ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. R.I.P. Juan Atkins 追悼:ホアン・アトキンス
  2. Beck - Ride Lonesome | ベック
  3. ele-king presents アニメ読本 創刊号 特集 『超かぐや姫!』はなぜヒットしたのか
  4. Columns Brian Eno 窓のない部屋からひらかれた風景
  5. DERRICK MAY×KEN ISHII ——デリック・メイが恵比寿リキッドルームに登場
  6. Shintaro Sakamoto ——2026年のクリスマスイブは坂本慎太郎@LIQUIDROOM
  7. interview with Juan Atkins 愛してるぜ。オレたちはVery Sexy Funkyナイトをともにするんだ。準備をしておいてくれよ!
  8. Moodymann ──ムーディーマンの来日公演が決定、今年は東京と京都をツアー
  9. Bullion - Nearly | ブリオン
  10. Shuta Hasunuma ──蓮沼執太が企画・構成するイベント〈MUSIC TODAY〉が3年ぶりに開催、灰野敬二、COLA RENら出演
  11. lilbesh ramko - Ramko Helvetica | リルベッシュ・ラムコ
  12. Mogwai ──ドキュメンタリー映画が12月に公開、キャリアを網羅した編集盤も1月リリース | モグワイ
  13. Model 500 - Digital Solutions  | モデル500
  14. Helen - Linda's Head | ヘレン
  15. YOSHIROTTEN ──エレクトロニック・ミュージックと共に宇宙と交信しよう。ヨシロットンの展覧会『彼方との交信 — BEYOND EARTH』が今週末より開催
  16. Eden Aurelius - Entre Nous / emer ft. Ugnė Uma - You and Me | エデン・オーレリウス、エメル、ウグネ・ウマ
  17. DJが描く日本のヒップホップ、DJ YAS著『ジャパニーズ・ヒップホップ第二世代——あるDJの証言』刊行のお知らせ
  18. Columns 10月のジャズ Jazz in October 2026
  19. Juan Atkins & Moritz von Oswald - Borderland  / Moritz von Oswald Trio - Blue | ホアン・アトキンス、モーリッツ・フォン・オズワルド・トリオ
  20. Beck - Morning Phase  | ベック

Home >  Reviews >  Album Reviews > High Wolf- Shangri L.A.

High Wolf

High Wolf

Shangri L.A.

Moamoo/Artunion

Amazon iTunes

High Wolf

High Wolf

Ascension

Not Not Fun

Amazon iTunes

三田 格   Aug 27,2010 UP

 自分が生まれた頃のL.A.が舞台になっていると記してあったので、それだけの理由で映画『シングルマン』の試写会に行き、帰りがけに買った小説『俺俺』(新潮社)の作者紹介を見ていたら「1965年ロサンゼルス生まれ」とあり、それを読みながら聴いていたCDが偶然にもハイ・ウルフの日本独自編集盤『シャングリ L.A.』だった。ライナーでは『シャングリ・ラ』となっていたけれど、末尾の「A」が大文字になっているので、見た感じは「シャングリ・ラ」でも、発音的には『シャングリ・エル・エー』と読ませるのが正しいのではないだろうか。いまやマリファナを合法化し、それを税収に当てるという法案が検討されているほど財政が破綻したL.A.を「シャングリ・ラ」(*キャンディ・クローズ『ヒドゥン・ランズ』のレヴューを参照)とダブらせるなんて、よほどアメリカが嫌いなミュージシャンなんだろうと思っていたら「マイ・スペースのプロフィールではブラジルのアマゾニア奥地で生活していると書いてあるが、一説によるとフラン在住らしい」と記してあった。さも、ありなん。ちなみに『シングルマン』は途中までは『ベニスに死す』のリメイク風で、星野智幸『俺俺』は、結論以外は中原昌也が花沢健吾『アイ・アム・ア・ヒーロー』をノヴェライズしたような小説だった(途中までは若い人が書いているのかと思うほど絶望的な小説だったので、思わず作者紹介を見たわけですね)。

 「奇怪な覆面アーティスト」ということになっているハイ・ウルフことマキシム・プリモールトは、実はアストラル・ソシアル・クラブのニール・キャンベルとも別プロジェクトを展開するなど例によって多面的なミュージシャンであり、アンファ・ボレアルの名義でも数え切れないリリースがあるものの、煩雑になるのでここでは割愛。ハイ・ウルフとしては〈ノット・ノット・ファン〉(以下、NNF)から『アニマル・トーテム』で09年にカセット・デビュー、続いて『エッセンシャル・エレメンツ』やセルフ・レーベル(wingedsun.blogspot.com)から同じくカセットで『ガボン』やほかに2枚のRをリリースした後、NNFに戻って『アセンジョン』でこの夏にアナログ・デビューを果たしている。

 『シャングリ L.A.』は『ガボン』をエディットし直したり、新曲を加えたものを日本で独自に編集したもので、なるほど「シャングリ・ラ」とひっかけたくなるような天国的なアンビエント・ドローンが次から次へと並ぶ。その理由のひとつとしてトライバル・リズムが使われていることがまずは挙げられる。いわゆる都会的なドローンの大半は荒廃したムードになりやすく、サン O)))でもナジャでも切羽詰ったような緊張感が基本になっているところをハイ・ウルフはあえてトロピカルなイメージを前面に出し、そのメッセージも「アマゾンからアフリカを見つめている。アマゾンとアフリカのジャングルに違いはない。我々は同じなのだ」ということになるらしい。ヒプノティックなループ・サウンドや美しいシンセサイザーが印象的な「バマー・オブ・ビューティー」などストレートに快楽的な面と、2部作からなる『ザ・シーパーズ』ではジャングルの魔境的なイメージも表現。ギターの音色はどこかスティーヴ・ヒレッジを思わせる。

 正式デビューといえる『アセンジョン』は『シャングリ L.A.』と較べていささか屈託があり、「上昇」というタイトルの意(「the」がつくとキリストの昇天の意になる)を裏切ることはないけれど、そのプロセスはそれなりの葛藤も含みつつ、トリップ・ミュージックとしては少し凝ったものになっている(この2作の変化は最近ではエメラルズのそれを思わせる)。ゆっくりと左右に揺さぶられるような"ディエゴ"、ゆっくりとしか上に向かって進めない"クラウド・ヘッド"、12分を越す"ファイアー・イン・マイ・ボンズ"では上昇しているのかどうかももはやよくわからない......。音楽的には少し手の込んだものになったのかもしれないけれど、イメージ的には突き抜けないこともたしかなので『アセンジョン』の最後から『シャングリ L.A.』のオープニングまで逆に聴いていくのがいいのではないかと。そのほうが話がL.A.でまとまるし。

三田 格