ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Aphex Twin ──30周年を迎えた『Selected Ambient Works Volume II』の新装版が登場
  2. interview with John Cale 新作、図書館、ヴェルヴェッツ、そしてポップとアヴァンギャルドの現在 | ジョン・ケイル、インタヴュー
  3. Amen Dunes - Death Jokes | エーメン・デューンズ
  4. Iglooghost ──“Z世代のAFX/スクエアプッシャー”、イグルーゴーストが新作を携えて来日
  5. Jeff Mills ──早くも送り出されたジェフ・ミルズのニュー・アルバムはメンタル・ヘルスを守ることがテーマ
  6. John Cale - POPtical Illusion | ジョン・ケイル
  7. Burial / Kode9 ──ベリアルとコード9によるスプリット・シングルがサプライズ・リリース
  8. FUMIYA TANAKA & TAKKYU ISHINO ——リキッド20周年で、田中フミヤと石野卓球による「HISTORY OF TECHNO」決定
  9. Larry Levan 70th Birthday Bash ──ディミトリ・フロム・パリ、MURO、ヴィクター・ロサド、高橋透、DJ Noriらがラリー・レヴァン生誕70周年を祝う
  10. A. G. Cook - Britpop | A. G. クック
  11. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  12. Natalie Beridze - Of Which One Knows | ナタリー・ベリツェ
  13. talking about Aphex Twin エイフェックス・ツイン対談 vol.2
  14. Beth Gibbons - Lives Outgrown | ベス・ギボンズ
  15. 『蛇の道』 -
  16. Mary Halvorson - Amaryllis & Belladonna
  17. Iglooghost - Tidal Memory Exo | イグルーゴースト
  18. Cornelius ──コーネリアスがアンビエント・アルバムをリリース、活動30周年記念ライヴも
  19. ドライブアウェイ・ドールズ -
  20. James Hoff - Shadows Lifted from Invisible Hands | ジェイムス・ホフ

Home >  Reviews >  Album Reviews > High Wolf- Shangri L.A.

High Wolf

High Wolf

Shangri L.A.

Moamoo/Artunion

Amazon iTunes

High Wolf

High Wolf

Ascension

Not Not Fun

Amazon iTunes

三田 格   Aug 27,2010 UP

 自分が生まれた頃のL.A.が舞台になっていると記してあったので、それだけの理由で映画『シングルマン』の試写会に行き、帰りがけに買った小説『俺俺』(新潮社)の作者紹介を見ていたら「1965年ロサンゼルス生まれ」とあり、それを読みながら聴いていたCDが偶然にもハイ・ウルフの日本独自編集盤『シャングリ L.A.』だった。ライナーでは『シャングリ・ラ』となっていたけれど、末尾の「A」が大文字になっているので、見た感じは「シャングリ・ラ」でも、発音的には『シャングリ・エル・エー』と読ませるのが正しいのではないだろうか。いまやマリファナを合法化し、それを税収に当てるという法案が検討されているほど財政が破綻したL.A.を「シャングリ・ラ」(*キャンディ・クローズ『ヒドゥン・ランズ』のレヴューを参照)とダブらせるなんて、よほどアメリカが嫌いなミュージシャンなんだろうと思っていたら「マイ・スペースのプロフィールではブラジルのアマゾニア奥地で生活していると書いてあるが、一説によるとフラン在住らしい」と記してあった。さも、ありなん。ちなみに『シングルマン』は途中までは『ベニスに死す』のリメイク風で、星野智幸『俺俺』は、結論以外は中原昌也が花沢健吾『アイ・アム・ア・ヒーロー』をノヴェライズしたような小説だった(途中までは若い人が書いているのかと思うほど絶望的な小説だったので、思わず作者紹介を見たわけですね)。

 「奇怪な覆面アーティスト」ということになっているハイ・ウルフことマキシム・プリモールトは、実はアストラル・ソシアル・クラブのニール・キャンベルとも別プロジェクトを展開するなど例によって多面的なミュージシャンであり、アンファ・ボレアルの名義でも数え切れないリリースがあるものの、煩雑になるのでここでは割愛。ハイ・ウルフとしては〈ノット・ノット・ファン〉(以下、NNF)から『アニマル・トーテム』で09年にカセット・デビュー、続いて『エッセンシャル・エレメンツ』やセルフ・レーベル(wingedsun.blogspot.com)から同じくカセットで『ガボン』やほかに2枚のRをリリースした後、NNFに戻って『アセンジョン』でこの夏にアナログ・デビューを果たしている。

 『シャングリ L.A.』は『ガボン』をエディットし直したり、新曲を加えたものを日本で独自に編集したもので、なるほど「シャングリ・ラ」とひっかけたくなるような天国的なアンビエント・ドローンが次から次へと並ぶ。その理由のひとつとしてトライバル・リズムが使われていることがまずは挙げられる。いわゆる都会的なドローンの大半は荒廃したムードになりやすく、サン O)))でもナジャでも切羽詰ったような緊張感が基本になっているところをハイ・ウルフはあえてトロピカルなイメージを前面に出し、そのメッセージも「アマゾンからアフリカを見つめている。アマゾンとアフリカのジャングルに違いはない。我々は同じなのだ」ということになるらしい。ヒプノティックなループ・サウンドや美しいシンセサイザーが印象的な「バマー・オブ・ビューティー」などストレートに快楽的な面と、2部作からなる『ザ・シーパーズ』ではジャングルの魔境的なイメージも表現。ギターの音色はどこかスティーヴ・ヒレッジを思わせる。

 正式デビューといえる『アセンジョン』は『シャングリ L.A.』と較べていささか屈託があり、「上昇」というタイトルの意(「the」がつくとキリストの昇天の意になる)を裏切ることはないけれど、そのプロセスはそれなりの葛藤も含みつつ、トリップ・ミュージックとしては少し凝ったものになっている(この2作の変化は最近ではエメラルズのそれを思わせる)。ゆっくりと左右に揺さぶられるような"ディエゴ"、ゆっくりとしか上に向かって進めない"クラウド・ヘッド"、12分を越す"ファイアー・イン・マイ・ボンズ"では上昇しているのかどうかももはやよくわからない......。音楽的には少し手の込んだものになったのかもしれないけれど、イメージ的には突き抜けないこともたしかなので『アセンジョン』の最後から『シャングリ L.A.』のオープニングまで逆に聴いていくのがいいのではないかと。そのほうが話がL.A.でまとまるし。

三田 格