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The Psychic Paramount

The Psychic Paramount

II

No Quarter

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橋元優歩   May 17,2011 UP

 アルビ二・コンプレックス。ロックの世界にはそれがあると思っている。〈タッチ・アンド・ゴー〉をはじめとして、グランジ以降のアメリカン・アンダーグラウンド・ミュージック・シーンに絶大な影響をおよぼし、いまなおリスペクトを受けつづける名エンジニア、スティーヴ ・アルビ二。ニルヴァーナやピクシーズの録音で知られるのはもちろんだが、オーストラリアのジャンク・バンド、マイ・ディスコからジョアンナ・ニューサムまで、若いアーティストからの信頼もあつく、現在も数多くの仕事をこなしている。自身もギタリストとしてビッグ・ブラック、レイプマン、シェラックを率いた。いずれも カルトな人気とともに、80年代後期から90年代、まさにグランジ黎明期の逸盤として記憶され、聴き継がれている。それまでのギター・ヒーロー像の真裏をゆくような、まるで「職人」や「裏方」「楽器屋」にさえ見えてきてしまう立ち姿。あの機能性を重視する佇まいは、音楽シーンへのシニシズムと音そのものに対する執着を感じさせてクールだったし 、音自体もじつに殺伐として、MTVの時代を冷ややかに、超然と見下ろすものであっただろう。殺伐。硬質。荒涼。といった表現がよく当てられるギター・サウンドは、ちょうど骨と皮のように余分なものをそぎ落としたストイックな響きに満ちていて、いま聴いても新鮮だ。このストイシズムに対しては、ほとんど信仰といってもよいほどの支持がある。とくに男性に多い、というと偏見だろうか。私はそれをアルビニ・コンプレックスと呼んでいる。

 サイキック・パラマウントが指向するのも、そうしたストイシズムではないかと思う。ライトニング・ボルトやゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラー、またモグワイ、ドン・キャバレロなどと比較されるニューヨークのアヴァン・ノイズ・ロック・トリオ、サイキック・パラマウント。挙げられているバンド名からすれば、ポスト・ロックらしいポスト・ロックである。高度な演奏技術と構築性の高い楽曲。しかし、今作『II』の枯山水のように色味のない(というか、色彩が抽象化されてモノクロになったとでもいうような)、硬く殺伐としたギターを聴いていると、アルコンをおおいに刺激する音だと思わずにいられない。彼らがアルビニ信者であるかどうかは知らないが。
 ミニマルな展開だが、"RW"の緊張感はすさまじい。不穏な響きを持ったギターに乾いたドラミング、機械のようなベースが延々と同じフレーズをくり返し、いつしか異様な興奮状態を呼び寄せる曲である。音の張りつめたテンションのみで出来上がっていて、廃工場の無人の風景を思わせる。"DDB"なども同様だ。だがバーストしたベースが最終的に曲中にひとつの中心というか、カタルシスを準備してしまっているところが違いといえば違いである。後半の爆音サイケデリック・ジャムなど、ファンキーなビートも手伝って高揚感が半端ではない。ハードなダンス・ナンバーだとさえ言えそうだ。"N6"も16分音符の連なりに緊迫感を孕むが、やはり最終的には轟音ギターに身体的な解放の契機が潜んでいる。この点には、エクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイやア・プレイス・オブ・べリー・ストレンジャーズなどシューゲイズとして解釈されるバンドとの共通点が聴き取れなくもない。昨今のトレンドを意識するものではもちろんないだろうが、リスナー側からすれば、彼らを聴きはじめるひとつのきっかけにはなるだろう。冒頭の"イントロ"が、じつはもっともこうした傾向が顕著である。手数の多いドラムが、フィードバック・ノイズの嵐の中を駆け巡り、その壁のような音圧に身体全体をさらすようにして聴く。ストイックに絞られた音の合間に、こうした部分が時折浮かび上がるのも『II』の魅力である。
 前作から間があいているが、2002年の結成からライヴ・アルバムと再発盤を除けば3作目となる。次代を占う作品とは言いにくいが、時代性とは関係ない部分で非常に優れた作品だと思う。

橋元優歩