ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. DJ Stingray 313 ──デトロイト・エレクトロの至宝、DJスティングレイが来日
  2. 異次元の常識──パンク/ハードコアの思想とメッセージ
  3. Greg Fox, iD-sus, YPY and Discovery Zone ──NYのドラマー、グレッグ・フォックスによる再来日公演が決定
  4. Columns Boards of Canada ボーズ・オブ・カナダの帰還  | ──その軌跡、その影響、そして13年ぶりの新作『Inferno』をめぐって
  5. FUTURE FREQUENCIES FESTIVAL 2026 ──新たなフェスティヴァルが始動、ジョイ・オービソンやザ・セイバーズ・オブ・パラダイス、ノウワーらが出演
  6. Columns Boards of Canada ボーズ・オブ・カナダの帰還 | ──その軌跡、その影響、そして13年ぶりの新作『Inferno』をめぐって(後編)
  7. HIKASHU ——ヒカシューがウズベキスタンで開催の国際音楽祭参加をめざし、クラウドファンディングを開始
  8. Felix Kubin Japan Tour 2026 ——ドイツの音響ダダイスト、フェリックス・クビンが来日
  9. Columns Jeff Parker ジェフ・パーカー・ETAカルテットの挑戦 | ──原雅明と蓮沼執太による対話
  10. UKインディ・ロック入門──ポスト・パンク、ギター・ポップ、スカとダブ編
  11. interview with Mouse on Mars 僕たちはダブを、ジャンルではなく社会的なものとして捉えたい | ——リー・ペリーとの共作を発表したマウス・オン・マーズ、インタヴュー
  12. FESTIVAL FRUEZINHO 2026 ──気軽に行ける音楽フェスが今年も開催、マーク・リーボウ、〈Nyege Nyege〉のアーセナル・ミケベ、岡田拓郎が出演
  13. DJ Stingray 313 ──デトロイト・エレクトロのヴェテラン、DJスティングレイが来日
  14. Brian Jackson - Now More Than Ever | ブライアン・ジャクソン
  15. Cornelius ——コーネリアスのライヴ・ドキュメンタリー映像「“Dream in Dream” Tour Document Episode 1」公開
  16. HIKASHU ——「実は最高傑作かも」と名高い、前衛時代のヒカシューの作品集『1978』が待望の初アナログ化
  17. The Leaf Library - After the Rain, Strange Seeds | ザ・リーフ・ライブラリー
  18. Loraine James - Detached from the Rest of You | ロレイン・ジェイムズ
  19. ANJI ——注目の宅録アーティストがCompumaのプロデュースによってデビュー
  20. Cornelius ——コーネリアスがアルバム『Refractions』のリリースと新曲“Aeons”の配信開始を発表

Home >  Reviews >  Album Reviews > Twin Shadow- Forget

Twin Shadow

Twin Shadow

Forget

4AD / Hostess

Amazon iTunes

木津 毅   Feb 01,2011 UP

 チルウェイヴと呼ばれる動きに自分はやや微妙な距離を置いているのだが、やはり気になることには変わりない。本来ならばどんな好きな音を鳴らしても許されるであろう現在のアメリカのシーンに、これだけシンセ・ポップが溢れかえっているのはちょっと異様なことであるように感じつつ、しかしひょっとしたらこのなかから飛び抜けた存在が現れるかもしれない......という予感も覚えるからだ。

 ツイン・シャドウを名乗るドミニカ共和国生まれでフロリダ育ちのジョージ・ルイス・ジュニアも、そんな期待を抱かせるひとりである。そのファッションとか作っているヴィデオ(とくに"スロー")とかを見て、これはゲイ的なセンスではないだろうか......と勝手に思っていたのだが、ガールフレンドがいたとかいるとかでどうもそうでもないらしい。意識的に参照しているということかもしれない。ゲイ的な感性の持ち主のノンケというのはときどきいるが、とにかく乱暴に言えば、ツイン・シャドウはそのキャラの濃さにおいても目立っている。実際のところ、チルウェイヴには音の厳密な定義がないわけで、このような個性を何となくそこに埋もれさせてしまう危険性があるとも言える。

