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Mathew Jonson

Mathew Jonson

Agents Of Time

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アボ・カズヒロ Jul 01,2010 UP

 マシュー・ジョンソンは、少々ジェラシー覚えてしまうくらい豊穣な音楽的バックボーンの持ち主だ。自身もミュージシャンであり、劇場を経営していたという彼の両親の影響で幼少の頃から彼のまわりにはありとあらゆる楽器があった。その豊富さたるや、ギターやドラムスやフルートといった一般的なものから、ハープシコードやハンマー・ダルシマー(元々はアイルランド系移民の伝統音楽や15世紀から16世紀にかけてのルネサンス音楽で用いられていた打弦楽器)といった、一般家庭ではそうそうお目にかかれないようなものまで揃っていたというから驚きだ。それらを自由に触ることが可能な環境だったということで、それはそれは楽しいひとり遊びを日々繰り広げていたのだろう。

 10代の頃にはジャズ・バンドでプレイをしながらもヒップホップやブレイクダンス、そしてサイボトロンやデトロイト・テクノの洗礼を受けエレクトリックミュージックへの傾倒を深めていく。そして2001年に〈Itiswhatitis〉からデビューしてからは、そのバックボーンを生かし、音楽的にクロスオーヴァー化が進むテック/ミニマル・シーンの申し子のようにシングル・リリースを重ねていった。またリミキサーとしてもケミカル・ブラザーズやモービーといった大御所の作品を手がけるなど多忙を極める日々だ。そしてマシューのキャリアで忘れてならないのは、地元の仲間と結成しいまや世界に名を轟かすテクノ・ジャム・バンドとなった「コブルストーン・ジャズ」の中心人物としてのいち面だろう。

 バンド形態を採っているテクノ・ユニットは数あれど、コブルストーン・ジャズはそのなかでもとりわけ有機的なセッションを見せてくれるユニットとして知られている。とはいえそれは、いわゆる「ミニマルやテック・ハウス的感覚のフレーズを手弾きしてみました!」というような安易なものではない。プレイされている音そのものは、メンバーのダニュエルが演奏するフェンダーローズとシンセサイザー以外、基本的にはシーケンサーによってプレイバックされている。それでも彼らの音がオーガニックに感じられる理由は、バンドがそのフレーズの組み合わせであったりサウンドの変調の具合だったりを、演奏しながらも非常に密なコミュニケーションをとりつつ変化させていくからだ。そもそも、彼らはステージに横並びには登場しない。まるで食卓を囲むかのように、メンバーはつねに向かい合った状態で演奏する。とはいえ、それはスリリングな緊張関係にあるわけではなく、例えるならばファミレスで気の置けない仲間と食事をしているときに、ふとしたことからギャグの応酬になって場がグルーヴしはじめる瞬間があるだろう。言うならば、そんな感じだ。そういう場にはいわゆる"間合い"を熟知して、場を上手く転がす才覚を持ったセッション・マスターの存在が必要不可欠だが、その役割を担っているのが他ならぬマシューだ。

 つい先日、コブルストーン・ジャズにとってのセカンド・アルバム『ザ・モダン・ディープ・レフト・カルテット』を発表したばかりのマシューの、これはソロ・デビュー・アルバムである。驚くことに全曲客演無しの完全なソロ作品だ。幼少期にギターやハープシコードでしたようなひとり遊びを、今度はハードウェアのシンセサイザーやリズムマシンに持ち替えて再現したともいえる。楽曲の端々には、ハードウェアの特性による微妙なリズムのヨレやそれらが重なり合うことで生じるモワレが見てとれる。そんなガジェットの癖を楽しみながら乗りこなすようにして作られた今作の演奏は、ひとりで製作したにも関わらず生々しいセッション感覚に溢れている。
 冒頭の"ラヴ・イン・ザ・フューチャー"では『セレクテッド・アンビエント・ワークス』の頃のエイフェックスツインを髣髴とさせる美しくも儚げなメロディを奏でたかと思うと、"サンデー・ディスコ・ロマンス"では9小節でループする変則的なロボティック・ディスコを披露するなど、音楽的にも決して一辺倒ではない。もちろん、コブルストーン・ジャズでもお馴染みの、恐らくブレイクダンサー時代に聞き込んだエレクトロやファンク譲りであろう、グルーヴィなシンセ・ベースも健在だ。
 ちなみにマシューがいまコラボレートしてみたい相手というのが、なんとスクエアプッシャーなのだそうだ。お互いの出自やその製作スタイルからしても、相当面白く、かつ過激なセッションが期待できるはず。これは個人的にも、いま一番聴いてみたい組み合わせかもしれない。

アボ・カズヒロ