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Gerald Mitchell

Gerald Mitchell

Family Property

Underground Gallery Productions

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野田 努   Jan 05,2012 UP

 中年期を迎え、結婚などして朝型の生活を何年も送っていると、12時を過ぎたら自然と眠くなる。ナイトライフを日常的には楽しめなくなってくる。遊べるうちにさんざん遊んでおいて良かった。我がナイトライフに後悔はない。

 ポップ・ミュージックが放課後のためだけのものでなくなって久しい。R&Bやロックなどは、僕よりもさらに年上の50代や60代の人間も聴いているジャンルである。R&Bやロックは、実際のところ音楽の主題もずいぶんと幅が広い。ラヴ・ソングひとつとっても結婚生活や離婚ないしは再婚を歌っているものもあれば、親との死別、社会や哲学的な主題までと、壮年期から中年期、そして高齢期の人間にとっても聴き応えのある作品が多い。これらのジャンルには年齢相応の音楽の愛し方というものが確立されている。
 テクノやハウスといったジャンルは、いままさに中年期に差し掛かっている。人間は誰でも平等に老化する。あなたも橋元も生きていればいずれは老いる。老化とは生の証であるからクラブ・ミュージックの作り手が老化に対してどのように前向きになれるのか見たいという好奇心が僕にはある。こと享楽的な文化から生まれたこのジャンルにおいて、それがどのような展開を見せるのか、実に興味深い。行く末を自分なりに見届けたいし、このジャンルにおいても年齢相応の音楽の愛し方があることを実践したいのだ。

 デトロイトのジェラルド・ミッチェル(URの"ナイト・オブ・ジャガー"の作者として広く知られる)にとって最初のソロ・アルバムとなる『ファミリー・プロパティ(家族の遺産)』は、家族を主題にしている点において、ある程度の年齢に達さなければ生まれない作品である。もっとも、クラブ・ミュージックという、比較的歴史の浅いジャンルにおいて、家族や地域コミュニティという主題にもっとも早く着目していたのは同じくデトロイトのケニー・ディクソン・ジュニア(ムーディーマン)だ。彼には最初からその嗅覚があった。いまや失われつつある昔ながらのコミュニティがデトロイトにはまだかろうじて残っていることのありがた味をケニー・ディクソン・ジュニアはわかっていた。その感覚を彼は、そしてハウス・ミュージックに注入した。『ファミリー・プロパティ』の根幹にあるものもアフリカ系アメリカ人の地域コミュニティの文化にほかならない。ゴスペルと呼ばれる音楽とのつながりである。ソウル・ミュージックとは、ゴスペルと呼ばれる黒人教会音楽の世俗化を意味するが、そういう意味でもこのアルバムはソウルフルとも言える(基本、クラブだから)。が、同時これはゴスペル濃度の高い作品である。いなたいというか、ケニー・ディクソン・ジュニア以上にそれをストレートに強く打ち出している。2曲目を聴いてくれればわかる。その曲が実際に地元の教会で鍵盤を弾いているジェラルド・ミッチェルの『ファミリー・プロパティ』というアルバムを象徴している。

 労働者階級のアフリカ系アメリカ人コミュニティに足を踏み入れると、彼らがおそろしく金を使わないことがわかる。ウォール街デモにアフリカ系が少ないのも、「あんたらミドルクラスがさんざんいままで良い思いしてきて、いまさら格差を主張するなんてちゃんちゃらおかしいぜ」ということだろう。そして、もう最初から政府には期待できないし......といった人たちが拠り所にするのは、よりミニマムなコミュニティ、すなわち家族となる。
 アメリカのように、日本以上に過酷な生存競争を強いられている国では、実のところコミュニティというのはあまり意味をなさない(躊躇なくブルックリンを離れたパンダ・ベアからもそれは伺い知れる)。とくに労働者階級のエリアでは、そもそも友だちというものができづらくなってくる。貧困であることが寛容さをうばい、他人や他人のサクセス・ストーリーを受け入れるということを阻むようになる。離婚率は高まり、しかし同時に家族愛への切望も高まる。家族という単位が壊れやすく不安定で、ただそれだけでは社会的に決して安心できるものではないからこそ、その大切さもこみ上げてくるのだろう。

 旧来の黒人社会にも女は男につくすべきだという家父長的なところがある。アフリカ系アメリカ人コミュニティには、ピンプと呼ばれるヒモが大勢いた。が、そうした男に愛想をつかした女たちは、前向きに自立した。あるいは、その他方では、アフリカ系アメリカ人コミュニティは、職業を持たない若年層の未婚女性の妊娠といった社会問題にも早くから直面している。家族とはあって当たり前のものではない。日本もいまそうなりつつある。
 経済的なエリートでもない限り、助け合ったほうが良いし、家族愛は失わないほうが良い。それがセーフティ・ネットになるかどうかはまた別の話かもしれないが、より身近な愛せる人たちと向き合ったほうが良いに決まっている。
『ファミリー・プロパティ』は、ハーバートのような知的な成熟ではないが、より大人びた心情的な深さを持っている。ふだん抑圧され、濁りかけている感情を解放するという点では、クラブ・ミュージックがなしうる最良のことを『ファミリー・プロパティ』は週末の12時になると眠くなる人に対しても果たしている。

野田 努