Home > Reviews > Album Reviews > Carlton & The Shoes- Heart Throbs
このアルバム『ハート・スロブス』は、1938年生まれの、73歳のカールトン・マニングが最近発表した新作である。50年におよぶ活動のなかの通算5枚目のアルバムとなる。スティーヴ・バロウはその大著『ザ・ラフ・ガイド・トゥ・レゲエ』(家永直樹訳)のなかで、「カールトン・マニングはジャマイカの音楽の歴史に残る非常に素晴らしいラヴ・ソングを書き、美しく優しいヴォーカルを指揮した。(中略)恥じることなくロマンティックな感情を表した"ラヴ・ミー・フォーエヴァー"はシングルとアルバムで定期的に再リリースされ、この曲を支えるリズムはこの時代に作られたもののなかでもっとも頻繁にヴァージョンされているひとつである」と、記している。
人生において何度も繰り返し聴いている曲というものがあるなら、僕にとってはカールトン&ヒズ・シューズの"ラヴ・ミー・フォーエヴァー"はその1曲だ。1968年の、ジャマイカの音楽シーンがロックステディの時代を迎えたなかで生まれたこの曲の、最初の力強いホーン・セクションが鳴っただけでも気持ちは上がる。そしてカールトン・マニング、リンフォード・マニング、そしてドナルド・マニングの3人による美しいコーラスが入る。「ザ・プラターズ、ザ・マンハッタンズ、ザ・シレルズ、シャーリー・アンド・リー、ジーン・アンド・ユーニスなどなど、こうしたスウィートなハーモニーがとても好きだった」と、マニングは述懐しているように、USブラック・ミュージックにおけるコーラス・グループからの影響がカールトン&ザ・シューズの音楽の中心になるのは間違いない。が、その音楽の魅力を最大限に引き出しているのはジャマイカのエートスだ。ジャマイカの人たちの夢を運ぶ舟のような温かいリディムに乗った至福のラヴ・ソングは、悩みを抱えたリスナーの心のなかのまですっかり綺麗にしてしまうに違いない。
昨年は、日本で突出した人気をほこるセカンド・アルバム『ディス・ハート・オブ・マイン』が紙ジャケットで再発されているように、カールトン&ザ・シューズのラヴ・ソングはいまもリスナーから必要とされている。若い世代に再発見されては、さらにまた支持を拡大しているのだろう。
マニングの甥っ子ふたりが参加している、9年ぶりとなる5枚目の『ハート・スロブス』は、リスナーが待ち望んでいる素晴らしいラヴ・ソングが少なくとも6曲はある。そのうちの1曲は、1980年代にUKのラヴァーズ・ロックの拠点となった〈ファッション〉レーベルから発表されているカヴァー曲"Fools Rush In"。
素晴らしいラヴ・ソングに混じって、社会的なメッセージのこもった曲もある。「心をすべて渡してはいけないよ」と繰り返し歌うオープニング・トラックの"Never Give Your Heart Away"、「絶望、空腹、犠牲、これが1日の順番」と歌う"Victimisation"、マーカス・ガーヴェイの影を偲ばせる"Colonial Slavery"などを聴いていると、カールトン・マニングはただ彼自身の芸当のみとして音楽活動を続けているのではないことが理解できる。マニングが言うところの「良いラヴ・ソングは廃れない」とは、ザ・スミスの音楽が廃れないことと同義なのだ。
野田 努