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ニュー・オーリンズからシャンテ・アンソニー・フランクリンによるメジャー・デビュー作(ジャケット・デザインがいいと思ったら、すでにコンバーズのモデルになっていた)。インディ時代はよく知らないんだけど、ノー・リミットやリル・ウェインのヤング・マニーと契約があったらしく、ロッカ・フェラからリリースの予定が同レーベルを再スタートさせたデイモン・ダッシュの(個人?)レーベルからのリリースとなった。これは争奪戦というやつなのか、それとも、もっと複雑な大人の事情があったのか(まー、ゴシップには興味がないので背景は省略で)。
2010年のメイン・ストリームなのか、一聴すると、ドレイクやB.O.B.を思わせるメロウ・ムードに全編は覆われている(メイン・プロデューサーは元オリジナル・フレイヴァーのスキー・ビーツ)。だらだらしているようで、だけど、センチメンタリズムは希薄で、むしろ、ハードボイルドな印象が強い。ドレイクがマーヴィン・ゲイならカレンシーは山下達郎というのは無茶苦茶かもしれないけれど、どことなく口当たりの良いシティ派の風情があり、そのせいか、曲によってはスチャダラパーともイメージがダブる(「ザ・ハングオーヴァー」で任天堂DSがどうしたとかいってるし)。
「操縦士が語る」という設定とストレートにつながっているのか、いかにも空を飛んでいるような"スカイバーン"と、内面に深々と沈んでいくような"ローステッド"との対比。サウス系のような派手さは皆無にもかかわらず、1曲のなかに複雑な表情があれこれと詰め込まれ、スヌープを迎えた"シート・チェインジ"など流れるようにシルキーなのか、鉛を呑んだように重いのか聴くたびに印象がコロコロ変わる曲も少なくない。勇ましくブラスのリフが鳴り響く"ザ・デイ"でさえ晴れ晴れとした印象からはほど遠く、デヴィン・ザ・デュードを起用した"チルド・カッフィー"がなんとか単純な響きをキープしている程度か。ゲストはほかにモス・デフやジェイ・エレクトロニカなど。ブレイディ・ワットによるベースがほとんどの曲でフィーチャーされている。
インナーには「理解したことは説明の必要がない」というスローガンらしきものが掲げられている。これは一体、どんな屈折なのだろう。復興の対象から置き去りにされたニュー・オーリンズで芽生えてきたものなのだろうか。何もかもがナゾのまま、ただ、スウィート・ソウル・ヒップ・ホップが流れていく。
三田 格