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まるで聞き分けの悪い子供の我がままのようだ文:加藤綾一


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 『つまんね』『みんな死ね』だって、わはは、最高じゃん!  AKB48と嵐が年間チャートを独占するこの国の予定調和に対するオルタナティヴとして、2010年にもっとも待ち焦がれられたであろう、彼らのアルバムのタイトルを目にしたときに僕は思った。もちろん、よく言われるような現代社会に対する虚無感ややり切れなさもあったが、それ以上に、僕はこの上なく痛快な気分になった。
 彼らがそのおどけた言葉遣いと態度で、フラストレーションを不器用にも解放しながら突き進んでいくさまには、僕は特別な同時代性を感じる。"天使じゃ地上じゃちっそく死"や"芋虫さん"での「死にたいな/苦しい嫌だ」「生きたいなあ」という叫びは、いつからか頻繁に耳にするようになったが、〈にちゃんねる〉のような掲示板では、日々、やり場のない苛つきや卑屈なまでの劣等感が、ジョークを織り交ぜながら生々しく吐露されている。それは現代のルサンチマンの縮図とも言えなくもないが、神聖かまってちゃんの鋭い批評眼の出自はここにあることは間違いないだろう。僕は〈マルチネ〉周辺の自分よりも若いトラックメイカーやDJたちをtwitterで数人フォローしているが、彼らも〈にちゃんねる〉的な人を食ったような言葉遣いをしている。僕は、それはこの時代の空気をリアルにパッケージングするために生まれた、優れた言語感覚じゃないかと思っている

 "いかれたNeet"では、「朝から晩まで僕は楽しい歌を歌う/それが日記だから」という自虐的な叫びがある。いったい何の甘えだと思うかもしれないが、ほとんどワーキング・プアのような状態でここ数年を過ごし、今年初めてしばしのあいだニートを体験した僕のような人間にとっては、決して冗談として笑い飛ばすことが出来ない。そういった言葉たちを、耳をつんざくノイズに塗れながら、それとは裏腹の耳馴染みのいい歌謡曲風のポップ・パンクに乗せて吐き出すさまは、まるで聞き分けの悪い子供の我がままのようだ。度の過ぎた被害者意識だと一蹴することも出来るかもしれないが、こうしなければやっていられないのもまた事実。クソみたいな世のなかと同化して堪るかという彼らの悲痛な叫びを無視するほうが、もはや難しい状況になりつつある。
 "美ちなる方へ"とはよく言ったもので、その危ういピュアネスが行き着く先は僕にもわからない。だが、"男はロマンだぜ! たけだ君っ"のように、彼らの鳴らす音楽が、「ポンコツな心のギアをあげて」生きる僕らが抱えた歪んだ鬱憤を晴らすものとして機能するのであれば、これほど美しいことはないと思う。

文:加藤綾一

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