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神聖かまってちゃん

神聖かまってちゃん

Perfect Music

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磯部 涼 Jan 12,2010 UP

 ハスラー・ラップが、現代の日本に生まれつつある新たな貧困層予備軍の恐れと苛立ちを音楽で表現する、政治的に最先端のジャンルだとしたら、この国のインディ・ロックではまだまだ(80年代の延長線としての)90年代を引きずり続けるようなモラトリアムなバンドが幅を利かせていて、そんな中、昨年、久々に切羽詰った音を聴いたなと思ったのが神聖かまってちゃんだった。この、理性のある大人だったら間違いなく苛立つだろう、ふざけた名前を掲げる4人組みは、実際、メンバーは20代前半という若さで、ライヴハウスよりもインターネットを拠点に活動して来たという点、所謂2ちゃん用語やアニメからの引用を好んで使う点等も含め、そのセンスの端々に、ある世代より上はジェネレーション的/カルチャー的ギャップを感じるに違いない。しかし、新しいものというものはいつだって違和感から生まれてくるのだ。

 そんな通称"かまってちゃん"が最初に名を挙げたのは、彼等自身が画像配信サイト「ニコニコ動画」にアップした膨大な量の映像によってだった。特に「ニコニコ生放送」というリアルタイムで映像を配信し、視聴者がそれに対してコメントを付けていくことが出来るサービスを使って、例えば街頭にノートブックを持ち出してライヴを決行、警察官と揉める様子まで流し、そこに視聴者から入ってくる突っ込みに逐一応えていくような極めて現代的なスタイルはカルトな人気を呼んだ。ただし、彼らの音楽性自体はむしろ、メロディアスなポップ・パンクの上でナイーヴなリリックが延々と歌われる、実にオーセンティックなものである。というか、メロコアの二番煎じである青春パンクの出涸らしとさえ言ったっていい。だから、僕は初めてライヴを観た時、そのサウンドには大して興味を持てなかった。しかし、ヴォーカリストの"の子"の、MCで客やメンバーをひたすら罵倒し、曲に入ると目を引ん剥いて絶叫する癖のあるパフォーマンスが妙に引っかかり、気付けば当初はつまらないと思っていた楽曲にも惹かれていったのだった。聞くところによると、別のライヴでは、の子がカミソリで腕を切り刻んで最前列にいた女の子客に血しぶきを浴びせ気絶させたり、大抜擢となった「サマー・ソニック」の新人枠では、の子がその模様を配信しようとするもノートブックが不調で、復旧させようといじっているあいだに持ち時間がなくなり、1曲だけ怒涛のごとく演奏し客を呆気に取ったという。また、そのパフォーマンスには、世代的に影響を受けただろう椎名林檎のように演劇的でもなく、銀杏BOYZのように扇動的でもない、何処か独りよがりな、だからこそ得体の知れないものが感じられた。果たしてそれが一体何なのか、インタヴューのためにの子の家を訪れた際に少しだけわかったような気がした。

 彼が生まれ育ち、今も住んでいる自宅は、千葉県柏市の千葉ニュータウンという、建設から30年以上が経ち、近年、老朽化と過疎化が不安視される巨大団地群の一室である。某日深夜、東京から約2時間かけてようやくその場所に辿り着くと、団地の前で他のメンバーが待っていて、部屋まで案内してくれた。そして、僕はドアを開けた瞬間、飛び込んで来た光景に目を疑ったものだ。部屋中を埋め尽くす物、物、物。マンガ雑誌、アニメのDVD、食べたままになっているカップラーメン。襖は破れ、壁には穴が開いている。呆然と立ちつくしていると、父親と思しき大人しそうな中年男性が中に促してくれる。ジャンクの山を崩さないようにキッチンを通り過ぎると、さらに荒れ果てたリヴィングの真ん中に座り込んだ、傷だらけの腕で右手に缶チューハイを、左手に小型のマイクを握り、ノートブックに向かって絶叫している男の後姿が見えた。「こんばんは」。声をかけると、「んあ? 誰だお前?」。そう言って男が振り向く。幼い顔立ちをしているが、表情はジャンキーか、病人のそれだった。目が真っ赤に充血して、口角に泡が溜まっている。"イエロー・トラッシュ"というフレーズが浮かんだ。

 そこでのインタヴューの模様はかまってちゃん自身の手によって「ニコニコ生放送」で配信され、その後、「ニコニコ動画」の方にアップされたので、気になる人は観てみるといい。ところで、僕が帰りの車の中で考えていたのは、正直理解し難い彼らのある種の"バッド・テイスト"は、階層的問題から生まれてきたのだろうということだった。そのバッド・テイストは、トライブ的にはハスラー・ラップの"ヤンキー趣味"と対になる"オタク趣味"とでも言うべきで、それは、秋葉原通り魔事件を起こした派遣社員の加藤智大被告が(現代思想に精通するような)エリート・オタクたちから自己弁護的に「あの程度の知識の奴はオタクとは呼べない」とバッシングされたことで図らずも実証してしまったように、階層的問題でそのぐらいの情報にしかアクセス出来ない貧困層予備軍を象徴する趣味性である。そして、同じく貧困層予備軍に属する不良がハスリングに手を出したあげく、自分の内にある恐れや苛立ちをどうしても抑えきれず、解放するために、少ない知識と限られたコネクションの中から選び取ったのがラップなのだとしたら、父子家庭に育ち、虐めを受けて学校をドロップ・アウトし、今はネット・カフェで働きつつ精神科通いをしているの子が、やはり自分の感情を解放するために――加藤のように聖地である秋葉原には向かわず、どうしようもない郊外の街に身を置いたまま――荒れきった自分の部屋に転がっていた、TSUTAYAから借りて来た青春パンクのCDと、バイト代を貯めて買ったノートブックを元手にはじめたのが、そう、かまってちゃんなのではないだろうか。彼らの音楽は、エリート......とまでいかなくとも、それなりに音楽を知っている人たちからは「こんなものつまらない」と言われるかもしれないが、そんな奴らには理解出来ない、止むに止まれぬ衝動に裏打ちされているのだ。僕にそれを否定することは、どうしても出来ない。

 神聖かまってちゃんの録音音源のほとんどは彼らのホームページ、あるいは「ニコニコ動画」や「Youtube」で聴くことが出来る。それでも、このライヴ会場だけで売っている3曲入りのCD-Rは飛ぶように売れているという。彼らは間違いなく、ある人びとによって切実に求められているのだ。デビュー・アルバムは3月10日にリリースされる。タイトルは『友達を殺してまで。』だという。

磯部 涼