 宅録による80s風シンセ・ポップという観点から言えばまさしくチルウェイヴそのものなのだが、グリズリー・ベアのクリス・テイラーがプロデュースをしていることもあり、もちろんハイファイではないがロウファイであるようにもさほど感じない。リズムの音の質感や音の強弱がしっかりと際立たせられており、ポップ・ソングとしての体裁がきちんと整えられているのだ。洗練されてもいる。そしてシンセ・ディスコ・ビートが刻まれるなか、ジョージ・ルイス・ジュニアがアクの強い歌声でエモーショナルに歌い上げる......それはよく言われるようにたしかにモリッシーを連想させるものだが、音域によってはデーモン・アルバーンのように聞こえる箇所もある。いずれにせよ、フロリダの明るい空ではなく、英国の曇天を思わせる歌である。モリッシーがザ・スミスと同時代のシンセ・ポップで朗々と歌っているようなものだ。それがブルックリンから出てくるというのが、実に2010年らしい話である。
 物憂げにシンセの和音が漂うオープニング"タイタンド・デストロイド"では恋人との別離を嘆き、うっとりするように心地良い"ホエン・ウィ・アー・ダンシング"では「お願いだから私たちが踊っているあいだは放っておいて」とコミュニケーションを拒絶し、ニューウェイヴ色がかなり強い"スロー"では「僕は愛なんて信じたくない、恋もしたくない」と歌い上げる。ファンキーな"シューティング・ホールズ"も同様にアンニュイで......かなりの部分でアルバムはメランコリーやセンチメントに支配されている。それは伝統的な〈4AD〉の音とも繋がっているものだ。それを雰囲気に流されることなく、当たり前にポップ・ソングとしてエモーショナルに響かせることに徹していることこそが本作の魅力だろう。そう、失恋や別離の悲しみに耽溺するための、昔ながらのポップ・ソング......。少なくとも僕にとって、これはチルアウトのための音楽ではない。気持ち良くまどろむのでもなく、もちろん現実に向かっていくのでもなく、それとはまた別のところで、自分のか弱さや後ろ向きな感情を許すためにこういう音楽を欲するときがたしかにある。

 なかには"イエロー・バルーン"のように比較的明るさを感じるナンバーもあるが、それにしても「さあみんな 思い切りハメを外すんだ/太陽の光に顔をさらさないようにして」という、夜の月の光のもとでの明るさなのだ。あるいは、"フォー・ナウ"における「君が去っていった日よりも晴れていた日なんてあっただろうか?」という呟きのように、晴天はむしろ悲しみを助長するものとして呼び覚まされる。それらの感傷は、このツイン・シャドウに辿り着くまでに彼が失った様々なものを反芻したことの表れだろう。ベストはラストのタイトル・トラック"フォーゲット"。穏やかな温かさに包まれたこのバラッドで、彼は「これがそのすべて/これが僕の忘れたいと思っているすべてだ」と、過ぎ去ったものをゆっくりと葬送することを願望しながらアルバムを終わらせる。このデビュー作は、ジョージ・ルイス・ジュニア個人のベッドルームでの感傷に決着をつけるものとして本人に機能するのではないだろうか。そしてそれは、聴き手にも作用するかもしれない。
 とすると、ツイン・シャドウはチルウェイヴに片足を突っ込みながらも、完全にそこにいるとはやはり断定しにくい。ヴァリエーションのひとつだと言われてしまえば現時点ではそれに反論しきれない音ではあるが、今後は80s風のシンセ・ポップを離れる可能性も十分に考えられるし、別のところに向かうべき人だと思う。他の音を手に入れることで、もっと複雑なエモーションを歌う術を身につけていくことだろう。それまでは、僕たちはこの『フォーゲット』を聴きながら己のセンチメントに浸ることを許されている。新しい場所に進む前の、最後のモラトリアムのようなアルバムだ。

木津 毅