ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. aus - Eau | アウス
  2. DADDY G(MASSIVE ATTACK) & DON LETTS ——パンキー・レゲエ・パーティのレジェンド、ドン・レッツとマッシヴ・アタックのダディ・Gが揃って来日ツアー
  3. 別冊ele-king 坂本慎太郎の世界
  4. 見汐麻衣 - Turn Around | Mai Mishio
  5. P-VINE ──設立50周年記念、公式スタッフ・ジャンパーが発売
  6. Isao Tomita ──没後10年、冨田勲の幻のアルバム『SWITCHED ON HIT & ROCK』が初CD化
  7. Julianna Barwick & Mary Lattimore ──盟友2人による共作アルバム『Tragic Magic』の日本盤がリリース
  8. VMO a.k.a Violent Magic Orchestra ──ブラック・メタル、ガバ、ノイズが融合する8年ぶりのアルバム、リリース・ライヴも決定
  9. Kotoko Tanaka ──3月にバンド・セットでのツアーが開催
  10. Autechre ──オウテカの来日公演が決定、2026年2月に東京と大阪にて
  11. Taylor Deupree & Zimoun - Wind Dynamic Organ, Deviations | テイラー・デュプリー&ジムーン
  12. Ikonika - SAD | アイコニカ
  13. interview with Young Marble Giants たった1枚の静かな傑作  | ヤング・マーブル・ジャイアンツ
  14. interview with bar italia バー・イタリア、最新作の背景と来日公演への意気込みを語る
  15. Geese - Getting Killed | ギース
  16. 次郎吉 to JIROKICHI -高円寺のライブハウスが歩んだ50年-
  17. interview with Kneecap (Mo Chara and Móglaí Bap) パーティも政治も生きるのに必要不可欠 | ニーキャップ、インタヴュー
  18. MURO ──〈ALFA〉音源を用いたコンピレーションが登場
  19. heykazmaの融解日記 Vol.3:≋師走≋ 今年の振り返り WAIFUの凄さ~次回開催するパーティについて˖ˎˊ˗
  20. ポピュラー文化がラディカルな思想と出会うとき──マーク・フィッシャーとイギリス現代思想入門

Home >  Reviews >  Album Reviews > Toro y Moi- Freaking Out

Toro y Moi

Toro y Moi

Freaking Out

Carpark

Amazon iTunes

野田 努   Oct 13,2011 UP

 トロ・イ・モワ(チャズ・バンディック)は今年発表したセカンド・アルバム『アンダーニース・ザ・パイン』でふたつの方向性を見せている。ひとつはソフト・ロック路線、もうひとつは今回の5曲入りのEP「フリーキング・アウト(ぶっ飛び)」で展開しているディスコへのアプローチだ。
 もっとも「ジェリービーン(マドンナの初期のプロデューサーとして知られるDJ)がイーノといっしょにやった感じだ」と、この新作を喩えていた人がいたように、「フリーキング・アウト」はダフト・パンクの背中を見ているような作品ではない。『コージャーズ・オブ・ディス』で展開したチルウェイヴ感覚は活かされたまま、ダンス・ビートはよりファンキーに変換されている。音の質感は「シューゲイズ+ディスコ・ビート」そのものだと言えるが、ポップスとしての洗練度は高まり、まあ何よりも「フリーキング・アウト」は僕から見たところの80年代ディスコの場末感=あの時代のR&B色がさらに強調されている点が最高に面白いのである。

 それにしてもトロ・イ・モワは音数が多い......という風に、20年ものあいだダンスのミニマリズムに親しんできた耳には感じる。実際の話、装飾性を排除し、機能美を追求するテクノに対して、トロ・イ・モワの音楽はバターやマーガリンがこってり塗られたトーストのようにオーヴァーダブされている。キャッチーなシーケンス、随所ではエフェクトとチョップ、そして何回も重ねられるチャズ・バンディックの声......この音楽はアールデコとしてのローファイ・インディ・ディスコ・ポップとも言えなくもない。
 が、「フリーキング・アウト」が引用しているのは、ヨーロッパのシンセ・ミュージックではない。80年代のブラック・コンテンポラリーの洗練された甘いR&Bスタイルである。言うなれば、最高にちゃらい黒人音楽だ。やるせなさがあふれ出す"オール・アローン"、メロドラマ風の"フリーキング・アウト"、フィルター・ディスコ調の"スウィート"、ハウス調の"アイ・キャン・ゲット・ラヴ"......それらはチルウェイヴ/シンセ・ポップがなんだかんだと拡大して、勢いづいている現在がうながした4曲なのかもしれないが、「フリーキング・アウト」におけるシンセサイザーやリズムマシンは、ニュー・オーダーよりもジャム&ルイスに近い。実際のところ、収録曲でもっとも光っているのは、アレキサンダー・オニール(80年代のブラコンを代表するシンガー)のカヴァー曲"サタデー・ラヴ"なのだ。
 僕はリアルタイムで言えば、この手のポップR&Bとはずいぶん距離を置いていたものだったが、それがこの歳になって......なんということだろう......若い頃の自分に会わす顔がない。しかしこれが時代の風というものだろうか、ラヴ・ミー・テンダーがいまさら都会派のポップスに執着するのと無関係でもあるまい。そういえば15年前に流行ったトランスは、その"ぶっ飛び"の虚無の穴を埋めるかのように、いわばエクスキューズとして、イルカや精神世界を持ち出したものだったが、「フリーキング・アウト」の装飾性はそうした前世代のトリップとは逆の、ある種の下世話さを喚起させる。いまはその下世話さのなかに、若いよろこびとそのエネルギーを感じる。俗物としての恋愛(ロマンス)こそ最高だと言わんばかりだ。

野田 努