Home > Reviews > Album Reviews > Various Artists- 116 & Rising
レーベルのコンピレーション・アルバムには2種類ある。回顧録としてのそれと最新型の提示だ。デヴィッド・ケネディー、ベン・トーマス、ケヴィン・マックオーリーの3人によって、2007年にはじまったロンドンの〈ヘッスル・オーディオ〉にとって最初のコンピレーション・アルバム『116・アンド・ライジング』は、〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉のそれと同様に、その両方を見せようとしている。また、〈ホットフラッシュ・レコーディングス〉のそれと同様に、このコンピーションはポスト・ダブステップにおける重要なランドマークでもある。
まずリリース形態が興味深い。12インチ・ヴァイナル3枚組+CD2枚組というパッケージで、そう、お察しのように、3枚のヴァイナルの溝すべてには新曲か未発表が11トラック掘られている。レーベルの主宰者のひとりであるデヴィッド・ケネディーによるピアソン・サウンド(ラマダンマンとしても知られる)をはじめ、もうひとりのレーベルの主宰者、ケヴィン・マックオーリーによるパンジア、それからアントールド、ジェームス・ブレイク、アジソン・グルーヴ、ジョー、ペヴァリスト......いまもっとも旬な連中というか、錚々たるメンツが名を連ねている。そして、ヒットメイカーたちによる新しいトラックは、ピアソン・サウンドがそうであるように、リッチー・ホウティンが2ステップをやったかのような、面白いくらいにミニマリスティックに展開される。
ヴァイナルでもCDでも最初のトラックとして選ばれたエルゲイトの"ミュージック(ボディ・ミックス)"は、まさに象徴的だ。このリズムが2ステップではなく4/4キックドラムによるものだったら、まったくプラスティックマンである。アントールドの"クール・ストーリー・ブロ"は、昨年から顕著な彼のアシッド・ハウスへの接近が聴ける。この曲もまたリズムが2ステップでなはなくファンキーなエレクトロであったら、まったくモデル500の"チェイス"だ。こう書いてしまうと味も素っ気もないかもしれないけれど、"ミュージック"も"クール・ストーリー・ブロ"もUKベース・ミュージックの現在のクラクラするような新鮮さを持っている。後者のスライドするベースの入り方も実に格好よく、最小限の音の構成でありながらそうしたディテールにしっかり凝っているところからも、ポスト・ダブステップがいまノリにノっている感じが見えてくる。
それでも僕が1曲選ぶとしたら、ピアソン・サウンドの"スティフル"にする。このトラックは声ネタのファンキーなエディットと彼の2ステップにおけるミニマリズムの美学との見事なブレンドで、そしてとにかくヒプノティックなのだ。アジソン・グルーヴの"ファック・ザ・101"、ジョーの"トゥワイス"、ペヴァリストの"サン・ダンス"も面白い。"ファック・ザ・101"はチョップド・ヴォイスによるファンキー風のトラックで、"トゥワイス"はジョーらしいパーカッシヴなトラック、"サン・ダンス"はアブストラクトなダブステップで、それぞれ作者の個性がよく出ているし、同時にレーベルの色も共有されている。〈ヘッスル・オーディオ〉はいま上昇気流にいるのだ。
2枚組のCDのうちの1枚は、レーベルの回顧録となっている。その12曲のなかにはアントールドの"テスト・シングナル"や"アイ・キャント・ストップ・ディス・フィーリング"、ジョーの"レヴェル・クロッシング"といったフロア・ヒットも含まれている。デビューしたばかりのジェームス・ブレイクらしいクセのあるアクセントを持った"バザード・アンド・ケストレル"、ラマダンマンのジャングル・トラック"ドント・チェンジ・フォー・ミー"、パンジアによるディープ・ハウス調の"ユー・アンド・アイ"といった聴き応え充分のトラックも収録されている。しかし......アントールドのもっともユニークな"アナコンダ"、それからラマダンマンのファンキーな"アイ・ベグ・ユー"......も収録されていない。だいたいジョーのもっともバカ受けした"クラップトラップ"もない。コンピレーション・アルバムですべてをまかなえると思うなよ、というメッセージだろう。
野田 努