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昨年から今年にかけて20周年を迎えたロンドンの老舗ダンス・ミュージック・レーベルといえば、〈ニンジャ・チューン〉と〈ワープ〉に他ならないが、両レーベルが長年の歳月を経て磨き続けてきた嗅覚の鋭さには、あらためて驚かざるをえない。今年の頭〈ニンジャ・チューン〉は、スキューバも注目する新人フィメール・ダブステッパー、エミカの12インチ・シングル「ドロップ・ジ・アザー」(スキューバによるリミックスも収録)をリリースした。一方〈ワープ〉は、こちらもダブステップのトラック・メイカーでありながら、コマネチなどインディ・バンドのリミクスも多く手掛ける、カナダのベイブ・レインボウの12インチEPをリリースしている。昨今のポスト・ダブステップ・シーンの熱狂に華麗に切り込む両レーベルのその新たな一手に、それはもう興奮したものだった。
その〈ニンジャ・チューン〉が今年もっともホットな新人として、ステッピーなコズミック・ハウサー、フローティング・ポインツとともに世界へ送り出そうとしているのが、このサンフランシスコ出身の新進気鋭のビート・メイカー、エスクモことブレンダン・アンジェリードだ。US西海岸出身のビート・メイカーといえばデイダラスをはじめとする〈ロウ・エンド・セオリー〉周辺のブロークン・ヒップホップを想像するが、彼の場合もご多分に漏れず、アンダーグラウンド然とした奇妙なウォンキー・サウンドを特徴としている。
とはいえ、ダブステップ通過後ともいえる、ハイハットとスネアとキックのコンビネーションを活かしたそのトリッキーなビート・メイキングは、ハドソン・モホークやラスティら、プレイステーションのコントローラーを片手に作曲作業をする、グラスゴウ周辺のビート・メイカーたちの人を食ったクレイジーさも匂わせる。
ちなみに彼は、このアルバムをリリースする以前に、すでに今年の春に、US西海岸の新世代ビート・ジャンキーの台頭を表すエプロムとのスプリット12インチEPを〈ワープ〉からリリースし、続いて夏には、かの〈プラネット・ミュー〉からのデビューを果たしている。〈ニンジャ・チューン〉、〈ワープ〉、〈プラネット・ミュー〉の3レーベルを行き来したアーティストというのは、歴史的に見ても、彼とルーク・ヴァイバートぐらいではないだろうか。
とにかく、注目のなかでリリースされる『エスクモ』は、ガラクタ一歩手前の奇天烈なトライバル・ビートにアンビエント調のアトモスフェリックなシンセサイザーを重ねることで、アルバム全体を通して、原始と宇宙空間を繋ぐかのような、超現実的なサイケデリック・ワールドを構築することに成功している。充分にユニークな展開だが、〈ワープ〉からのスプリットEPや〈プラネット・ミュー〉からのシングルを聴いたときほどの驚きもない。それら先行シングルでの、スクウィーなどロウビット・ミュージックの要素を取り入れた革新的なビート・メイキングには胸が躍ったものだが、あまりにも期待し過ぎたせいだろうか、このアルバムは、どうにも斬新さを欠いているように思う。
とはいっても、エスクモが作り出す摩訶不思議なブロークン・ヒップホップ/ウォンキー・サウンドが耳に心地良く聴こえるのは事実である。また、彼がヴォーカル・トラックを多く作り続けていることにも将来性を感じている。マグネティック・メンの"アイ・ニード・ジ・エア"の次は、もしかすると、このあたりからアンセムが生まれるのかもしれない......。フライング・ロータスやゴールド・パンダら世界のトップ・クリエイターたちがネクストを求めて新たなビートを生み出しているなか、エスクモもまた次世代を担うビート・メイカーのひとりであることに間違いはないのだ。
11月5日に開催される〈ニンジャ・チューン〉の日本での20周年パーティでエスクモは、〈夕刻の巻〉と〈夜更けの巻〉の両方でトップバッターとしてプレイする。当日は開演時間に前に合うように行くこと。
加藤綾一