃない。僕の個人的な妄想の域を出ない戯言だ。さて、最後にBABAの素晴らしいパンチラインをふたつほど引用しよう。「悪夢とモラルをシェイク」「ただでさえクセー町に悪臭撒き散らす/戯言吐き出す」("THE ONE")。
 ということで、2010年も戯言を町に吐き続ける。
 
追記:ネットでも流れている、僕が『Anti-Hero』に寄せた文章の記名が一部で「二木崇」さんとなっているのは誤りです。念のため。

二木 信