Home > Reviews > Album Reviews > Rene Hell- Porcelain Opera
これは一体、何を聴いているんだろう......。実験音楽でもないし、ポップでもないし、ましてやルミの変名でもないし......。
昨年、驚異の『アンチ-マジック』をリリースしたフット・ヴィレッジほか無数のプロジェクトに参加するジェフ・ウィッシャーが(シークレット・アビューズやマーブル・スカイとはまた別名義で)カセット・リリースを量産していた新メニューの1作目。近視眼的にたとえればOPNからトゲトゲした感触を取り除いて、やんわりと締め上げてくるような展開。コンラッド・シュニッツラーのエレクトロニカ・ヴァージョンとも、ノイエ・ドイッチェ・ヴェレの発掘音源とも......いや、単なるスロッビン・グリッスルのアウトテイクスかな......(そういえばポーランドにグロッビン・スリッスルというインダストリアル系のミュージシャンがいて、昨年、『ヒドゥン・ストラテジーズ』というアルバムを出していたりして)。
中盤からはヘルどころか、グローバル・コミュニケイションを思わせる天国的なアンビエント・ミュージックへと続き、さまざまなイメージのなかを連れまわそうというのか、スリーヴには小さく「ダーク・ツアーに捧げる」と記してある(まさか『幽遊白書』?)。そのうちスロッビン・グリッスルとグローバル・コミュニケイションが溶け合ってしまったような"L・ミンクス"に突入し、なんだかいいものを聴いてしまったなーと思っていると、最後に"ギャス"で「全部、夢でしたね~」という気分にさせてくれる。何も掴めないうちに詩情豊かな気分だけが残るというのはある意味、最高の体験かもしれない(ピエ-ル瀧なら、これでも「はちみつ、持ってこーい!」と叫ぶのだろうか?)。
このところ急速にその存在感を高めている〈タイプ〉というレーベルは、いま、80年代の〈クレプスキュール〉がその傘下で展開していた〈レイラ〉や〈オペレイション・トゥワイライト〉といったインダストリアル・レーベルも併せ呑むような形でヨーロッパ的な価値観を強く推進し、その担い手がたとえアメリカにいても構わず、その駒にしていくという印象がある。ゴルトムントしかり、ピーター・ブロデリックしかり。黄昏を意味する〈クレプスキュール〉はかつて、レイヴ・カルチャーの前に敗退を余儀なくされたという印象がなきにしもあらずだけれど、もはやそのような音楽シーンの転換は起きないだろうし、あっても確実に棲み分けていくだろうから、彼らの価値観に揺さぶりをかけてくるようなものはそう簡単には現れないだろう。彼らの自信がリーヌ・ヘルのリリースにも漲っているような気がする。
三田 格