ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Aphex Twin ──エイフェックス・ツインがブランド「Supreme」のためのプレイリストを公開
  2. Whatever the Weather - Whatever the Weather II | ホワットエヴァー・ザ・ウェザー
  3. interview with Roomies Roomiesなる東京のネオ・ソウル・バンドを紹介する | ルーミーズ
  4. 完成度の低い人生あるいは映画を観るヒマ 第二回 ボブ・ディランは苦悩しない
  5. Oklou - choke enough | オーケールー
  6. すべての門は開かれている――カンの物語
  7. new book ──牛尾憲輔の劇伴作曲家生活10周年を記念した1冊が刊行
  8. The Murder Capital - Blindness | ザ・マーダー・キャピタル
  9. R.I.P. Roy Ayers 追悼:ロイ・エアーズ
  10. Columns ♯12:ロバータ・フラックの歌  | Roberta Flack
  11. Lawrence English - Even The Horizon Knows Its Bounds | ローレンス・イングリッシュ
  12. Columns ♯11:パンダ・ベアの新作を聴きながら、彼の功績を振り返ってみよう
  13. interview with Acidclank (Yota Mori) トランス&モジュラー・シンセ ──アシッドクランク、インタヴュー
  14. Columns 2月のジャズ Jazz in February 2025
  15. story of CAN ——『すべての門は開かれている——カンの物語』刊行のお知らせ
  16. interview with DARKSIDE (Nicolás Jaar) ニコラス・ジャー、3人組になったダークサイドの現在を語る
  17. interview with Squid スクイッドの冒険心が爆発したサード・アルバム
  18. 別冊ele-king ゲーム音楽の最前線
  19. Columns 「ハウスは、ディスコの復讐なんだよ」 ──フランキー・ナックルズの功績、そしてハウス・ミュージックは文化をいかに変えたか  | R.I.P. Frankie Knuckles
  20. R.I.P. David Johansen Funky but Chic——デイヴィッド・ヨハンセン R.I.P.

Home >  Reviews >  Album Reviews > Lia Ices- Grown Unknown

Lia Ices

Lia Ices

Grown Unknown

Jagjaguwar / Hostess

Amazon iTunes

野田 努   Feb 24,2011 UP

 現在のポップにダウナー・モードを決定づけたのはザ・XXだという説が有力らしく、アンダーグラウンドではブリアル、そしてポップ・フィールドではザ・XXと、その両方にまたがっているのがジェームス・ブレイクであると、大雑把に説明できるだろう。基本的に僕はダウナー人間なので、当たり前だが、ダウナー音楽が肌に合う。低血圧だし、酒が好きだし、レゲエやダブが好きなのも、スラックの音楽が好きなのも、自分のダウナー気質が大いに関わっているかもしれない。

 ブルックリンのシンガー・ソングライター、リア・アイシスの音楽は、昨年ずいぶんと評判になった宅録女のグラッサーのエレクトロニック・サウンド、あるいはジョアンナ・ニューサムのフォーク・サウンドとは交わらない。趣の点で言えば、ザ・XXのほうがまだ近いと言える。要するに彼女の音楽はメランコリックで気怠い......上品で、礼儀正しく、そしてダウナーで、リラックスしている。そしてそこにクラブ・ミュージックの要素はない。音楽のスタイルはジョニ・ミチェルに近い。グラッサーやジョアンナ・ニューサムと違って、昔ながらのSSWスタイルである。

 評判となった2年前のデビュー・アルバムを経て、本作は日本でも人気のある〈ジャグジャグウォー〉からリリースされるセカンド・アルバムで、レーベルを代表するジャスティン・ヴァーノン(ボン・イヴェール)が1曲参加している。歌とピアノとベースとドラムという音数の少ないジョン・レノン・スタイル、アコースティック・ギターのアルペジオ、ピアノの弾き語り......といった具合に、前述した通りアルバムはオーソドックスなSSWスタイルによるものだが、アニマル・コレクティヴやディアハンターのプロデューサーとして知られるニコラ・ヴァーンズの手が加わっているだけあって、いわばコクトー・ツインズやマジー・スターら欧米で言うところのイーサー(エーテル)系、あるいは昨年話題になったウォーペイントの物憂げなアトモスフィアとも接続する。要するにいま風の音響になっている。

 とはいえ、本作の魅力を最終的に決定づけているのは、彼女の歌とその声(ウィスパー・ヴォイス)だ。とくに曲のメロディラインには多くの人を惹きつける力があって(それでもすべての曲において)、そしてアルバムはある種恍惚としたダウナーなムードを最初から最後まで保っている。それが僕にとって嬉しい。たとえば週の水曜日から木曜日かけて仕事や人間関係のストレスがピークに達したときに、『グロウン・アンノウン』は待っているだろう。そして節度を持ったこの音楽は、人を寝不足にするかもしれないが、決して二日酔いにはしない。

野田 努