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Home >  Reviews >  Album Reviews > Tengoku Plan World a.k.a Hidenka- Plane The Plant Part.2

Tengoku Plan World a.k.a Hidenka

DubElectronicExperimentalHip Hop

Tengoku Plan World a.k.a Hidenka

Plane The Plant Part.2

Blacksmoker

TENGOKU PLAN WORLD ONLINE SHOP

二木信 Dec 16,2013 UP

 『Plane The Plant Part.2』は、天国プランワールド(=ヒデンカ)のビート・ミュージック集だ。ヒデンカはラッパーであり、DJであり、トラックメイカーでもある。ソロ・アルバムも出しているし、ガーブルプー! やドゥービーズというヒップホップ・グループの活動でも知られている。ドゥービーズの唯一のオリジナル・アルバム『DOOBEEIS』(2010年)は、ブラック・ムーン(『エンタ・ダ・ステージ』)とマッシヴ・アタック(『ブルー・ラインズ』)とトリッキー(『プレ・ミレニアム・テンション』)とダドリー・パーキンスのデクレイム名義の諸作品が渾然一体となったような、最高にぶっとんだ傑作だった。スペースゴーストパープの暗黒のファンク・サウンドにも通じている。音による酩酊を徹底的に追求したという意味において、ジャパニーズ・ヒップホップの金字塔と言っても過言ではないと思っている。いや、ジャパニーズ・ヒップホップという枠が彼らには余計だったのだ。とにかく悲しいことに、あまりに不当に知られていない。何万枚も売れる音楽ではないが、この作品はもっと影響力をもって良かったはずだ。

 それと似た思いを、ここで紹介する『Plane The Plant Part.2』にも抱いている。発売から数ヶ月経つが、「あれ、この作品もスルーされていくのかー」と。いや、仕方がない。この世知辛いご時世に、この作品は300枚限定の流通なのだから。みんなそれぞれ違う音楽を聴いている時代だ。と、嘆いていてもまさに仕方がないので、僕はこうやってキーボードをかちゃかちゃ叩いている。
 ズバッと言ってしまうと、『Plane The Plant Part.2』は、DJクラッシュやDJケンセイ(インドープサイキックス)やデブ・ラージ、レイ・ハラカミや砂原良徳といったビート・サイエンティストたちの遺伝子の融合物である。ストイックなビートの美学があり、ファンキーなシンコペーションがあり、エレクトロニックなビートの洗練された響きがある。そして、ここにある無国籍感覚は特別なもので、そこに僕は天国プランワールドの才能を感じる。民族楽器のサンプリングが織り成す牧歌的で美しいトラック、ムード歌謡をダブワイズしたような妖しいトラック、〈ベーシック・チャンネル〉ばりの透徹したダブ・トラックがある。スカイ・ハイ・プロダクションのジャズ・ファンクをリミックスしたような曲もある。それだけではない。実験的なビート・ミュージックもある。「じゃあ、何が新しいの?」と問われても、僕はいまわからないとしか答えられないが、膨大な量のサンプリングから構成されたこの27曲を聴いて思うのは、ビートは歌だということだ。ビートは詩だということだ。

 曲名をつけるのがめんどくさかったと言わんばかりに、曲名には“A”“B”“C”……“X”“Y”“Z”と、アルファベットが順番に付けられている。ただ、このビート集にストーリーがあるのではないか、ストーリーもあるのではないかと気づいたのは、“U”の後半を聴いているあたりだった。青空のなかを飛行機がジェット音を吐き出しながら、雲を切り裂いていく。水面に広がる波紋のような美しい電子音が響き渡る。乾いたスネアがやさしく打たれる。そして、音がパタリと止み、次の瞬間、郷愁を誘う三線の音色と虫の鳴き声、市場のささやかな喧騒が聴こえてくる。ああ、沖縄に来たのだなと思った。昼間は、新鮮な食材の強烈なにおいが漂う那覇の市場で過ごし、夜になって読谷の静かな海岸沿いにやってきて、暗い海を眺めながらたそがれているのだろうなと思った。ミュージック・コンクレート的要素もあると言えば、たしかにある。僕が思うには、『Plane The Plant Part.2』はビートの壮大な旅なのだ。ロマンチックなトリップだ。

 2014年1月15日には、ヒデンカとFUMITAKE TAMURA(BUN)の共作『MUDDY WATER』がリリースされる。ヒデンカのラップ/ポエトリー・リーディングとBUNのビートの融合だ。僕はこの作品をひと足先に聴いたが、キター!! と思った。痺れた。アルバムからの、色気のある先行曲“RAT”を聴きながら、発売を待とう。

二木信