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Akira Kiteshi

Akira Kiteshi

Industrial Avenue

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三田 格   Mar 12,2012 UP

 野田編集長のインタヴューに答えてゴス-トラッドは、次のように話している。「やっぱりシーンの流れはちょっと変わりましたよね。2008年後半か、まあ2009年ぐらいから、ちょっとつまんなくなりましたね」( /ele-king/features/interview/002133/ )。具体的な名前が出てくるわけでもないので、誰をさしているかはわからない。僕はどちらかというとダブステップよりもグライムが好きだったので、関心は少し偏っていたかもしれないけれど、同じ時期に限界を感じてグライムであれダブステップであれ関心が薄くなりはじめたことは同じである。ロール・ディープ周辺がとりわけトーン・ダウンしたという記憶が強かったので、当時のワイリーやティンチー・ストライダーのアルバムを聴き返してみたけれど、印象は変わらなかった。同じインタヴューでゴス-トラッドが、最近はそれ以前の流れに揺り戻しているといい、なるほどラマダンマンのミックスCDにはピンチの初期作が使われていたりする。ゴス-トラッド自身のアルバムもオールド・スクールを意識したものだと話は続いていく。

 「ちょっとつまんなくなりましたね」という表現は、しかし、「変化」に対してはいささかネガティヴなものも含んでいる。理由は説明されている。簡単にいえばエピゴーネンが増えたということ。その認識に異論はない。実際に僕も関心を失いはじめていたのだから、その通りだと思う。しかし、なかにはオールド・スクールに異を唱え、何か新しいことをやろうとした人もいたはずで、そうしたなかからブローステップのようなものが出てきたことを差し引いても、可能性のすべてを切り捨ててしまうのはマズいと思う(悪くいえば、自分がやっていることの正統化と捉えられかねない)。

 僕は、その当時、具体的には09年のベスト・シングルにアキラ・キテシのデビュー・シングル「ピンボール」を挙げていた。ダブステップの範疇に入るものではあったけれど、どこを取ってもオールド・スクールではない。彼らが大事にしているようなソウルはあっさりと売り飛ばされ、スケートシングの言葉を借りれば、そのセンスは「ニュー・ウェイヴに裏打ちされていた」という形容がピッタリだった(いまならば「ウォンキー」だろうか?)。スクリームやスターキーにも同じ資質は感じられる。スコットランドから飛び出したトミー・フォレストによる試行錯誤は、しかし、セカンド・シングル「ブーン・パウ」で早くも暗礁に乗り上げてしまう。ラッファーティによるリミックス・ヴァージョンの方が耳を引いたので、そっちに関心がそれてしまったぐらいである。ダブステップ全体に関心を失っていなければもう少しは追ったかもしれないけれど、僕はアキラ・キテシがブリストルのレーベルに移ったことさえ知らなかった(ましてや"ミング・ザ・マーシレス"がナイキの広告に使われていたことも)。

 デビューはアキラ・キテシよりも早いけれど、サード・シングル「シック・アルプス」で注目を集めたスタッガは、さっさとデビュー・アルバム『ザ・ウォーム・エアー・ルーム』を昨年、リリースしている。アキラ・キテシ「ピンボール」を聴いたときに期待していたものがそこにはけっこう実現されていた。必要以上にエレクトロニックなテクスチャーを盛り込み、地に足を着けまいとするダブステップは明らかにスクリームのネクストを構想したものだろう。悪くはない。02年にオプティマス・プライムの名義でヒップホップのアルバム『ヴォイドヴィル』をリリースしたことがあるというわりにはリズムが弱く、通して聴いていると少し飽きてしまうことを除けば、それなりに楽しめる出来であり、ジェイムズ・ブレイクの浮上でにわかに注目を集めだしたダブステップのなかでは最大の異化効果を放っていたといえる(ポスト・ダブステップというタームとの距離感はよくわからない)。

 しかし、それも『インダストリアル・アヴェニュー』がリリースされるまでだった。実は、前述した通りの経過を辿っていたので、それほど期待して聴いたわけではなかった。そうか、ようやくアルバムが出るのか。ファーストぐらいは聴いてみようかなという程度の関心だった。先行シングル「トランスミッション」を含む全14曲(アナログはCD付の8曲入り)は、そして、かつてよりもビート・フリークと化していて、なかなか聴き応えがあるものにヴァージョン・アップされていた。スチャラカなSEも抑えられていて、ひと言でいえば地味になったはずなのに、まったくそうは感じられない。アートワークの変化とも呼応するように、音使いの派手さではなく、リズムだけで同じ効果を上げ、それはそのまま世界観に揺るぎがないことを証明しているともいえる(これを〈プラネット・ミュー〉からリリースできなかったマイク・パラディナスは、ジャクソンに続いて、さぞや悔しい思いをしていることだろう)。後半にはドラムン・ベースの領域に踏み込んだ曲も散見され、次にどうなるかはあまり考えたくない......

 それにしても、「アキラ」は大友克洋だろうけど、「キテシ」とは......。もしかしてタケシのことか(ジョビー・ハロルド監督『アウェイク』で「住友」と発音できないアメリカ人たちの場面がちと面白い)。

三田 格