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「カーネーション、コカイン、クンビア。1980年代から1990年にかけてコロンビアの経済を活気づけた3つの輸入品のうち、いちばんなじみが薄いのはおそらくクンビアだろう」、スー・スチュワードの有名な『サルサ』(1999)にはそう書かれているが、いまとなってはコカインに次いで有名なのがクンビアではないだろうか。クンビアのユニークなところは、アフリカとヨーロッパがアンデス山脈から流れるマグダレナ川に沿って混ざり合い、港町のバランキヤに集結した点にある。港から北に進めばキューバだ。キューバ人にとってバランキヤは奴隷の子孫(アフリカ系コロンビア人)が集まった「外国とは思えない」町であり、ゆえにその町のダンス音楽がキューバ音楽と類似するのは当然だった。
クンビアを特徴づけるのは、アコーディオンとアフロ・パーカッションである。キューバ音楽よりもシンプルな構成であるがゆえ、ヨーロッパの民俗音楽のアコーディオンの官能的な旋律とアフリカ大陸から奴隷を通じて伝播した豊かなビートとの結合が際だって聴こえ、このクレオール文化の魅力がよりわかりやすく見える。僕はラテン音楽に関しては素人だが、この音楽に魅了されない人が信じられないほど、ひと言で言えば大好きなジャンルである。
CDにして2枚組、LPにして3枚組のこのクンビアのコンピレーション・アルバムは、UKの〈トゥルー・ソーツ〉からの作品で知られるクァンティックことウィル・ホランドがコロンビアに滞在した4年間で集めたコレクションの成果である。そして、全55曲が音楽の宝石だ。サブタイルには「The History Of Colombian Cumbia & Porro As Told By The Phonograph」(レコードが語るクンビアとポロの歴史)とあるが、クァンティックは、78回転の音源から45回転の音源まで、博物学を好む英国人らしくコロンビアのレコード産業を懸命に掘ったのだろう。ちなみにポロとは、クンビアのサブジャンル。『オリジナル・サウンド・オブ・クンビア』には、曲によってはレゲエっぽいものもソカっぽいものもある。そのエクレクティックな様相も、カリブ海に面したコロンビアの北の音楽の特徴である。
3.11以降の日本では、こんなときに音楽なんて......などという声が多くあった。その他方では、3.11以降の嘆き/悲しみと絡めて音楽を聴くことがあたかもリスナーの誠実さの表れのような風潮がある。その気持ちもわからなくもないし、日本政府や東電を許すわけではないが、マルクス派のゲリラと政府が絶えず内戦を繰り広げていたコロンビアにおいてレコード産業は、たとえば「音楽どころではない」精神状態によって撃沈していったかと言えば、とんでもない。それは「動乱の時期にも安定した存在」(前掲同)だった。ハードな日常のなかで、むしろコロンビアの音楽シーンは活気づいて、色めいていたのである。『オリジナル・サウンド・オブ・クンビア』はそれを知らしめる。ああ、そういえばディスコの青写真もナチスに占拠されたパリで生まれたんだっけ。
野田 努