Home > Reviews > Live Reviews > 神聖かまってちゃん- @渋谷WWW
目の前には、「神」と描かれた白いヘルメットを被っている磯部涼と三田格がいる。隣には、ヘルメットを被りながらでは素早いスウィッチングができないと断念して、いつものようにハットを被った宇川直宏、それから生中継のために動き回るdommuneのスタッフたち......、そしてその反対側には「ナタリー」編集部の優秀な女性記者がリアルタイムでパソコンを素早く叩いている......とにかく、両側に素早い指の動きをもった人に挟まれながら、白いヘルメットを被った僕は、渋谷のスペイン坂に新しくオープンしたライヴハウス〈WWW〉でいまもっとも注目に値するロック・バンドの演奏を聴いた。
わずか2分でソールドアウトという競争率のなかで、幸運にもチケットを手に入れることのできた来場者全員には、先述したように「神」ヘルメットの着用が義務づけられていた。フロアは白い頭で埋め尽くされている。その光景自体が、ひとつの強烈なアイロニーだ。なにせ「神」であり、全員同じのヘルメット姿である......演奏は、ダンサブルで、ベースの音は会場のいちばん後ろの僕たちのところまで響き、ウイスキーを片手に演奏される鍵盤はメランコリーを携えていた。の子は、僕にはパンク・ロック・バンドのヴォーカリストとしての条件を充分に満たす佇まいをしているように見える。無責任な子供のような顔つきで、子供のようなわめき声で、子供のような目をしている。
「アイ・ウォナ・ダ~イ」と歌ったのはジーザス&メリー・チェインだったが、かまってちゃんは「死にたい」を繰り返す。この音楽に熱狂している子供の姿を親が観たら、びっくりするかもしれない。後方の画面ではネットからの野次が走っているし。
神聖かまってちゃんは今日の日本社会におけるノイズだ。ノイズとは工事現場の騒音のことではない。意味としていち部の人たちの耳を塞がせる音のことだ。いま、彼らほど憎まれ、愛されているバンドが他にいるのだろうか......。"学校に行きたくない"では、の子はノートパソコンを木っ端微塵に破壊する。彼のそうした一挙手一投足のなかに、なにか鋭い絶望を感じるのだが、すべてはこのバンドにとっての賛辞であろう大いなる嘲笑のなかで掻き消されていく。しかしその嘲笑はパンク・ロッカーにとっての蜜であり、オーディエンスにとっての勇気である。"いかれたニート"という曲も頭に残った。人間は経済活動の要員であり、ネットが普及しながらひとりひとりは孤立し、自分の人生を社会的に開いていくことはますます困難である――こんな時代において、かまってちゃんのそれは、あるいはひょっとしたら自覚のない抵抗として最高のエネルギーを持っているように思える。
ライヴの最後ではキーボードのmonoとの子が喧嘩をした。何がなんだかよくわからなくなったが、「ナタリー」の女性記者に訊いたら以前にもステージ上で喧嘩しているという。まるでオアシスみたいだね、と磯部や三田さんと話した。ほとんど何も期待されていなかった若者たちがことを起こしているという点でも、似ている、
神聖かまってちゃんのアルバムは12月22日に『つまんね』と『みんな死ね』、2枚同時に発売される。
野田 努